農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

文字の大きさ
25 / 80
はじまりの夏

25

しおりを挟む
「今日からお世話になります!」

 仕事を終えた僕は、酒場に来ていた。
 そこでテッドさんに挨拶をして、現在オードちゃんにも同じ挨拶中だ。

「そんなにかしこまらない、かしこまらないー。あ、必要なものがあったら何でも言ってね。大抵のものは揃うと思うけど、もし揃わなかったらキョウの家にお願いするから」
「りょ、了解です」
 キョウという言葉に無意識にビクリと身体が震えたけれども、恐れることは何もない。
 ただ問題なのは、僕に対人スキルがほとんどないってことだけだ。
 特に、恋愛スキル的なのとか。
「んじゃ、とりあえず食事かな? 食事は酒場のほうで取ってもらうことになるんだ。朝と夜はついてるけど、昼は……って、昼はお野菜があるから大丈夫かな? それとも別料金になるけど、お弁当にする?」
「お弁当?」
「うん。うち、グロウみたいな人向けにお弁当もやってるんだ。そっちは私担当だから、味の保障はできないんだけどね」
 へへへと頭をかいてそういうオードちゃん。
 それがかわいいなぁと思いつつも、今はそれ以上に違うことに思考がいく。
 オードちゃんの手作り弁当。オードちゃんの手作り弁当が食べられるのか……!
「お、お昼もお願いしようかな……」
 その欲だけに突き動かされて、口も思わずそう動く。
 そうすると一瞬少し驚いた顔をしたオードちゃんだったが、快くオーケーしてくれた。
「じゃあお昼は私が農場に届けることにしよっか。その方がノルズくんも助かるだろうし」
「え、いいの!?」
「いいよー。今までは一人分だったからグロウに朝食の余り物をつめてたんだけど、二人分ってなるとそうもいかないしね」
「じゃ、じゃあ是非それで! あ、でも朝に山に行くのは……」
「あ、そのことなんだけどね。二人で一緒に行こうよ。農場に一回よって卵
を採って、ついでにその時にいつもの卵の納品をしてもらっちゃえば、手間も減るし」
「なるほど、そうしよっか。じゃあ一緒に朝待ち合わせて出るようにしようね」
「うん、そうしよ! お父さんは私が山に毎日行ってるの知ってるし、ノルズくんは農場で早めに出るの知ってるし、多分疑わないと思うよ」
 そうして、明日からの予定が決まるのだった。

 次の日の朝、約束通りにオードちゃんと待ち合わせて山に向かって歩き出す。
 そうすると、丁度海に向かって歩いているキョウちゃんと出会った。

「なになにー? 早朝デートですか、お二人さん」
「ち、違うよ! 今から私はいつもの散歩! ノルズくんは農場に行くんだよ!」
「あ、そっか。ノルズ今酒場に宿取ってるんだっけ。そういえばオードからそんな話聞いたね」
「もう! だから変な誤解はしないでよね!」
「はいはーい! キョウちゃんはおとなしく朝の海に素材採りに行ってきますよー」
 キョウちゃんにはあのエスコートの日から初めて会ったけれども、いつも通りで。
 グロウが気をつけろって行ってたけれども、何も気をつける必要なんて……。
「ノルズも一緒に行く? ちょっとだけ私とデートしない?」
 なくもなかった!
「あ、あのさ! エスコートの件なんだけど!」
「うん?」
「ぼ、僕あれが恋人同士が行くものとか、そうすることだって知らなくて! だからその、キョウちゃんには悪いんだけど――」
「ストーップ! 違う違う、そんなことわかってるから。もともとお父さんの代わりにって私言ったでしょう? だから気にする必要なし。もうラストダンスの清算も済んだし、エスコート交代の清算っていうか理由もわかったしね」
 そう言ってウィンクをしてみせる。
「オードもオードでなんか勘違いしてたみたいだけど、違うから。二人揃って真面目だなー。おまつりくらい楽しまなきゃって気持ちくらいでいなきゃ、だめだよ?」
 じゃあねーとそのまま海の方へと行ってしまうキョウの後姿を二人でポカーンと眺める。
「私たち、考えすぎだった?」
「……なんか、そうだったみたいだね?」
 そう考えるとなんだか笑えてきて、二人でくすくす笑い出す。
「それじゃ、いこっか」
「うん」
 そう言って二人で農場までの道を歩き出す。
 さて、ここで困ったことがある。
 キョウちゃんのおかげで僕は今これが早朝デートなのではないかと気づいてしまったのだ!
 言われてみれば二人きり。
 いつも通りといえばいつも通りなのに、意識してしまうともうだめで。
 何を話していいのかわからなくて、とたんに黙り込んでしまう。
 オードちゃんといえば、鼻歌交じりにルンルンと早朝を満喫しているだけで、特に意識をしている風な様子もない。
 喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。でも僕がデートだと思えばデートなんだから、これはデートなんじゃないのか!?
「あ、そういえば」
「はいぃ!」
「え!? ごめん、そんなに驚かせちゃった!?」
「あ、いや。ちょっと考え事してて……こちらこそごめんね?」
「あ、ううん。そんな時に話しかけちゃってごめんね? 大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! で、どうしたの?」
「こんなにゆっくりで大丈夫? 確か卵もとるのに時間かかるんだよね?」
「あ、うん。そこは大丈夫。うちは自動で卵が採れる様に、グロウのやつが細工してくれてるんだ」
「へー……。グロウにも特技ってあったんだねぇ……」
「ああ見えてグロウはすごいよ? 畑の水撒きも自動で出来るようにって細工してくれて、おかげで山に登る時間が出来たんだ!」
「じゃあ、こうして私が毎日温泉卵をもらえるのもグロウのおかげなのかー」
「そうそう!グロウのおかげで……」
 って、グロウの株を爆上げしてどうするんだよ僕ぅ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...