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はじまりの夏
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夏も残す所僅かになってきた頃のことだった。
夜の海を散策している時に、ノルズを見かけた。
しょんぼりと体育座りをしてうつむく姿に何事かと声をかければ、ノルズはまさかのセリフを吐いたのである。
「キョウちゃん……。僕、オードちゃんに嫌われちゃったのかもしれない」
「な……んでそんなこと思うわけ?」
「だって目も合わせてくれないし、口数も少なくなってるし……。なによりなんだか、よそよそしくて」
そう言ってしょんぼりと頭を下げるノルズを見て、胸が痛む。
オードの誕生日の日、ライバル宣言をしたはいいものの、実際の所、本当は私はもう負けが確定してるんだって知っていた。
あのダンスまつりの日、ノルズがオードにエスコートを宣言する時に気づいてたんだ。
ノルズは、オードのことが好きなんだって。
だから宣言はしたものの、ほんとうは負け戦。
あとは自分の心の整理をつけるだけだって思ってたのに、なんで。
このままオードのところに行って問い詰めたい気持ちにもなるけれど、ソレよりも今はノルズのことをフォローしなければいけなかった。
「なーに言ってんのよ。あのオードがよそよそしい? というか、勝手に自分がそう思ってるだけでどうせ毎朝のデートはしてるんでしょ? 勘違いよ、勘違い」
「で、デートって! ……でも、その時もなんとなく口数が減った気がするんだよね」
真っ赤になって慌てて手を振ったあとにしゅんとするノルズの姿に、ジクリと胸が痛む。
私だったら、そんな思いさせないのに。
そんな気持ちが湧き出てきて、口元まで出るけれども蓋をした。
「気のせいだって! なんなら今からオードに聞いてきてあげようか? ノルズくんのことが嫌いになりましたかー? って」
「そ、そんなこと!」
「いいんだよ、甘えて。人に頼ることだって、大事じゃない」
そう言って甘い言葉をかけて、少しでも私に傾いてくれないかなってそんな風に思うのに。
「ううん、これは僕の問題だから……。愚痴、聞いてくれてありがとう」
そうやって、ノルズは笑うのだ。
最初はただ、自分を肯定してくれたこの人のことが気になり始めただけだった。けれども、気付けばこういうところが好きになって、もうどうしようもないところに来てしまっていて。
「そう。んじゃ、私は先に戻るわ。ノルズも夏だからって言って、あんまり夜風に吹かれないようにね」
「うん、ありがとう」
そう言って弱々しげに笑うノルズに背を向けて、私は酒場を目指す。
「オード!」
「あれ、キョウ。珍しいね、こんな時間にここに来るなんてーって、え、何々、なんで引っ張るの!?」
「おじさん、オードのことちょっと借りてくから!」
「おう。もう人も少なくなってきたしいいぞ」
「ちょ、お父さん!?」
有無を言わせず腕を引っ張って、オードの部屋まで連行する。
オードは訳がわからないって顔でいるけれど、わけがわからないのはこちらの方で。
とりあえずベッドに座らせて、私はその前に仁王立ちすると、オードはこちらを見上げてきた。
「えーっと……なにか怒ってる?」
「怒ってないけど怒ってる」
「え、えー……?」
困惑するオード。
それはそうだろう。だって、急にやってきたと思ったらこれなんだもの。
私だってオードにされたらきっと困惑するに違いない。
「ノルズくんのこと」
「っ!」
それだけでわかったのか、オードは罰が悪そうにそっぽを向く。
「どうしてよそよそしい態度なんて取ってるの? ノルズくん、海で凹んでたんだけど」
「え……」
「嫌われたんじゃないかって、凹んでた。私にライバル宣言しておいて実は何も出来てませんって、それじゃ勝負にならないじゃない」
「わ、わかってるんだけど……」
そういうとオードはもじもじと指を動かして、言いづらそうに口を開く。
「……どんな態度を取って良いのか、わからなくなっちゃって」
「はぁ?」
「だ、だって! 人を好きになるなんて初めてだし!」
「そんなの私だって一緒だよ」
「い、今までどんな態度とってたんだっけかとか、嫌われたくないなとか考えてたらその……どうしていいのか……」
「ああもう、煮え切らないなぁ! 態度なんて今まで通りでいいじゃない! むしろもっと好きだよってアピールしていったら良いじゃない!」
あんた達、両思いなんだから!
心の中でそう叫ぶけれども、オードの態度はやっぱり煮えきらなくて。
じゃあいいよ。オードが焦るようなこと、言ってやるんだから!
「私、今度の花火大会でノルズくんに告白する」
「え?」
「それで恋人になって、二人で花火大会を謳歌するの。それでいいんだよね!?」
「で、でもノルズくんの気持ちもわからないし!」
「わからないから聞くの! 全然こっちの事考えてないんだったら、それで意識してもらって好きになってもらうの! もう私決めたから。オードに遠慮しないからね」
「え、ちょっとま――」
止めるオードの声を振り切って、私は部屋を出る。
これでもオードが煮え切らないなら、本気でノルズくんのことを取りに行く。
その覚悟で行かなきゃ、私は失恋する。
いや、もう失恋してるんだけど!
夜の海を散策している時に、ノルズを見かけた。
しょんぼりと体育座りをしてうつむく姿に何事かと声をかければ、ノルズはまさかのセリフを吐いたのである。
「キョウちゃん……。僕、オードちゃんに嫌われちゃったのかもしれない」
「な……んでそんなこと思うわけ?」
「だって目も合わせてくれないし、口数も少なくなってるし……。なによりなんだか、よそよそしくて」
そう言ってしょんぼりと頭を下げるノルズを見て、胸が痛む。
オードの誕生日の日、ライバル宣言をしたはいいものの、実際の所、本当は私はもう負けが確定してるんだって知っていた。
あのダンスまつりの日、ノルズがオードにエスコートを宣言する時に気づいてたんだ。
ノルズは、オードのことが好きなんだって。
だから宣言はしたものの、ほんとうは負け戦。
あとは自分の心の整理をつけるだけだって思ってたのに、なんで。
このままオードのところに行って問い詰めたい気持ちにもなるけれど、ソレよりも今はノルズのことをフォローしなければいけなかった。
「なーに言ってんのよ。あのオードがよそよそしい? というか、勝手に自分がそう思ってるだけでどうせ毎朝のデートはしてるんでしょ? 勘違いよ、勘違い」
「で、デートって! ……でも、その時もなんとなく口数が減った気がするんだよね」
真っ赤になって慌てて手を振ったあとにしゅんとするノルズの姿に、ジクリと胸が痛む。
私だったら、そんな思いさせないのに。
そんな気持ちが湧き出てきて、口元まで出るけれども蓋をした。
「気のせいだって! なんなら今からオードに聞いてきてあげようか? ノルズくんのことが嫌いになりましたかー? って」
「そ、そんなこと!」
「いいんだよ、甘えて。人に頼ることだって、大事じゃない」
そう言って甘い言葉をかけて、少しでも私に傾いてくれないかなってそんな風に思うのに。
「ううん、これは僕の問題だから……。愚痴、聞いてくれてありがとう」
そうやって、ノルズは笑うのだ。
最初はただ、自分を肯定してくれたこの人のことが気になり始めただけだった。けれども、気付けばこういうところが好きになって、もうどうしようもないところに来てしまっていて。
「そう。んじゃ、私は先に戻るわ。ノルズも夏だからって言って、あんまり夜風に吹かれないようにね」
「うん、ありがとう」
そう言って弱々しげに笑うノルズに背を向けて、私は酒場を目指す。
「オード!」
「あれ、キョウ。珍しいね、こんな時間にここに来るなんてーって、え、何々、なんで引っ張るの!?」
「おじさん、オードのことちょっと借りてくから!」
「おう。もう人も少なくなってきたしいいぞ」
「ちょ、お父さん!?」
有無を言わせず腕を引っ張って、オードの部屋まで連行する。
オードは訳がわからないって顔でいるけれど、わけがわからないのはこちらの方で。
とりあえずベッドに座らせて、私はその前に仁王立ちすると、オードはこちらを見上げてきた。
「えーっと……なにか怒ってる?」
「怒ってないけど怒ってる」
「え、えー……?」
困惑するオード。
それはそうだろう。だって、急にやってきたと思ったらこれなんだもの。
私だってオードにされたらきっと困惑するに違いない。
「ノルズくんのこと」
「っ!」
それだけでわかったのか、オードは罰が悪そうにそっぽを向く。
「どうしてよそよそしい態度なんて取ってるの? ノルズくん、海で凹んでたんだけど」
「え……」
「嫌われたんじゃないかって、凹んでた。私にライバル宣言しておいて実は何も出来てませんって、それじゃ勝負にならないじゃない」
「わ、わかってるんだけど……」
そういうとオードはもじもじと指を動かして、言いづらそうに口を開く。
「……どんな態度を取って良いのか、わからなくなっちゃって」
「はぁ?」
「だ、だって! 人を好きになるなんて初めてだし!」
「そんなの私だって一緒だよ」
「い、今までどんな態度とってたんだっけかとか、嫌われたくないなとか考えてたらその……どうしていいのか……」
「ああもう、煮え切らないなぁ! 態度なんて今まで通りでいいじゃない! むしろもっと好きだよってアピールしていったら良いじゃない!」
あんた達、両思いなんだから!
心の中でそう叫ぶけれども、オードの態度はやっぱり煮えきらなくて。
じゃあいいよ。オードが焦るようなこと、言ってやるんだから!
「私、今度の花火大会でノルズくんに告白する」
「え?」
「それで恋人になって、二人で花火大会を謳歌するの。それでいいんだよね!?」
「で、でもノルズくんの気持ちもわからないし!」
「わからないから聞くの! 全然こっちの事考えてないんだったら、それで意識してもらって好きになってもらうの! もう私決めたから。オードに遠慮しないからね」
「え、ちょっとま――」
止めるオードの声を振り切って、私は部屋を出る。
これでもオードが煮え切らないなら、本気でノルズくんのことを取りに行く。
その覚悟で行かなきゃ、私は失恋する。
いや、もう失恋してるんだけど!
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