農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじめての秋

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 ご飯を食べた後は適当にグロウの部屋で時間を潰して、酒場が静かになるのを待つ。

 酒場が静かになってきたら下に降りていって、オードちゃんとのおしゃべりタイムの始まりだ。

「今日もバタタールの作付けで一日が終わったよー。でも今日ので最後だから、あとは苗の様子を見つつ育つのを待つだけになったかな?」
「そうなんだ。じゃあ、ちょっとだけ余裕ができるようになるね」
「僕の方はね。でもオードちゃんは相変わらず忙しそうだね。大丈夫? 身体壊さない?」
「これでも夏ほどではないんだよー? 夏は暑さで皆お酒が飲みたくなるから、もっと繁盛するの。あ、そういえばノルズくんもその時一回来たっけ」
「ああ、グロウと! なんだかまだ一ヶ月も経ってないのに懐かしいね」
「そうだね。なんだか本当に怒涛の夏! って感じだったから」
「そう?」
「うん、ノルズくんと出会ってから……って……」
「あー……うん。僕もその辺りから怒涛の夏だったかも」
 そこでお互い照れまくって、なんとなく沈黙が落ちる。
 ヒューイっとどこからともなく指笛が飛んでくるけれども、無視無視。
 どうせ犯人は斜め前に座ってるグロウなんだから。

「なーんだ、おまえらだってちょっとはピンク色になれるじゃねーか」
「ああもう! うるさいなぁ、ちょっと邪魔しないでよ!」
「へいへい。恋人の逢瀬を邪魔してすみませんでしたー! っと、親父さん、こっちに冷たい飲み物。なにせ暑くてかなわんくてね」
「グロウ!」
「へいへーい!」
 そう言って飲み物を持ったグロウは、僕らよりもずっと前の席に移動する。
 僕らと言えばどこにいるかというと、宿屋から降りてくる階段横の薄暗い一番静かなところで。
 なんとなく二人きりな感じがして、この席が好きだった。

「あ、そうだ! あ、あのねノルズくん。ノルズくんがよかったらの話なんだけど」
「え? なにかな?」
「明日から、お弁当また始めてもいいかなって、思って。宿屋にいたときとは違ってその……私からの差し入れ、的な……」
 そこでオードちゃんが真っ赤になるから、僕もつられて真っ赤になって。
「も、もちろん嬉しいよ! オードちゃんからのお弁当食べると、いつもいつもよりもずっと元気になれる気がしてたんだ!」
「え……」
「あ……」
 そうしてまた落ちる、沈黙。
 なんだろこれ! なんか妙に恥ずかしいぞ!
 ……って、あ! これか! これがグロウの言ってた雰囲気ってやつか!

 手、繋ぎたいって言ってもいいかな?
 でもお互い真向かいに座ってるし、手を繋ぐなら必然とテーブルの上になっちゃうし……み、皆に見られちゃうし……!

「そ、そうだ! 差し入れ持っていって、一緒にご飯食べようよ! その後に卵の納品に来てくれるノルズくんと一緒にお散歩できたらいいかなって! 私が持って返っても良いんだけど、その、ちょ、ちょっとだけでも一緒にいたいかなって……思って……」
「も、もちろんいいよ! ぼ、僕だって一緒にいたいし……」
 可愛さ満点のそんな顔で言われたらうんとしか言えなくて。というか、もう鼻血出そうなレベルで可愛いんだけどどうしよう。
 どうしましょう、うちの彼女がすごく可愛いんです! すっごく可愛くて困るんです!!!

「おーい、そこのお熱いお二人サーン。そろそろ閉店時間ですよー」
「へ?」
「え?」
 グロウからそう声をかけられて、初めて気づいた。本当だ、もうこんな時間になってたんだ。

「じゃ、じゃあまた明日! 楽しみにしてるね!」
「う、うん! おやすみ」
「おやすみ」
 好きな人といると時間がすぎるのってこんなに早いんだなって思いながら、店先でバイバイをする。

 一歩二歩三歩で振り返って、こちらにまだ手を振っているオードちゃんに手を振り返して。
 四歩五歩六歩でやっぱりまた振り返って、まだ手を振っているオードちゃんに手を振り返して、中に入ってと手で合図して。
「ノルズくんが見えなくなってからー!」
 そんな声が返ってきて、たまらなくなってお店の前まで戻ってオードちゃんの背中を押す。
「ちょ、ノルズくん?」
「そんなこと言ってたら、僕帰れなくなっちゃうから」
「えっ」
 オードちゃんの姿が消えるまでずっと手を振ってたいのに、無理。帰れない。
 だから背を押して無理矢理酒場に押し込んで、
「じゃあ、また明日ね!」
 そう言って走り出す。

 ちらりと後ろを振り返ったら扉の隙間からこちらを見ているオードちゃんと目が合って、堪らなくなって全力疾走。

 ああもう、僕の彼女が可愛いです!!!
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