農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

文字の大きさ
45 / 80
はじめての秋

45

しおりを挟む
 料理大会祝賀会が酒場で開かれた。

 言うなれば後夜祭のようなもので、結局みんな飲めや騒げやでいつも通りである。

「ノルズくん、ノルズくん!」
 そんな輪に入って僕も食べたり飲んだりしていたのだけれども、気付けば後ろからちょいちょいと裾を引くオードちゃんがいた。
「ちょっといいかな?」
「え、そりゃもちろん良いけど……」
 そうして僕らはいつもの席に移動して、二人きりになった。
 主役がここにいても良いのかな? と思いつつも、嬉しいからそれは問題なくて。
 ただここに呼ばれた理由がわからなくて困惑していると、一皿のオムレツをオードちゃんは取り出した。
「これ、ノルズくんの分! 試食、出来なかったでしょ? だからノルズくんの分だけ別に取っておいたんだ」
 そう言って差し出してくる皿に、僕は猛烈に感動してしまう。
 確かにオードちゃんの料理が食べれないのは残念だなぁって思ってたけど、まさかこんな形で食べられるとは!
「い、いただきます!」
「どうぞめしあがれ」
 そう言って両肘をついて顔をのせ、ニコニコとこちらを見やるオードちゃんに照れてしまって味がよくわからない。
 けれどもすごく美味しいことだけはよくわかるのだ。だってオードちゃんの料理だもの!
「おいしいよ!」
「良かった! ノルズくんのところの卵とミルクを使わせてもらったおかげだよー。本当にありがとね」
「ううん! オードちゃんの料理の腕がいいんだよ! だってお弁当もいっつも美味しいしね」
「あ、そのことなんだけど……」
「オード」
 オードちゃんがなにかを言う前に、見知らぬ男性がやってきてそれを遮る。
 なんとなく見たことがある気がするんだけど……。
「あ、ノース」
「主役がこんな所でなにやってるの? 今から忙しくなるんだから、ほら、こっち」
「あ、待って! すぐ行くからちょっと先に行ってって!」
「まったく……場所をわきまえていちゃついてよね」
 ギッとこちらを睨んでその人は去っていく。
 なんとなくだけど、最後の一言は僕に向けられたようでムッとした。
「いちゃついてなんて……」
「まあまあノルズくんもそう言わないで。ごめんね、さっき言いかけたんだけどこれから私忙しくなっちゃって……お弁当の配達、出来なくなっちゃうんだ」
「あ、そっか、収穫祭の……」
「そう。だからごめんねって言いたくて。……会う時間少なくなっちゃてごめんね?」
「いや、いいんだよ。僕もこれから本格的な収穫シーズンに入るから忙しくて……だから気にしないで。あ、朝は会えるんだよね?」
「うん、朝は会えるから。毎朝会えるの、楽しみにしてるね」
「うん!」
「それじゃ、いくね」
「うん、いってらっしゃい」
 そう言って手を振って別れると、僕はオムレツをゆっくりと味わって食べ始めた。
 うーん、濃厚なバターと卵の味が最高だなぁ……。

「お前、そんなにまったりしてていいわけ?」
 いつの間にかやってきていたグロウが、そんな事を言う。
「え、ただオムレツの味をゆっくり堪能してただけだけど……」
「違うくて。あいつ、お前覚えてないのかよ」
「あいつ?」
「ノースだよ、ノース。あいつ、メインヒロインの攻略時のライバルキャラだろ」
「あ」
「……今思い出したのかよ」
 そうだ、思い出した。
 キョウちゃんとの幼馴染で、主人公のライバル役。
 あれ、てことはオードちゃんとも幼馴染なのかな?
「キョウちゃん、ノースくんに気があるようには見えないけど」
「まあ今からくっつくのかもな? にしても、あいつも収穫祭の実行委員みたいだぜ? いいのか?」
「いいって?」
「……お前に聞いた俺がバカでした」
 そう言って去っていくグロウに手を振りつつ、考える。
 なにがいいっていうんだろう?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...