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はじめての秋

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 今日は朝から雨だった。

 オードちゃんには会えないけれども、温泉卵を作りに山へ行って温泉卵作りに励む。
 その後は収穫と手入れをしたら、ちょうどお昼頃だった。

「もうやることもないし……」

 卵の納品と一緒に昼食を酒場で取ればオードちゃんと会えると思いつき、レインコートを着て傘をさす。
 完全防備でそのまま酒場に向かって扉を開ければ、そこはいつもと同じ空気。
 夜の酒場とはまた違う、食堂のような空気が漂っていた。

「こんにちは。納品に来ました」
「おう。ご苦労さん。あいにくオードは忙しく駆け回っててな。厨房に置いておいてくれないか?」
「了解です」
 そう言って厨房に行って卵を置いて、そのまま酒場の中へ戻る。
「なんだ、今日はなんか食ってくのか?」
「仕事が終わったんで、今日はここでゆっくりとしたいなって。ダメですかね?」
「ダメじゃねーが……ははぁん、オードのやつが恋しくなりやがったな?」
「まあ、そんな感じで」
 テレテレと頭をかくと、テッドさんはガハハと笑ってカウンターに座った僕の前に飲み物を出してくれた。
「じゃあ今日はゆっくりしていけ。たまにはこんな時間もいいだろう。お昼時もすぎればオードも少しは手が空く。ゆっくり食事でもして待っててやれや」
「はい、そうしますね」
 言われたとおり昼食を注文して、カウンターからあくせく動き回るオードちゃんを観察する。
 オードちゃんは僕に気づいているようだけれども、話しかける暇もないようだった。
「雨の日って、いっつもこうなんですか? いつもならオードちゃん、お弁当を届けに来てくれるくらいには余裕がありますよね?」
「違う違う。あいつのオムレツが優勝したもんで、今はオムレツ祭りさ。ほれ、だから俺がお前さんの相手ができるくらいには手は空いているだろう?」
「なるほど、道理で」
 町内とはいえ優勝者というのは忙しくなるのかーとぼんやりと考えながら、くるくる動き回るオードちゃんを観察する。
 たまにお客さんに飲み物をかけたり、お皿をひっくり返したりとしているドジッ子っぷりが可愛くてくすくすと笑っていると、キロリと睨まれた。
 まずいまずい。でも、可愛いから仕方ないじゃないか。

 しばらくして人が引くと、プンスカと肩を怒らせてオードちゃんがカウンターの隣に座る。
「もう! ノルズくんも他人の失敗を見て笑うなんて失礼だよ!」
「ごめんごめん、可愛くてつい」
「かわ……っ!」
 瞬時に真っ赤になるオードちゃん。最近少しだけど、からかい方がわかってきた気がする。
「久々にゆっくりオードちゃんの姿が見れてよかったよ。僕、最近ずっと牧場で一人で作業してるから寂しくてね」
「一人? あれ、グロウはどうしたの?」
「なんか掘るんだって山にこもってる」
「掘るって鉱山? ああ、道理で最近部屋に返ってこないわけだ。うるさくなくていいけどさ」
「宿屋にも来てないんだ」
「来てないよ。多分本格的に深くまで掘ってるんじゃないかな? マリンへのプレゼントでも手に入れる気なんだろうなー」
「うん、本人もそう言ってたよ」
「ノルズくんには言っていくとは……なんていうか、仲良いよねぇ、本当に」
 オードちゃんは苦笑しつつまかないを食べ、それをのんびりと僕は見つめている。
 テッドさんは気を利かせてくれたのか、少し離れた場所で夜の仕込みをしていた。

「ノルズくん」
「うん?」
「なんだか食べてる所そんなに見つめられると、結構その、照れるというか……」
「ああ、ごめんごめん。つい」
「う、うぅ……なんだかノルズくんが意地悪だよぉ」
「そうでもないと思うんだけどなぁ……」
 そう言いつつも、僕はまたオードちゃんの食べる姿を首を傾げて見つめて。
 本人は嫌がってちょっとそっぽを向いた。
 くそう、可愛いなぁ……。

「あ、そうだ。ノルズくん」
「うん?」
「もうそれはいいから! えーっと、収穫祭が終わった後の晴れた日にさ、ノルズくんの作業が終わったらピクニックにいかない?」
「ピクニック?」
「うん。今日みたいに少しでも余裕ができればなんだけど……」
「あー、それなら多分大丈夫。グロウがなんだかんだ作業を楽にする道具を置いていってくれたから、大分楽なんだ。グロウ様様だよ」
「そっか! じゃあ今度お弁当持って山登りしようよ。八合目くらいに湖が合って、綺麗なんだよ」
「そうなんだ。じゃあ一緒に行こうね。約束だよ」
 そう言って指切りを交わして、二人で笑いあった。
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