不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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むかしむかしあるところに

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『ドラゴニア帝国前史』

 ドラゴニア帝国の建立より何千年も遡る。
 それは神話と呼ばれるほどの昔々。

 世界の果てで闇の中に生きていた暗黒竜がいた。
 竜は人と交わり、九頭の子を作った。
 八頭の竜は、それぞれ闇の中に潜んで生きた。
 しかし九番目の子として生まれたフィッグスは人間に近かった。
 彼は人間の世界の王になることにした。
 彼は残虐で不実な青年だった。
 彼は半分竜ではあったが、王となるには知恵と力が足りなかった。
 そこで彼は異界の王と契約した。
 他者の魔力を奪い、大量の人の死の上に彼は王となった。
 地上を支配したフィッグスは疑い深い性格でもあった。
 彼は八頭の兄弟がいずれ闇から出て自分の支配地を脅かすのではないかと疑った。
 彼は兄弟を殺すことにした。
 しかし兄弟たちは力を結束して末の弟であるフィッグスを倒した。

 その後、彼の子孫の九番目は必ず呪われた契約者の血を継いでいることになった。
 それは異界の王との契約が続いていることを意味していた。

~~~ ~~~ ~~~ ~~~

 妾は本を閉じて、ポーキュリを見た。
 ポーキュリの瞳は髪と同じ薄緑色だ。
 でも今は少し赤黒い。
 赤外線視を使っているからだ。
 部屋は薄暗く、二人きりの室内は静かでひんやりとしていた。

「読んだの?」
「うむ」
「じゃあ、次はこれを読んで」

 すでに準備してあったらしいニ冊目の本を手渡される。
 それはカビ臭くて表紙に触ると手にほこりの粉がいっぱい付いたが、妾はポーキュリと同じような無表情で開いた。
 なんだか少し気分がすぐれない。
 頭が痛い。胸もムカムカする。


『冥府に関する考察と魔術 著者ハワード・ダンボス』

 冥府と、我々の存在するこの次元とは繋がりがあり、そこには多数の敬うべき者たち、そして畏怖すべき者たちがいる。
 冥府は死者が赴く場所として認識されているが、実際には異界の一つであり、我々の次元と他の次元を繋ぐ緩衝帯でもある。
 冥府には我々とは全く異なる存在があり、彼らは神のごとく強大な力を持つ。

 私はそのうちの一人と実際に話すことに成功した。
 彼は冥府の王の一柱であり、またさらに上の王のしもべでもある。
 私は彼がおそるべき魔力を保持し、また我々の次元に干渉していることを知った。
 彼にとって我々は余りに矮小な存在だが、それゆえに大した関心を持っていないようだった。
 ただし、それは私が出会った存在のことであり、すべての者ではない。
 中には我々の次元に積極的に関与する者もいる。

 私と話した存在は、少しばかり退屈していたようだ。
 私と僅かばかりだが話をしてくれた。
 彼には多くの仲間がいたが、時に気に食わない者もいて、そいつの話をしてくれた。

 それは彼が話すには、この世界ののようだった。
 そいつは月のように白く眩い四枚の翅を持ち、真っ赤な六つの眼で、人間や竜、ひいては仲間の生き血までもをすするという。
 残忍で快楽的な性質だが、短慮ではなく狡猾。
 以前は冥府で暴れていたが、最近は別の次元に手を出して退屈を紛らわせているらしい。
 そいつは、あろうことか我々の世界にも害を生しているという。
 私が話した存在は、余りにもちっぽけな人間や竜に無体なことをするのは忍びないと思っていたようだ。
 私に気をつけるようにと、話してくれたことを記載しておこう。

 その悪辣な吸血蛾の女王を、私はシャドウベイルモスケイルと名付けた。
 なぜなら、彼らの名前は私には発音できなかったからだ。
 モスケイルには五匹の忠実な部下がいて、この五匹はとある竜を見張るためにこちらの世界に出現しているらしい。
 モスケイルはその竜と、かつて何かの契約を結んだが、その契約の履行がきちんと成されているか確認を続けている。
 私は非常に驚いた。
 私のように異界の存在と接触した者がいて、さらに契約までしていたからだ。
 ただ、それは彼から聞くに良い契約ではなさそうだった。
 モスケイルは心底憎悪すべき存在に思えた。
 だが、私にはおそらくどうすることもできないだろう。
 私の寿命はもはや風前の灯火だし、だからこそこの冥府に来れたのだ。
 記載して残すことしかできないが、どうか厄災が起こる前に誰かがこの契約を破棄できればと願うばかりだ。

~~~ ~~~ ~~~ ~~~

 妾は本を閉じようとした。

「待って」

 横からポーキュリが本を取り、ぱらぱらとめくると後ろの方のページを開いた。

「ここも読んで」

 そこには魔術と魔力が冥府と深く関わっていることが書かれていた。

「つまり、妾が呪いで他の人から奪い取っておる魔力は、このモスケイルとかいう蛾に流れ込んでいると言いたいのじゃな」
「おそらく」

 古語な上に言い回しが大袈裟で読みにくかったが、妾にも話の繋がりが見えてきた。

「しかし、なぜここに書かれておるのに王宮の者は知らなかったのじゃろう」
「当然だよ」
「当然?」
「この二冊は隠されてあったから」
「どういうことじゃ?」

 驚いている妾に、ポーキュリが腕を組んで答えた。

「ぼくは書庫の本をすべて読もうとした」
「う、うむ」
「でも、この乱雑な部屋を片付けると侵入がバレる。だから片付けずに配置を覚えて読んでいた」

 偏執狂もここまでくると怖いのぅ。

「そしたら本棚の本の裏にこの二冊が押し込まれていた」
「・・・・・・それは、隠しておいたのじゃろうな」
「そうとしか思えない」

 妾は声に出しそうになったが飲み込んだ。

 ーーー誰が隠したのか。


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