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最新刊のゆくえ
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顔面から舗道の雪に突っ込んだ妾を馬車から追いかけてきたミンミンが見て青ざめた。
「ひめ様、大丈夫ですか?」
同じく追いかけてきたジョーが、それを見てぷっと笑い出す。
「鼻が痛いのじゃ」
駆け寄ったミンミンが、両頬をがしっと掴んできた。
「鼻が擦りむいてます」
「うぅ~~っ」
ヒリヒリする顔に一瞬、気を取られたが妾はすぐに目的を思い出した。
「ほ、本!」
ミンミンを振りほどいて、さっきの書店に走り出す。
しかし、滑ってしまったので怖くなって、へっぴり腰でよろよろと向かう。
「ひめ様ったら」
ミンミンとジョーを引き連れて書店の前へ来ると、古ぼけた木の看板の下に立った。
『ミンストラル書店』の文字の下に小さく『立ち読み禁止』と書いてある。
こんなに寒いのに入り口の扉は全開で、外にワゴンも出ている。
しかし、ワゴンに積まれた本には雪は付いていなかった。
放ったらかしというわけでもないようじゃ。
ワゴンには『セール中』と書いた紙が貼ってあった。
妾はひとまず、ワゴンの中を確認すべく近づいた。
『誰でもできる観葉植物の育て方』
『じゃるる 帝都観光』
『赤ちゃんの名前付けはこれ!』
どれも確かに必要な人が限られるのぅ。
特に必要ではない本ばかりだった。
店内に入って行こうとすると、ミンミンが後ろから袖を引っ張ってきた。
「お待ちください。まずはわたしが行って店主と交渉してきますから」
「なぜじゃ?」
「安全確認のためです」
こんな田舎町の書店で危ないことなどありそうにないが、ミンミンの仕事を奪うわけにもいかぬし、妾は頷いた。
ミンミンが店に入ると、二台目の馬車に乗っていたシェン君がわざわざ降りて見に来た。
「おい、何やってるんだ?」
「この書店に買い物に行こうとしておったのじゃ」
「書店? なんで?」
「なんでって、本を買うからじゃ」
「わざわざこんな所で買わなくても、学園の図書館で借りればいいだろ」
「図書館は最新刊は置いてないじゃろ」
「ふうん」
ジョーと同じく、シェン君も興味がなさそうだった。
そのとき、店の中から甲高い悲鳴が上がった。
「な、なんじゃ!?」
慌てて駆け込もうとするが、今度はシェン君が妾の袖を引っ張ってきた。
「やめろ! おい、サイファ!」
妾の足を止めて、シェン君が従者のサイファを呼んだ。
しかし、先に来たのは妾の護衛騎士シュミットだった。
馬車を舗道に停めた後、警護に来たのじゃろう。
「わたくしが行って参りますので、殿下たちはここから動かないように」
颯爽と店の中に駆け込んで行く。
手を剣帯にかけていたのが気になる。
大丈夫じゃろうか。
サイファは馬車を雪道の舗道に停めるのに少し苦心したようで遅ればせながらやって来た。
「今の悲鳴は?」
問われたシェン君も首を振る。
「わからない。こいつの侍女だろう」
「そうですか。あの騎士が行ったのでわたしはここに残りましょう」
不安げにみなで待っていると、店の中からシュミットがミンミンを連れて出てきた。
ケロッとした顔をしておる。
さらに、続いて出てきた顔を見て妾は思わず「ひぇっ!」と叫んだ。
「あ、兄じゃ!?」
なぜか二人の後から現れたのは妾の兄、フェニックスだった。
「な、なぜここにいるのじゃ?」
「何を言っている。遅いぞ!」
いやいやいや、遅いってどういうこと?
待ち合わせしてたみたいに言われても、全然知らんぞ?
「おまえたち、弛んでいるんじゃないか?」
「な、何がどうなって?」
「まったく。おれたちは一本早い列車で来たというのに、おまえたちの体たらくぶりには呆れるな」
「ええっ?」
ん? おれたち?
不穏な気配・・・・・・。
「アカネは先に宿に行ったからな」
やっぱり!
「アカネもいるのか?」
「当たり前だろう。刀剣部の冬合宿だぞ」
「なんでこんな所で!?」
妾、聞いてないんじゃ。
知ってたらこの町は通過したのに・・・・・・。
「言っておくが、この町での合宿はこっちが先に決まっていたんだからな。おまえたちの旅程と被ったのは偶然だ。とはいえ、せっかく学園や王宮の外で会うのだから食事くらいは一緒にすべきだろう」
「・・・・・・うむ」
ギリギリと歯噛みしていると、フェニックスが気になった様子で店の方を振り向いた。
「おい、もう行くぞ」
声をかけられたからか、店の中からもう一人の少年が出てきた。
淡い金髪の小柄な男子で、手に数冊の本を持っている。
「すみません。支払いに時間がかかってしまって」
フェニックスの友だちじゃろうか?
にしては、横暴で喧嘩っ早そうではなさそうじゃ。
「いいから行くぞ。寒くて敵わん」
フェニックスは偉そうに言って、さっさと歩き出す。
「ああそうだ。後で宿のおれの部屋に来いよ、バーミリオン」
「・・・・・・・わかったのじゃ」
心の中では「え~~めんどくさいんじゃけど~」とぼやきながら答える。
妾の前を急いで本を手にした男子が通り過ぎる。
そのとき、妾は見てしもうた。
「そ、その本は・・・・・・」
思わず漏れた声を聞いて立ち止まった男子の手には、妾が欲しかった『秘密のポケットで魔界無双』の最新刊七巻があった。
「わ、妾も買わねば」
目的を思い出して書店に突撃しようとする。
がーーー。
「あ、あの・・・・・・これが最後の一冊らしいですよ」
と非情な声が後ろから聞こえた。
「えっ?」
最後の一冊、とな?
目が点になってしまう。
「す、すみません。バーミリオン様、あ、あの・・・・・・ぼくのでよろしかったらこれを差し上げます」
フェニックスの友人とは思えない親切心のかたまりのような人じゃ~。
感激して受け取ろうとすると、フェニックスが邪魔してきた。
「やめろ。遅かったこいつが悪い。おれの妹を過度に甘やかさないでくれ。調子に乗るだけだ」
「ぬな~~~!」
「なんだ、奇声など上げて。一冊しかないんだから諦めろ」
「フェニックス兄じゃの意地悪!」
「他人の物を奪い取っていいわけないだろうが」
「でもくれるって言ったもん」
「物欲しそうな顔してるからだ。王族ともあろうものが恥を知れ」
うがーーーっ!
声にならない怒りを地面をドンドン踏みつけることで押さえ込む。
「ひめ様、他の書店で買ってあげますから、ね」
ミンミンが宥めようとそう言ったが、ジョーが「町の書店はここだけよ」と辛辣なトドメを刺してくれた。
「いいもん。妾、他の町で探すから」
せっかく最新刊が手に入ると思ったのに、ガックリなのじゃ。
「そうしろそうしろ。じゃあ後でな」
鬼のようなフェニックスは友人と最新刊を引き連れて去って行った。
世は無常なのじゃ。
「それにしてもミンミンはどうして叫んだんだ? 悪漢にでも襲われたのかと思ったぞ」
シュミットが訊ねると、ミンミンは恥ずかしそうに肩を丸めた。
「すみません。店の中が暗くて、突然フェニックス殿下たちと鉢合わせたので驚いてしまって」
「そうか」
ミンミンが首を傾げて呟いた。
「なんだか暗かったせいで変な物が見えた気がしたんだけど」
だが、それを聞いた者は誰もいなかった。
「ひめ様、大丈夫ですか?」
同じく追いかけてきたジョーが、それを見てぷっと笑い出す。
「鼻が痛いのじゃ」
駆け寄ったミンミンが、両頬をがしっと掴んできた。
「鼻が擦りむいてます」
「うぅ~~っ」
ヒリヒリする顔に一瞬、気を取られたが妾はすぐに目的を思い出した。
「ほ、本!」
ミンミンを振りほどいて、さっきの書店に走り出す。
しかし、滑ってしまったので怖くなって、へっぴり腰でよろよろと向かう。
「ひめ様ったら」
ミンミンとジョーを引き連れて書店の前へ来ると、古ぼけた木の看板の下に立った。
『ミンストラル書店』の文字の下に小さく『立ち読み禁止』と書いてある。
こんなに寒いのに入り口の扉は全開で、外にワゴンも出ている。
しかし、ワゴンに積まれた本には雪は付いていなかった。
放ったらかしというわけでもないようじゃ。
ワゴンには『セール中』と書いた紙が貼ってあった。
妾はひとまず、ワゴンの中を確認すべく近づいた。
『誰でもできる観葉植物の育て方』
『じゃるる 帝都観光』
『赤ちゃんの名前付けはこれ!』
どれも確かに必要な人が限られるのぅ。
特に必要ではない本ばかりだった。
店内に入って行こうとすると、ミンミンが後ろから袖を引っ張ってきた。
「お待ちください。まずはわたしが行って店主と交渉してきますから」
「なぜじゃ?」
「安全確認のためです」
こんな田舎町の書店で危ないことなどありそうにないが、ミンミンの仕事を奪うわけにもいかぬし、妾は頷いた。
ミンミンが店に入ると、二台目の馬車に乗っていたシェン君がわざわざ降りて見に来た。
「おい、何やってるんだ?」
「この書店に買い物に行こうとしておったのじゃ」
「書店? なんで?」
「なんでって、本を買うからじゃ」
「わざわざこんな所で買わなくても、学園の図書館で借りればいいだろ」
「図書館は最新刊は置いてないじゃろ」
「ふうん」
ジョーと同じく、シェン君も興味がなさそうだった。
そのとき、店の中から甲高い悲鳴が上がった。
「な、なんじゃ!?」
慌てて駆け込もうとするが、今度はシェン君が妾の袖を引っ張ってきた。
「やめろ! おい、サイファ!」
妾の足を止めて、シェン君が従者のサイファを呼んだ。
しかし、先に来たのは妾の護衛騎士シュミットだった。
馬車を舗道に停めた後、警護に来たのじゃろう。
「わたくしが行って参りますので、殿下たちはここから動かないように」
颯爽と店の中に駆け込んで行く。
手を剣帯にかけていたのが気になる。
大丈夫じゃろうか。
サイファは馬車を雪道の舗道に停めるのに少し苦心したようで遅ればせながらやって来た。
「今の悲鳴は?」
問われたシェン君も首を振る。
「わからない。こいつの侍女だろう」
「そうですか。あの騎士が行ったのでわたしはここに残りましょう」
不安げにみなで待っていると、店の中からシュミットがミンミンを連れて出てきた。
ケロッとした顔をしておる。
さらに、続いて出てきた顔を見て妾は思わず「ひぇっ!」と叫んだ。
「あ、兄じゃ!?」
なぜか二人の後から現れたのは妾の兄、フェニックスだった。
「な、なぜここにいるのじゃ?」
「何を言っている。遅いぞ!」
いやいやいや、遅いってどういうこと?
待ち合わせしてたみたいに言われても、全然知らんぞ?
「おまえたち、弛んでいるんじゃないか?」
「な、何がどうなって?」
「まったく。おれたちは一本早い列車で来たというのに、おまえたちの体たらくぶりには呆れるな」
「ええっ?」
ん? おれたち?
不穏な気配・・・・・・。
「アカネは先に宿に行ったからな」
やっぱり!
「アカネもいるのか?」
「当たり前だろう。刀剣部の冬合宿だぞ」
「なんでこんな所で!?」
妾、聞いてないんじゃ。
知ってたらこの町は通過したのに・・・・・・。
「言っておくが、この町での合宿はこっちが先に決まっていたんだからな。おまえたちの旅程と被ったのは偶然だ。とはいえ、せっかく学園や王宮の外で会うのだから食事くらいは一緒にすべきだろう」
「・・・・・・うむ」
ギリギリと歯噛みしていると、フェニックスが気になった様子で店の方を振り向いた。
「おい、もう行くぞ」
声をかけられたからか、店の中からもう一人の少年が出てきた。
淡い金髪の小柄な男子で、手に数冊の本を持っている。
「すみません。支払いに時間がかかってしまって」
フェニックスの友だちじゃろうか?
にしては、横暴で喧嘩っ早そうではなさそうじゃ。
「いいから行くぞ。寒くて敵わん」
フェニックスは偉そうに言って、さっさと歩き出す。
「ああそうだ。後で宿のおれの部屋に来いよ、バーミリオン」
「・・・・・・・わかったのじゃ」
心の中では「え~~めんどくさいんじゃけど~」とぼやきながら答える。
妾の前を急いで本を手にした男子が通り過ぎる。
そのとき、妾は見てしもうた。
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思わず漏れた声を聞いて立ち止まった男子の手には、妾が欲しかった『秘密のポケットで魔界無双』の最新刊七巻があった。
「わ、妾も買わねば」
目的を思い出して書店に突撃しようとする。
がーーー。
「あ、あの・・・・・・これが最後の一冊らしいですよ」
と非情な声が後ろから聞こえた。
「えっ?」
最後の一冊、とな?
目が点になってしまう。
「す、すみません。バーミリオン様、あ、あの・・・・・・ぼくのでよろしかったらこれを差し上げます」
フェニックスの友人とは思えない親切心のかたまりのような人じゃ~。
感激して受け取ろうとすると、フェニックスが邪魔してきた。
「やめろ。遅かったこいつが悪い。おれの妹を過度に甘やかさないでくれ。調子に乗るだけだ」
「ぬな~~~!」
「なんだ、奇声など上げて。一冊しかないんだから諦めろ」
「フェニックス兄じゃの意地悪!」
「他人の物を奪い取っていいわけないだろうが」
「でもくれるって言ったもん」
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うがーーーっ!
声にならない怒りを地面をドンドン踏みつけることで押さえ込む。
「ひめ様、他の書店で買ってあげますから、ね」
ミンミンが宥めようとそう言ったが、ジョーが「町の書店はここだけよ」と辛辣なトドメを刺してくれた。
「いいもん。妾、他の町で探すから」
せっかく最新刊が手に入ると思ったのに、ガックリなのじゃ。
「そうしろそうしろ。じゃあ後でな」
鬼のようなフェニックスは友人と最新刊を引き連れて去って行った。
世は無常なのじゃ。
「それにしてもミンミンはどうして叫んだんだ? 悪漢にでも襲われたのかと思ったぞ」
シュミットが訊ねると、ミンミンは恥ずかしそうに肩を丸めた。
「すみません。店の中が暗くて、突然フェニックス殿下たちと鉢合わせたので驚いてしまって」
「そうか」
ミンミンが首を傾げて呟いた。
「なんだか暗かったせいで変な物が見えた気がしたんだけど」
だが、それを聞いた者は誰もいなかった。
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