不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

文字の大きさ
67 / 70

幽霊の囁く城 part2

しおりを挟む
 ホロウバステオン城は、街の端にある小高い丘の上にあった。
 いかめしい暗灰色の玄武岩で造られた外壁は長い年月と共に朽ち果て、街の衰退よりも早く廃墟となり果てていた。
 かつては重厚な圧迫感で街を睥睨へいげいしていた尖塔も折れ、薄曇りの空の下で見上げると、荒れた前庭や腐った鎧戸はまさしく幽霊の住処すみかに見えた。

 シェン君とジョーと共に朝食を終えた妾は、ヤンヤンたちに散歩に行くと言って外に出た。
 昼には戻って帝都へ出発する予定になっている。
 なので、時間は半日もない。
 ただの散歩なので、お供も少ない。
 サイファと妾の騎士二人だけだ。
 ヤンヤンとミンミンは宿で細々こまごまとした仕事をしてくれている。
 もちろん妾はホロウバステオン城に行くつもりだった。
 それとなく街の中をぶらぶらしている振りをして、城の足元まで行き、ちょっと興味を惹かれた風に近寄って行く。

「うわぁ、雰囲気のある城じゃぁ!」

 妾の感嘆の声に、シェン君が冷めた視線を寄越してきた。
 ジョーも小声で「演技力ないわね」と呟いている。
 だったら二人も協力して欲しい。
 騎士団副長のシュミットが近づいてきた。

「バーミリオン殿下、そろそろお戻りになりませんか?」
「えっ? いや、まだ・・・・・・そう、まだ昼前にもなっておらぬぞ。早く戻っても退屈じゃからな」
「そうですか?」

 さすがに街の外れまで来たので、もう観光するような店もない。
 あるのはここから丘を登って行けるホロウバステオン城だけだ。

「のぉ、ちょっとだけあの城に行ってみないか?」

 妾のそれとなく誘導する作戦に、シェン君も乗っかった。

「おお、おれも行ってみたい。行こうぜ」
「わたしも古いお城に興味あるわ」

 ジョーも援護してくれる。
 しかし、当然のように騎士二人とサイファは反対した。

「いけません、バーミリオン殿下。危ないですよ」
「そうですよ。古い城なんていつ崩れてくるか」
「シェン王子、もう戻りましょう」

 もちろん普段なら妾はここで引き下がって、良い子のバーミリオンとして宿に戻るのじゃが、今日はそういうわけにもいかぬ。
 なので、ワガママモードを発動した。

「ちょろっと外から眺めるだけじゃ。約束する~。頼むのじゃ、副長~~~」

 シュミットの腕を両手で掴んでぐいぐい引っ張った。
 わかってもらいたいが、いつもならこのような事は絶対にしないのじゃ。
 妾はお子様ではないのでな。
 でも、シュミットは妾がよちよち歩きの頃から宮にいた古参の騎士。
 そう、かわゆい妾を思い出したら、かたくなに反対などできぬはず。

「で、ですが、殿下。本当に危ないかもしれないのでーーー」
「副長とクラウゼンがいるではないか! 最強の騎士二人がいたら大丈夫じゃ。ちょっと外から見るだけじゃ~」
「う、ううん、そうですねぇ」

 くひひ、もうちょっとで落ちるぞ。
 妾はさらにシュミットの腕に抱きついた。
 しかし、なぜか背後からシェン君が服の襟元を引っ張ってきたので、首が締まって「ぐえ」とカエルのようにうめいた。

「何をするんじゃ」
「ひっつきすぎ」
「はぁ?」

 わけがわからぬ。

「仕方ありませんね。少しだけですよ」

 とりあえず、シュミットは妾のおねだり作戦に陥落したから良いが、邪魔しちゃダメじゃろ。
 ムッとした顔をシェン君に向けると、なぜか妾よりムスッとしていた。
 本当にわけがわからぬ。
 サイファもさすがに妾たちが行くのに文句は言えないようで、最後尾に付いてくる。

 ホロウバステオン城へ上がる道は、なかなかの急勾配で、道の石畳も剥がれて雑草が生い茂っていた。
 そこを、えっちらおっちらと、みんなで登る。
 元は馬車道だったので幅はあるが、左右は針葉樹の林なので少し薄暗い。
 十分ほど登ったところで、なぜか最後尾が妾になっていた。
 しかも妾だけ、ゼェゼェ息をしておる。
 体力なさすぎかもしれぬ。
 いや、ここにいる面々の運動能力が高すぎるんじゃ。
 そうに決まっておる。
 先頭を行くシュミットは、すでに見えなくなっていた。
 先に行って様子を見てくるつもりかもしれぬ。
 続いてシェン君とサイファ、ジョーの背中がある。
 妾の前を歩くクラウゼンが振り返って言った。

「バーミリオン殿下、お疲れならわたしが背負って行きましょうか?」
「いや、いい」

 妾は首を横に振った。
 それはさすがに恥ずかしすぎる。
 シェン君もジョーもスタスタと歩いておる。
 妾だけ子どもみたいにおんぶされるのは屈辱じゃ。
 息切れしながらも、力を込めて一歩一歩進んで行くと、クラウゼンが後ろに回って、歩調を合わせてくれた。

「殿下はどうしてあの城に行きたいんですか?」

 突然、訊かれて驚く。
 シュミットと違って、クラウゼンは寡黙かもくなタイプじゃ。
 護衛任務に不必要なことを話したことがあまりなかった。
 もしかして、話してると気がまぎれるからワザと話しかけてきたのかな。
 結構、気配りするんじゃな。
 妾はふふっと笑いながら答えた。

「あの城が出てくる本を読んだことがあるのじゃ。なので、近くまで来たし、見てみようと思うてな」
「ああ、もしかして『ホロウバステオンのゆうれい』ですか?」
「えっ? 知っておるのか?」

 驚いた妾に、クラウゼンが頷いた。

「はい。子どもに大人気の本ですよね。一時期、書店に積み上がっていましたよ。弟に借りて、わたしも読みました」
「読んだのか? どうだった?」
「子ども向けにしては怖かったですね。不気味な描写が多くて。それに実際にある話が混ざってるらしいので、余計に恐ろしさが増して」
「そうなのじゃ! 実在する城! 実在する伝説! それに冒険!」

 グッと熱が入った妾に、クラウゼンがハハッと声を出して笑った。

「殿下があの城を近くで見てみたい気持ちがわかりました」
「・・・・・・」

 本当はそれだけが理由じゃないけど。
 話しているうちに、妾たちはホロウバステオン城の錆びた門扉の前まで到達していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

処理中です...