お伽の夢想曲

月島鏡

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第一章 始まりを告げる朝

第十二話 守りたかったのは

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「名前を呼ぶ声がしたから、助けに来た。もう苦しい思いはさせない」

 ステラ=アルフィリアはマリに優しい笑顔を向けながらそう言った。
 自分の背に乗ったステラを退けようと、ゲルグが腕を払うが、それより早くステラは跳んでゲルグから離れる。
 着地した先で、ステラは拳を顔の前にかざし、呼吸を整える。
 あの日の約束を守る為に、マリを助ける為に絶対に勝つ。その思いを拳に込めて、弾かれた様にステラは前に飛び出した。

「クソガキがぁあぁあぁあ‼︎」

 ゲルグもまた向かってきたステラに拳を放ち、ステラを迎え撃とうとする。
 それと同時にステラも拳を放ち、両者の力が真っ向からぶつかり合う。

「ぐぐぐぐ・・・」

「うぅうぅううぅうっ、あぁあぁああぁあ‼︎」

 ゲルグの拳を押し返し、ゲルグが怯むのと同時に、ステラはゲルグの腹を殴り飛ばす。
 吹き飛んだゲルグの足を掴み、そのまま上に跳躍して、ゲルグを泉に叩き落とすと、泉の水が飛沫を上げる。
 水飛沫を浴びながらステラは宙を蹴り、ゲルグへ向かって急降下する。ゲルグへと届くーーその寸前に、何かがステラの腹部に突き刺さった。
 突き刺さったのはゲルグの長い尾だった。ステラの腹から赤々とした血が滴り落ちる。
 ゲルグは半回転してステラを遠くの木に叩きつけ、ステラが地面に落ちるより早くステラに近付き、爪を立てて内臓をズタズタに引き裂こうとする。
 しかし、ゲルグの爪がステラに届く事は無かった。木に叩きつけられたステラが、ゲルグの顔面を殴り飛ばしたからだ。

「ぐぉあっ‼︎」

 そのまま地面を数回転がって立ち上がったゲルグの表情には怒りの色が浮かんでいた。
 吹けば消える脆弱な人間風情が、簡単には死なず、あまつさえ自分に抗い、同等に渡り合っているという事実が、ゲルグに怒りと焦りを覚えさせる。
 目の前の人間は何故死なない? 目の前の人間は何故倒れない? 目の前の人間は何故こんなに強い? 何故、自分より弱い筈の人間が自分を追い詰めている? 何故

「そんな表情かおを浮かべている⁉︎ 何故、何故、何故、何故、何故っ⁉︎」

 笑っているのだ?
 笑う余裕などある筈が無い。ましてや恐怖が無いなんて事あり得ない。
 ゲルグには意味が分からなかった。今ステラが浮かべる表情の意味が。自分がおかれてる状況が。だが、実際は簡単な事だった。
 ステラはただ嬉しいのだ。忘れていた約束を思い出せた事が。約束を思い出した上で、マリを助けられる事が。だから

「いくわよ」

 笑いながら、ステラはゲルグへと向かっていく。
 ゲルグが反応するより早くステラはゲルグの顔面を殴りつけ、腹に膝蹴りを叩き込む。
 ゲルグが拳を振り下ろし反撃するが、ステラはそれを腕を無造作に振って弾き、ゲルグの腹を蹴り飛ばす。
 ゲルグは膝をついて血を吐いて気付く。目の前の人間はただの人間ではない。自分を殺しえる程の力を持った化け物だ。殺らなければ殺られる。
 あまり得意ではないが仕方ない。ゲルグは掌に泉の水を吸収し、その掌をステラに向けて、掌から水色の波動を放つ。

「ぐっ、うぁあぁあぁあっ‼︎」

 ステラが吹き飛ばされ、泉の向こうに投げ出される。
 今までずっと素手で戦っていた為、魔法は使えないものと判断していたが、甘く見ていた。
 相手はリザードマン。人間より強い怪物なのだ。油断をすれば負ける。

「もう油断しない。全力で、あんたを倒す‼︎」

「うるぁああぁあぁあぁああ‼︎」

 ゲルグが再び掌から水色の波動を放ち、ステラを何度も襲う。
 その度にステラは身体から血を流し、膝をつきそうになるが、ステラは耐える。
 ゲルグを倒す為、マリを助ける為に。  そんなステラの決意の強さを知ってか知らずか、このままではステラを倒せぬと思ったゲルグは、全魔力を込めた波動を、ステラに向けて放った。

「死ねぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえ‼︎」

「ーーーーっ‼︎」











 あの日、星空と月の下で交わした約束には続きがあった。
 苦しい時、悲しい時、名前を呼べば絶対助けると誓ったステラに、マリが結んでほしいと願ったもう一つの約束。


 自分を助ける為に傷付く位なら逃げて欲しい。


 ステラには自分の事を大事にして欲しいと、マリは思っていた。それでステラが死んでしまえば、マリはひとりぼっちになってしまう。
 一時の苦しみや悲しみから救われても、ステラがいない苦しみや悲しみに襲われる。でも、そんな事を言ってもステラは嫌だと、死んでも助けるというに決まってる。
 だから、マリは約束して欲しいと言った。絶対死なないで、と。もし自分が助けを求めても、自分を蔑ろにする様な事だけはしないで欲しい。自分の事を誰よりも大事にして欲しい、と。
 結局、自分を大事にするという約束を、ステラは守る事はできなかった。現に今マリを助ける為に血を流し、全身を打ちつけられているのだから。
 しかし、約束の半分は違えるつもりはない。必ず生きてマリを助けると、人知れず再び誓ったステラの想いは果たしてーー・・・







 ゲルグが放った全力の波動は、ステラを、辺りの木々さえも飲み込んで破壊した。
 もう立ち上がる事も、人としての形を保っている事もあり得ない。
 今度こそ勝利したと、ゲルグが確信していると次の瞬間

「なっーー‼︎」

 血塗れで立つステラの姿が、ゲルグの瞳に映った。

「う、は? あ、ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇ、何故、何故、何故、何故、何故・・・」

 何故なんだ‼︎
 そう吠えたゲルグの叫びは直後、ゲルグとの距離を無かった事にしたステラの一撃で掻き消される。
 それ以上の反撃はさせまいと、ゲルグがステラと正面から組み合う。

「うがぁあぁあぁああぁあぁあ‼︎」

「ぐ、く、う、うぅうりゃあっ‼︎」

 ステラがゲルグの顎を蹴り上げ、頭突きを食らわせると、組み合っていた指が解け、ゲルグがよろける。
 ふらつく足でなんとか踏み止まるゲルグの視界に映ったのは、拳を構え、その両腕に紅い輝きを宿すステラだった。
 刹那、ステラの拳がゲルグの腹に叩き込まれ、そのままの勢いで激しい連撃をゲルグに食らわせる。
 腕が千切れる位に力を込めて、何度も、何度も、何度も、そして

「はぁああぁあぁあぁあぁあっ‼︎」

 最後の一撃を食らわせ、ゲルグを遥か彼方まで吹き飛ばす。
 その距離は、ゲルグの姿など見えなくなる程のもので、ゲルグの意識は吹き飛ばされている最中によって途切れた。
 『モルガナ』を巡って行われた戦いは、ステラの、『魔神の庭』の勝利で幕を下ろした。













「はぁ・・・はぁ・・・」

 勝った。
 リザードマンに。ゲルグに。
 無事にマリを守る事が、助ける事が出来た。その事がステラは未だに信じられない。まるで、夢でも見てる様な気分だ。でも

「ステラちゃん‼︎」

 夢じゃない。
 マリは今ここにいて、ステラも息をしている。
 マリを助ける事が、守りたかったものを守る事が、約束を守る事が出来た。
 それは、紛れも無い、誰のものでもないステラの現実だった。だからステラは安堵してマリの元に近付いて

「今、縄を切るから待って」

「うん。ありがとう」

 ステラが手で無理矢理縄を切るとマリは立ち上がり、ステラに手を伸ばして

「大丈夫? 立てる?」

「うん。ありがとう」

 ステラはその手を取って立ち上がり、お互いの顔を見て小さく笑った。

「助けてくれてありがとう。ステラちゃんが来てくれて、本当に嬉しかった」

「いいのよ。約束したじゃない。苦しい時、悲しい時は名前を呼んだら必ず助けに行くって。だから、お礼なんていらないわ」

「ステラちゃん・・・」

 その直後、マリはステラに抱きついて胸に顔を埋める。

「マ、マ、マ、マリ⁉︎ どうしたの⁉︎」

「うっ、うぅ・・・うっ・・・」

 その声は震えていた。
 服が濡れ、腕の力が段々と強くなる。
震える声は涙声で、服を濡らすのはマリの涙だ。
 どうして泣いているのか、マリにそう聞こうとすると

「また、何もしてあげられなかった。またステラちゃんが傷付いた。私は、あの頃と何も変わってない。私は、私は・・・」

「マリ・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめん、なさい・・・」

 マリの身体は震えていた。
 罪悪感で一杯になった心をどうすればいいか、きっと分からずにいるのだろう。だからステラはマリの頭に優しく手を置いて、マリ、と優しく名前を呼んで

「前にも言ったでしょ、マリは私にいっぱい色々な本教えてくれた。色々な遊びもしたし、私はとっても楽しかったって」

「ステラちゃん・・・」

「それに、あなただけよ。私がいなくなるまでの間、ずっと話しかけてくれたのは。こんな無愛想で可愛くない奴でも放っておかないでくれた。本当は少し、ううん、とても嬉しかった」

「ステラちゃん」

「マリは私の大切な友達。私はマリの事大好きよ」

「私も、私も大好き。ステラちゃんの優しい所が好き。ステラちゃんのカッコいい所が好き。ステラちゃんの笑った顔が好き。ステラちゃんの全部が大好き。ずっと、ずっと、大好きだった・・・‼︎」

「うん。分かってる。私も同じだから。だから、もう泣かないで」

「う、うっ、うぅ・・・」

「これからはずっと傍にいるから。ね?」

「本当? ずっと傍にいてくれる?」

「本当よ」

「約束?」

「約束よ」

 ステラがそう言うと、マリはステラから離れて、小指を立てる。

「なら、指切りしよ。また、あの日みたいに。そうしたら、絶対忘れないでしょ?」

「えぇ。もう絶対忘れないわ」

 もう二度と、絶対に忘れない。
 大切なものを思い出した今だから言える。
 もう二度と忘れない。もう二度と離さない。もう二度と涙は流させない。
 あの日誓った約束と同じ誓い。けれど、あの日よりずっと固く、強く、だから、もう二度と忘れない。もう悲しませない。何があるか分からない、絶対の無い未来でも、それだけははっきりと言える。
 あの日マリと交わした約束の半分と同じ約束は、もう一度、果たして永遠に忘れない、固いやくそくとなり、朝焼けの空の下で朝結ばれた。












 その後『モルガナ』を襲った傭兵部隊『幽鬼』は半数以上が壊滅し、生き残ったメンバーも全員投獄された。
 保護された子供達は、一旦は『魔神の庭』の屋敷で生活してもらい、壊された『モルガナ』を急ぎリオが修復した。
 ローザもそう遠くない森で戦っていたようで、本人曰く辛くも生き残れたとの事らしい。
 そして、ゲルグはと言うと、連行された後に事情聴取を受けたが、犯行はギルドの計画ではなく、個人が計画し実行したものとして、『眠らぬ月』は特に罰せられる事は無いらしい。
 何はともあれ死人や怪我人が出ずに依頼を成功出来たのは良かった。またいつも通りの平和な日々が始まると、ステラはそう思っていたーー・・・










 緊急依頼の翌日、朝早く起きたステラは、着替えて屋敷の中を歩き、いなくなったプリンを探していた。
 部屋の中にはいなかったが、屋敷のどこかにいるだろうと思い、というかいて欲しいと願いながら廊下を探している。 プリンは大事なマンドラゴラだ。何が何でも絶対に見つける。そう思いながらステラが血眼でプリンを探していると、前から何かが走ってくる音が聞こえた。ドタドタとやかましい音は段々と大きく近くなる。その音の正体は

「ぜぇっ、はぁ、ぜぇ、あ⁉︎ ステラ‼︎ そこ退け‼︎」

「リーオ君っ‼︎ 待てー‼︎ あ、ステラちゃん‼︎ リオ君止めてー‼︎」

 寝起きの格好で走るリオとリリィだった。
 毎朝本当に飽きないな、と心の中で呟いて、廊下の端に移動して二人を見送ると、リオとリリィ、そして緑色の小さな影が猛スピードで駆けて

「あれ?」

 ーー緑色の小さな影? それって

「プリン‼︎」

 見つけた。
 余りに突然の事に反応出来なかった。
 プリンを追ってステラは走り出す。また見失えば次はいつ見つけられるか分からない。故に、必ず追いついて捕まえなければならないのだが、足が速く全く追いつかない。プリンを捕まえる為全速力で走っていると、次の瞬間、誰かとぶつかった。

「いたっ‼︎ あっ、ごめん大丈夫⁉︎」

「いえ、大丈夫です。ステラ様こそ、大丈夫ですか?」

 ぶつかったのはアルジェントだった。
 柔らかく微笑みながら聞いてくるアルジェントの両肩には、緑色の小人が乗っていた。

「あっ‼︎ プリン‼︎」

「先程走ってるのを見たので、捕まえておきました。ほら、ステラ様の元にお帰り」

「ピィ‼︎」

 アルジェントの肩から飛んできたプリンをステラはキャッチして抱き抱える。 ステラに抱かれた瞬間、疲れたのか寝息を立ててプリンは眠ってしまった。
 
「ありがとね。捕まえるの大変だったでしょ?」

「いえ、あまり大変じゃなかったですよ。自分から飛びついてきてくれたので」

「何故⁉︎」

 私には飛びついて来なかったのに、とステラは思った。
 もしかして自分はプリンに嫌われているんじゃないだろうか、そんな不安にステラが陥っていると

「ステラ様、昨日は大活躍だったそうですね。敵の主力を二人も倒されたと聞きました」

 アルジェントが急にそんな事を言ってきた。

「そんなに凄くないわよ。多分、他のメンバーがやれば瞬殺出来たわ」

「そんな事ありません。初めての緊急依頼、それも討伐依頼の結果としては上々ですよ。それに、ステラ様のお陰で誰も死なずに済みました。ありがとうございます」

「もう、そうゆうのやめてよね。なんか恥ずかしい」

「思った事を言っただけですよ。本当にステラ様のお陰です。心の底から、凄いと思います」

 顔を少しだけ赤くするステラにアルジェントはそう言うが、ステラは顔がもっと赤くなってる気がして、見られるのが嫌だから顔を背けた。

「そんな事より、早く朝食行きましょ。多分もう皆いるわ」

「そうですね。じゃあ、行きましょうか」

 そしてステラとアルジェントは二人と二匹で食堂に向かった。









 いつもの様に朝食を済ませ、帰ろうとした時、メンバーは全員この後話があるから広間で待てと言われたため、メンバー全員が広間でライゼの事を待っていた。
 その待ち方も、いつも通りの者、面倒臭そうな者、嫌そうな表情を浮かべる者と、多種多様だった。
 正直言って嫌な予感しかしない、というのがステラの考えだ。ライゼがギルドのメンバーに命令する時は真面目な事か、訳の分からない事だ。
 今回は十中八九訳の分からない事だろう。故に、部屋に戻ろうかと考えている者はステラ以外にもいて

「なぁ、アル、俺部屋に戻っていいか?筋トレしたいんだが」

「駄目だよ、マスターが言ってたでしょ、ここで待つようにって」

「確かにそうだが、何が起こるか分からないから嫌なんだ。あいつの事だ、また十中八九どうでもいい事だろ」

「だとしてもちゃんと聞かなきゃ。あっ、そうだ。僕としりとりで勝ったら良いよ。しりとり」

「いやいい。頭を使うゲームでお前に勝てる気がしない」

「えー、つまんないなー」

 と唇を尖らせるアルジェントと、溜息を吐くリオを見て、でも、とローザ

「緊急依頼よりはマシだよ。僕はしばらくは人のいない森で傭兵に囲まれるなんて悪夢みたいな状況は御免だよ」

「災難だったねローザ君」

「でも、緊急依頼や真面目な話じゃなかったらなんだろう・・・あっ‼︎ 私とリオ君の結婚式の会場が決まったとか⁉︎」

「おい待ていつ誰が誰と結婚した。勝手に記憶を捏造するな」

「えー、でも、今朝私と一緒の布団で起きたじゃん」

「え⁉︎ そうなの⁉︎」

 驚くステラに明るい声で、そーだよ、とリリィ。

「私とリオ君はもう連結済みだからねっ‼︎」

「済んでねぇわアホォ‼︎ お前がいつの間にか俺の布団に勝手に忍び込んでただけだろうが‼︎」

「でも裸はお風呂で舐るように見られた」

「見てねぇわ‼︎ 髪洗えねぇっていうから一緒に風呂入ってやってんだろうが‼︎」

「本当はリオ君だって嬉しいくせに~」

「はっ倒すぞてめぇ。」

「え⁉︎ 押し倒す⁉︎ カモン‼︎」

「カモン‼︎ じゃねぇよ‼︎ どうゆう耳をしてるんだお前は‼︎」

 いつも通りのやり取りをする二人を見ながら、本当に飽きないなぁーと再び思った。
 その直後、広間の扉が音を立てて開き、ライゼが入ってくる。その額と背中に作り物の黒い角と翼をつけて

「我が名は魔王ライゼ‼︎ 人間を滅ぼそうと企む悪しき魔王である‼︎」

 決めポーズとドヤ顔で、芝居がかった台詞を広間に響かせるライゼに、全員が抱いた感想はただ一つ。
 なんだこれ?

「我は人の秘密を暴露する事で世界を滅ぼす‼︎ 例えばそこの目つきの悪いオレンジ‼︎」

 そう言ってライゼはリオの事を指差す。そして

「お前は実はピーマンが嫌いだな‼︎」

「んなっ‼︎ 何故それを⁉︎」

「あとお前は数ヶ月前飛び出してきたゴキブリにびっくりして魔法を使おうとしたな‼︎ 他には意外と暗い所が無理だったり、猫に向かってにゃあとか言ってたりもしたな‼︎」

「だからなんで知ってんだよ⁉︎」

 猫に向かってにゃあ。意外と可愛い所があるなとステラは密かに思った。
 次々と秘密を暴露されるリオは確実に精神的なダメージを負っていて、どんどん顔色が悪くなる。

「まだまだあるぞ‼︎ お前の秘密も‼︎ お前の秘密も‼︎ そこのお前の秘密も‼︎ 全員の秘密を暴露して、世界を混沌に包んでやる‼︎」

「そこまでだよ‼︎」

 次の瞬間、ギルドのメンバーではない誰かの声が広間に響いた。
 その声の主をステラは知っていた。聞き覚えのある懐かしい声。声の主は広間に入ってきて

「私が来たからにはもう悪い事はさせないよ‼︎ 覚悟して‼︎」

「なっ⁉︎ お前は魔法使いの・・・」

「マリ⁉︎」

 ライゼに魔法使いと呼ばれたマリは、黒いウィッチハットに黒と青のゴスロリの上から黒いマントを羽織り、手には杖と、確かに魔法使いの様な格好をしていた。
 マリはライゼに杖を向け、ライゼを見つめる。

「人の秘密を暴露する悪い魔王は私が成敗するよ‼︎ 食らえ‼︎ 必殺マリビーム‼︎」

「ぐぁあぁあああぁあ‼︎ やられたぁ‼︎」

 ライゼが大袈裟に倒れた後、マリはステラ達『魔神の庭』メンバーの方を向いて

「魔法少女マリ、大勝利‼︎」

 笑顔でピースサインをするが、全員ぽかんとする事しかできない。少ししてからライゼは立ち上がり

「という訳で、今日から『魔神の庭』の新メンバーになるマリちゃんでした。皆、仲良くしてあげてね」

[[[いやいやいやいやいや‼︎ちょっと待て‼︎]]]

 いきなりすぎる重大発表に驚きの声を上げるステラ、リオ、ユナ。
 一体どうゆう事なのか、とステラはライゼに詰め寄り

「これはどうゆう事ですか⁉︎」

「あぁ、マリちゃんはメイド服も似合うと思ったんだけど、魔法使いの格好の方が可愛いかなぁ、と思って」

「服装の方じゃありません‼︎ なんでマリがここにいるんですか⁉︎」

「マリちゃんが頼んできたんだよ。『魔神の庭』に入れて欲しいって」

 ーーーーはい?

「ステラちゃんがいるなら私も入りたいって言われてさ。仕事もなんだってしますからって言うし、可愛いから良いかなって」

「よくありません‼︎ 仕事には危ないものもありますし、第一マリは魔法が使えな」

「使えるよ」

 ステラがマリの方を振り向くと、マリの指先から水が出ていた。前言撤回、魔法は使えるらしい。だが

「あれじゃ駄目じゃないんですか⁉︎」

「んー、リオ君とユナに自衛が出来る位に強くなるよう鍛えてもらうつもりだし別に構わないよ。それに、マリちゃんにはもうステラちゃんの事、『幻夢楽曲』の事も話した」

「えっ?」

「ステラちゃん。私、ステラちゃんの力になりたいの。今までずっとステラちゃんに助けてもらいっぱなしだった。だから、私がステラちゃんを助ける番だよ」

「マリ・・・」

「安心して、誰にも負けない位、誰にもステラちゃんを傷付けさせない位、強くなるから。それに、ステラちゃん約束してくれたでしょ? ずっと傍にいるって」

「あっ」

「もう絶対忘れないともステラちゃんは言ってました。約束破ったりしないよね?」

 嵌められた。まさかここまでしてくるとは、態々ギルドに入ってくるとは思わなかった。
 どうするの? もう決まってるよね?と言うような表情でマリはステラを見つめる。ステラは、はぁ、と溜息を吐いて

「いいわ。約束は約束だしね」

「やった‼︎ ステラちゃん大好き‼︎」

「あぁ、こら‼︎ 抱きつくなぁ‼︎」

「やだよー、しばらくはこのままだもんねー」

「全く・・・」

 思っていたものとは全く違う、想像通りとは程遠い、全く別の未来になった。
 けど、それでも、かけがえのない幸せは、守りたかったものは、確かに未来ここにあったーー……。
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