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2、居候が3人
15、職人のおじさんside
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珍しく真剣な顔をして頼みごとをして、そのまま駆けていったあいつの背中を見送った。
普段はだらだらと世間話ばかりして、のんびりした様子で帰っていくやつだ。あんな切羽詰まったような真顔は初めて見る。
視線を横にずらすと、小さな坊主が立っていた。あれが預かってほしいという子か。
まだ幼さの残る顔だが、妙に背筋を伸ばして気丈に振る舞っている。
だがその瞳には、不安の色がにじんでいた。
見れば着ているものはところどころ泥で汚れているが、生地そのものは上等で新品同然だ。
あの真人が「城に住んでいる」と言っていたから、この子もきっとお偉方の家筋なのだろう。
……こりゃ面倒な厄介事を抱え込むことになりそうだ。
「何があったのかは聞かねえ。だが、預かる以上はちゃんと働いてもらうぞ。……とりあえず、中に入れ」
「……わかった」
小さな声で返事をして、素直に工房へ足を踏み入れる坊主。
その肩が小さく震えているのを見て、わしは深くため息をつき、頭をガシガシとかいた。
外に出せぬ以上、掃除や片付けなど裏方の仕事をさせるのが一番だろう。
そんな段取りを考えながら、ふと真人と初めて会ったときのことを思い出した。
第一印象は――ただの変わり者だった。
妙な格好をして、聞いたことのない言葉をぽつぽつ話す。最初に見かけたときは、どこぞの若造が仕事をサボってぼんやり立っているのだと思い、特に気にも留めなかった。
ところが、何か月も経ったある日。休憩がてら町を歩いていたときに、別の装いをした真人とばったり出くわした。向こうもこちらに気づき、立ち話をすることになった。――そのまま工房に連れて帰り、なぜか話が弾んでしまったのだ。
それからだ。真人は時折工房に顔を出すようになった。
ある日、彼は品のある少年を連れていた。
よそゆきの着物に、落ち着いた立ち振る舞い。
いつものように中に入れようとしてふと気付く。過去の記憶がよみがえった。
何年も前、斎賀に呼ばれて献上した工芸品を披露したとき、殿の隣にちょこんと座っていた少年――敏之様だ。
気づいた瞬間、慌てて真人に問いただすと、あっけらかんとした顔で答えた。
「俺、敏之と一緒に住んでるんだ。……って言っても、毎日仕事は二時間くらいだけどね。あとは敏之の部屋でしゃべったり、縁側で昼寝してたり」
「や、屋敷に……住んでいるだと?」
「うん? あれ、俺さっき屋敷に住んでるって言ったっけ?」
耳を疑った。
最初に会った時は奇妙な服の若造で、ただの怠け者かと思っていた。
それが、次期当主様を呼び捨てにして“部屋でおしゃべりしてる”とは……。
わしは慌てて態度を改め、贈り物を用意しようとしたが、真人は笑って首を振った。
「いらないいらない。今まで通りでいいよ」
拍子抜けするほど気さくな態度。
家臣ですらなさそうだが、どういう存在なのかまるでわからん。正体は謎に包まれたままだった。
衝撃を受けながらもここに来る頻度はかわらず、そのうち、工房で仕事をしていると真人が何気なく言った。
「なあ、おじさん。茶器とか作ってないの? あれ、物によってはすごい価値が出てたはずなんだ」
軽い世間話の一つだろうと思って聞き流したが……後日、余った材料で茶器を試しに作ってみた。
一度手をつけたら止まらず、納得できるものができるまで何度も作り直した。工房にはずらりと茶器が並び、置き場に困るほどだった。
そこへ通りがかりの商人がやってきた。外から茶器が目に入ったらしい。
最初は渋ったが、商人は法外な値をつけ、強く欲しがる。試しに売ってみると、後日また現れた。
「あなたの茶器が評判でして。繊細で品があると噂です。ぜひ今後も取引を……」
聞けば尾張から来たという。
織田家とやらが力をつけ、景気がいいらしい。真人の言葉が、思いがけず商機を生んだわけだ。
(……あいつ、本気でわかってて言ったのか? いや、普段の間抜け面を思い出すに、ただの思いつきだろうな)
そう思いつつも、生活が楽になったのは紛れもなく真人のおかげだった。
今回もその延長だろう。
厄介ごとに巻き込まれているらしいが、礼として少しは力を貸してやるか。
「おい坊主。……お前の知ってるあいつ、普段はどんなやつなんだ?」
横にいる少年にそう尋ねながら、雑巾を持たせ、片付けの仕方を教え始めた。
普段はだらだらと世間話ばかりして、のんびりした様子で帰っていくやつだ。あんな切羽詰まったような真顔は初めて見る。
視線を横にずらすと、小さな坊主が立っていた。あれが預かってほしいという子か。
まだ幼さの残る顔だが、妙に背筋を伸ばして気丈に振る舞っている。
だがその瞳には、不安の色がにじんでいた。
見れば着ているものはところどころ泥で汚れているが、生地そのものは上等で新品同然だ。
あの真人が「城に住んでいる」と言っていたから、この子もきっとお偉方の家筋なのだろう。
……こりゃ面倒な厄介事を抱え込むことになりそうだ。
「何があったのかは聞かねえ。だが、預かる以上はちゃんと働いてもらうぞ。……とりあえず、中に入れ」
「……わかった」
小さな声で返事をして、素直に工房へ足を踏み入れる坊主。
その肩が小さく震えているのを見て、わしは深くため息をつき、頭をガシガシとかいた。
外に出せぬ以上、掃除や片付けなど裏方の仕事をさせるのが一番だろう。
そんな段取りを考えながら、ふと真人と初めて会ったときのことを思い出した。
第一印象は――ただの変わり者だった。
妙な格好をして、聞いたことのない言葉をぽつぽつ話す。最初に見かけたときは、どこぞの若造が仕事をサボってぼんやり立っているのだと思い、特に気にも留めなかった。
ところが、何か月も経ったある日。休憩がてら町を歩いていたときに、別の装いをした真人とばったり出くわした。向こうもこちらに気づき、立ち話をすることになった。――そのまま工房に連れて帰り、なぜか話が弾んでしまったのだ。
それからだ。真人は時折工房に顔を出すようになった。
ある日、彼は品のある少年を連れていた。
よそゆきの着物に、落ち着いた立ち振る舞い。
いつものように中に入れようとしてふと気付く。過去の記憶がよみがえった。
何年も前、斎賀に呼ばれて献上した工芸品を披露したとき、殿の隣にちょこんと座っていた少年――敏之様だ。
気づいた瞬間、慌てて真人に問いただすと、あっけらかんとした顔で答えた。
「俺、敏之と一緒に住んでるんだ。……って言っても、毎日仕事は二時間くらいだけどね。あとは敏之の部屋でしゃべったり、縁側で昼寝してたり」
「や、屋敷に……住んでいるだと?」
「うん? あれ、俺さっき屋敷に住んでるって言ったっけ?」
耳を疑った。
最初に会った時は奇妙な服の若造で、ただの怠け者かと思っていた。
それが、次期当主様を呼び捨てにして“部屋でおしゃべりしてる”とは……。
わしは慌てて態度を改め、贈り物を用意しようとしたが、真人は笑って首を振った。
「いらないいらない。今まで通りでいいよ」
拍子抜けするほど気さくな態度。
家臣ですらなさそうだが、どういう存在なのかまるでわからん。正体は謎に包まれたままだった。
衝撃を受けながらもここに来る頻度はかわらず、そのうち、工房で仕事をしていると真人が何気なく言った。
「なあ、おじさん。茶器とか作ってないの? あれ、物によってはすごい価値が出てたはずなんだ」
軽い世間話の一つだろうと思って聞き流したが……後日、余った材料で茶器を試しに作ってみた。
一度手をつけたら止まらず、納得できるものができるまで何度も作り直した。工房にはずらりと茶器が並び、置き場に困るほどだった。
そこへ通りがかりの商人がやってきた。外から茶器が目に入ったらしい。
最初は渋ったが、商人は法外な値をつけ、強く欲しがる。試しに売ってみると、後日また現れた。
「あなたの茶器が評判でして。繊細で品があると噂です。ぜひ今後も取引を……」
聞けば尾張から来たという。
織田家とやらが力をつけ、景気がいいらしい。真人の言葉が、思いがけず商機を生んだわけだ。
(……あいつ、本気でわかってて言ったのか? いや、普段の間抜け面を思い出すに、ただの思いつきだろうな)
そう思いつつも、生活が楽になったのは紛れもなく真人のおかげだった。
今回もその延長だろう。
厄介ごとに巻き込まれているらしいが、礼として少しは力を貸してやるか。
「おい坊主。……お前の知ってるあいつ、普段はどんなやつなんだ?」
横にいる少年にそう尋ねながら、雑巾を持たせ、片付けの仕方を教え始めた。
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