高校生、戦国を生き抜く

神谷アキ

文字の大きさ
上 下
33 / 53
2、居候が3人

33

しおりを挟む

 ムーバさんに見つめられたまま、口を開く。


「それは……えーと、なんというか……」


 うまい言い訳が思いつかない。いつの間にか鉄もこっちを向いて俺の言葉を待っているし、もう逃げ場がない。こうなったら、最終奥義のあれを使おう。つまり記憶喪失!
 そうすれば、農民をする前の俺の情報が何もなくたっておかしくない! さっそく嬉々として、記憶喪失のことを伝える。


「実はですね、俺記憶がな……」

バタンッ

「ムーバさん! またカメレオンがいなくなりました!」


 説明しようとした途端に、誰かがすごい勢いでドアを開けて入ってくる。そして、カメレオンがいなくなったと叫んだ。


「またか!」

「周りの色に合わせて体の色を変えるから、見つけるのが困難なんです。献上するつもりで連れて来ていたので、居なくなられると困ります!」

「真人、かめれおんって知っているか?」

「うん。今の人が言ったように、体の色を変えて周囲の景色の中に溶け込める生き物。へー、カメレオンもいるんだ」

「あなた、カメレオンも知っているのですか?」


 耳ざとくムーバさんが振り返る。やべっ。でもそんな俺に構うことなく、来た人に急かされて下に探しに行った。


「日本の大名にカメレオンを献上したって、ちゃんと育てられるのか?」

「すぐに死んでしまう生き物なのか?」

「わりと早いけど、それでも数年は生きられるはず。そうじゃなくて、餌が難しいんだ。他にも食べるかもしれないけれど、基本的には虫しか食べない。カメレオンのためにわざわざ虫を捕まえる人なんて、大名の屋敷にいると思うか?」

「いや、思わねえな」

「だろ?」


 2人で笑っていると、今度は若い日本人の男の人が来た。何かあったのだろうか。


「ムーバ様からの伝言で、チーズを持ってまいりました。直接渡したかったのですが、カメレオンを見つけなければいけないのですみません、と謝っておられました。また、そちらのお方はいつでもここに来てくださいとおっしゃっておいでです」

「え? 俺また来ていいんですか?」

「はい。そのようにおっしゃっておいででした」


 チーズをもらいながら考える。ということは、無くなったらまた取りに来ていいってこと!? 手に持っているだけでもかなりの量があるが、こんなのすぐに無くなってしまう。なんて優しい人なんだ!
 今度、何か現代のチーズ料理を作ってあげよう。


「ありがとうございます! またチーズが無くなったら来ますね!」


 そういうと、なぜか苦笑いのような顔をしながら見送ってくれた。帰りながら鉄にもチーズを見せて説明する。


「鉄! やっっと念願だったチーズが食べられるよ! 俺、ほんとうに大好きでさ。なんちゃってドリアとか作ってみよ。なんとかなるよな。あとは、俺のおやつにして部屋で食べよ」

「おい、そんなにおいしいのか?」

「もちろん! 溶けたチーズなんてまろやかで何にでも合うんだよ。敏之にも作って上げよう」

「なあ、それ俺も食べたい」

「いいよ。無くなったらまたもらいにくるし」


 お城に着くまで、どれだけおいしいのかを話していたが、だんだん鉄の反応が薄くなって来たので終わりにした。夕飯の皆がいる時にまた説明しよう。
 そう決めて、2人で敏之の部屋に入って行く。


「敏之、見て! これがチーズ!」

「真人! 門のところで矢を射られたと聞いたが無事だったか?」

「あ、うん。鉄が庇ってくれた」

「誰も怪我をしなかったけどやることが汚いんだよ」


 そうだった。チーズで頭がいっぱいになって忘れてた。あー、思い出すと怖くなってくる。


「せっかく取り引きも無事に終わったのに、最後の最後でじゃましようとしてくるなんて……」

「だよな。そういえば敏之、相手側に全部の条件を了承して貰えたんだってな」

「あ、聞いたんだ? それね、最初は自分だけじゃ決められないって言ってたの。でも真人の話すことを聞いた後は、自分の権限で取引するって。今回は真人に助けられたんだ」

「そんな大袈裟な……」


 敏之に言われて少し照れる。つい熱弁してたらいつのまにかオッケーもらえたんだよね。どっちにしろ上手くいったんだから大成功!


「二郎丸派の人たち悔しがっているだろうな。失敗すると思って敏之を推薦したのに、結果はその逆で大成功してるんだからさ」

「そうだね。でも、だからこそ気をつけなくちゃ。何をされるかわからないからね」

「おー、こわ!」


 強いくせに怖がる振りをする鉄を見る。それがツボに入ってしまい、俺はしばらく笑い続けたのだった。
しおりを挟む

処理中です...