国を捨てて自由を掴む 🌿〜王家脱出、ブックカフェ行き〜☕️

神谷アキ

文字の大きさ
21 / 26
3、真実

21

しおりを挟む
「人を駒にすることが“力”か……ふざけるな!」
カイルさんが叫び、剣を振り抜く。

だが、押し寄せる兵士たちは倒れてもすぐ立ち上がり、血に濡れた剣を無感情に振るう。
ソシリス王国の騎士たちは次第に押され始めた。

「くそっ……斬っても斬っても止まらない!」
「こいつら、本当に人間なのか!?」

絶望の声が戦場に満ち始めたそのとき――
私は両手を伸ばし、震える声で叫んだ。

「やめて……!」

光が走り、敵兵の一人を包み込む。
一瞬、その男の剣が止まり、膝から崩れ落ちた。
……意識を失っただけ。血は流れていない。

「……え?」
自分の放った魔法を見て、思わず息を呑む。

周囲の兵が一瞬怯んだように動きを止め、騎士の一人が叫んだ。
「今の……眠ってるだけだ! 死んでいない!」

「なに……?」
カイルさんが振り返り、驚いた瞳を向ける。

(この魔法……“光”は、彼らを傷つけずに、意識だけを閉ざす……?)

再び私は手を掲げる。
「お願い、もう戦わないで!」

光が弧を描き、三人の兵を一度に包み込んだ。
彼らは剣を落とし、その場に崩れ落ちる。
その顔は苦しげではなく、ただ深い眠りに落ちたかのようだった。

「……サラ!」
コリスが叫ぶ。
「お前の力なら……兵を救える!」

「……救える……?」
私の胸に熱が広がる。

「そうだ!」
カイルさんが剣で敵を弾き飛ばしながら吠えた。
「こいつらを殺さずに止められるのは、お前の魔法だけだ! サラ、頼む!」

私は強く頷いた。
(そうだ……私はただの王女じゃない。“サラ”として、この場所を守るんだ!)

両手をかざすと、光の魔法が次々と兵を包み、その場に倒れさせていく。
騎士たちはその姿を見て息を吹き返し、叫んだ。

「サラさんの魔法がある! 殺さずに戦えるぞ!」
「恐れるな! 押し返せ!」

戦場に再び火が灯る。
士気を取り戻した騎士団が叫びを上げ、剣を振るった。

その光景に、ハビエルの顔が歪む。

私は睨み返し、強く告げた。
「私は“サラ”として――皆を守る!」


サラの光が降り注ぐたび、兵士たちの剣が止まり、その瞳にかすかな光が戻っていった。
倒れた彼らは深い眠りに落ちるように動かなくなり、もはや戦う意思を見せなかった。

「……どういうことだ」
カイルさんが剣を構えたまま呟く。

ハビエルの表情が一瞬歪み、声を荒げた。
「ふざけるな! 貴様の力が……“洗脳”を……!」

「洗脳……?」
コリスが低く問い返す。

ハビエルは苦々しく吐き捨てるように言った。
「ソシリス王妃様が開発を命じられた、“心を縛る魔法”。痛みも恐怖も消し去り、兵を駒として操る術だ」
その目がぎらりと光る。
「だが貴様の力は……その枷を破る! だからこそ、王妃様は貴様を探し続けたのだ!」

私は息を呑んだ。
(……私の力が、洗脳を……? だから――ソシリスは、私を……)

光に包まれた兵たちの顔は、次第に安らぎを取り戻していく。
怒りも狂気も消え、ただ静かに眠っている。

やがて、立っている兵は一人もいなくなった。
剣を構えて残るのは――ただ一人、ハビエルだけ。

騎士団の面々が息を呑み、静寂が落ちる。
戦場に響くのは、火のはぜる音と、ハビエルの荒い息だけだった。

「……おのれ……!」
彼は唇を噛み切らんばかりに歪め、サラを睨みつける。
「貴様さえ……貴様さえいなければ……!」

私は子どもたちを背にかばいながら、まっすぐにその視線を受け止めた。
(そう……だから私は狙われた。けれど、もう逃げない。私は“駒”じゃない。この力で、人を守る)

カイルが一歩前に進み、剣を構える。
「もう言い訳はできないな、ハビエル。残っているのは――お前一人だ」

ハビエルの顔が憎悪に歪む。
「来い……ナラージェの騎士ごときが、この俺を倒せるものか!」

夜明け前の空に、剣戟の火花が散った。

剣戟の音が夜空を裂き、火花が弾ける。
カイルとハビエルの刃が何度もぶつかり合い、宿舎の中庭はまるで雷鳴の渦のようだった。

「ふっ……!」
ハビエルの剣は重く鋭い。カイルの剣が受けるたび、石畳が震え、腕に鈍い衝撃が走る。

私は子どもたちを庇いながら、必死に二人を見つめていた。
(お願い……負けないで、カイルさん!)

その瞬間――胸の奥から強い熱がこみ上げ、両の手に光が宿る。
私の周囲に広がったのは柔らかな光の膜。だがそれは、ただの防御ではなかった。

「……行って!」
私が声を上げると、光は弧を描いてカイルとハビエルの間へと走った。

ばちっ――!
ハビエルの体を覆っていた黒い紋様がひび割れる。まるで焼き付いた鎖が剥がれるように、黒い術式が音を立てて崩れていく。

「な、何だと……!?」
ハビエルの顔色が初めて揺らいだ。
「馬鹿な……! 俺は洗脳などされていない! この力は……王妃様から授けられたものだ……!」

だが、確かに彼の剣筋は鈍っていた。足取りも重く、振るう刃からは先ほどの鋭さが消えている。

私は声を張り上げた。
「今よ、カイルさん!」

カイルが一歩踏み込み、剣を高々と掲げる。
夜気を裂く鋭い一閃。

――ぎぃんっ!
金属音が響き、ハビエルの剣が弾かれた。
そのまま彼の膝が石畳に沈み、荒い息を吐きながら地に崩れ落ちる。

「ぐ……ぅ……!」
剣を支えに立ち上がろうとするが、力は入らない。

戦いの喧騒が少しずつ遠のき、静寂が広がった。
カイルは剣を構えたまま、慎重に距離を取ってハビエルを睨む。

「……まだ……まだ終わらぬ……!」
ハビエルは血の滲む唇で叫ぶ。
「王妃様の御為に……この命すら惜しくはない……!」

その言葉に、私は一歩前に出た。
子どもたちの小さな手をそっと離し、足を震わせながらも、彼の前に立つ。

「ハビエル……」
私の声に、彼の赤黒い瞳がぎょろりと向けられる。

私は強く息を吸い込み、告げた。
「あなたも駒だったのよ。王妃に操られ、利用されていただけ」

「な……っ」

その瞬間、ハビエルの瞳に絶望の色が広がった。
自分が信じてきた忠誠も、誇りも、すべてが崩れ去る音が聞こえるようだった。

「そんな……馬鹿な……」
彼は声を失い、うなだれる。

宿舎の広間に、重く冷たい沈黙が落ちた。
それは戦いの終わりを告げる静寂でもあった。


戦いの余韻がまだ残る中庭で、騎士団の兵が駆け寄った。
カイルが低く命じる。

「縛れ。鎖を用意しろ」

「はっ!」
数人の騎士が動き、うなだれたハビエルの腕を後ろに捻り上げ、鉄の鎖でがっちりと拘束する。
彼は抵抗しようとしたが、力はすでに抜け落ちていた。

「離せ……俺は……王妃様の……!」
かすれた叫びも、鎖の音にかき消される。

サラは黙ってその光景を見つめた。
彼を憎む気持ちはある。けれど、それ以上に胸の奥で冷たい痛みを覚えていた。
(この人も……駒にされていたんだ)


数刻後、宿舎の一室。
厚い扉の内側で、ハビエルは椅子に縛りつけられていた。
対面に立つのはカイルとコリス。そして私も同席していた。

「話せ」
カイルの低い声に、ハビエルは嗤った。

「ふん……どうせ遅かれ早かれ知ることになる」
彼は血に濡れた口元を歪める。
「王妃様は“洗脳魔術”の完成を目指された。だが一つ、決して越えられぬ壁があった。……それがお前の“光”だ、サラーシャ王女」

私は思わず息を呑んだ。

「お前の力は、あらゆる術の根を蝕み、無効化する。兵たちを縛っていた洗脳魔術を、いとも容易く解いたようにな。……だからこそ王妃様は恐れたのだ。お前は唯一、我らの兵を無力化できる存在だから」

「……!」
カイルの拳がきしむほど強く握られる。

ハビエルは勝ち誇ったように言葉を続けた。
「それだけではない。サラ王女、お前には致命的な弱みがある」

部屋の空気が一気に張り詰める。
私は思わず唇を噛んだ。

「……弱み?」

「そうだ。お前の“光”は王家の血筋にのみ宿る特異な力。だが、姉妹の誰にもそれは現れなかった。現れたのは……お前だけだ。唯一無二。だからこそ王妃様はお前を手中に収めたがった。……そして同時に、王妃派にとって最大の脅威でもある」

カイルが鋭く息を吐く。
「つまり……“弱み”ではなく“強み”だな」

「なっ……!」
ハビエルの顔が歪む。

コリスが低く頷く。
「サラ殿の力は王妃派にとって致命的だ。……ならば逆に、これを盾にすればいい。彼らは安易に手出しできなくなる」

騎士団の者たちが一斉に頷いた。
ハビエルの言葉は、脅しではなく、ソシリス王国の“恐怖”を暴き出す証となったのだ。

私は拳を強く握りしめた。
(そう……私はもう駒じゃない。この力は、誰かを操るためじゃなく……守るためにある)

鎖に繋がれたまま、ハビエルが悔しげに唇を噛む。
その姿を見つめながら、私は静かに胸の奥で誓った。
――この力を決して彼らの思惑に使わせない。
私は“サラ”として、この国と子どもたちの笑顔を守るのだ。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお
恋愛
「岩を売る田舎娘と婚約?そんなもの破棄だ!」 ――そう言い放ったのは、まだ婚約すら成立していないのに“婚約破棄”を宣言した内陸王国の王太子。 塩は海から来るもの。 白く精製された粉こそ本物。 岩塩など不純物の塊に過ぎない。 そう思い込んだ彼は、ハライト公国公爵令嬢ヴィエリチカを侮辱し、交易を軽んじた。 だが―― 王都に届くその“白い粉”は、すべてハライト産の岩塩から精製されたものだった。 供給が止まった瞬間、王国は気づく。 塩は保存であり、兵站であり、治療であり、冬越しの生命線であったことを。 謝罪の席で提示された条件はただ一つ。 民への販売価格は据え置き。 だが国家は十倍で買い取ること。 誇りを守るために契約を受け入れた王太子。 守られたのは民。 削られたのは国家。 やがて赤字は膨らみ、担保は差し出され、王国は静かに編入されていく。 処刑はない。 復讐もない。 あるのは――帰結。 「塩は、穢れを流すためのものです」 笑顔で告げるヴィエリチカと、 王宮衛生管理局へ配属された元王太子。 これは、岩塩を侮った物語の、静かな終着点。 --- もしアルファポリス向けにもう少し軽くする版も欲しければ、作ります。 それとも、 ・タグもまとめる? ・もっと煽る版にする? ・文学寄りにする? どの方向で仕上げますか?

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

処理中です...