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2、婚約者
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しおりを挟む「嫌がっている女の子に無理やり迫るのはよくないな」
「エリオールさん」
肩を掴んで止めてくれたのはエリオールさんだった。動きを止められたハビエルは振り返って手を払いのける。今までの私が知っている彼と比べて、なぜか行動が荒々しく感じた。
「離せ。サラを連れて帰るためにわざわざここまで来たんだ」
「サラさん本人はどう思っているのか聞かないの? 君にそんな権利はないはずだよ。まるでサラさんの権利は君にあるようじゃないか」
エリオールさんが弁護をしてくれる。嬉しいけど貴族相手にそんな強気で大丈夫なの? 他国とはいえハビエルの実家はかなり権力の強い家柄だ。
「これからはそうなる。サラは俺のだからな」
「私はあなたのものではないわよ! なんで連れて帰ろうとするの? 私が自分で出て行ったって噂も流れているでしょ。自分で決めてここにいるんだから放って置いてよ!」
「それはできない。そこまで帰りたくないなら俺の家に来るべきだ」
「そこまでして連れ戻したいの?」
「婚約者だからな」
ハビエルがそう言った途端、店内がシンッと静まりかえった気がした。ひそかに様子を伺っていた他のお客さんたちも動かない。いつも騒がしくて申し訳ないが、私が何かしたわけでもないから対策のしようがない。
それに驚いて私の顔を見てくるのは他のお客さんたちだけでない。エリオールさんもテルもこっちを向いている。ヒナは「サラお姉ちゃんけっこんするの?」とテルに話しかけていた。
人は、あまりにショックを受けると逆に冷静になるらしい。周りの様子がはっきりと見える。そんな現実逃避のようなことを思い浮かべると、誰よりも早く動き出したのはハビエルだった。
「俺は幼少の頃からサラと婚約している。俺たちのことに口を出すな」
「サラさん、それは本当なの?」
エリオールさんが私に尋ねてきた。苦々しく思いながらも口を開く。
「ええ、そうよ。もっとも、私があそこから居なくなった時点で解消されていると思っていたけどね」
「このままだとそうなるから探してきたんだ」
私に手を差し出してくるが、その手を取るつもりは毛頭ない。それに、なぜこの人は私が隣国にいるとわかったの? それを知りたくてハビエルに問いかけた。
「どうしてこの国にいると知ったの?」
「かすかだが魔力をたどってきただけだ。忘れたのか? 俺はテナード先生には及ばないが、かなり魔法が使えるぞ」
それを聞いて思い出した。ハビエルはかなり魔力が多くて、たまにテナード先生に師事していたんだっけ。
ということは、この国に来たのはいいけど、詳しい居場所がわからなかったから探していたのだろう。そこで、パイナップルを買いに来た私を見つけてしまったのだ。
所詮、どんな扱いだったとしても私は王族だ。それなりの価値がある。利益のために私と婚約を破棄するのは避けたいんだろうな。
でもどうにかしてハビエルには帰ってもらわないと。このままだと婚約破棄になるそうだから、私が帰らなければ大丈夫だ。
「ハビエル、私は帰るつもりはないの。ここでの生活の方が楽しいし充実してる。私なんてお飾りだったし、私と婚約破棄して他の方と婚約をした方が、あなたのためにもなる。今なら私が急に失踪したから、あなたは被害者の立場よ。他の人にとやかく言われることはないでしょう」
はっきりと自分の意見を伝える。私たちは幼少の頃は何度か遊んだけど、10歳を超えたあたりからは全く会わなくなった。パーティーだって私をエスコートしてくれた事は無い。ほぼ名ばかりの婚約者だったのに、今更こられても困る。
「1度しっかり話し合ってはどうかな」
急に、私たちの会話を聞いていたエリオールさんが提案をしてきた。視線を向けられて再度しっかりと話し出す。
「今はサラさんも接客があるし、君もその婚約をどうしたいか話したいことがあるだろう? 今日の営業が終わった後にまた来てはどうかな? 感情的になってしまっても進まないからね」
それを聞いて、少し感情的になりかけていた頭を冷静にすることができた。早く帰って欲しいけど、また次の日に来られたりするより、今日しっかり別れて終わりにしてしまった方がいい。
「今日の夜にしましょう。また後で来て」
「わかった。知られたくなかったら他のやつは呼ぶなよ」
「ええ、もちろん」
今のところは他の人にバラす気がないようで安心した。ハビエルは私たちに背を向けて出て行く。
「2人ともびっくりしたでしょ? ごめんね」
「サラお姉ちゃんけっこんするの?」
「まだ誰ともするつもりはないよ。テルもありがとね」
「大丈夫? あの人は前に居たところの……」
「そう。でもほぼ会ってなかったのに」
子供たちと話していると、エリオールさんが用事を思い出したらしく帰るようだ。お礼を言ってドアまで見送る。1度私を振り返り、ボソッと何かを言ってから帰って行った。
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