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1、ナンパ男
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しおりを挟む「さゆりでーす。早く着いちゃった」
予想通り、インターホンから響いたのはさゆりの声だった。すぐに返事をして玄関まで歩く。
ドアを開けると、満面の笑みをした顔がひょこっと隙間から覗いた。
「うわぁ、夏美かわいいね! メイクしてるんだ! すごく似合ってる」
「ほんと? さゆりにそう言われると嬉しいかも」
「もう、もっと自信持ってよ。顔もスタイルも良いんだから活用しなきゃ勿体ないって!」
こうもべた褒めしてくるさゆりの言葉を聞きながら、目の前の女性を改めて観察する。
バッチリとした丸い瞳、くるんと上がったまつげ、うるるんとした小さな唇に保護欲をくすぐられる少し小さめの身長。
そして自分のことを知り尽くしているかのような、ふわりとしたワンピース。まさに、"かわいい"の見本のような女の子だ。
いつも私のことを褒めてくれるけど、私からしたらさゆりこそが可愛いと思っている。大学でもさゆりは人気者だ。
一年生の時から仲良くしてるけど、どうしていつも私と一緒にいてくれるのか不思議なくらい。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
自分のことをまじまじと見つめる私を疑問に思ったのか、さゆりがどうしたと聞いてくる。慌てて目を逸らし、なんでもないと答えながら家の中へ案内した。
何回か遊びに来て慣れているのか座った途端にさゆりがくつろぎ出した。飲み物を用意している間、ソファでスマホをいじっている。
「そういえば今日はどこ行く? 急だったから特に特に行きたい所もなくて。どこかいい場所ある?」
飲み物を渡しながら尋ねると「そうだねえ」と少し考える。何かを探す様子でスマホをスクロールしていたが、あっと声を上げて画面を見せて来た。
「あのね、行きたいところがあるの! 新しくオープンしたお店なんだけど、口コミがすっごく良くて店内も綺麗なんだって!」
「このお店? ほんとだ、口コミいいね……」
「でしょ? 土曜日に誘おうと思ってだけど平日の方が空いてそうだし、今日行こうよ」
そう言って見せて来たのは有名なグルメサイトだった。確かに評価を見ると平均が高い。書き込んである口コミも良いものが多く、興味が惹かれるお店だ。
どうせなら、ここでランチをしても良いかもしれない。
「じゃあここにランチ行かない? ちょっと早めに行けば空いてるしおしゃべりも沢山出来そう」
「そうだね、沢山話したいし。もう今から出ちゃう?」
「ゆっくり行けばちょうどいい時間になりそう。あと持ち物だけ準備したら行けるからちょっとだけ待ってて?」
「んーわかった」
返事を聞きながら適当に荷物を入れて行く。とは言ってもハンカチや財布、鍵くらいしかない。
そのためすぐに準備を終え、待っていたさゆりと共に家を後にした。
そして駅まで雑談をしながら歩き、電車に乗って賑やかな通りにやってきた。色々なお店が建ち並んでいてさゆりと遊ぶときは専らここである。
けれど今日はそのさらに奥、普段あまり行かないところまで歩いて行く。今から行く場所は奥まったところで写真で見たときはこぢんまりとしていたけど、雰囲気の良さそうな所だった。
「あった! あれじゃない?」
キョロキョロしながら歩いていると、さゆりが指を指して教えてくる。
「あ、ほんとだ。サイトに載ってたのと同じ」
駅から歩いて徒歩15分程、通りの賑やかさとは離れひっそりとした佇まいのお店。でも閑散としているわけでもなく、今も一組の客が店内へ入って行った。
中へ入ると、陽の光が降り注ぐ穏やかな雰囲気。これは久しぶりにいいお店見つけたかも。
好きな席に座っていいという店員さんの言葉に、窓際の明るい席に向かう。清潔感のある内装でゆったりと落ち着ける。
「どう? 夏美も好きでしょ、こういうとこ」
「うん、すごくいい。通いたくなりそう」
「だよね。ここのドリアが絶品らしいの。私は野菜がたっぷりのこのドリア食べたい。夏美は?」
メニュー表を渡されて文字を眺める。色々な料理があるけど、どうせならオススメを食べてみたい。私は数種類のドリアの中から『ナスとベーコンのクリームドリア』を選んだ。
「決めた。これにする」
「じゃあ注文するね。あの、すみません。注文お願いします!」
「はい、ただ今お伺いします」
さゆりの声に近くでテーブルを拭いていた店員さんが近寄ってきた。ハンディといわれる注文を取る機械を取り出して席の横に立つ。
「ご注文は?」
「このたっぷり野菜のドリアとナスとベーコンのクリームドリアをお願いします」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「あ、アイスティーを一つ」
「それとオレンジジュースを一つで」
「かしこまりました。料理が到着するまでしばらくお待ち下さい」
スマートに注文を取ると、一礼して去っていく。その背中を横目に見ながらさゆりが身を乗り出して話しかけてきた。
「ねね、今の人かっこよくなかった? 背も高くて自然な態度でー、爽やか系?」
「うん、まあ、ね。すごくスマートに注文聞いてた。私もあれくらい出来たら嫌なお客さんも躱せるのに」
「え、まさかバイトの話? もう、今はバイトのことはなし! 接客の方法なんていつでも見れるからぁ!」
さゆりの言葉に「ごめんごめん」と謝ってから顔を確認する。なるほど、優しそうな男の人だ。
でも飲食業の性だろうか。顔よりも接客に関心を持ってしまった。お客さんと関わる仕事の人はついつい気になってしまうことだと思う。
そして同時にあのしつこいお客さんを思い出した。智也のおかげであの時は乗り切れたけど、今後一人で接する時があったら憂鬱だ。
「あ、そうだ。今朝のニュース見た? 亀広組の。あれびっくりしたよねぇ、麻薬取引なんて。でもあの写ってた病院に見覚えがあるんだけど、あそこって私達の大学の近くにある病院だよね?」
一人辛気臭くなりかけていたところに、さゆりの声が耳に入る。しかも今朝のあのニュースだ。住んでいるところに近い場所というのもあって私も気になっていた。
「ああそれね。やっぱりさゆりも見覚えあったんだ。病院の窓でわかったけど地元だと気になるよね」
「そうだよ、こんな近くで銃を持った人がいるとか怖ぁい」
両腕を寄せて怖がる様子に庇護欲がわく。こちらを見ていた、店内にいる男性達が色めき立つのがわかった。
「さゆりも気をつけてよ? 一人でいる時とかは特に」
それを見て一人でいる時を案じ、注意を促す。正直、簡単に誘拐とかされてしまいそうな見た目だ。
「わかってるよ。あ、でも夏美は守ってくれる人がいるもんね!」
「え? だれ?」
突然の言葉に素で質問を返してしまった。私は彼氏もいないし守ってくれるような人なんて……。
「だってほらぁ、あの人がいるじゃん。前に話してくれた助けてくれた人!」
ああ、その人か。
その言葉を聞いて納得する。全部は話してないけど、さゆりには誘拐された時に助けてくれた人がいるって話していた。
顔もわからない人を好きになるのはやめた方がいいって言われ続けたけど、それが初恋だと言ったら渋々だが諦めたようだ。
「でもあれから一度も会ったことないのにそれはないよ。そもそも顔も名前もわからないからもう会えないかもしれないし」
「そんなことないよ! そりゃ誰かもわからない人なんて吊り橋効果としか思えないけど、それまで誰も好きになったことがないなんてこの次はいつになるのやら……。その人を見つけるか新しい人を見つけないと一生独身だよ? わかってる?」
「わかってるけど話が飛びすぎよ。それに好きな人がいないなら私はずっと独身でもいいの。あの人は確かに好きだけど憧れと感謝の気持ちも強いから、また会えたらお礼を言えれば十分だって……」
「はあ、本当に夏美が心配~。合コンしたいならいつでも言ってね? すぐにセッティングするから!」
「いらないいらない! 合コンは向いてないから!」
そうやってわちゃわちゃと二人で騒いでいるうちに料理が運ばれて来た。
「お待たせ致しました、たっぷり野菜のドリアとナスとベーコンのクリームドリアになります」
「わぁ、美味しそう!」
「すごい、クリームがたっぷり!」
「ではごゆっくりどうぞ」
さっきの店員さんが微笑みながら下がっていく。それを見て私たちも舌鼓を打ちながら食事を堪能した。
「はー、今日は楽しかったぁ! また二人で遊ぼうねえ!」
「もちろん! 久しぶりにさゆりと遊べて満足したよ。お腹もいっぱいだし!」
ランチをした後、私達は通りをウィンドショッピングして楽しんだ。洋服を試着したり、ちょくちょく気になったものを食べたりして結構お腹もいっぱいだ。
その分たくさん歩いて疲れたけど、後はもう家に帰るだけ。
駅から少し歩くと分かれ道がある。そこで私は真っ直ぐ、さゆりは左に曲がって行くのだ。今日も分かれ道までの短い距離をおしゃべりしながら歩いていく。
「でももっと遊びたかったなぁ。次は一日中遊ぼうね?」
「うん、ごめんね、夕方から先約があって。夕食を一緒に食べる約束をしてるんだ」
「家で食べるの?」
「うん、予定はハンバーグ」
そう言うとさゆりがぷくっと頬を膨らませる。
「今度は絶対夏美の家でご飯食べるんだから! もうずっと夏美の手料理食べてないー」
「用事が無ければいつでも作ってあげれるから。あ、じゃあ来週の土曜日、私の家で食べる?」
「えっ、そうする! それにしよう!」
機嫌を直したさゆりが腕に抱きついてくる。大学に入ってからの付き合いだけど、なぜここまで懐かれたのかわからない。
しかし不思議な思いつつも腕にさゆりをくっつけたまま歩いていると、すぐに分かれ道にたどり着いた。
「あーあ、もう着いちゃった。夏美、また大学でねー」
「うん、じゃあねさゆり。あ、帰りは気をつけて! なんか最近物騒だから」
「わかってる! 夏美もだよ! じゃあねぇ」
「またねー」
さゆりと手を振って別れたあと、一人家に続く道を歩く。歩くたびに私の影が遠くまで伸びて存在を主張している。
時々買い物帰りの主婦とすれ違いながら家に着くと、ドアに何かが貼ってある。なんだろう、紙?
近づいて見ると智也からのメッセージだった。一度来たけど私かいなかったのかな?
書かれている内容を読むと、予想通りのことがメモしてあった。
『夏美ちゃーん、ピンポンしたけど家にいなかったからとりあえず部屋で寝てるよー! ハンバーグ出来たら起こして! 出来立て食べたいから! 大好きな智也君より』
文字に目線を走らせて読むが、最後のところで視線が止まった。
『大好きな智也君』…………?
一瞬動きが止まったが、すぐに紙を剥がして隣のインターホンを鳴らす。無言で押していると「はぁーい」と間延びした声が響いて来た。
「はいはい、そう何回も鳴らさなくても起きたから! 全く、だれ?」
その言葉と共に目の前のドアが開く。そしていかにも今起きたという風貌の智也が出てきた。
髪の毛を跳ねさせながら私と目が合う。
「あ、夏美ちゃんだ。帰ってきたんだ。もうハンバーグでき……ぶっ!」
「ちょっと、これ誤解されるでしょ! 何してるの全く!」
顔に紙を貼り付けられた智也が反動で後ろに後ずさった。鼻を押さえて呻いている。
そう、私は出てきた智也の顔にさっきの紙を叩きつけたのだ。こんなの見られてたら恥ずかしくて仕方がない。
くしゃ、と顔に紙をくっつけた智也を見やる。それだけやり終えると、ふんっと体の向きを変えて自分の家に戻って行った。
「え、え? なになに。どうしたの急に」
ーー数分後、夕食を食べ損なうことを恐れ、謝り続ける声をドア越しに聞きながら、私はひき肉をこねているのだった。
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