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学園編
学園長は憤る
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「あー!あの王子はもう!!」
アーシェラ学園長は怒っていた。
ヘンリー教頭を筆頭に今回の剣術大会の運営本部からアレク王子の優勝は不正だったと抗議してきたからだ。
本来ならば学園長として剣術大会で優勝したアレク王子を褒めてやるべきなのだが、事態は思わぬ展開となっており、どうやら素直に喜んではいられない状況らしい。
実はアレクが優勝した際、彼が魔法を使って勝ったのではないかという疑惑の声が運営内部からあがったのだ。
しかしその証拠は見つからない。
それとは別にカインの方も実は反則負けだったことを考えれば、どう公平に見てもアレク王子の優勝に問題はないと考えられる。
しかもアレク王子の婚約者アイリーンからカインは呪いの魔法を用いてアレクを弱体化させていたという情報まで入ってきた。
犯人としてカインと何故かローズマリアの名前が挙がってきたものの、当の本人はアレクに敗れて部屋に閉じこもっており、さすがのアーシェラも負けた方に不正があったのではないのかなどとカインを呼び出して問い詰めることはできずにいた。
ローズマリアの方も剣術大会には出場しておらず、本来関係のない立場である。こちらで確実な証拠を見つけ出さなければ容易に呼び出す事も出来ない。
面倒この上ないことだ。
「はあ、もう放っておこうかしら」
もはや現実逃避したくなっていた。
しかしアーシェラはこの学園の最高責任者である。
アーシェラは再び深い溜め息を吐いた。
「アレク王子を呼んできなさい」
苛立っているアーシェラを見た側近たちは慌て、駆け足でアレク王子を呼びに行った。
しばらくして、
「アーシェラ学園長、アレクです」
扉のノック音と共にアレクの声が聞こえてくる。
「入って良いわよ」
アレクが学園長室に入るとそこにはアイリーンも一緒にいた。
「私はアレク王子だけ呼んだはずだけど?」
「私はアレク王子が決勝戦で呪いをかけられた事を知っています。その証言としてここに参りました」
アイリーンの発言にアーシェラは訝しむ。
「それはもう聞いているわ。どうしてそんなことがわかったの?」
「はい、決勝戦ではアレク王子が明らかに弱っていましたので、何かおかしいと思い調べてみると我が領地の詳しい者から呪いの類いをアレク王子がかけられていると教えてくれました。証拠はありませんが、あるとすればおそらくカイン様が所持しているはずです」
「それでは証拠としてまだ不十分ね。カインが呪いを使ったかどうかは別として、今回呼び出したのはアレク王子が魔法を使ったのかを聞きたいだけなのよ」
「あ、僕、魔法使いましたよ?」
アレクの一言でアーシェラ学園長は固まった。
「ええ!?あなたなんで魔法使ったの?魔法を使うと失格になるのわかってなかったの!?」
「いやあ、本当に力が出なくて、一か八かで身体強化の魔法を編み出したんです。そうしたら力が出てきたのでちゃんと闘う事が出来ました!」
なんの迷いもなく馬鹿正直に告白するアレクの発言にアーシェラはすぐには理解できなかった。
「え?それは魔法なの?」
「んーーー、いやあ、まだちゃんとは出来ないんですよね。朝の鍛錬でも身体強化の魔法をやってみたんですけど、全然出来なくて」
実は全身に魔力を纏わせて呪いの効果を弾いただけなのだが、お互い真相を知らないので理解が進まない状況となった。
その場にいた三人はしばらく黙考する。
「アレク王子、ちょっと此処でその魔法を使ってみてくれない?」
「いいですよ」
アレクは身体強化の魔法を使った。
「どうですか?」
「よくわからないわね。単に魔力を全身に纏わせているだけにしか見えないわ」
アイリーン「わたしもそう思います」
アレク「実はこの魔法まだ完成してないんですよ」
アーシェラ「でも決勝戦では同じ魔法を使ったのよね?」
アレク「ええ、まあ、そうですね」
アーシェラ「不思議ね。わかったわ。とにかく違反にならないような魔法みたいだから優勝は優勝で良いと思うわ」
アレク「あっ、そうなんですね」
アイリーン「アレク様、良かったですね!」
アイリーンは喜んでアレクの腕に抱きついた。アレクの鼻の下が伸びる。
アーシェラ「まあ、私の方から運営に言っておくわ。もう帰っても大丈夫よ」
アレク「あ、はい、ありがとうございます」
アイリーン「ありがとうございました」
アレクとアイリーンが部屋から出ていくとアーシェラは深く椅子に座り溜息を吐いた。
「はぁー、あの子は何でこんなに問題ばかり起こすのかしら。後で陛下にも報告しておかないと」
しばらくして執事が一通の手紙を持って部屋に入ってきた。
「アーシェラ様、ルナフレーナ伯爵夫人からお手紙が届きました」
「ルナから?あら、珍しいわね」
アーシェラは手紙を開封し読み始めるとすぐに頭を抱えはじめた。
「な、なんてことを、ヘンリー教頭はしてくれたのかしら。しかも、ルナからの手紙で部下の不始末が分かるなんて」
心を読めるはずのアーシェラが部下であるヘンリー教頭の魂胆が読めず、なぜか妹からの手紙でヘンリー教頭のアレク王子暗殺未遂の件が発覚したのだ。
事の事実を知ったアーシェラ学園長は胃の辺りをさすりながら悩んでいた。
何故に彼の心が読めなかったのかわからないが、ヘンリー教頭の罪をどうにか明らかにしなくてはならない。
そしてヘンリー教頭の息子と結婚した妹ルナフレーナから「自分たちは関与していない」と弟であるアレクサンドル国王に伝えてほしいと手紙に書いてあった。
手紙を読み終えたアーシェラはヘンリー教頭を呼び出して尋問した。
ヘンリー教頭は終始自分は何もしていないと言っていたが心を読めなくても彼のあの焦り様は自分がやっていますと自白しているようなものだった。
「すぐに王城に行かなくてはいけないわね」
アーシェラはすぐに馬車を手配して王城へと向かった。
学園長、大忙しである。
トラブルメーカーである甥っ子が学園に入学してからアーシェラの仕事量は格段に増えた。
しかも甥っ子の学園生活はまだまだこれからである。
これからもこの流れがずっと続くのだろうかとアーシェラは悩む。
「ああ、あの子、まだ一年生なのよね」
考えただけで気が重くなるアーシェラだった。
♢
一方、学園の教員室は荒れていた。
「ええい!あのクソ王子めが!」
本来ならばカインが剣術大会で優勝するはずだったのに、なぜかアレク王子に敗れてしまうという予想もしなかった事態にヘンリー教頭は怒り狂っていた。怒りに任せて机の上のものを薙ぎ払い、さらには本棚の本まで投げていた。
教育者としてどうなのかとも思うが、そんな怒れる教頭にいくら周囲の者たちが宥めようとも、一向に怒りがおさまる気配は無いようだ。
ヘンリー教頭は第二王子派となったローズマリアと協力して呪いの魔道具を用いたり、更にはアレクを疲弊させるべく試合の組み合わせを勝手に調整したのも彼の仕業だ。早く自滅するようにと仕組んだのだが結果は惨敗。
それでもカインを用いてさんざん不利な条件にしたにもかかわらず、事態は思わぬ展開となり、ヘンリーはアレク暗殺を成功させることはできなかった。
しかし、最後の悪あがきとしてアレクが優勝した際に魔法を使っていたのではないかという疑惑の声を上げさせたのもヘンリー教頭の指示だった。
直属の魔法師たちにもアレクが魔法を使ったと証言させて優勝を取り消そうとしていたが、アーシェラ学園長に「私が直接確認したけど大丈夫だったわ」と言われてしまい、また失敗に終わった。
しかも、それとは別にヘンリー教頭がアレク王子暗殺を企てていたことをアーシェラ学園長は知っていたのだ。
咄嗟に誤魔化して学園長の執務室から逃げてきたヘンリー教頭は内心相当焦っていた。
心を読まれないようクレメンスから貰った護符はいつも身につけている。
何処で情報がもれた?
ヘンリー教頭は疑心暗鬼になったが、カインはアレクに敗れて部屋に閉じこもっている。
アーシェラ学園長がまだ何の動きもないということはローズマリアやカインが捕らえられて事情聴取されることはないとヘンリーは考えた。
ローズマリアも侯爵令嬢であるため、余程あちらが確実な証拠を見つけなければ立証する事も出来ないはずだ。
ならば、大丈夫だろう。
ヘンリー教頭は安堵した。
しかし、胸の内にあるモヤモヤとした残念無念の気持ちが未だ残っている。
そして思い出してくるとまた腹が立ってくる。
短気なオジサンというものはそんなものだ。
「ううぬ!カインも役立たずだったが!それより許せんのはアイツだ!ええい!クレメンスめ!あれほど自信たっぷりとお任せくださいと言っておったくせに、あっさり失敗しおって!」
ヘンリー教頭は怒りのままにグラスを投げ捨てる。さらには花瓶を床に落とす。さらにそれだけでは気が静まぬようで、ガンガンと強く壁に拳を打ちつけていた。
そんな時、部屋の扉から二回扉を叩く音が聞こえる。
「誰だ!」
「クレメンスです。ヘンリー教頭、入室を許可していただけますか?」
「入れ!」
「失礼します」
ガチャリと扉が開くと美麗衆目のクレメンスが入ってくる。
整った容姿だけでなく、顔にまったく反省の色が無かったことでヘンリー教頭はさらに激怒した。
「よくもおめおめと私の部屋に来る事ができたな!まさか今更、言い訳でも言いに来たのか!?」
「いいえ、そうではありません。まあ、私の失敗は認めましょう。ただ次の機会のお話をしようかと思いまして」
「ふん!失敗しても次はありますだと!?ふざけるな!もうお前などは信用できん!クビだ!今すぐこの学園から立ち去れ!」
「おや、たった一度の失敗でこの私をクビですか」
「ふん!殺されないだけ有難いと思え!それとも本当に殺されたいのか!?」
「フフフ、そんなに憤っていると寿命が縮みますよ?そんなヘンリー教頭に良いものを差し上げましょう」
クレメンスは胸ポケットから一枚の紙を取り出した。そこには何かの魔法陣が記されている。
クレメンスが魔力を込めると魔法陣がぽっと淡く光りだした。
「なんだぁ!?うっ!?」
クレメンスは一瞬にして眠りについた。
ドサリと床に寝そべるようにして倒れてしまったヘンリー教頭にクレメンスは歩み寄る。
「フフフ、あなたが悪いのですよ?私にはあなたのその性格と一緒にお付き合いする気はありませんのでね。残念ですが、今後のためにも早々に退場していただきましょう」
(割と簡単に新しい身体が手に入りましたね)
クレメンスはヘンリー教頭に何かの錠剤を飲ませるとその身体を軽々と持ち上げ脇に抱えた。
「さあ、少しの間ですが、選手交代していただきましょう」
クレメンスはヘンリー教頭を抱えたまま、窓の外を飛び出して行った。
後日、ヘンリー教頭はまったく別人のように穏やかな人物となり、学園では教員だけでなく生徒たちもが静かに過ごすヘンリー教頭の変貌に戸惑うのであった。
アーシェラ学園長は怒っていた。
ヘンリー教頭を筆頭に今回の剣術大会の運営本部からアレク王子の優勝は不正だったと抗議してきたからだ。
本来ならば学園長として剣術大会で優勝したアレク王子を褒めてやるべきなのだが、事態は思わぬ展開となっており、どうやら素直に喜んではいられない状況らしい。
実はアレクが優勝した際、彼が魔法を使って勝ったのではないかという疑惑の声が運営内部からあがったのだ。
しかしその証拠は見つからない。
それとは別にカインの方も実は反則負けだったことを考えれば、どう公平に見てもアレク王子の優勝に問題はないと考えられる。
しかもアレク王子の婚約者アイリーンからカインは呪いの魔法を用いてアレクを弱体化させていたという情報まで入ってきた。
犯人としてカインと何故かローズマリアの名前が挙がってきたものの、当の本人はアレクに敗れて部屋に閉じこもっており、さすがのアーシェラも負けた方に不正があったのではないのかなどとカインを呼び出して問い詰めることはできずにいた。
ローズマリアの方も剣術大会には出場しておらず、本来関係のない立場である。こちらで確実な証拠を見つけ出さなければ容易に呼び出す事も出来ない。
面倒この上ないことだ。
「はあ、もう放っておこうかしら」
もはや現実逃避したくなっていた。
しかしアーシェラはこの学園の最高責任者である。
アーシェラは再び深い溜め息を吐いた。
「アレク王子を呼んできなさい」
苛立っているアーシェラを見た側近たちは慌て、駆け足でアレク王子を呼びに行った。
しばらくして、
「アーシェラ学園長、アレクです」
扉のノック音と共にアレクの声が聞こえてくる。
「入って良いわよ」
アレクが学園長室に入るとそこにはアイリーンも一緒にいた。
「私はアレク王子だけ呼んだはずだけど?」
「私はアレク王子が決勝戦で呪いをかけられた事を知っています。その証言としてここに参りました」
アイリーンの発言にアーシェラは訝しむ。
「それはもう聞いているわ。どうしてそんなことがわかったの?」
「はい、決勝戦ではアレク王子が明らかに弱っていましたので、何かおかしいと思い調べてみると我が領地の詳しい者から呪いの類いをアレク王子がかけられていると教えてくれました。証拠はありませんが、あるとすればおそらくカイン様が所持しているはずです」
「それでは証拠としてまだ不十分ね。カインが呪いを使ったかどうかは別として、今回呼び出したのはアレク王子が魔法を使ったのかを聞きたいだけなのよ」
「あ、僕、魔法使いましたよ?」
アレクの一言でアーシェラ学園長は固まった。
「ええ!?あなたなんで魔法使ったの?魔法を使うと失格になるのわかってなかったの!?」
「いやあ、本当に力が出なくて、一か八かで身体強化の魔法を編み出したんです。そうしたら力が出てきたのでちゃんと闘う事が出来ました!」
なんの迷いもなく馬鹿正直に告白するアレクの発言にアーシェラはすぐには理解できなかった。
「え?それは魔法なの?」
「んーーー、いやあ、まだちゃんとは出来ないんですよね。朝の鍛錬でも身体強化の魔法をやってみたんですけど、全然出来なくて」
実は全身に魔力を纏わせて呪いの効果を弾いただけなのだが、お互い真相を知らないので理解が進まない状況となった。
その場にいた三人はしばらく黙考する。
「アレク王子、ちょっと此処でその魔法を使ってみてくれない?」
「いいですよ」
アレクは身体強化の魔法を使った。
「どうですか?」
「よくわからないわね。単に魔力を全身に纏わせているだけにしか見えないわ」
アイリーン「わたしもそう思います」
アレク「実はこの魔法まだ完成してないんですよ」
アーシェラ「でも決勝戦では同じ魔法を使ったのよね?」
アレク「ええ、まあ、そうですね」
アーシェラ「不思議ね。わかったわ。とにかく違反にならないような魔法みたいだから優勝は優勝で良いと思うわ」
アレク「あっ、そうなんですね」
アイリーン「アレク様、良かったですね!」
アイリーンは喜んでアレクの腕に抱きついた。アレクの鼻の下が伸びる。
アーシェラ「まあ、私の方から運営に言っておくわ。もう帰っても大丈夫よ」
アレク「あ、はい、ありがとうございます」
アイリーン「ありがとうございました」
アレクとアイリーンが部屋から出ていくとアーシェラは深く椅子に座り溜息を吐いた。
「はぁー、あの子は何でこんなに問題ばかり起こすのかしら。後で陛下にも報告しておかないと」
しばらくして執事が一通の手紙を持って部屋に入ってきた。
「アーシェラ様、ルナフレーナ伯爵夫人からお手紙が届きました」
「ルナから?あら、珍しいわね」
アーシェラは手紙を開封し読み始めるとすぐに頭を抱えはじめた。
「な、なんてことを、ヘンリー教頭はしてくれたのかしら。しかも、ルナからの手紙で部下の不始末が分かるなんて」
心を読めるはずのアーシェラが部下であるヘンリー教頭の魂胆が読めず、なぜか妹からの手紙でヘンリー教頭のアレク王子暗殺未遂の件が発覚したのだ。
事の事実を知ったアーシェラ学園長は胃の辺りをさすりながら悩んでいた。
何故に彼の心が読めなかったのかわからないが、ヘンリー教頭の罪をどうにか明らかにしなくてはならない。
そしてヘンリー教頭の息子と結婚した妹ルナフレーナから「自分たちは関与していない」と弟であるアレクサンドル国王に伝えてほしいと手紙に書いてあった。
手紙を読み終えたアーシェラはヘンリー教頭を呼び出して尋問した。
ヘンリー教頭は終始自分は何もしていないと言っていたが心を読めなくても彼のあの焦り様は自分がやっていますと自白しているようなものだった。
「すぐに王城に行かなくてはいけないわね」
アーシェラはすぐに馬車を手配して王城へと向かった。
学園長、大忙しである。
トラブルメーカーである甥っ子が学園に入学してからアーシェラの仕事量は格段に増えた。
しかも甥っ子の学園生活はまだまだこれからである。
これからもこの流れがずっと続くのだろうかとアーシェラは悩む。
「ああ、あの子、まだ一年生なのよね」
考えただけで気が重くなるアーシェラだった。
♢
一方、学園の教員室は荒れていた。
「ええい!あのクソ王子めが!」
本来ならばカインが剣術大会で優勝するはずだったのに、なぜかアレク王子に敗れてしまうという予想もしなかった事態にヘンリー教頭は怒り狂っていた。怒りに任せて机の上のものを薙ぎ払い、さらには本棚の本まで投げていた。
教育者としてどうなのかとも思うが、そんな怒れる教頭にいくら周囲の者たちが宥めようとも、一向に怒りがおさまる気配は無いようだ。
ヘンリー教頭は第二王子派となったローズマリアと協力して呪いの魔道具を用いたり、更にはアレクを疲弊させるべく試合の組み合わせを勝手に調整したのも彼の仕業だ。早く自滅するようにと仕組んだのだが結果は惨敗。
それでもカインを用いてさんざん不利な条件にしたにもかかわらず、事態は思わぬ展開となり、ヘンリーはアレク暗殺を成功させることはできなかった。
しかし、最後の悪あがきとしてアレクが優勝した際に魔法を使っていたのではないかという疑惑の声を上げさせたのもヘンリー教頭の指示だった。
直属の魔法師たちにもアレクが魔法を使ったと証言させて優勝を取り消そうとしていたが、アーシェラ学園長に「私が直接確認したけど大丈夫だったわ」と言われてしまい、また失敗に終わった。
しかも、それとは別にヘンリー教頭がアレク王子暗殺を企てていたことをアーシェラ学園長は知っていたのだ。
咄嗟に誤魔化して学園長の執務室から逃げてきたヘンリー教頭は内心相当焦っていた。
心を読まれないようクレメンスから貰った護符はいつも身につけている。
何処で情報がもれた?
ヘンリー教頭は疑心暗鬼になったが、カインはアレクに敗れて部屋に閉じこもっている。
アーシェラ学園長がまだ何の動きもないということはローズマリアやカインが捕らえられて事情聴取されることはないとヘンリーは考えた。
ローズマリアも侯爵令嬢であるため、余程あちらが確実な証拠を見つけなければ立証する事も出来ないはずだ。
ならば、大丈夫だろう。
ヘンリー教頭は安堵した。
しかし、胸の内にあるモヤモヤとした残念無念の気持ちが未だ残っている。
そして思い出してくるとまた腹が立ってくる。
短気なオジサンというものはそんなものだ。
「ううぬ!カインも役立たずだったが!それより許せんのはアイツだ!ええい!クレメンスめ!あれほど自信たっぷりとお任せくださいと言っておったくせに、あっさり失敗しおって!」
ヘンリー教頭は怒りのままにグラスを投げ捨てる。さらには花瓶を床に落とす。さらにそれだけでは気が静まぬようで、ガンガンと強く壁に拳を打ちつけていた。
そんな時、部屋の扉から二回扉を叩く音が聞こえる。
「誰だ!」
「クレメンスです。ヘンリー教頭、入室を許可していただけますか?」
「入れ!」
「失礼します」
ガチャリと扉が開くと美麗衆目のクレメンスが入ってくる。
整った容姿だけでなく、顔にまったく反省の色が無かったことでヘンリー教頭はさらに激怒した。
「よくもおめおめと私の部屋に来る事ができたな!まさか今更、言い訳でも言いに来たのか!?」
「いいえ、そうではありません。まあ、私の失敗は認めましょう。ただ次の機会のお話をしようかと思いまして」
「ふん!失敗しても次はありますだと!?ふざけるな!もうお前などは信用できん!クビだ!今すぐこの学園から立ち去れ!」
「おや、たった一度の失敗でこの私をクビですか」
「ふん!殺されないだけ有難いと思え!それとも本当に殺されたいのか!?」
「フフフ、そんなに憤っていると寿命が縮みますよ?そんなヘンリー教頭に良いものを差し上げましょう」
クレメンスは胸ポケットから一枚の紙を取り出した。そこには何かの魔法陣が記されている。
クレメンスが魔力を込めると魔法陣がぽっと淡く光りだした。
「なんだぁ!?うっ!?」
クレメンスは一瞬にして眠りについた。
ドサリと床に寝そべるようにして倒れてしまったヘンリー教頭にクレメンスは歩み寄る。
「フフフ、あなたが悪いのですよ?私にはあなたのその性格と一緒にお付き合いする気はありませんのでね。残念ですが、今後のためにも早々に退場していただきましょう」
(割と簡単に新しい身体が手に入りましたね)
クレメンスはヘンリー教頭に何かの錠剤を飲ませるとその身体を軽々と持ち上げ脇に抱えた。
「さあ、少しの間ですが、選手交代していただきましょう」
クレメンスはヘンリー教頭を抱えたまま、窓の外を飛び出して行った。
後日、ヘンリー教頭はまったく別人のように穏やかな人物となり、学園では教員だけでなく生徒たちもが静かに過ごすヘンリー教頭の変貌に戸惑うのであった。
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