猫好きが転生したら世界最強のテイマーになりました!?

白鷺人和

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九話②

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男は私の胸に付けられたゴールドプレートをしっかりと確認すると、今度は私の顔に自信の顔を寄せてきやがった。

酒臭く生暖かい息が顔に吹き掛けられ、私は思わず仰け反った。

「こんな女がゴールドプレートだとぉ!ふざけるなよ、俺よりこの女の方が強いって言うのかよ!」

男は唾を撒き散らしながらそう叫んだ。
チラリと男の胸元を見てみると、そこにはシルバープレートが行儀よく付けられていた。

あぁなるほど。自分が苦労してとったシルバープレートより上のゴールドプレートを私が持ってるのが気に食わないと。
要は嫉妬か。

こんなヤツに付き合ってられないし、ここは平謝りしてやり過ごそうっと。

「その通りですよガースさん、この方は貴女なんかよりもずっ……と!強いんですから!」

私の頭が傾きかけたタイミングで、セイラさんがガソリンを投下した。

何で!?何でそんなことするんだよ!?
誉めてくれるのは嬉しいけどさぁ!

セイラさんの煽りを受けて、ガースとやらの表情はみるみるうちに歪んでいった。

「んだとぉ!?俺にかかればこんなヤツ、イチコロなんだよッ!!」

バゴンッ!!

セイラさんのガソリンで逆上したガースは、唐突に私の顔に右フックを見舞った!

痛ッッ……たくないな。
怒りを抑えてもらうために喰らってみたけど、一ミリも痛くない。
パンチスピードも、キャスパリーグやグランさんに比べたらナメクジみたいに遅いし。

右フックを受けてもケロッとしている私を見て、ガースはワナワナと後退しだした。

「何だと……?俺はシルバープレートの拳闘士だぞ?そんな俺の拳をマトモに受けきりやがった!?」

「フフン!そうでしょう?ココロ様は凄いんですよ!!」

何故かセイラさんは自分のことのように誇って言った。
驚愕を隠せない様子のガースは最初はワナワナと震えていたが、直ぐにさっきよりも鋭い目線を私に向けだした。
あ、これまたくるな。

仕方ない……さすがに、やり返して黙らせるしか無いか。

「そんなわけが……そんなわけがあるかよォォォォ!!!!」

激情したガースが大きく拳を振り上げたその瞬間、私はガースの懐に潜り込んだ。

そして、ガースのズボンの両端をしっかりと持った。

「投げか?させるかよ」

私の次の動きが投げと予想したガースは腰を屈めて重心を落とした。

「残念、違います」

私はズボンを握った手に力を込め、一気呵成に引き落とした。
一瞬にしてガースのズボンが脱がされ、イチゴ柄のパンツが姿を表した。

ガースは視線を落として状況を把握するも、予想外すぎたのか固まっている。

「あらかわいい」

傍にいたセイラさんが止めの一言を言うと、ガースはやっと正気を取り戻し、ズボンを引き上げて一目散に逃げていった。

酒場は一瞬静寂に包まれたが、ガースの姿が完全に見えなくなると、ドッと笑いが沸き起こった。

「最高だったぜお嬢ちゃん!」

「ガースのパンチを受けてもビクともしねぇなんてやるじゃねぇか!」

「アイツは野蛮人だが、純粋な実力ならゴールドレベルなんだぜ?」

酒場の皆はガースの痴態を笑いながらも、私を口々に誉めていった。

「そうでしょう?ゴールドプレートスタートの所以が分かったでしょう!!」

セイラさんが誇らしげに言った。
セイラさんはいつの間にか酒盛りしてる人達と同じ席に座ってるし、その右手にはジョッキが握られていた。
セイラさん?受付の仕事は良いんですかい?

「よーし、こうなったらお嬢ちゃんも交えて朝まで酒盛りだ!」

「そりゃあ良いねぇ!お嬢ちゃんの歓迎会だ!」

え、何か私メインの飲み会が勝手に決まりだしたんだけど。
大人数の飲み会とか絶ッッ対に嫌だ!
飲み会にはトラウマしか無いんだよ!

「ナーニを言ってるんですか?」

飲み会を断る言い訳を考えていると、既に泥酔状態のセイラさんが異議を唱えた。

そうだそうだ!言ってやれセイラさん!

「ココロ様今から討伐依頼をやりにいくんですー!」

いや行かないけど!?

「いーや飲み会だ!」

「いーや討伐です!」

セイラさんと男たちが喧嘩を始めてしまった。格闘家のフェイスオフのごとく顔を近づけて喧々諤々の雰囲気だ。

やめて!私のために争わないで!

いや待てよ、これ今のうちに逃げ出せるんじゃね?

「マグちゃん、今のうちに帰ろうか」

私は隣のマグちゃんにしか聞こえない声量で言った。

「分かった!帰ろう!」

「マグちゃん声が大きい!」

マグちゃんの声にその場の全員が私たちの方を向きなおした。

「なぁにぃ!?帰るだと!?」

「帰しませんよココロ様~!」

セイラさんも含めた全員が、私を捕らえようとこっちに向かってきた。
泥酔してフラフラになりながらも向かってくる様は、ゾンビのような気持ち悪さだ。

「逃げるよマグちゃん!」

私はそう言ってマグちゃんに飛び乗った。

「何々追いかけっこ?楽しそう!」

マグちゃんは変な誤解をしつつも私を乗せて走り出した。
あっという間にバトルギルドを離れ、街道にたどり着く。

夕日に照らされた中央の街道は朝ほどでは無いものの、未だに沢山の人でごった返している。

マグちゃんがここ通ったら、誰か踏み潰しチャイそうだね……よし!

「マグちゃんは屋根伝いに正門まで行って、私はこの街道を進んでいくから」

「分かった!今度は競争だね!」

マグちゃんは笑顔でそう言うとあっという間に屋根に飛び乗って走っていった。
マグちゃんにかかると何でも遊びになるんだなぁ、カワイイ。

マグちゃんのカワイイさを堪能してから、私は人の間を縫って走り出した。

群衆の中をスルスルと抜けていっていた、その時。

ドンッ!

「痛っ!」

一瞬の不注意で人とぶつかってしまった。

「……」

「あ、ごめんなさい!ちょっと急いで……て」

振り返ったその人の姿を見て、私のからだがゾワリと粟立った。
私より三回りは大きい体を汚いボロで包んでいて、顔の半分がウネウネとした黒髪に覆われて見えない。
虚ろに開かれた口からは鮫のようなギザ歯が覗いていた。

根拠はない。けど私の直感は確かに何かを感じていた。

この人……なんかヤバイ!!

「すみません私急ぎますんで!」

私は逃げるようにその場をあとにした。
少し経って振り返ってみると、既に男の姿はなく、追いかけてきていることは無さそうだった。

そのうち私は街道を抜け、マグちゃんの待つ正門へとたどり着いた。

「イェーイ!僕の勝ちー!」

どや顔を浮かべてマグちゃんが言った。
そんなカワイイ顔を見れるなら負けでもいいや。

「じゃあ帰ろうか、皆待ってるだろうし」

私はマグちゃんに股がり、しっかりと体勢を整えた。

「出発進行ー!」

マグちゃんはカワイイかけ声と共に走り始めた。
新幹線顔負けのスピードで、回りの景色が残像になっていく。

この感じだと、日が完全に落ちるまでには帰れそうだね。
早く皆とご飯が食べたいなぁ。

「ねぇねぇご主人」

帰った後ののご飯を考えていると、マグちゃんが珍しく不安気に話しかけてきた。

「どうしたのマグちゃん?」

「誰かがついてきてるよ」
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