学園の劣等生、『魔法無効化』で世界を救う

白鷺人和

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ①

しおりを挟む
震えが止まらない。
覚悟は決めてきた筈なのに、深呼吸をしても、自分で自分の顔をひっぱたいても、体の強張りが消えない。
気を落ち着かせないと……これから行くところは、一瞬の気の迷いで命を落とすのだから。

「フー……ッッ痛った!何!?」

深呼吸の最中、バシン!という小気味良い音とともに、鋭い痛みが背中に走った。
涙目になりながら振り返ると、子供のような笑顔を浮かべた親父がいた。

「なーにガキみたいに縮こまってんだ?ビビったかルシアス?」

「ビ、ビビってなんかねぇーし!てか背中に平手打ちなんかしてんじゃねぇよ!」

親父はケラケラと笑っていたが、背後からただならぬ殺気を感じて振り返った。
そこには、不穏な笑みを浮かべる母さんが仁王立ちしていた。

「アナタ?何をしてるの?」

「いやー違うんだよママ……ルシアスの緊張を解してやろうかなって……アギュッッ!?」

みっともなく言い訳を並べた親父に、母さんの前蹴りが飛んだ。鋭い爪先は吸い寄せられるように股の急所に突き刺さり、親父は蛙みたいな悲鳴を上げた。

惨めに股を抑える親父を、俺はフッと鼻で笑った。と同時に、母さんだけは何がなんでも怒らせてはいけないと肝に銘じる。

「大丈夫よルシアス、貴方はそこのボンクラよりも強いし、今回はただの偵察任務だから」

うずくまる親父を見下しながら、母さんはそう吐き捨てた。

「何だと!?こんな青二才に俺が負けてるわけ無いだろ!おいルシアス、一回勝負しろ!」

「そんなこと言ってっから尊敬されないんだよ親父は……」

「されてますー!俺が魔法師団最強なんだぞ、されてるに決まってるだろ!」

「アルバート隊長!一つご報告したいことが……ってお取り込み中でしたか?」

部下の一人がこちらに駆け寄ってきたかと思うと、親父はすっくと立ち上がり、何事もなかったかのような笑顔を浮かべた。

ってよく見たら腿めっちゃつねって我慢してるな、見栄っ張りめ。

今回俺は親父と母さんに連れられて、迷宮攻略に来ていた。

迷宮。それは昔、一人でいくつもの国を滅ぼしたと言われる破滅の魔女の遺物と言われている。

迷宮は地下深くまで続く階層のような作りになっており、中では絶えず魔物と言われる強力な獣たちが産まれている。
迷宮で産まれた魔物たちが地上へと流れ国々を荒らし、迷宮自体が発する強力な魔力によって周辺の土壌は腐り、人の住めない土地になってしまった。

そうした問題を解決するべく、周辺の国々では迷宮の攻略を行っている。その中でも特に成果を挙げているのが、俺の住む国、魔国アスカディアだった。

親父はアスカディア魔法師団の団長であり、迷宮攻略隊の総隊長。母さんはアスカディア騎士団団長、迷宮攻略隊の副隊長だ。

まだ十五歳である俺は、本来なら迷宮に入ることはできない。しかし、迷宮の探索者を育てるアスカディア魔剣学園でトップの成績であることが評価され、迷宮探索に帯同できることになったのだ。

まぁ、帯同していると言っても既に攻略済みの階層に変化が無いか調べる偵察任務ではあるけど。

迷宮は現在、第八十七層まで攻略が進んでおり、今俺たちがいるのは第四十六層。
迷宮は下の階層に行くほど強力な敵や厄介なギミックが増えるため、ここは中間程度の難易度と言える。

欲を言えばもっと深くまで潜りたいが、迷宮は下に行くほど空間の魔力も濃くなり、慣れていないものはその濃い魔力に当てられて体が四散してしまう。

そのため、今回はここまでしか帯同が認められなかったのだ。

暫くすると親父が戻ってきた。

「準備ができたみたいだ、そろそろ出発すんぞアルトリア」

戻ってきた親父の顔は引き締まり、先程までの抜けた雰囲気は無くなっていた。アルトリアは母さんの名前で、親父は仕事の時は母さんを名前で呼ぶのだ。

母さんは剣を鞘から抜き取ると、切っ先を天高く掲げた。進行の合図だ。

「進行開始!」

ズドオォォ!

母さんが号令をかけた直後、轟音とともに、前方の騎士団員が何かに潰された。

砂煙が晴れる。中から姿を表したのは異形のバケモノだった。

象程の大きさで、四足歩行。皮膚はミミズのようにブヨブヨとしている。特に奇妙なのが、頭がないことだった。
背には人形の何かが乗っている。しかし、輪郭が蜃気楼のように歪んで何かは分からない。

「総員攻撃開始!」

親父の号令で、魔法士は杖を構え、騎士は剣を抜いた。
未知の敵。急襲。にも拘らず、精鋭である彼らは迅速に動いた。

剣で薙ぐ。突く。火を放つ。雷を落とす。
しかし、効かず。

その時、バケモノの体が一部グジュリと変形し、一本の触手が生えた。
それは撓り、鞭のようにタメを作った。

そして一薙ぎ。前方で首が宙を舞った。
また一薙ぎ。脚が舞う。腕。上半身。

部隊が瞬く間に滅していく。

「退ケェお前ら!」

親父の声が響き、部下達が一斉に後退した。大規模魔法の合図だ。

「第八位階魔法、ミョルニル!」

瞬間、雷の柱がバケモノを包んだ。
第八位階魔法。人間が扱える、最高位の魔法だ。

「……やったか?」

部下達が固唾を飲んで見守るなか、煙が晴れた。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

処理中です...