Sprint・High!(スプリント・ハイ!)

成瀬リヅ

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北城市地区予選 1年生編

第49走 マネージャー

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【5月12日(土)】
 天気 : 晴れ
 最高気温予想 : 23度

 AM 5:17。
 昨日の夜は寝付きが悪かったのにも関わらず、結城の目覚めは良かった。
 その証拠に目覚まし時計が鳴る前にパッと目が覚め、ほとんど眠気は無い。

 そして昨日の練習終わりに調べた自分の100mの組とレーンを頭でイメージしながら、結城は深く深呼吸をした。

「—————よし、やるか」

————————

【北城地区予選会 1日目】

 AM 7:36
 緑山記念陸上競技場・メインスタンド



 キタ高の1、2年生とマネージャー達は、3年より一足早く競技場の中に入っていた。
 今日のような選手権では、1、2年の男子が開門と同時に朝のブルーシート陣地取りに参加し、その後マネージャーが陣地の荷物番として居座ってくれる。
 ちなみに3年生は寮でゆっくり朝ごはんを食べた後、8時前後にやってくる予定だ。

 そんな競技場、5月とはいえ朝は冷える。
 1年生は貰ったばかりのキレイなジャージを身にまとい、寒さに耐えていた。
 だが試合慣れしている先輩達はネックウォーマーやロングTシャツを重ね着している。
 この辺りは経験のなせる技といった所だ。

 するとこのタイミングでマネージャー達が大きなカバンを開いたかと思えば、中から素早く”何か”を取り出した。

「みんな、朝ごはんだよ~!」

 3年の漆原楓うるしはらかえでが部員達に呼びかける。
 するとそこには30個ほどのおにぎりとバナナが用意されていたのだ。

「じゃあ俺は……キレイな形のコレで」

 2年男子の榊充さかきみつるは、早速おにぎりに手を伸ばす。
 それを皮切りに、他の2年達もゾロゾロと群がってきていた。

 だが1年生達はというと、初めて見る光景に少し驚いているようだ。
 事前に”朝ごはんは競技場で食べる”とは聞いていたが、いざ目の前でその光景を見ると中々腰が上がらない。

「おい結城、お前の中学ではこんなんあったか?」

 難しい顔をした翔に問われた結城は、”無かったな”とだけ返事をする。

 というのも寮生活をしているキタ高陸上部の伝統として、大会の朝ごはんはマネージャーが作っていく事になっているのだ。
 さすがに普通の学校では考えられない事であり、他校の生徒からも珍しい目で見られている。
 ちなみにバナナは吉田先生の差し入れ(自腹)だ。

 そして朝早くから部員達と共に競技場に行き、朝ごはんまで作ってきてくれる4人のマネージャーには誰も頭が上がらない。
 まさにキタ高陸上部の縁の下の力持ちなのだ。

「ほら、1年生も食べて。お腹減ってなくてもバナナだけは食べなさいよ」

 特に3年の楓は、陸上部にとっての姉御を通り越し、もはや母親と言ってもよかった。
 なぜなら楓の1つ上の学年にはマネージャーがおらず、2つ上の代にも1人しかいなかった。

 つまり入学当時の楓からすれば、その先輩と過ごしたのはたった3カ月程度だ。
 しかも同学年で自分しかマネージャーがいないという状況で、2年以上もやってきた。
 その過酷な経験こそが今の漆原楓を形成し、彼女の肝が座るには十分すぎる経験となったのだ。

 そんな彼女の作ったおにぎりはキレイに形が整い、店で売っているモノと遜色は無い。
 2年マネージャーの2人が握るおにぎりも、ある程度の形は整ってはいるのだが、楓のソレにはまだ遠く及ばなかった。

 たが驚く事に、形すら整っていないおにぎりが数個あった。
 おにぎりと呼んでいいのかも分からない程に崩れている。

 当然それ以外のおにぎりがドンドンと無くなり、結局1年生が取る頃には”おにぎりのようなモノ”しか残っていなかった。

「おにぎれない」

 すると康太がボソッと呟いたセリフに赤面したのは1年マネの内田唯だった。
 ある意味作った人の答え合わせが終わった瞬間でもある。

「だ、だって、料理した事ないんだもんっ!味は大丈夫だから!多分……」

 するとここで空腹の限界を迎えたのか、横からゴーがおにぎり?を手に取り、躊躇ちゅうちょなく口に運んだ!

((ゴーのやつ、いきやがった……!!?))

 周りの1年生達はゴクッと息を呑む。
 すると彼は5秒ほど噛んだあと、なぜか目を見開いて固まった。

「……?どうしたゴー、味もダメだったか?」

 康太が何とも失礼な問いかけをゴーにした、その直後だった!


「んぅ……美味い!美味すぎる……!」


 ゴーは感動したように味の感想を述べていたのだ。
 すると唯の顔にも笑顔が戻る。

「ほ、ほら!ほらね!?味は大丈夫なんですよっ!ささっ、みんなも食べて下さい!!」

 1年達がゴーの舌をどこまで信じるべきか?という問題にはなってくるが、初めて作ってくれたモノを食べない訳にもいかない。
 一縷が先陣を切っておにぎりを手に取り、そして口に運んだ。

 すると……。

「……ん?普通に、というかめちゃめちゃ美味いぞ!」

 するとそれを聞いた他の1年達も、半信半疑で”おにぎらない”を口に運んでいく。

「な、なんだこれ、米が生きてやがる!?」
「調味料だ!何かヤバい調味料入れたんだ!」
「実家の風景が見えた」
「これだけで白飯食える」
「神だ……一粒一粒に神が宿ってる……!」

 気付けば1年生は皆、胃の底から湧き上がる幸福に身を委ねていた。
 唯のおにぎりには、何か特殊な力が込められているようだったのだ。

「これは、とんでもない新人が来たみたいね……!」

 遠くからその様子を見ていた楓は、目を細めながら小さく呟いた。
 だが新たなライバルの登場にどこか嬉しそうでもある。


「いや何言ってんすか楓さん。みんなアホなんですか。大丈夫かよこの部活」


 だがクールな2年マネージャー高橋沙織だけは、その状況に冷静にツッコんでいるのだった。

————————

 おにぎり騒動が落ち着いた頃、緑山記念に到着した3年生がスタンドの陣地に上がってきた。
 そしていよいよ隼人が始まりの合図を告げる。

「さぁみんな、今日も勝つぞ!」

————————
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