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兵庫県予選大会 1日目

第105走 山口渚の場合

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 郡山と隼人の追い上げは、俺にとってのガソリンにしかならなかった

「いけー!竹安ぅう!!!」
「竹安さんファイトーー!!」
「やっぱタケニや!竹安や!」

 俺が走り出す直前に耳に入ってきた、スタンドからの声援。
 当たり前のように俺の前で走り出した、タケニの竹安に対する”期待”と”声援”の数々。

 知るか、んなもん。
 その口、10秒後には塞いでやるよ。


 郡山、早く来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い。

 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く来い。

 俺に渡せ、早く、早く俺に渡せ。

 あぁくそ、口角が上がる……!
 いいから、早く、バトンを、俺に、渡せっ!!


【パシィ!!】


 さぁ、スタートだ。

————————

 少し詰まり気味でバトンを受け取った俺の前には、竹安ともう2人ぐらい知らん奴。

 俺の為に用意された、最高のシチュエーション。
 全身の血が沸騰するほどに熱くなっているのが分かる。

 よく人生において”楽しい時間は?”とか、”ストレス発散法は?とかいう質問があるけど、もし今の俺が答えるなら、間違いなくこう答える。

「強いヤツに勝つこと」

 認めたくはないが、竹安は良い選手だ。
 100m走単体で勝った事なんて1度もないし、ベストタイムも遠く及ばない。
 タイプ的には隼人と似てる、弱点の少ないタイプの選手だ。

 対する俺は、残念なことに弱点ばかりだ。
 スタートダッシュは嫌いだし、走りにもムラがあるのが自分でも分かる。

 まあハッキリ言ってしまえば”100m走単体”なんて俺に一切向いてないと思う。
 だけど皮肉にも、俺が1番好きな瞬間は”4継(4×100mリレー)”の中にある。

 簡単に言うならば、前にいる早いヤツを抜かす瞬間だ。

 ”100m走単体”の中でリードを奪われたら、正直俺はえて集中が切れる。
 けど”4継”の中でバトンを受け取った瞬間にリードを奪われていたら、俺の脳ミソはかつてない程の興奮を感じるんだ。

 信じてもらえないだろうけど、受け取ったバトンからエネルギーみたいなのを感じるんだよ。
 握った部分から何かが流れ込んでくる感覚。

 ああ、キテる。完全に今日はキテる日だ。

 すでに1人抜かしてしまったが、俺の獲物はハナから竹安のみ。
 1歩ごとに身体が冴えわたるのが分かる。

 ハッキリ言って最高の気分だ。
 どんな良い女を抱くよりも、これ以上の快感は死ぬまで感じられないと思う程に。


 あぁ、そうだよな、もう竹安の背中がどこにあるのかも分からない。
 ただこの快感に全身を浸らせていたい。
 脳みそが溶けていきそうだ。

 もう、どうでもいい。なんでもいい。

 俺を見ろ。
 この俺を見ろ、そして叫べ。

 もう鼻の先にいるコイツを抜くから。


 俺を、、、俺を、、、


————————
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