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兵庫県予選大会 2日目
第113走 復活の狼煙を上げろ
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————————
6月2日(土)
天気予報:雨のち曇り
兵庫県高等学校 陸上競技対抗選手権大会
兵庫地区予選 2日目
————————
「よし、じゃあそろそろ行くか」
4継メンバーにそう告げたのは、キタ高陸上部キャプテン 兼 4継第2走の佐々木隼人だった。
いよいよ4継の決勝を迎えた大会2日目、彼らは他の部員よりも少し遅めに寮を出て駅へ向かうのだ。
ちなみにこれは、全て吉田先生の提案である。
「明日は4継メンバーは10時ぐらいに競技場に来なさい。明日の個人種目※に出る子もいないし、シッカリと睡眠時間も確保して、万全の体調で決勝を迎えようじゃないか」
この吉田先生の提案通り、今日の4継メンバーは学年に関係なくゆっくりと緑山記念競技場へ向かっていた。
ちなみに隼人不在時のキャプテン代理は、3年男子の若月裕太が担当している。
さらにこの”4人で競技場に向かう”という行為は、さらなる副産物を生み出す事にも繋がっていた。
「なんか……チームって感じだな。いよいよ戦場に向かってるって感じがするわ」
「ハハ、でも確かに戦場っちゃ戦場だよね、決勝の舞台は」
そう会話を交わすのは、3年の渚と隼人だ。
だが彼らの言う通り今日走る結城・隼人・翔・渚の4人が同じ寮から、同じ電車に乗って、同じ競技場に向かうこの状況はまさに”チーム”であり”家族”のようでもあった。
リレーにおいて最も重要な”信頼”という名の、目には見えないキズナ。
彼らは本番において、それを”バトン”という物質に乗せて繋いでいく。
まさにこの”共に行動する”という単純な行為が、彼らの一体感を高めるという副産物を生んでいたのだ。
【ガタンガタン……ゴトンガタン……】
まばたきもせずにブツブツと何かを言っている結城も乗せた電車は、いつもと同じ音を立てて進んでいく。
決勝までは残り5時間を切っていた。
————————
【スクリーンをご覧ください!女子200m準決勝2組の結果。1着如月美月さん北城。24秒97。2着……】
昨日とは打って変わって曇天の緑山競技場。
時折雨もチラつく上に肌寒いという、まさにアスリートには”最悪のコンディション”といえた。
(なんとか25秒は切れた……。でも思ったより体冷やしちゃったかな、もっとタイム出ると思ってたのに)
そんな中レースを終えた美月は、大型スクリーンに映る自身のタイムを見て反省点を考えている。
現在時刻は11時37分、続いて男子200mの準決勝が始まろうとしていた。
◇
雨の影響もあってか、メインスタンドの観客は屋根のある上部へと密集している。
もちろん最前席で応援する各校の部員たちはいるのだが、心なしか雨のせいでテンションも低い。
だがそんな状況においても、朝一番からずっと声を張り上げている”変わった男”もいた。
その正体はまさに……。
「如月先輩、ナイスランですっ!!!このままトップで近畿乗り込みましょー!!!キタ高はこっから止まらへんぞ、覚悟しとけやぁー!?」
スタンド最前列から身を乗り出して応援していたのは、紛れもないキタ高の2年・大空龍だった!
先日までは金色だった髪も、部活に復帰した事によって違和感があるほど真っ黒に変わっている。
ちなみに彼は、朝一の種目からキタ高部員全員に”大声援”を送ってきた。
以前に隼人から”応援団長”に任命された彼は、その役割を300パーセント全うしていたのだ!
「お、大空先輩!だからそこに足かけたらダメです!出禁になっちゃいますよ!?」
「おぉ、すまんすまん。如月先輩の走り見たら、テンションまた上がってしまった!今後もちゃんと俺を止めてくれよ1年坊!テンション上がりすぎたら、トラックに飛び出してしまうかもしれへんからな!?」
「は、はぁ……勘弁してください……」
リューの隣に座る1年の康太と一縷は、朝から暴走気味の応援を繰り返すリューに早くも疲労の表情を浮かべている。
だが実際リューにとっては、この高ぶる感情を抑えるのは至難の技なのだ。
なにせ1年生として迎えた昨年の市予選・県予選を”病室で過ごした”彼にとって、この大会はあまりにも特別なモノである。※
(周りの学校にどう思われようが知るかよ。俺はノドが何百回裂けようが血を吐こうが、今の偉大な先輩達と、残った同級生達と、立派な後輩達に声援を送り続けるからな。今の……今の俺にできる事は、これしかないから……!)
そしてリューは自らの右拳をグッと握り、歯を食いしばってトラックを見つめるのだった。
だがそんな彼の想いは、大声援に少し恥ずかしがっているトラックの選手たち、そして彼の周りで声援を送るキタ高の部員たちにもシッカリと伝わり始めている。
(そうだよね……。ここで走れるのは決して当たり前のことじゃない。大空くんの想いの強さと、私たちの想いの強さ、きっと同じだよ)
冷えやすい天候とは対照的に、美月を始めとしたキタ高部員の心には熱く激しい火がパチパチと燃え広がり始めていた。
————————
※個人種目・・・リレー以外の100mや1500m、跳躍や投擲競技、全て1人で競い合うので個人競技と呼ばれる。もちろんリレーは全て団体競技。
※病室で過ごした・・・食堂事件の影響(第77走参照)
6月2日(土)
天気予報:雨のち曇り
兵庫県高等学校 陸上競技対抗選手権大会
兵庫地区予選 2日目
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「よし、じゃあそろそろ行くか」
4継メンバーにそう告げたのは、キタ高陸上部キャプテン 兼 4継第2走の佐々木隼人だった。
いよいよ4継の決勝を迎えた大会2日目、彼らは他の部員よりも少し遅めに寮を出て駅へ向かうのだ。
ちなみにこれは、全て吉田先生の提案である。
「明日は4継メンバーは10時ぐらいに競技場に来なさい。明日の個人種目※に出る子もいないし、シッカリと睡眠時間も確保して、万全の体調で決勝を迎えようじゃないか」
この吉田先生の提案通り、今日の4継メンバーは学年に関係なくゆっくりと緑山記念競技場へ向かっていた。
ちなみに隼人不在時のキャプテン代理は、3年男子の若月裕太が担当している。
さらにこの”4人で競技場に向かう”という行為は、さらなる副産物を生み出す事にも繋がっていた。
「なんか……チームって感じだな。いよいよ戦場に向かってるって感じがするわ」
「ハハ、でも確かに戦場っちゃ戦場だよね、決勝の舞台は」
そう会話を交わすのは、3年の渚と隼人だ。
だが彼らの言う通り今日走る結城・隼人・翔・渚の4人が同じ寮から、同じ電車に乗って、同じ競技場に向かうこの状況はまさに”チーム”であり”家族”のようでもあった。
リレーにおいて最も重要な”信頼”という名の、目には見えないキズナ。
彼らは本番において、それを”バトン”という物質に乗せて繋いでいく。
まさにこの”共に行動する”という単純な行為が、彼らの一体感を高めるという副産物を生んでいたのだ。
【ガタンガタン……ゴトンガタン……】
まばたきもせずにブツブツと何かを言っている結城も乗せた電車は、いつもと同じ音を立てて進んでいく。
決勝までは残り5時間を切っていた。
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【スクリーンをご覧ください!女子200m準決勝2組の結果。1着如月美月さん北城。24秒97。2着……】
昨日とは打って変わって曇天の緑山競技場。
時折雨もチラつく上に肌寒いという、まさにアスリートには”最悪のコンディション”といえた。
(なんとか25秒は切れた……。でも思ったより体冷やしちゃったかな、もっとタイム出ると思ってたのに)
そんな中レースを終えた美月は、大型スクリーンに映る自身のタイムを見て反省点を考えている。
現在時刻は11時37分、続いて男子200mの準決勝が始まろうとしていた。
◇
雨の影響もあってか、メインスタンドの観客は屋根のある上部へと密集している。
もちろん最前席で応援する各校の部員たちはいるのだが、心なしか雨のせいでテンションも低い。
だがそんな状況においても、朝一番からずっと声を張り上げている”変わった男”もいた。
その正体はまさに……。
「如月先輩、ナイスランですっ!!!このままトップで近畿乗り込みましょー!!!キタ高はこっから止まらへんぞ、覚悟しとけやぁー!?」
スタンド最前列から身を乗り出して応援していたのは、紛れもないキタ高の2年・大空龍だった!
先日までは金色だった髪も、部活に復帰した事によって違和感があるほど真っ黒に変わっている。
ちなみに彼は、朝一の種目からキタ高部員全員に”大声援”を送ってきた。
以前に隼人から”応援団長”に任命された彼は、その役割を300パーセント全うしていたのだ!
「お、大空先輩!だからそこに足かけたらダメです!出禁になっちゃいますよ!?」
「おぉ、すまんすまん。如月先輩の走り見たら、テンションまた上がってしまった!今後もちゃんと俺を止めてくれよ1年坊!テンション上がりすぎたら、トラックに飛び出してしまうかもしれへんからな!?」
「は、はぁ……勘弁してください……」
リューの隣に座る1年の康太と一縷は、朝から暴走気味の応援を繰り返すリューに早くも疲労の表情を浮かべている。
だが実際リューにとっては、この高ぶる感情を抑えるのは至難の技なのだ。
なにせ1年生として迎えた昨年の市予選・県予選を”病室で過ごした”彼にとって、この大会はあまりにも特別なモノである。※
(周りの学校にどう思われようが知るかよ。俺はノドが何百回裂けようが血を吐こうが、今の偉大な先輩達と、残った同級生達と、立派な後輩達に声援を送り続けるからな。今の……今の俺にできる事は、これしかないから……!)
そしてリューは自らの右拳をグッと握り、歯を食いしばってトラックを見つめるのだった。
だがそんな彼の想いは、大声援に少し恥ずかしがっているトラックの選手たち、そして彼の周りで声援を送るキタ高の部員たちにもシッカリと伝わり始めている。
(そうだよね……。ここで走れるのは決して当たり前のことじゃない。大空くんの想いの強さと、私たちの想いの強さ、きっと同じだよ)
冷えやすい天候とは対照的に、美月を始めとしたキタ高部員の心には熱く激しい火がパチパチと燃え広がり始めていた。
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※個人種目・・・リレー以外の100mや1500m、跳躍や投擲競技、全て1人で競い合うので個人競技と呼ばれる。もちろんリレーは全て団体競技。
※病室で過ごした・・・食堂事件の影響(第77走参照)
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