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魔法学院の入舎初日に目を付けられ、心身ともに屈服させられました
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※ちょっとした「んほぉらめぇ汚喘ぎ」等は許容してください。
╭━――――――――――――――― •●• ―――――――――――――――━╮
魔法学院の入学式典を無事に終えて。
ちょっとした事情により、ふらつきながら大講堂を出てきた俺は高揚していた。
最難関の試験を突破して今、ここに立っている。
「ここからだ……!」
といって、べつに大きな野望があるわけじゃない。
俺個人の願いを叶えたいだけだ。
生まれてこの方、生まれつきの体質で苦労してきた。
あわよくば完治、難しければ改善するための手段を得ることが目標だ。
白い歩廊は、俺と同じ新入生でごった返していた。
人の流れからできるだけ離れつつ、手持ちの荷物を制服の肩に背負いなおす。
「ふぅ……」
我が皇国における随一の魔法学院。
俺は地方の郷から、ここ中央都府に上京してきた平民だ。
これからは学院の敷地内にある寄宿舎に入り、そこから通う手はずになっている。
この学び舎で俺の不幸な体質をなんとかする術を見つけてやる!
と意気込んだところで、ぐうと腹が鳴った。
今朝がた、慌てて宿駅から出てきたせいで朝食抜きだっけ。
うろうろと広い敷地をさ迷って、幸いにも人気がなく陽当たりのいい中庭を見つけた。
長椅子に腰を据え、持参した貧相な携帯食をもさもさと摂る。
明日からは学院の食堂が使えると思えば苦でもない。
なんと無料なのだ。
それから事前に案内されていた平民が入る寄宿舎へ向かった。
そこで卒業までの数年を過ごすことになる。
ここも無料だ。学院は太っ腹だ。
しかし、いちどでも落第したら追い出されてしまう。
隆盛を誇る中央都府で他に住まう当てがあるはずもない俺としては、なんとしても成績を残さなきゃならない。
なんて気負いつつも颯爽と寄宿舎に向かい、割り当ての部屋を尋ねた矢先に出端をくじかれた。
「えっ? 無いんですか、俺の部屋!?」
「いや……あったんだけど、ううん、ちょっと待ってくれるかな。今、確認してるから」
散々に待たされたあげく手違いがあったといわれた。
なんでも俺だけ別の寄宿舎へ所属が移ったんだとか。
平民の入学生の急増でもあったんだろうか?
学院の寄宿舎は貴族用と平民用とに分かれている。
さらに基本的には同年のふたりが同室する相部屋だったはず。
それでなお、あぶれるとは――都府の魔法学院、さすがの人気ってことか。
感心しながら新たに指示された寄宿舎を探すも、ぜんぜん見つからない。
学院のやたら広い敷地で迷いまくった。
「え、まさか、アレ!?」
ようやく目当ての寄宿舎らしき片鱗を遠目に垣間見て、ぽかんと口を開けてしまった。
まさか鬱蒼とした森の中に建っているなんて。
先ほど渡された手書きの地図がなければ、ぜったいに見つけられなかったと思う。
林立する樹木の合間に見え隠れする建物は、気づいてしまえば意外に近かった。
まさか廃れた襤褸小屋なのかと恐る恐る近づく。
「――ふわぁ……」
森のただなかに方形に切り拓かれたらしい敷地。
石積みの高塀に、立派な表門。
くぐれば中庭で、それを囲む配置で中央奥に主屋があり、そこから手前左右に棟が伸びていた。
端正にして瀟洒な佇まい。
「お、お邪魔しまーす」
正面の凝った意匠の扉を入ってみれば、広々とした玄関の広間。
掃除も行き届いているし、家具調度のこしらえは上等かつ上品。
不運かと思いきや、むしろ幸運だったかもしれない。
「ええと、二階の中央右端……?」
談話室を突っ切り、控えの間っぽい扉を横目に階段を昇る。
幅のある廊下をきょろきょろ見回しながら進んだ。
割り当ての部屋を見つけ、入った瞬間だった。
「――がっ!?」
あっという間もなく胸ぐらをつかまれ背を壁に押しつけられて、持っていた荷物が吹っ飛んでいった。
上から肩を抑えられて逃げられない。
向かい合わせに立つ男に。
「……やっと来たか。この私を、こうまで待たせるとはな」
いや――それだけじゃなく、魔力で圧力をかけられている。
動けない。
あまりに強い魔力は、ほぼ物理的に作用する。
滅多にないことだが。
よほど魔力の強い相手でもないかぎり。
そして目前のこいつは、よほどの魔力の持ち主らしかった。
唸るような低い声にすら魔力が宿っていた。
「な」
くずおれそうになる膝を内心で叱咤する。
どうやら寄宿舎の同室らしい相手を見上げて、睨む。
どこからどう見ても高位の貴族だ。
華美で典雅な礼服。
それを身にまとっても優に相応しくある、輝くような美貌。
全身から噴き出る濃密な魔力。
魔法学院においては制服着用の規定がある。
が、それは平素の学舎においてだけ。
特に入学式典があった今日は彩りゆたかな礼服の数々が目立っていた。
他方、共通の制服で出席したのは、ほぼ平民だろう。
今の俺のように。
新入生として入学式典に参加するために袖を通した制服は、生まれてからこれまでにおいて最も上等な衣服だった。
それを仕立ても生地も明らかに凌駕する高級な礼服を、ぴったりと着こなしている。
同室なら同年の十六歳だろうに数歳は年上に見えた。
その華やかな容貌や身なりのためか、あるいは頭ひとつ分ほど高い上背と、しっかりとした体つきのゆえなのか。
艶めいてうねる長髪を後ろでひとつに束ねている。
玉を磨き上げたような、なめらかな膚。
すべてが整っていて、かつ派手な目鼻立ち。
けぶるような長い睫毛に縁取られた黄金色の目が細まって。
容のいい紅唇が、意地悪く釣り上がっている。
それより何より俺にとって致命的な――膨大な魔力の熾り。
炎の先でちらちらと舐められているみたいだ。
「なんの、つもりです……っ?」
なんとか気迫を込め、低い声で威嚇しようとした。
実際には、みっともなく語尾が震えてしまう。
貴族に異を唱えるには同年であっても平民の俺は敬語になる。
十六という歳は我が皇国においては成人だ。
つまり若さは免除にならない。
学院は平等を謳っているものの、真に受けて礼を失すれば待っているのは破滅だ。
そもそも貴族と平民とは学院内でも区分けされているはずだった。
大講堂や一部の学舎が共通なだけで、寄宿舎は完全に別。
つまり、ここは例外的に貴族と平民が混ざる寄宿舎、なのか。
けれど難題は――俺にとっては、それだけじゃない。
「へえ?」
「ッ――」
空恐ろしいほどの美貌が造ったように微笑む。
それだけで魔力の放射が、まるで華のように次々と開く。
俺には、そのように感じ取れる、というだけだが。
「――抵抗するのか?」
だめだ、当てられる。
奥歯を噛み締め、意識を強く保とうとした瞬間。
つっ、と頤を指でなぞられて、ぞわっと悪寒が走った。
いきなり至近距離で覗き込まれる。
息がかかる。熱い。
「ひ、っ」
壁に後頭部がぶつかる。逃げられない。
「ふふっ」
瞳孔を細められた。獲物を捉えた猛獣のように。
小悪魔のような、なんて比喩があるが、そんな生ぬるいものじゃない。
悪魔の笑みだ。
「はっ、離して……ください!」
抗議するも、かえって顎を強く掴まれた。
さらに整った貌を近づけられる。
「っ……」
「ううん、好みではないな。まあ、贅沢は言うまい」
検分するような手つきで、言語道断なことを呟いている。
ただ理由は分からないでもない。
貴族の顔立ちは総じて整っている――目前のこいつは、さらに抜きん出ているが。
対して平民である俺は実に地味で平凡な、いわゆる平民顔なのだから。
それでも抗弁したかった。
けれど、あまりに互いの顔が近くて、下手にしゃべると唇が触れ合ってしまいそうで――
というより今、かすめた。
「っ、」
自分の喉が生唾を飲み込む音に、うろたえる。
落ちつけ。男だぞ、こいつは。
貌に惑わされるな。背丈や体格だって俺より格段に上だ。
こんなことをされて気色悪い、はず――…
目の前で紅唇が、ゆっくりと開く。
赤い舌が淫靡にちらりと覗く。
息を呑む。
視線を逸らせない。
「ああ、そう警戒せずとも、な――」
震える。
正直、泣きそうだった。
「君にとっても、悪い話ではなかろう?」
「な、なにが……!?」
くすくすと笑われる。
魔力の照射が鈴のように鳴る。耳をふさぎたい。
ふさいでも、あまり意味はないが。
生体魔力の感受には個体差がある。
俺の場合は、ほぼ五感だった。
一般にいう魔力過敏症。
少しの魔力にも過敏に反応してしまう。
先ほどの入学式典も周囲の魔力に酔いかけていた。
近くにいたのが魔力の低い平民ばかりだったので、ぎりぎり耐えられたが。
すべてのヒトが魔力を持つ、この世界では、あまりにあんまりな体質だ。
己が不幸だと思ったことは数知れない。
けれど、それでも克服しようと一念発起したんだ。
そして、ここ――魔法学院の門戸を叩いた。
入試は本当に難題だった。
一次試験は故郷の郷で受け、二次試験は地方の府に出向いて受けた。
そして最終試験のために中央都府に上京する路銀で全財産を使い果たした。
合格の通達が来るまでの宿賃にいたっては借金だ。
でも平民枠なら、ひとたび合格さえすれば学費は免除される。
学業の用品も支給され、さらに寄宿舎での衣食住も保証される。
だからこそ俺は一代の命運を賭けて全力で挑み、そして勝利した。
こうして、ようやくたどり着いた平穏への道筋、その第一歩だったのに。
まさか、こんな風に裏切られて蹴っ躓くだなんて。
どこまで俺は不運なのか。
「そりゃあ、君だって“溜まる”だろう?」
「ひっ」
股間を揉むように撫でられた。鳥肌が立つ。
すぐ離されたが、奴の魔力が膚にへばり付いているような感触が残る。
魔法学院の入学試験には数々の検査も付随していた。
当然、体内魔力の測定も、体質の調査も含まれている。
俺は包み隠さず魔力過敏であることを申告した。
だから勝手に期待していた。
学院付属の寄宿舎において、初級生は相部屋だ。
そこでは個々の事情を考慮して割り振ってもらえるものだと。
しかも本来、貴族と平民の設備は隔てられているはずだった。
だからこそ余計に同室は魔力の低い平民になる、と確信していた。
「なあに。別段、愛だの恋だの甘ったるいものを求めてるわけじゃあない」
それが、まさか、こんな相手と一室に押し込められるとは。
まったく想像だにしていなかった。
「互いに気持ちよくなろう、というだけの話だ。どこに問題がある?」
濃密な魔力を大量に放射し、かつ初対面で発情してくる同室者だなんて。
最低最悪だ。
「お、おお俺の意思を無視してます!」
一瞬、きょとんと目を開かれた。
「は、っはははは! 君、おもしろいな!」
そして堰を切ったように笑い始めた。
なんなんだ。怖い。
肩を抑えられ、強い魔力を浴びせられて、身動ぎすらままならない。
「ははは――はぁ。あのな」
不意に笑みが変わった。
片側が釣り上がった唇から、低い声がつむがれる。
「お前の意志とか、どうでもいいんだよ」
哀れみ、いや、蔑みか。
下等なものを見下す目線に、震える。
「まあいいか。なら、命令してやろう」
「なっ」
「はは、感謝しろよ? ぐだぐだ言い訳する余地がなくなるんだからな」
「あ、ぐ……」
視線に指向性の魔力を篭められたのか、かかる荷重が強くなる。
絶対的な支配者の瞳で、直視される。
こんなの、ほとんど魔眼の域だ。
首を振ろうとした。
でも動けない。
「お前には、私の性欲を解消する道具になってもらう」
「――!」
目を瞠る。
瞬きもできず硬直する。声も出せない。
「くくっ」
悪魔の笑み。
こちらを射るような瞳孔が爛々と光っている。
「ほら、了承したなら、ちゃんと示せ」
「……ゃ」
「ん? まだ抵抗する気か?」
顔を寄せられ、ぺろっと唇を舐められた。
「ッん」
びくんと肩が跳ねる。
衝撃が走った。
俺、今……感じた?
うそだ、こんな――。
屈辱に目が潤むのを、まじまじと観察されている。視線が痛いくらいだ。
頬が熱くなる。
厭だ。
……厭なのに。
実に娯しそうに奴の唇が弧を描く。
「そうだなあ。了承したなら、口を開けろ」
「く……ぅ、ぁ」
抗おうとするのに、ぎこちなく口が開いてしまう。
「くふふっ。素直じゃないか。ほら、舌を出せ」
「ぅ、ふぅっ」
獣のように息を吐きながら。
ゆっくりとでも舌が出てしまう。
奴が無言で、唇を浅く開きながら近づけてきて。
ぴちゃ、と最初に触れ合ったのは舌だった。
それから表面をなすり上げるようにして近づけた唇を合わせられた。
「ふ……う、っ」
わずかに離されたと思ったら、またすぐに吸い付かれる。
「ッ……ン、んぅ」
しっかりと合わさった唇は、わずかもズラせない。
舌を根元から絡めとられて唾液をすり付けられている。
くちゅくちゅ、と濡れた音が耳を打つ。
もがこうとしても腕に力が入らない。
奴の胸を押し戻そうとして、かえって服の布地をゆるく掴んでしまう。
「ん……く、ぅ」
意識がぼうっとしてきた。魔力酔いの症状だ。
空気をつたってですら影響されるのに、粘膜と体液を介しての浸透は度が過ぎる。
なんとかして逃げないと……と頭の隅では思うのに。
いつの間にか、奴の両腕のなかに力強く抱き込まれていた。
足腰から力が抜けていた。
それどころじゃなく、俺は……魔力に酔うと自制心が利かなくなる。
こく、と喉が動く。
「っ、んく……ン」
ごく、ごくと続けざまに喉が鳴る。
どちらのものともつかない唾液を飲んでしまっていた。
たぶん、どんな美酒よりも俺を酔わせるものだ。
もっと、もっと……という情動に支配される。
頭の片隅ではだめだと判じているのに、肉体がそれを受け付けない。
どんどん全身が脱力してゆく。
「ん……ンっ、ん――」
いつの間にか無心で吸い付いていた。
わざと流し込まれる唾液を素直に、こくんこくんと飲み下しながら。
「ン……」
ちゅっと音を立てて唇が離れる。
ぞっと背筋に快感が走って、股間に溜まる。
「ふぁ」
吐き出した己の息が甘く感じる。
いやだ、
もっと、欲しい。
止めないで――
「――はは。契約完了、だな」
「、ぁ」
顔を離されて、やっと正気に戻った。
完全にすがり付いていた。
慌てて離れようとしても、うなじと腰を掴まれていて果たせない。
密着した股間が完全に熱を持っていた。
自覚した途端、かぁっと頬にも血が昇る。
「っ、ゃ」
「さあて、と。せっかくだ――己の立場を言明してもらおうか?」
にやにやと意地の悪そうな笑み。
美貌ではあるが鋭さのある、やはり男の貌だと思う。
しかも抱きついたことで分かってしまった。
ゆったりした綺羅の布地の下はかなり鍛えているらしく、胸板が厚い。
魔力と権力を抜きにしても逆らう余地はないと悟らされるほど。
「い、いや……ひぐっ」
ぐりっと股間を膝で押し上げられる。
「おいおい、こんなにしておいて往生際が悪いな?」
「ひゃう……やだっ」
刺激から逃げようとして腰がくねくね揺れてしまう。
涙が滲んだ。信じたくなかった。
こんな醜態を曝すことにも――。
「はは。がちがちじゃないか。ん?」
硬く持ち上がってしまっている股間を、しっかり掌握されていたことにも。
「ぁっ」
逃げられないよう後ろは尻臀を掴まれ、前をごりっと膝で突かれた。
「ひ――」
同時に魔力が波のように打ち付けてくる。
ぐらぐらと意識が揺さぶられて、自分が床に足をつけて立っているのかすら覚束ない。
「やぁ……っ」
とっさに元凶に抱きついていた。
魔力の奔流から逃れたい一心で。
まだ派生元に密着したほうが耐えやすい。
結果、股間に差し込まれた脚に乗り上げるような恰好になった。
「は、ぁう……やだ、もう、やめて」
「はっ。気持ちいいんだろうが? 遠慮するな、ほら」
嘲笑いながら奴がまるで心得たように脚で揺すり上げてくる。
刺激に、つい腰がかくかくと前後に振れる。
まるで発情した獣が股間をすり付けているみたいだ。
「ん……ぅ、ぁ」
「ははっ――好いようだな?」
「っは、ちがう……くぅんっ」
奴の肩に額を押し付けて耐えていたら、頭を撫でられた。
頭頂からうなじにかけて髪を梳くように、なんども。
妙に繊細な手つきだった。
泣きたい。
「優しくしてやってもいいが?」
「い、らな、から……もぉ、やめっ」
「……壊すのも本意じゃあないからな。長く使えなければ意味がない」
「ふ、っぅ」
頭を抱き込まれて耳に息を吹き込まれ、びくびく震える。
「だから――さっさと私を主人だと認めろ」
「な!?」
「当然だろう? お前は性奴隷になるんだからな」
「……はぁ!?」
待て。
待遇が先ほどより悪化している。
「それとも――」
「あ゛! わか、分かった! 認める! ご主人さまっ!」
さらに悪化することが予期されて、まだ現状で呑んだほうがマシだと。
焦って奴の胸に手をつき、見上げて後悔する。
娯しそうな笑顔に見下ろされ、誘導されていたことを悟って。
でも、ほかにどうすれば良かったというのか。
「その…………に、なるから、優しくし」
「ん? ちゃんと大きい声で言え」
「あ、ぐ……ぅ、だから、うぅ、ご主人さま、の」
「うん? なんだ?」
「お、お……おも、ちゃ」
従いつつ、ほんの少しの待遇の向上を遠まわしに要求する。
さすがに小声にはなるし、目線がさ迷ってしまったが。
ふふっと息がかかる。
「どんな?」
「うぐ……あの」
「ほう。主人におねだりするのに、目を逸らすのか?」
「ッ――」
「どんな風に扱われたいのか、ちゃんと言うんだ」
こいつ――やっぱり悪魔だ。
涙目で、ご命令どおりに目を合わせて睨む。
奴の首にしっかりと腕を回して、爪先立ちで身を乗り出した。
顔が近い。
「お、俺を」
「うん」
息が熱い。
頬が熱い。
「ごしゅ、ご主人さまの」
「うん」
「っ……う、え、えっちな玩具としてっ」
「うん」
「だ、大事に使って欲しい、です……っ」
「――ふふっ」
奴は満足げに黄金色の目を細めて笑った。
「なんだ、優秀じゃないか。見込んだとおりだ」
「うぅう」
まったく嬉しくない。
「安心しろ。大事に、長く使い込んでやる」
「……ぁ」
ふたたび顔を近づけられ、自然に唇を開いていた。
「ン」
ちゅ、ちゅと、戯れのようについばまれる。
軽く舐められ、離されて、また深く口付けられた。
「っ、ん――」
ああ、だめだ。溺れる……。
波に揺らされるような快感に襲われて、反抗心が端から失せてゆく。
奴の指が服の裾をめくり上げて直接、膚に触れる。
感触を確かめるように、嫌らしい手つきで執拗に撫で回してくる。
ぎゅっと目を閉じた。
ふっと間近に息がかかる。
笑われたんだろうか。
まだ着慣れていない制服の帯や紐が解かれ、するりと床に落ちていった。
そのまま豪奢な寝台に仰向けで投げ込まれる。
組み敷かれて、奴の肩越しに見上げた天井も照明も無駄に豪華だった。
さすが皇国が誇る魔法学院、金の掛け方が違うなあと思考が逃避する。
そうして俺は自尊心と男の誇りを悪魔に売った。
この契約は結局、後々まで更新されつづけることになる。
╰━―――――――――――――――・〇・―――――――――――――――━╯
欲情されていると即座に気づける敏感系主人公の鑑。
╭━――――――――――――――― •●• ―――――――――――――――━╮
魔法学院の入学式典を無事に終えて。
ちょっとした事情により、ふらつきながら大講堂を出てきた俺は高揚していた。
最難関の試験を突破して今、ここに立っている。
「ここからだ……!」
といって、べつに大きな野望があるわけじゃない。
俺個人の願いを叶えたいだけだ。
生まれてこの方、生まれつきの体質で苦労してきた。
あわよくば完治、難しければ改善するための手段を得ることが目標だ。
白い歩廊は、俺と同じ新入生でごった返していた。
人の流れからできるだけ離れつつ、手持ちの荷物を制服の肩に背負いなおす。
「ふぅ……」
我が皇国における随一の魔法学院。
俺は地方の郷から、ここ中央都府に上京してきた平民だ。
これからは学院の敷地内にある寄宿舎に入り、そこから通う手はずになっている。
この学び舎で俺の不幸な体質をなんとかする術を見つけてやる!
と意気込んだところで、ぐうと腹が鳴った。
今朝がた、慌てて宿駅から出てきたせいで朝食抜きだっけ。
うろうろと広い敷地をさ迷って、幸いにも人気がなく陽当たりのいい中庭を見つけた。
長椅子に腰を据え、持参した貧相な携帯食をもさもさと摂る。
明日からは学院の食堂が使えると思えば苦でもない。
なんと無料なのだ。
それから事前に案内されていた平民が入る寄宿舎へ向かった。
そこで卒業までの数年を過ごすことになる。
ここも無料だ。学院は太っ腹だ。
しかし、いちどでも落第したら追い出されてしまう。
隆盛を誇る中央都府で他に住まう当てがあるはずもない俺としては、なんとしても成績を残さなきゃならない。
なんて気負いつつも颯爽と寄宿舎に向かい、割り当ての部屋を尋ねた矢先に出端をくじかれた。
「えっ? 無いんですか、俺の部屋!?」
「いや……あったんだけど、ううん、ちょっと待ってくれるかな。今、確認してるから」
散々に待たされたあげく手違いがあったといわれた。
なんでも俺だけ別の寄宿舎へ所属が移ったんだとか。
平民の入学生の急増でもあったんだろうか?
学院の寄宿舎は貴族用と平民用とに分かれている。
さらに基本的には同年のふたりが同室する相部屋だったはず。
それでなお、あぶれるとは――都府の魔法学院、さすがの人気ってことか。
感心しながら新たに指示された寄宿舎を探すも、ぜんぜん見つからない。
学院のやたら広い敷地で迷いまくった。
「え、まさか、アレ!?」
ようやく目当ての寄宿舎らしき片鱗を遠目に垣間見て、ぽかんと口を開けてしまった。
まさか鬱蒼とした森の中に建っているなんて。
先ほど渡された手書きの地図がなければ、ぜったいに見つけられなかったと思う。
林立する樹木の合間に見え隠れする建物は、気づいてしまえば意外に近かった。
まさか廃れた襤褸小屋なのかと恐る恐る近づく。
「――ふわぁ……」
森のただなかに方形に切り拓かれたらしい敷地。
石積みの高塀に、立派な表門。
くぐれば中庭で、それを囲む配置で中央奥に主屋があり、そこから手前左右に棟が伸びていた。
端正にして瀟洒な佇まい。
「お、お邪魔しまーす」
正面の凝った意匠の扉を入ってみれば、広々とした玄関の広間。
掃除も行き届いているし、家具調度のこしらえは上等かつ上品。
不運かと思いきや、むしろ幸運だったかもしれない。
「ええと、二階の中央右端……?」
談話室を突っ切り、控えの間っぽい扉を横目に階段を昇る。
幅のある廊下をきょろきょろ見回しながら進んだ。
割り当ての部屋を見つけ、入った瞬間だった。
「――がっ!?」
あっという間もなく胸ぐらをつかまれ背を壁に押しつけられて、持っていた荷物が吹っ飛んでいった。
上から肩を抑えられて逃げられない。
向かい合わせに立つ男に。
「……やっと来たか。この私を、こうまで待たせるとはな」
いや――それだけじゃなく、魔力で圧力をかけられている。
動けない。
あまりに強い魔力は、ほぼ物理的に作用する。
滅多にないことだが。
よほど魔力の強い相手でもないかぎり。
そして目前のこいつは、よほどの魔力の持ち主らしかった。
唸るような低い声にすら魔力が宿っていた。
「な」
くずおれそうになる膝を内心で叱咤する。
どうやら寄宿舎の同室らしい相手を見上げて、睨む。
どこからどう見ても高位の貴族だ。
華美で典雅な礼服。
それを身にまとっても優に相応しくある、輝くような美貌。
全身から噴き出る濃密な魔力。
魔法学院においては制服着用の規定がある。
が、それは平素の学舎においてだけ。
特に入学式典があった今日は彩りゆたかな礼服の数々が目立っていた。
他方、共通の制服で出席したのは、ほぼ平民だろう。
今の俺のように。
新入生として入学式典に参加するために袖を通した制服は、生まれてからこれまでにおいて最も上等な衣服だった。
それを仕立ても生地も明らかに凌駕する高級な礼服を、ぴったりと着こなしている。
同室なら同年の十六歳だろうに数歳は年上に見えた。
その華やかな容貌や身なりのためか、あるいは頭ひとつ分ほど高い上背と、しっかりとした体つきのゆえなのか。
艶めいてうねる長髪を後ろでひとつに束ねている。
玉を磨き上げたような、なめらかな膚。
すべてが整っていて、かつ派手な目鼻立ち。
けぶるような長い睫毛に縁取られた黄金色の目が細まって。
容のいい紅唇が、意地悪く釣り上がっている。
それより何より俺にとって致命的な――膨大な魔力の熾り。
炎の先でちらちらと舐められているみたいだ。
「なんの、つもりです……っ?」
なんとか気迫を込め、低い声で威嚇しようとした。
実際には、みっともなく語尾が震えてしまう。
貴族に異を唱えるには同年であっても平民の俺は敬語になる。
十六という歳は我が皇国においては成人だ。
つまり若さは免除にならない。
学院は平等を謳っているものの、真に受けて礼を失すれば待っているのは破滅だ。
そもそも貴族と平民とは学院内でも区分けされているはずだった。
大講堂や一部の学舎が共通なだけで、寄宿舎は完全に別。
つまり、ここは例外的に貴族と平民が混ざる寄宿舎、なのか。
けれど難題は――俺にとっては、それだけじゃない。
「へえ?」
「ッ――」
空恐ろしいほどの美貌が造ったように微笑む。
それだけで魔力の放射が、まるで華のように次々と開く。
俺には、そのように感じ取れる、というだけだが。
「――抵抗するのか?」
だめだ、当てられる。
奥歯を噛み締め、意識を強く保とうとした瞬間。
つっ、と頤を指でなぞられて、ぞわっと悪寒が走った。
いきなり至近距離で覗き込まれる。
息がかかる。熱い。
「ひ、っ」
壁に後頭部がぶつかる。逃げられない。
「ふふっ」
瞳孔を細められた。獲物を捉えた猛獣のように。
小悪魔のような、なんて比喩があるが、そんな生ぬるいものじゃない。
悪魔の笑みだ。
「はっ、離して……ください!」
抗議するも、かえって顎を強く掴まれた。
さらに整った貌を近づけられる。
「っ……」
「ううん、好みではないな。まあ、贅沢は言うまい」
検分するような手つきで、言語道断なことを呟いている。
ただ理由は分からないでもない。
貴族の顔立ちは総じて整っている――目前のこいつは、さらに抜きん出ているが。
対して平民である俺は実に地味で平凡な、いわゆる平民顔なのだから。
それでも抗弁したかった。
けれど、あまりに互いの顔が近くて、下手にしゃべると唇が触れ合ってしまいそうで――
というより今、かすめた。
「っ、」
自分の喉が生唾を飲み込む音に、うろたえる。
落ちつけ。男だぞ、こいつは。
貌に惑わされるな。背丈や体格だって俺より格段に上だ。
こんなことをされて気色悪い、はず――…
目の前で紅唇が、ゆっくりと開く。
赤い舌が淫靡にちらりと覗く。
息を呑む。
視線を逸らせない。
「ああ、そう警戒せずとも、な――」
震える。
正直、泣きそうだった。
「君にとっても、悪い話ではなかろう?」
「な、なにが……!?」
くすくすと笑われる。
魔力の照射が鈴のように鳴る。耳をふさぎたい。
ふさいでも、あまり意味はないが。
生体魔力の感受には個体差がある。
俺の場合は、ほぼ五感だった。
一般にいう魔力過敏症。
少しの魔力にも過敏に反応してしまう。
先ほどの入学式典も周囲の魔力に酔いかけていた。
近くにいたのが魔力の低い平民ばかりだったので、ぎりぎり耐えられたが。
すべてのヒトが魔力を持つ、この世界では、あまりにあんまりな体質だ。
己が不幸だと思ったことは数知れない。
けれど、それでも克服しようと一念発起したんだ。
そして、ここ――魔法学院の門戸を叩いた。
入試は本当に難題だった。
一次試験は故郷の郷で受け、二次試験は地方の府に出向いて受けた。
そして最終試験のために中央都府に上京する路銀で全財産を使い果たした。
合格の通達が来るまでの宿賃にいたっては借金だ。
でも平民枠なら、ひとたび合格さえすれば学費は免除される。
学業の用品も支給され、さらに寄宿舎での衣食住も保証される。
だからこそ俺は一代の命運を賭けて全力で挑み、そして勝利した。
こうして、ようやくたどり着いた平穏への道筋、その第一歩だったのに。
まさか、こんな風に裏切られて蹴っ躓くだなんて。
どこまで俺は不運なのか。
「そりゃあ、君だって“溜まる”だろう?」
「ひっ」
股間を揉むように撫でられた。鳥肌が立つ。
すぐ離されたが、奴の魔力が膚にへばり付いているような感触が残る。
魔法学院の入学試験には数々の検査も付随していた。
当然、体内魔力の測定も、体質の調査も含まれている。
俺は包み隠さず魔力過敏であることを申告した。
だから勝手に期待していた。
学院付属の寄宿舎において、初級生は相部屋だ。
そこでは個々の事情を考慮して割り振ってもらえるものだと。
しかも本来、貴族と平民の設備は隔てられているはずだった。
だからこそ余計に同室は魔力の低い平民になる、と確信していた。
「なあに。別段、愛だの恋だの甘ったるいものを求めてるわけじゃあない」
それが、まさか、こんな相手と一室に押し込められるとは。
まったく想像だにしていなかった。
「互いに気持ちよくなろう、というだけの話だ。どこに問題がある?」
濃密な魔力を大量に放射し、かつ初対面で発情してくる同室者だなんて。
最低最悪だ。
「お、おお俺の意思を無視してます!」
一瞬、きょとんと目を開かれた。
「は、っはははは! 君、おもしろいな!」
そして堰を切ったように笑い始めた。
なんなんだ。怖い。
肩を抑えられ、強い魔力を浴びせられて、身動ぎすらままならない。
「ははは――はぁ。あのな」
不意に笑みが変わった。
片側が釣り上がった唇から、低い声がつむがれる。
「お前の意志とか、どうでもいいんだよ」
哀れみ、いや、蔑みか。
下等なものを見下す目線に、震える。
「まあいいか。なら、命令してやろう」
「なっ」
「はは、感謝しろよ? ぐだぐだ言い訳する余地がなくなるんだからな」
「あ、ぐ……」
視線に指向性の魔力を篭められたのか、かかる荷重が強くなる。
絶対的な支配者の瞳で、直視される。
こんなの、ほとんど魔眼の域だ。
首を振ろうとした。
でも動けない。
「お前には、私の性欲を解消する道具になってもらう」
「――!」
目を瞠る。
瞬きもできず硬直する。声も出せない。
「くくっ」
悪魔の笑み。
こちらを射るような瞳孔が爛々と光っている。
「ほら、了承したなら、ちゃんと示せ」
「……ゃ」
「ん? まだ抵抗する気か?」
顔を寄せられ、ぺろっと唇を舐められた。
「ッん」
びくんと肩が跳ねる。
衝撃が走った。
俺、今……感じた?
うそだ、こんな――。
屈辱に目が潤むのを、まじまじと観察されている。視線が痛いくらいだ。
頬が熱くなる。
厭だ。
……厭なのに。
実に娯しそうに奴の唇が弧を描く。
「そうだなあ。了承したなら、口を開けろ」
「く……ぅ、ぁ」
抗おうとするのに、ぎこちなく口が開いてしまう。
「くふふっ。素直じゃないか。ほら、舌を出せ」
「ぅ、ふぅっ」
獣のように息を吐きながら。
ゆっくりとでも舌が出てしまう。
奴が無言で、唇を浅く開きながら近づけてきて。
ぴちゃ、と最初に触れ合ったのは舌だった。
それから表面をなすり上げるようにして近づけた唇を合わせられた。
「ふ……う、っ」
わずかに離されたと思ったら、またすぐに吸い付かれる。
「ッ……ン、んぅ」
しっかりと合わさった唇は、わずかもズラせない。
舌を根元から絡めとられて唾液をすり付けられている。
くちゅくちゅ、と濡れた音が耳を打つ。
もがこうとしても腕に力が入らない。
奴の胸を押し戻そうとして、かえって服の布地をゆるく掴んでしまう。
「ん……く、ぅ」
意識がぼうっとしてきた。魔力酔いの症状だ。
空気をつたってですら影響されるのに、粘膜と体液を介しての浸透は度が過ぎる。
なんとかして逃げないと……と頭の隅では思うのに。
いつの間にか、奴の両腕のなかに力強く抱き込まれていた。
足腰から力が抜けていた。
それどころじゃなく、俺は……魔力に酔うと自制心が利かなくなる。
こく、と喉が動く。
「っ、んく……ン」
ごく、ごくと続けざまに喉が鳴る。
どちらのものともつかない唾液を飲んでしまっていた。
たぶん、どんな美酒よりも俺を酔わせるものだ。
もっと、もっと……という情動に支配される。
頭の片隅ではだめだと判じているのに、肉体がそれを受け付けない。
どんどん全身が脱力してゆく。
「ん……ンっ、ん――」
いつの間にか無心で吸い付いていた。
わざと流し込まれる唾液を素直に、こくんこくんと飲み下しながら。
「ン……」
ちゅっと音を立てて唇が離れる。
ぞっと背筋に快感が走って、股間に溜まる。
「ふぁ」
吐き出した己の息が甘く感じる。
いやだ、
もっと、欲しい。
止めないで――
「――はは。契約完了、だな」
「、ぁ」
顔を離されて、やっと正気に戻った。
完全にすがり付いていた。
慌てて離れようとしても、うなじと腰を掴まれていて果たせない。
密着した股間が完全に熱を持っていた。
自覚した途端、かぁっと頬にも血が昇る。
「っ、ゃ」
「さあて、と。せっかくだ――己の立場を言明してもらおうか?」
にやにやと意地の悪そうな笑み。
美貌ではあるが鋭さのある、やはり男の貌だと思う。
しかも抱きついたことで分かってしまった。
ゆったりした綺羅の布地の下はかなり鍛えているらしく、胸板が厚い。
魔力と権力を抜きにしても逆らう余地はないと悟らされるほど。
「い、いや……ひぐっ」
ぐりっと股間を膝で押し上げられる。
「おいおい、こんなにしておいて往生際が悪いな?」
「ひゃう……やだっ」
刺激から逃げようとして腰がくねくね揺れてしまう。
涙が滲んだ。信じたくなかった。
こんな醜態を曝すことにも――。
「はは。がちがちじゃないか。ん?」
硬く持ち上がってしまっている股間を、しっかり掌握されていたことにも。
「ぁっ」
逃げられないよう後ろは尻臀を掴まれ、前をごりっと膝で突かれた。
「ひ――」
同時に魔力が波のように打ち付けてくる。
ぐらぐらと意識が揺さぶられて、自分が床に足をつけて立っているのかすら覚束ない。
「やぁ……っ」
とっさに元凶に抱きついていた。
魔力の奔流から逃れたい一心で。
まだ派生元に密着したほうが耐えやすい。
結果、股間に差し込まれた脚に乗り上げるような恰好になった。
「は、ぁう……やだ、もう、やめて」
「はっ。気持ちいいんだろうが? 遠慮するな、ほら」
嘲笑いながら奴がまるで心得たように脚で揺すり上げてくる。
刺激に、つい腰がかくかくと前後に振れる。
まるで発情した獣が股間をすり付けているみたいだ。
「ん……ぅ、ぁ」
「ははっ――好いようだな?」
「っは、ちがう……くぅんっ」
奴の肩に額を押し付けて耐えていたら、頭を撫でられた。
頭頂からうなじにかけて髪を梳くように、なんども。
妙に繊細な手つきだった。
泣きたい。
「優しくしてやってもいいが?」
「い、らな、から……もぉ、やめっ」
「……壊すのも本意じゃあないからな。長く使えなければ意味がない」
「ふ、っぅ」
頭を抱き込まれて耳に息を吹き込まれ、びくびく震える。
「だから――さっさと私を主人だと認めろ」
「な!?」
「当然だろう? お前は性奴隷になるんだからな」
「……はぁ!?」
待て。
待遇が先ほどより悪化している。
「それとも――」
「あ゛! わか、分かった! 認める! ご主人さまっ!」
さらに悪化することが予期されて、まだ現状で呑んだほうがマシだと。
焦って奴の胸に手をつき、見上げて後悔する。
娯しそうな笑顔に見下ろされ、誘導されていたことを悟って。
でも、ほかにどうすれば良かったというのか。
「その…………に、なるから、優しくし」
「ん? ちゃんと大きい声で言え」
「あ、ぐ……ぅ、だから、うぅ、ご主人さま、の」
「うん? なんだ?」
「お、お……おも、ちゃ」
従いつつ、ほんの少しの待遇の向上を遠まわしに要求する。
さすがに小声にはなるし、目線がさ迷ってしまったが。
ふふっと息がかかる。
「どんな?」
「うぐ……あの」
「ほう。主人におねだりするのに、目を逸らすのか?」
「ッ――」
「どんな風に扱われたいのか、ちゃんと言うんだ」
こいつ――やっぱり悪魔だ。
涙目で、ご命令どおりに目を合わせて睨む。
奴の首にしっかりと腕を回して、爪先立ちで身を乗り出した。
顔が近い。
「お、俺を」
「うん」
息が熱い。
頬が熱い。
「ごしゅ、ご主人さまの」
「うん」
「っ……う、え、えっちな玩具としてっ」
「うん」
「だ、大事に使って欲しい、です……っ」
「――ふふっ」
奴は満足げに黄金色の目を細めて笑った。
「なんだ、優秀じゃないか。見込んだとおりだ」
「うぅう」
まったく嬉しくない。
「安心しろ。大事に、長く使い込んでやる」
「……ぁ」
ふたたび顔を近づけられ、自然に唇を開いていた。
「ン」
ちゅ、ちゅと、戯れのようについばまれる。
軽く舐められ、離されて、また深く口付けられた。
「っ、ん――」
ああ、だめだ。溺れる……。
波に揺らされるような快感に襲われて、反抗心が端から失せてゆく。
奴の指が服の裾をめくり上げて直接、膚に触れる。
感触を確かめるように、嫌らしい手つきで執拗に撫で回してくる。
ぎゅっと目を閉じた。
ふっと間近に息がかかる。
笑われたんだろうか。
まだ着慣れていない制服の帯や紐が解かれ、するりと床に落ちていった。
そのまま豪奢な寝台に仰向けで投げ込まれる。
組み敷かれて、奴の肩越しに見上げた天井も照明も無駄に豪華だった。
さすが皇国が誇る魔法学院、金の掛け方が違うなあと思考が逃避する。
そうして俺は自尊心と男の誇りを悪魔に売った。
この契約は結局、後々まで更新されつづけることになる。
╰━―――――――――――――――・〇・―――――――――――――――━╯
欲情されていると即座に気づける敏感系主人公の鑑。
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