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第11章 予期せぬ妊娠
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年が明け、淳也は大学3年生の後半に差し掛かっていた。就職活動が本格化し、将来について現実的に考えなければならない時期だった。
そんな中、ある異変が起きた。真澄の生理が止まったのだ。
最初は更年期のせいだと思った。49歳、閉経が近い年齢だったから。しかし、それに伴うほてりや発汗などの症状はなく、むしろ吐き気や倦怠感を訴えるようになった。
「もしかして…」ある日、真澄が青い顔で淳也に打ち明けた。
「え?でも、母さんもう49歳だよ?」
真澄の声は震えていた。「それに、最近生理不順だったから、まさかとは思わなくて…」
薬局で妊娠検査薬を買い、さっそく試した。結果は明白だった——陽性。
「どうしよう…」真澄は呆然とした。
淳也も頭が真っ白になった。これは想定外だった。いや、可能性としては考えていたが、現実になるとは思っていなかった。
「病院に行こう」淳也は何とか平静を装って言った。「まずは確認しないと」
自宅からできるだけ離れた病院を探した。翌週、二人は遠くの街の産婦人科を訪れた。人に知られないようにするためだ。
診察の結果、妊娠6週目であることが確認された。医師は49歳での妊娠に驚きながらも、一応の祝福の言葉をかけた。
「高齢出産になりますので、リスクはありますが、ご希望ならサポートします」
診察室を出ると、二人はしばらく無言で座っていた。
「どうする?」淳也がやっと口を開いた。
「…産めない」真澄の声はかすれていた。「まず、お父さんに説明がつかない。それに…一等親の子供だもの。障害のリスクも高い。」
淳也はうなずいた。確かに、医師は遺伝的なリスクがかなり強い。
「でも、堕ろすなんて…」淳也の声も震えていた。
「わかってる。私だって辛い」真澄の目から涙が溢れた。「でも、産んだらもっと大変なことになる。この子が生まれたら、私たちの関係も絶対に続けられない」
それは事実だった。父親が誰か説明できない。ましてや実の息子の子供だなんて、絶対に許されない。
「手術の同意書、僕がサインする」淳也は決意した。「僕の責任だ」
「でも、あなたはまだ20歳。法的には——」
「大丈夫。何とかする」
手術は一週間後に予約された。その間、二人はそれぞれに悩み、苦しんだ。
ある日、真澄が淳也の部屋を訪ねてきた。彼女の目は泣き腫れていた。
「お腹の中で動いている気がするの」彼女はそっとお腹に手を当てた。
「この子、生きたいって言ってるみたい」
「真澄…」
「でも、産めない。ごめんね、ごめんね…」
真澄は泣き崩れた。
淳也は彼女を抱きしめ、一緒に泣いた。彼らが犯した罪の重さを、初めて痛感した瞬間だった。
手術当日、淳也は病院で同意書にサインした。看護師は怪訝な顔をしたが、特に質問はしなかった。
「付き添いの方はお待合室でお待ちください」
「いえ、立ち会います」淳也はきっぱりと言った。
「でも、通常は——」
「お願いします。彼女一人にさせられない」
看護師は医師と相談し、特別に許可してくれた。
手術室で、真澄は淳也の手を強く握りしめていた。「怖い…」
「大丈夫、僕がついてる」淳也は彼女の額にキスをした。
麻酔が効き始め、真澄の意識が遠のいていく。彼女の最後の言葉は「ごめんね…」だった。
手術は無事終わった。しかし、精神的ダメージは計り知れなかった。
「水子様として供養しましょう」看護師が優しく言った。「遺灰をお渡ししますので、お寺で供養なさると良いですよ」
数日後、小さな骨壷が渡された。中にはほんの少しの灰が入っていた。
「こんなに小さいの…」真澄は壷を抱きしめて泣いた。
淳也はあらかじめ用意していたペンダントを取り出した。小さなハート型のペンダントで、中に遺灰を入れることができるものだ。
「これに入れて、ずっと側に置こう」
真澄はうなずき、二人で遺灰をペンダントに移した。
「ごめんね…生まれてこれなくて」真澄はペンダントにキスをした。「でも、ずっとお母さんの心の中で生きていくから」
家に戻ると、二人は普通の親子を演じ続けなければならなかった。真澄は体調不良を理由に数日間寝込んだが、父も兄も更年期の症状だと思い、特に疑わなかった。
しかし、心の傷は深かった。真澄は時折放心状態になり、何時間も窓の外を見つめていることがあった。
「大丈夫?」淳也が心配して声をかけると、
「うん…ただ、少し疲れてるだけ」真澄は笑おうとしたが、その笑顔はどこか虚ろだった。
淳也も罪悪感に苛まれた。自分がもっと気をつけていれば、こんなことにはならなかった——そう自分を責めた。
ある夜、真澄の部屋を訪ねると、彼女がペンダントを握りしめながら泣いていた。
「真澄…」
「この子、男の子だったのかな、女の子だったのかな」真澄の声はかすれていた。「名前もつけてあげられなかった」
「僕たちの子供だよ」淳も涙をこらえきれなかった。「ずっと忘れない。ずっと心の中で生き続けさせる」
「うん…」真澄は淳也にしがみついた。「淳也、私、母親失格だね。子供を守れなくて」
「違う。僕たちが悪いんだ。社会が許さない関係を選んだ僕たちが」
その夜、二人はただ抱き合って泣いた。失った命を悼み、犯した罪を悔やんだ。
しかし、不思議なことに、この悲劇が二人の絆をさらに強くした。共有する苦しみが、互いをより深く結びつけた。
「もう二度とこんな思いはしたくない」真澄が囁いた。
「うん。次からはもっと気をつける」淳也は彼女の手を握った。
「でも…関係を続けるの?」
淳也は真澄の目を真っ直ぐ見つめた。「続けるよ。だって、僕たち愛し合ってるから」
「ええ」真澄は涙ながらに微笑んだ。「愛してるから」
彼らはこの経験を乗り越え、より慎重に、しかし確実に愛を深めていった。失った命は戻らないが、その分、今ある命を大切にしよう——そう誓い合った。
ペンダントは二人の秘密の証となった。真澄はいつもそれを身に着け、淳也も同じデザインのものを首から下げた。それは失った子供への追悼であり、二人の絆の象徴でもあった。
そんな中、ある異変が起きた。真澄の生理が止まったのだ。
最初は更年期のせいだと思った。49歳、閉経が近い年齢だったから。しかし、それに伴うほてりや発汗などの症状はなく、むしろ吐き気や倦怠感を訴えるようになった。
「もしかして…」ある日、真澄が青い顔で淳也に打ち明けた。
「え?でも、母さんもう49歳だよ?」
真澄の声は震えていた。「それに、最近生理不順だったから、まさかとは思わなくて…」
薬局で妊娠検査薬を買い、さっそく試した。結果は明白だった——陽性。
「どうしよう…」真澄は呆然とした。
淳也も頭が真っ白になった。これは想定外だった。いや、可能性としては考えていたが、現実になるとは思っていなかった。
「病院に行こう」淳也は何とか平静を装って言った。「まずは確認しないと」
自宅からできるだけ離れた病院を探した。翌週、二人は遠くの街の産婦人科を訪れた。人に知られないようにするためだ。
診察の結果、妊娠6週目であることが確認された。医師は49歳での妊娠に驚きながらも、一応の祝福の言葉をかけた。
「高齢出産になりますので、リスクはありますが、ご希望ならサポートします」
診察室を出ると、二人はしばらく無言で座っていた。
「どうする?」淳也がやっと口を開いた。
「…産めない」真澄の声はかすれていた。「まず、お父さんに説明がつかない。それに…一等親の子供だもの。障害のリスクも高い。」
淳也はうなずいた。確かに、医師は遺伝的なリスクがかなり強い。
「でも、堕ろすなんて…」淳也の声も震えていた。
「わかってる。私だって辛い」真澄の目から涙が溢れた。「でも、産んだらもっと大変なことになる。この子が生まれたら、私たちの関係も絶対に続けられない」
それは事実だった。父親が誰か説明できない。ましてや実の息子の子供だなんて、絶対に許されない。
「手術の同意書、僕がサインする」淳也は決意した。「僕の責任だ」
「でも、あなたはまだ20歳。法的には——」
「大丈夫。何とかする」
手術は一週間後に予約された。その間、二人はそれぞれに悩み、苦しんだ。
ある日、真澄が淳也の部屋を訪ねてきた。彼女の目は泣き腫れていた。
「お腹の中で動いている気がするの」彼女はそっとお腹に手を当てた。
「この子、生きたいって言ってるみたい」
「真澄…」
「でも、産めない。ごめんね、ごめんね…」
真澄は泣き崩れた。
淳也は彼女を抱きしめ、一緒に泣いた。彼らが犯した罪の重さを、初めて痛感した瞬間だった。
手術当日、淳也は病院で同意書にサインした。看護師は怪訝な顔をしたが、特に質問はしなかった。
「付き添いの方はお待合室でお待ちください」
「いえ、立ち会います」淳也はきっぱりと言った。
「でも、通常は——」
「お願いします。彼女一人にさせられない」
看護師は医師と相談し、特別に許可してくれた。
手術室で、真澄は淳也の手を強く握りしめていた。「怖い…」
「大丈夫、僕がついてる」淳也は彼女の額にキスをした。
麻酔が効き始め、真澄の意識が遠のいていく。彼女の最後の言葉は「ごめんね…」だった。
手術は無事終わった。しかし、精神的ダメージは計り知れなかった。
「水子様として供養しましょう」看護師が優しく言った。「遺灰をお渡ししますので、お寺で供養なさると良いですよ」
数日後、小さな骨壷が渡された。中にはほんの少しの灰が入っていた。
「こんなに小さいの…」真澄は壷を抱きしめて泣いた。
淳也はあらかじめ用意していたペンダントを取り出した。小さなハート型のペンダントで、中に遺灰を入れることができるものだ。
「これに入れて、ずっと側に置こう」
真澄はうなずき、二人で遺灰をペンダントに移した。
「ごめんね…生まれてこれなくて」真澄はペンダントにキスをした。「でも、ずっとお母さんの心の中で生きていくから」
家に戻ると、二人は普通の親子を演じ続けなければならなかった。真澄は体調不良を理由に数日間寝込んだが、父も兄も更年期の症状だと思い、特に疑わなかった。
しかし、心の傷は深かった。真澄は時折放心状態になり、何時間も窓の外を見つめていることがあった。
「大丈夫?」淳也が心配して声をかけると、
「うん…ただ、少し疲れてるだけ」真澄は笑おうとしたが、その笑顔はどこか虚ろだった。
淳也も罪悪感に苛まれた。自分がもっと気をつけていれば、こんなことにはならなかった——そう自分を責めた。
ある夜、真澄の部屋を訪ねると、彼女がペンダントを握りしめながら泣いていた。
「真澄…」
「この子、男の子だったのかな、女の子だったのかな」真澄の声はかすれていた。「名前もつけてあげられなかった」
「僕たちの子供だよ」淳も涙をこらえきれなかった。「ずっと忘れない。ずっと心の中で生き続けさせる」
「うん…」真澄は淳也にしがみついた。「淳也、私、母親失格だね。子供を守れなくて」
「違う。僕たちが悪いんだ。社会が許さない関係を選んだ僕たちが」
その夜、二人はただ抱き合って泣いた。失った命を悼み、犯した罪を悔やんだ。
しかし、不思議なことに、この悲劇が二人の絆をさらに強くした。共有する苦しみが、互いをより深く結びつけた。
「もう二度とこんな思いはしたくない」真澄が囁いた。
「うん。次からはもっと気をつける」淳也は彼女の手を握った。
「でも…関係を続けるの?」
淳也は真澄の目を真っ直ぐ見つめた。「続けるよ。だって、僕たち愛し合ってるから」
「ええ」真澄は涙ながらに微笑んだ。「愛してるから」
彼らはこの経験を乗り越え、より慎重に、しかし確実に愛を深めていった。失った命は戻らないが、その分、今ある命を大切にしよう——そう誓い合った。
ペンダントは二人の秘密の証となった。真澄はいつもそれを身に着け、淳也も同じデザインのものを首から下げた。それは失った子供への追悼であり、二人の絆の象徴でもあった。
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