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第3話:画面越しの作戦会議
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2026年5月。連休が明けると、タイムラインの「淘汰」はさらに加速した。
あんなに熱心だった40人のフォロワーも、今や定期的に投稿しているのは半分に満たない。
残っているのは、よほどの覚悟がある者か、私のように「ここで辞めたら、また元の名もなき主婦に戻ってしまう」という恐怖を抱えている者だけだった。
そんな中、幸正さんとのやり取りは、コメント欄からDM(ダイレクトメッセージ)へと自然に移行していった。
ゆきまさ:
京香さん、権利関係で詰まってませんか?
私の投稿を見た彼から届いたメッセージ。私は正直に、民法の迷宮で溺れかけていることを打ち明けた。
京香:
図を描いても、AがBに売って、さらにCが現れて……となると、もう誰が善意で誰が過失なのかパニックです。やっぱり私には無理なのかな。
すぐにスマホが震える。彼からの返信は、去年の失敗を糧にした、具体的で冷静なものだった。
ゆきまさ:
権利関係は、深追いしないほうがいいですよ。あそこは沼ですから。
それより、借地借家法や賃貸借みたいな比較的点を取りやすいところを徹底的に追い込んで、対抗要件なんかは、とにかく図を描いて整理していくしかないです。
権利関係は、みんなが取るべき問題を確実に取る。それだけでいいんです。
画面をなぞりながら、私は大きく息を吐いた。
「深追いしない」――その一言だけで、肩の力がふっと抜ける。
ゆきまさ:
その代わり、宅建業法と法令上の制限は、満点を目指すつもりで頑張りましょう。……なんて、昨年落ちた僕が言うのも生意気ですけど(笑)
「ふふっ」
暗いリビングで、思わず声が漏れた。
「生意気」なんて。むしろ、その「1点に泣いた」彼の言葉だからこそ、今の私にはどの参考書の解説よりも重く、温かく響く。
パート先のスーパーで品出しをしながらも、私は「建築確認が必要なのは……」と頭の中で反唱するようになった。
夕食を作りながら、スマホの画面に幸正さんからの「勉強進んでますか?」の通知を見つけると、それだけで指先に力が宿る。
夫の忠夫は、私が何に向き合っているのか、相変わらず興味すら示さない。
「おい、明日のシャツ、アイロンかけといてくれよ」
テレビを見ながら背中でそう言う夫。
私は「はいはい」と答えながら、テーブルの下で隠すようにスマホを操作し、彼にメッセージを返した。
京香:
了解です、教官! 今日は業法の「37条書面」を完璧にします。
2026年6月。
外は鬱陶しい梅雨空が続いていたけれど、私のスマホの中には、私を「京香さん」と呼ぶ、たった一人の心強い同志がいた。
このメッセージの積み重ねが、いつしか勉強以外の「何か」を孕み始めていることに、私はまだ蓋をしていた。
あんなに熱心だった40人のフォロワーも、今や定期的に投稿しているのは半分に満たない。
残っているのは、よほどの覚悟がある者か、私のように「ここで辞めたら、また元の名もなき主婦に戻ってしまう」という恐怖を抱えている者だけだった。
そんな中、幸正さんとのやり取りは、コメント欄からDM(ダイレクトメッセージ)へと自然に移行していった。
ゆきまさ:
京香さん、権利関係で詰まってませんか?
私の投稿を見た彼から届いたメッセージ。私は正直に、民法の迷宮で溺れかけていることを打ち明けた。
京香:
図を描いても、AがBに売って、さらにCが現れて……となると、もう誰が善意で誰が過失なのかパニックです。やっぱり私には無理なのかな。
すぐにスマホが震える。彼からの返信は、去年の失敗を糧にした、具体的で冷静なものだった。
ゆきまさ:
権利関係は、深追いしないほうがいいですよ。あそこは沼ですから。
それより、借地借家法や賃貸借みたいな比較的点を取りやすいところを徹底的に追い込んで、対抗要件なんかは、とにかく図を描いて整理していくしかないです。
権利関係は、みんなが取るべき問題を確実に取る。それだけでいいんです。
画面をなぞりながら、私は大きく息を吐いた。
「深追いしない」――その一言だけで、肩の力がふっと抜ける。
ゆきまさ:
その代わり、宅建業法と法令上の制限は、満点を目指すつもりで頑張りましょう。……なんて、昨年落ちた僕が言うのも生意気ですけど(笑)
「ふふっ」
暗いリビングで、思わず声が漏れた。
「生意気」なんて。むしろ、その「1点に泣いた」彼の言葉だからこそ、今の私にはどの参考書の解説よりも重く、温かく響く。
パート先のスーパーで品出しをしながらも、私は「建築確認が必要なのは……」と頭の中で反唱するようになった。
夕食を作りながら、スマホの画面に幸正さんからの「勉強進んでますか?」の通知を見つけると、それだけで指先に力が宿る。
夫の忠夫は、私が何に向き合っているのか、相変わらず興味すら示さない。
「おい、明日のシャツ、アイロンかけといてくれよ」
テレビを見ながら背中でそう言う夫。
私は「はいはい」と答えながら、テーブルの下で隠すようにスマホを操作し、彼にメッセージを返した。
京香:
了解です、教官! 今日は業法の「37条書面」を完璧にします。
2026年6月。
外は鬱陶しい梅雨空が続いていたけれど、私のスマホの中には、私を「京香さん」と呼ぶ、たった一人の心強い同志がいた。
このメッセージの積み重ねが、いつしか勉強以外の「何か」を孕み始めていることに、私はまだ蓋をしていた。
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