48歳主婦の宅建試験挑戦―そして年下彼がくれた勇気と恋

MisakiNonagase

文字の大きさ
3 / 10

第3話:画面越しの作戦会議

しおりを挟む
2026年5月。連休が明けると、タイムラインの「淘汰」はさらに加速した。
あんなに熱心だった40人のフォロワーも、今や定期的に投稿しているのは半分に満たない。
残っているのは、よほどの覚悟がある者か、私のように「ここで辞めたら、また元の名もなき主婦に戻ってしまう」という恐怖を抱えている者だけだった。

そんな中、幸正さんとのやり取りは、コメント欄からDM(ダイレクトメッセージ)へと自然に移行していった。

ゆきまさ:
京香さん、権利関係で詰まってませんか?

私の投稿を見た彼から届いたメッセージ。私は正直に、民法の迷宮で溺れかけていることを打ち明けた。

京香:
図を描いても、AがBに売って、さらにCが現れて……となると、もう誰が善意で誰が過失なのかパニックです。やっぱり私には無理なのかな。

すぐにスマホが震える。彼からの返信は、去年の失敗を糧にした、具体的で冷静なものだった。

ゆきまさ:
権利関係は、深追いしないほうがいいですよ。あそこは沼ですから。
それより、借地借家法や賃貸借みたいな比較的点を取りやすいところを徹底的に追い込んで、対抗要件なんかは、とにかく図を描いて整理していくしかないです。
権利関係は、みんなが取るべき問題を確実に取る。それだけでいいんです。

画面をなぞりながら、私は大きく息を吐いた。
「深追いしない」――その一言だけで、肩の力がふっと抜ける。

ゆきまさ:
その代わり、宅建業法と法令上の制限は、満点を目指すつもりで頑張りましょう。……なんて、昨年落ちた僕が言うのも生意気ですけど(笑)

「ふふっ」
暗いリビングで、思わず声が漏れた。
「生意気」なんて。むしろ、その「1点に泣いた」彼の言葉だからこそ、今の私にはどの参考書の解説よりも重く、温かく響く。

パート先のスーパーで品出しをしながらも、私は「建築確認が必要なのは……」と頭の中で反唱するようになった。
夕食を作りながら、スマホの画面に幸正さんからの「勉強進んでますか?」の通知を見つけると、それだけで指先に力が宿る。

夫の忠夫は、私が何に向き合っているのか、相変わらず興味すら示さない。
「おい、明日のシャツ、アイロンかけといてくれよ」
テレビを見ながら背中でそう言う夫。
私は「はいはい」と答えながら、テーブルの下で隠すようにスマホを操作し、彼にメッセージを返した。

京香:
了解です、教官! 今日は業法の「37条書面」を完璧にします。

2026年6月。
外は鬱陶しい梅雨空が続いていたけれど、私のスマホの中には、私を「京香さん」と呼ぶ、たった一人の心強い同志がいた。
このメッセージの積み重ねが、いつしか勉強以外の「何か」を孕み始めていることに、私はまだ蓋をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...