48歳主婦の宅建試験挑戦―そして年下彼がくれた勇気と恋

MisakiNonagase

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第5話:真夏の新宿、解答用紙の裏側で

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2026年8月、新宿。
高層ビルが照り返す熱気に、眩暈がしそうだった。駅を出てすぐ、予備校の看板を掲げたビルへ向かう。今日は、初めての会場受験、公開模試だ。

入り口付近でスマホを確認すると、メッセージが届いていた。

ゆきまさ:
会場着きました。入り口の自動販売機横にいます。

心臓の鼓動が耳元まで届く。私は汗を拭い、そこへ向かった。
そこにいたのは、白いTシャツにデニムという清潔感のある青年だった。スマホでテキストを確認している横顔は、投稿写真で見たあの綺麗な指先と同じだ。

「……ゆきまさ、さん?」
彼が顔を上げた。
「京香さん、ですか」
22歳の神田幸正は、眩しそうに目を細めて笑った。「もっと……なんていうか、お母さんって感じの人かと思ってました。すごく凛とされてますね」
お世辞でも、その言葉に頬が熱くなる。
「緊張しちゃって。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。座席は指定ですから、終わったらまたここで。……頑張りましょう」

試験中の2時間は、あっという間だった。
鉛筆が紙をなぞる音と、時折聞こえる溜息。自宅の机とは違う、刺すような緊張感。

試験終了後、解答解説冊子が配られ、その場で自己採点が行われた。その後、講師によるポイント解説が続く。
一通り終えて会場を出た時、私は足取りが重かった。

「……27点でした」
駅近くの喫茶店。運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲み、私は正直に告白した。
「二択まで絞れるんですけど、最後の一枚がめくれない。たまたま正解した問題を外すと、実質20点前半。やばいですよね、これじゃ」

幸正さんは、自分の解答用紙を静かに伏せた。
「僕は36点でした」
「……すごい。合格ラインじゃないですか」
宅建は例年、50点満点のうち35点前後が合格基準点になる。15%から17%の枠に入るには、36点は一つの安全圏だ。

けれど、彼は首を振った。
「いえ、全然です。たまたま当たった問題も多かったし、二択で迷って運良く拾えただけ。気は抜けませんよ」
彼は真剣な眼差しで、私の模試結果を分析し始めた。
「京香さん、35点をまんべんなく取ることが大事なんです。苦手な権利関係で粘るより、確実に取れる業法でミスをゼロにしましょう。今日は、その緊張感を味わえただけでも、受けてよかったですよ」

「教官、厳しいですね」
私は少しおどけて見せた。けれど、心の中では彼との実力差に少しだけ焦り、それ以上に、彼と同じ景色を見たいと強く願っている自分に気づいていた。

「……でも、本当に受けてよかった。新宿まで来て、あなたに会えて」
冷えたグラスの水滴が、私の指を濡らす。
「僕もです。京香さんが実在してて、安心しました」

2026年8月の終わり。
新宿の雑踏の中で、私たちは受験仲間以上の、けれど名前のつけられない特別な絆を確認し合っていた。
帰り道、西口のバスターミナルへ向かう彼の背中を見送りながら、私は「27点」という現実を噛み締め、残りの2ヶ月を戦い抜く決意を新たにしていた。
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