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第8話:十月の解答速報
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2026年10月18日、日曜日。
決戦の朝、私は震える指でインスタグラムを開いた。
ハッシュタグ「#宅建」のタイムラインには、夜明け前から戦士たちの叫びが溢れていた。2月にスタートした当初、40人近くいた活発な仲間たちは、脱落やアカウント削除を経て、半分ほどの20人になっていた。けれど、今ここに残っている20人は、文字通り血の滲むような努力を重ねてきた「精鋭」たちだ。
『みんな、絶対に生きて帰ろう!』
『京香さん、教官、信じてます!』
コメント欄に並ぶエールを読み返すうち、視界がじわりと滲んだ。顔も知らない、年齢も住む場所も違う。けれど、この半年間、誰よりも苦楽を共にしてきた同志たち。私は溢れる涙を拭い、最後の一文を打ち込んだ。
「みんなで合格しましょう。行ってきます!」
神奈川県内の大学キャンパス。秋晴れの空の下、私は受験票を握りしめた。試験中の120分間は、異様な集中力の中にいた。「なぜ×か」を呟き続けた日々が、私の背中を押す。幸正さんの「理由を突き詰めろ」という言葉が、私に最後の一択を選ばせてくれた。
15時。終了の合図とともに、教室内が大きな溜息に包まれた。私は足早に会場を後にし、新宿へと向かった。
夕暮れの新宿。喫茶店のいつもの席に、幸正さんはいた。
二人の間に、言葉はいらなかった。テーブルに広げられたのは、書き込みだらけの試験問題。一問ずつ、二人で答えを照らし合わせていく。
「……38点」
私が、絞り出すように言った。
「京香さん……おめでとうございます!」
幸正さんの顔が、パッと輝いた。38点。例年の合格ラインを考えれば、マークミスがない限り、間違いなく合格の数字だ。幸正さんも41点でリベンジを果たしていた。
私はその場で、再びインスタグラムを開いた。
合格ラインに入ったという報告。すると、即座に画面が通知で溢れ出した。
『京香さん、おめでとう! 38点は凄すぎます!』
『ずっと頑張っていたの見てました。自分のことみたいに嬉しい!』
それは、同じように合格ラインを超えて歓喜に沸く仲間たち、そして、惜しくも届かず涙を呑んだ仲間たちからの、温かい言葉だった。
「残念だった。でも、京香さんの合格は私の希望です」というコメント。
15%という高い壁。受験生の10人に1、2人しか通れない過酷な門。その壁を前にして、私は決して一人ではなかった。顔も知らない誰かと励まし合ってきた日々が、38点という数字以上に胸を熱くさせた。
「……やりました。やっと、終わりました」
幸正さんは深く椅子に背を預け、目元を熱く濡らした。
「京香さん」
ふいに、彼が真剣な表情で私を見つめた。店内を流れる喧騒が、遠ざかっていく。
「合格したら伝えたいって言ったこと、今、言ってもいいですか」
私は、38点という数字が刻まれた問題冊子を握りしめ、彼の言葉を待った。
窓の外、新宿の夜が始まろうとしていた。
決戦の朝、私は震える指でインスタグラムを開いた。
ハッシュタグ「#宅建」のタイムラインには、夜明け前から戦士たちの叫びが溢れていた。2月にスタートした当初、40人近くいた活発な仲間たちは、脱落やアカウント削除を経て、半分ほどの20人になっていた。けれど、今ここに残っている20人は、文字通り血の滲むような努力を重ねてきた「精鋭」たちだ。
『みんな、絶対に生きて帰ろう!』
『京香さん、教官、信じてます!』
コメント欄に並ぶエールを読み返すうち、視界がじわりと滲んだ。顔も知らない、年齢も住む場所も違う。けれど、この半年間、誰よりも苦楽を共にしてきた同志たち。私は溢れる涙を拭い、最後の一文を打ち込んだ。
「みんなで合格しましょう。行ってきます!」
神奈川県内の大学キャンパス。秋晴れの空の下、私は受験票を握りしめた。試験中の120分間は、異様な集中力の中にいた。「なぜ×か」を呟き続けた日々が、私の背中を押す。幸正さんの「理由を突き詰めろ」という言葉が、私に最後の一択を選ばせてくれた。
15時。終了の合図とともに、教室内が大きな溜息に包まれた。私は足早に会場を後にし、新宿へと向かった。
夕暮れの新宿。喫茶店のいつもの席に、幸正さんはいた。
二人の間に、言葉はいらなかった。テーブルに広げられたのは、書き込みだらけの試験問題。一問ずつ、二人で答えを照らし合わせていく。
「……38点」
私が、絞り出すように言った。
「京香さん……おめでとうございます!」
幸正さんの顔が、パッと輝いた。38点。例年の合格ラインを考えれば、マークミスがない限り、間違いなく合格の数字だ。幸正さんも41点でリベンジを果たしていた。
私はその場で、再びインスタグラムを開いた。
合格ラインに入ったという報告。すると、即座に画面が通知で溢れ出した。
『京香さん、おめでとう! 38点は凄すぎます!』
『ずっと頑張っていたの見てました。自分のことみたいに嬉しい!』
それは、同じように合格ラインを超えて歓喜に沸く仲間たち、そして、惜しくも届かず涙を呑んだ仲間たちからの、温かい言葉だった。
「残念だった。でも、京香さんの合格は私の希望です」というコメント。
15%という高い壁。受験生の10人に1、2人しか通れない過酷な門。その壁を前にして、私は決して一人ではなかった。顔も知らない誰かと励まし合ってきた日々が、38点という数字以上に胸を熱くさせた。
「……やりました。やっと、終わりました」
幸正さんは深く椅子に背を預け、目元を熱く濡らした。
「京香さん」
ふいに、彼が真剣な表情で私を見つめた。店内を流れる喧騒が、遠ざかっていく。
「合格したら伝えたいって言ったこと、今、言ってもいいですか」
私は、38点という数字が刻まれた問題冊子を握りしめ、彼の言葉を待った。
窓の外、新宿の夜が始まろうとしていた。
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