檻(女子校)の外は底なし沼。 JK解放感と背伸びの性

MisakiNonagase

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CASE1:サヨナラ、潔癖な私(境界線の三月)

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偏差値65。その数字は、凛にとって「人よりは賢いが、決して特別ではない」という、妙に現実味のある自尊心の拠り所だった。都内の中高一貫女子校で過ごした6年間、彼女は常に「正しい選択」を積み重ねてきたつもりだった。ソフトボール部のセンターとして泥にまみれながらも、1時間おきにSPF50+の日焼け止めを塗り直していたのは、部活という非日常に浸りながらも、どこかで「綺麗なままでいたい」という強烈な自意識を握りしめていたからだ。

特に、毎日の電車通学における制服の着こなしには、命をかけていた。学校は生徒の自主性を重んじており、校則らしい校則はほとんどない。周囲に身なりを荒らしている生徒はいないが、だからこそ「どう着こなすか」に個性が問われる。凛は、自由なリュックに自分好みのキーホルダーを揺らし、いかにスカートを短く、かつ品良く見せるかという一点に心血を注いだ。ローファーの磨き具合一つにまで、女子校特有の「閉じた世界の美学」を凝縮させていた。

第一志望の大学に合格し、重い足枷が外れた2月の終わり。解放感に背中を押されるようにして始めたのは、都心寄りのターミナル駅にある駅ナカのカフェバイトだった。目まぐるしく人々が行き交うその場所で、彼女は初めての熱に浮かされた。指導役の大学生、佐伯拓海は、女子中高校という温室で育った凛の目には、あまりにも眩しく映った。

「凛ちゃん、その真面目すぎるところ、大学に入ったら損するよ。もっと肩の力抜きなよ」

拓海にそう笑いかけられるたび、凛は自分がひどく子供っぽく、世間知らずな存在に思えて仕方がなかった。だから、彼から誘われたときも、彼女の返事は一択だった。彼に認められたい、彼と同じ「大人の世界」の住人になりたい。その一心で、彼女は自分の内側から湧き上がる小さな違和感に蓋をした。

3月半ば、卒業式を終えた後のデート。拓海は「凛ちゃんの制服姿、最後に見せてよ。持ってきてくれない?」と事も無げに言った。もう書類上だけの身分。制服を持ち歩く気恥ずかしさはあったが、凛は「拓海さんが喜んでくれるなら」と自分に言い聞かせた。通学電車で命をかけていたあの短いスカートをリュックに忍ばせ、少しだけ濃い色のリップを塗る。それは彼女なりの精一杯の背伸びだった。

初めての夜。彼のマンションで迎えた初エッチは、想像していたものとはかけ離れていた。鈍い痛みと異物感に身体が強張ったが、拓海に「痛いの? やっぱり子供だね」と思われるのが何より恐ろしかった。

「……全然、大丈夫」

無理に作った微笑みは、彼をさらに調子づかせた。彼が喜ぶ顔を見ること、彼に必要とされることだけが、女子校という狭い箱から飛び出した自分の価値を証明する唯一の手段だと思い込んでいたのだ。

合格の報せに相好を崩した両親は、それまでの厳しい門限を嘘のように緩めてくれた。「大学に入るまでの休みくらい、羽を伸ばしなさい」という言葉を隠れ蓑に、凛は「友達の家に泊まる」という嘘を重ね、拓海のマンションへ通う頻度を上げていった。しかし、回数を重ねるごとに、拓海の要求は執拗に、そして露骨にエスカレートしていった。

「今日も、高校の制服持ってきてくれた?」

彼に促されるまま、凛はかつて誇りを持って着こなしていた学校の制服に袖を通す。

「外では見られない姿がいいんだよね。あ、そのままで。脱がないで」

ソフトボールで鍛えたしなやかな脚を、短いスカートから覗かせたまま翻弄される。最初は「彼を喜ばせたい」一心で受け入れていたコスチュームプレイも、次第に度を越していった。

「もっと、女子高生っぽく鳴いてみてよ。自主性を重んじる学校なんだろ? 好きにやっていいんだぜ」

拓海の言葉は、凛が大切にしていた母校の誇りを土足で踏みにじるようなものだった。けれど、一度「物分かりのいい女」を演じてしまった凛には、拒絶する術がない。彼の手が、日焼け止めで守り抜いた白い肌を乱暴に弄り、かつて電車通学で「品良く」見せることに命をかけていたスカートを無造作に捲り上げる。深夜、彼が眠りについた後、凛は暗闇の中で自分の指先を見つめ、(これは、私が望んだ『自由』なのだろうか)と疑念を抱きながらも、翌朝にはまた彼の言葉を信じてしまう。

しかし、その「背伸び」の結末は、あまりにも無残な形で訪れた。

3月31日。明日からは大学生という、境界線上の最後の日。数日前から音信不通になった拓海を追いかけて向かったバイト先で、凛は冷や水を浴びせられる。そこにいたのは、拓海と腕を組む見知らぬ女性だった。

「あなたが例の? 拓海から聞いたわよ。卒業したのにわざわざ制服着てまで誘惑してくる、ストーカーみたいな子がいて困ってるって」

耳を疑った。拓海にとって、凛が自らリュックに詰めて運んだ制服は「都合のいい言い訳」でしかなかった。彼は凛を弄んだだけでなく、自分の浮気を隠すための『被害者役』として、彼女の存在を消費していたのだ。自分が必死に守り、命をかけて着こなしていた制服は、彼の手によって「異常性の証拠」に書き換えられていた。

23時59分。日付が変わる直前、凛はクローゼットに投げ捨てられた制服をじっと見つめていた。

明日から始まる大学生。けれど、そこにはもう、日焼け止めで守り続けてきた清潔な少女はどこにもいなかった。凛はただ、自分の愚かさと痛みを噛み締めながら、独り、静かに「本当の卒業」を受け入れた。
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