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第10章:レンズ越しの対峙
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約束の土曜日、僕は都内のマンションの一室にある、レンタルスタジオにいた。外光を遮断した室内には、数本の照明スタンドと、無機質な白いバックペーパーだけが用意されている。
僕は、あらかじめ用意していた深めのキャップを被り、黒いマスクで顔の半分を覆った。さらに伊達メガネをかけ、猫背気味に椅子に座る。この薄暗い照明の下であれば、よほど近づかない限り、息子である僕だとは気づかれないはずだ。
手元には、この日のために新調した一眼レフカメラ。レンズ越しに母を覗くという行為への、言いようのない高揚と、内臓を掻き毟られるような嫌悪感が、僕の中で渦巻いている。コンコン、とドアを叩く音がした。
「失礼します。本日モデルを務めさせていただきます、中村彩子です」
その声が響いた瞬間、僕の全身の血が逆流した。ドアが開き、一人の女性が入ってくる。今日の彼女は、あの秋葉原で見せた煌びやかな衣装ではなく、ゆったりとしたシルクのガウンを羽織っていた。
けれど、その足元は、あの黒いロングブーツが不自然なほど艶やかに光っている。
「……よろしくお願いします」
僕は声を押し殺し、短く会釈した。母は僕を「少し内気な、年配のファン」とでも思ったのか、営業用のプロらしい、たおやかな微笑みを浮かべてスタジオの奥へと進んだ。
「今日は、どのような雰囲気で撮られますか? 私は……どのような形でも、指示に従いますので」
『どのような形でも』。
その言葉の響きに、僕はめまいを覚えた。目の前で椅子に座り、ガウンの裾から覗くブーツの膝を揃える女性は、間違いなく僕の母・麻紀だ。
しかし、今ここで僕の命令を待っているのは、数え切れないほどの男たちに消費されてきた「女優・中村彩子」だった。僕は震える手でカメラを構え、ファインダー越しに彼女を捉えた。レンズのフォーカスが、彼女の瞳に合う。
そこには、僕を慈しんできた母親の面影と、底知れない快楽と絶望を潜り抜けてきた女の深淵が同居していた。
「……まずは、ガウンを脱いで、そこに横たわってください」
僕は、自分でも驚くほど冷酷な声を出した。母は一瞬、戸惑うような素振りを見せたが、すぐに「承知いたしました」と頷いた。彼女の手が、ガウンの紐にかかる。
スルスルと滑り落ちる布地の下から、プロのライティングに照らされた、白く、成熟した肉体が露わになった。54歳という年齢を裏切るような、張りのある肌。けれど、その二の腕や脇腹には、前回の撮影の残りだろうか、薄らと、けれど確かな「痕跡」が透けて見えた。
「彩子」は、指示されるままに白いバックペーパーの上に身を投げ出した。
ロングブーツだけを履いた、異様な姿。
彼女は、僕が何度も動画で見た、あの「絶望したような、恍惚とした表情」をレンズに向けてくる。
シャッター音が、静かな室内に虚しく響く。僕はファインダー越しに、母のすべてを記録した。
恥丘を覆う細かな産毛、震える乳首、そして、男の命令に従うことに慣れきってしまった、その虚ろな視線。
「もっと、脚を高く上げて……自分の中を、見せるように」
僕の要求は、次第にエスカレートしていった。息子としての理性は完全に崩壊し、僕はただ、この「聖域」を徹底的に汚し、自分の所有物として固定することに執着していた。
母は、言われるがままに屈辱的なポーズをとり、荒い息をつきながら、僕のレンズを見つめ続けている。
その時だ。激しいポーズの最中、彼女の首筋にかけたペンダントが、ライトを反射して強く光った。
それは、僕が最初の給料で彼女に贈った、安物の小さなアクセサリーだった。
撮影用の小道具ではない、彼女自身の私物。その光を見た瞬間、僕の指が、シャッターを切るのを止めた。
僕は、あらかじめ用意していた深めのキャップを被り、黒いマスクで顔の半分を覆った。さらに伊達メガネをかけ、猫背気味に椅子に座る。この薄暗い照明の下であれば、よほど近づかない限り、息子である僕だとは気づかれないはずだ。
手元には、この日のために新調した一眼レフカメラ。レンズ越しに母を覗くという行為への、言いようのない高揚と、内臓を掻き毟られるような嫌悪感が、僕の中で渦巻いている。コンコン、とドアを叩く音がした。
「失礼します。本日モデルを務めさせていただきます、中村彩子です」
その声が響いた瞬間、僕の全身の血が逆流した。ドアが開き、一人の女性が入ってくる。今日の彼女は、あの秋葉原で見せた煌びやかな衣装ではなく、ゆったりとしたシルクのガウンを羽織っていた。
けれど、その足元は、あの黒いロングブーツが不自然なほど艶やかに光っている。
「……よろしくお願いします」
僕は声を押し殺し、短く会釈した。母は僕を「少し内気な、年配のファン」とでも思ったのか、営業用のプロらしい、たおやかな微笑みを浮かべてスタジオの奥へと進んだ。
「今日は、どのような雰囲気で撮られますか? 私は……どのような形でも、指示に従いますので」
『どのような形でも』。
その言葉の響きに、僕はめまいを覚えた。目の前で椅子に座り、ガウンの裾から覗くブーツの膝を揃える女性は、間違いなく僕の母・麻紀だ。
しかし、今ここで僕の命令を待っているのは、数え切れないほどの男たちに消費されてきた「女優・中村彩子」だった。僕は震える手でカメラを構え、ファインダー越しに彼女を捉えた。レンズのフォーカスが、彼女の瞳に合う。
そこには、僕を慈しんできた母親の面影と、底知れない快楽と絶望を潜り抜けてきた女の深淵が同居していた。
「……まずは、ガウンを脱いで、そこに横たわってください」
僕は、自分でも驚くほど冷酷な声を出した。母は一瞬、戸惑うような素振りを見せたが、すぐに「承知いたしました」と頷いた。彼女の手が、ガウンの紐にかかる。
スルスルと滑り落ちる布地の下から、プロのライティングに照らされた、白く、成熟した肉体が露わになった。54歳という年齢を裏切るような、張りのある肌。けれど、その二の腕や脇腹には、前回の撮影の残りだろうか、薄らと、けれど確かな「痕跡」が透けて見えた。
「彩子」は、指示されるままに白いバックペーパーの上に身を投げ出した。
ロングブーツだけを履いた、異様な姿。
彼女は、僕が何度も動画で見た、あの「絶望したような、恍惚とした表情」をレンズに向けてくる。
シャッター音が、静かな室内に虚しく響く。僕はファインダー越しに、母のすべてを記録した。
恥丘を覆う細かな産毛、震える乳首、そして、男の命令に従うことに慣れきってしまった、その虚ろな視線。
「もっと、脚を高く上げて……自分の中を、見せるように」
僕の要求は、次第にエスカレートしていった。息子としての理性は完全に崩壊し、僕はただ、この「聖域」を徹底的に汚し、自分の所有物として固定することに執着していた。
母は、言われるがままに屈辱的なポーズをとり、荒い息をつきながら、僕のレンズを見つめ続けている。
その時だ。激しいポーズの最中、彼女の首筋にかけたペンダントが、ライトを反射して強く光った。
それは、僕が最初の給料で彼女に贈った、安物の小さなアクセサリーだった。
撮影用の小道具ではない、彼女自身の私物。その光を見た瞬間、僕の指が、シャッターを切るのを止めた。
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