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第11章:仮面の剥離
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シャッターを切る指が、かすかに震える。ファインダーの円窓に収まっているのは、中村彩子という「被写体」であり、同時に僕という生命の「源流」そのものだった。
「彩子さん、そのまま……少し、上体を反らしていただけますか」
僕は努めて冷静な、ビジネスライクな声を出す。撮影者としてのマナーを逸脱してはいけない。彼女の体に直接触れるような真似も、決してしてはいけない。それがこの撮影会の厳格なルールであり、僕が「息子」であることを隠し通すための唯一の防壁だった。
彼女が指示に従い、ゆっくりと背中を反らす。その動きに合わせて、重力に従い、たわわな乳房が美しい曲線を描いた。その先に咲く、赤黒く色づいた乳首が、照明の熱を浴びてしなびるように震えている。
その光景を見た瞬間、僕の脳裏に、記憶の地層から掘り起こされた鮮烈なイメージがフラッシュバックした。
(ああ、僕は……これを知っている)
それは言葉になる前の、もっと原始的な、肌の記憶。
僕がこの世に生を受けて間もない頃、泣きじゃくる僕を黙らせ、温かな安らぎを与えていたのは、今レンズの先にあるあの突起だったはずだ。かつて僕が、ただ生きるために必死に吸い付いていた、母性の象徴。それが今、見知らぬ男たちの欲望に応えるために、そして僕という「一人の客」を満足させるために、淫らな光を放っている。
「……次は、正面から、お願いします」
僕の声は、自分でも驚くほど湿り気を帯びていた。
母は従順に脚を割り、その中心部を僕に向けた。
黒いロングブーツと、白く成熟した太もものコントラスト。
その奥に潜む、湿った割れ目。そこは、僕がこの世に這い出してきた、始まりの門だった。二十数年前、僕は彼女の胎内で育まれ、この狭く、熱い通路を通って、産声を上げたのだ。生命の神秘が宿っていたはずのその場所は、今や数多の男たちの肉棒を受け入れ、精液に塗れ、絶叫を上げるための「器官」として、カメラの前に晒されている。
自分がそこから生まれ、そこから栄養を得て育ったという、逃れようのない血の事実。
その神聖な場所を、僕は今、数万円の金を払って「鑑賞」している。
これ以上の冒涜が、この世にあるだろうか。
「彩子さん……いい表情です。そのまま、少し……苦しそうに」
僕はカメラを構えたまま、込み上げてくる嗚咽を必死に堪えた。撮影者として、一線を越える言動は慎まなければならない。
彼女を「母さん」と呼んではいけない。泣き喚いて、その体を抱きしめてはいけない。
母は、レンズの向こうにいるのが自分の愛する息子だとは露ほども思わず、プロの女優として、完璧な「絶望の表情」を作ってみせた。潤んだ瞳が、虚空を見つめる。
その瞳に映っているのは、故郷で自分を信じて待っているはずの息子の姿だろうか。
それとも、この虚飾の世界でしか生きられなくなった、一人の女の孤独だろうか。
僕は、指先に残るシャッターの感触を、自分の罪の重さとして刻みつけた。
僕たちは今、撮影者とモデルという関係を借りて、かつて切り離されたはずの「へその緒」を、より歪な形で結び直そうとしていた。
「彩子さん、そのまま……少し、上体を反らしていただけますか」
僕は努めて冷静な、ビジネスライクな声を出す。撮影者としてのマナーを逸脱してはいけない。彼女の体に直接触れるような真似も、決してしてはいけない。それがこの撮影会の厳格なルールであり、僕が「息子」であることを隠し通すための唯一の防壁だった。
彼女が指示に従い、ゆっくりと背中を反らす。その動きに合わせて、重力に従い、たわわな乳房が美しい曲線を描いた。その先に咲く、赤黒く色づいた乳首が、照明の熱を浴びてしなびるように震えている。
その光景を見た瞬間、僕の脳裏に、記憶の地層から掘り起こされた鮮烈なイメージがフラッシュバックした。
(ああ、僕は……これを知っている)
それは言葉になる前の、もっと原始的な、肌の記憶。
僕がこの世に生を受けて間もない頃、泣きじゃくる僕を黙らせ、温かな安らぎを与えていたのは、今レンズの先にあるあの突起だったはずだ。かつて僕が、ただ生きるために必死に吸い付いていた、母性の象徴。それが今、見知らぬ男たちの欲望に応えるために、そして僕という「一人の客」を満足させるために、淫らな光を放っている。
「……次は、正面から、お願いします」
僕の声は、自分でも驚くほど湿り気を帯びていた。
母は従順に脚を割り、その中心部を僕に向けた。
黒いロングブーツと、白く成熟した太もものコントラスト。
その奥に潜む、湿った割れ目。そこは、僕がこの世に這い出してきた、始まりの門だった。二十数年前、僕は彼女の胎内で育まれ、この狭く、熱い通路を通って、産声を上げたのだ。生命の神秘が宿っていたはずのその場所は、今や数多の男たちの肉棒を受け入れ、精液に塗れ、絶叫を上げるための「器官」として、カメラの前に晒されている。
自分がそこから生まれ、そこから栄養を得て育ったという、逃れようのない血の事実。
その神聖な場所を、僕は今、数万円の金を払って「鑑賞」している。
これ以上の冒涜が、この世にあるだろうか。
「彩子さん……いい表情です。そのまま、少し……苦しそうに」
僕はカメラを構えたまま、込み上げてくる嗚咽を必死に堪えた。撮影者として、一線を越える言動は慎まなければならない。
彼女を「母さん」と呼んではいけない。泣き喚いて、その体を抱きしめてはいけない。
母は、レンズの向こうにいるのが自分の愛する息子だとは露ほども思わず、プロの女優として、完璧な「絶望の表情」を作ってみせた。潤んだ瞳が、虚空を見つめる。
その瞳に映っているのは、故郷で自分を信じて待っているはずの息子の姿だろうか。
それとも、この虚飾の世界でしか生きられなくなった、一人の女の孤独だろうか。
僕は、指先に残るシャッターの感触を、自分の罪の重さとして刻みつけた。
僕たちは今、撮影者とモデルという関係を借りて、かつて切り離されたはずの「へその緒」を、より歪な形で結び直そうとしていた。
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