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第9章:文化祭、忍び込む秘密の作戦(中1・10月)
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2026年、10月。
中学生活にも慣れ、二人の会話には「部活」や「新しい友人」の話題が当たり前のように混ざるようになっていた。
そんな中、朱里の通う私立女子中学校で文化祭(桜華祭)が開催されることになった。
「遥人くん、私の学校、基本的には招待制なんだけど……」
月曜日の放課後、いつもの喫茶店。朱里が差し出したのは、桃色の小さな招待チケットだった。
「家族以外は、招待状がないと入れないの。これ、お姉ちゃんに頼み込んで一枚余分にもらったんだよ。……来てくれる?」
遥人は緊張で唾を飲み込んだ。女子校。それは男子校や共学校に通う男子にとって、未知の聖域であり、同時に少し恐ろしい場所でもある。
「もちろん。朱里の学校での姿、見てみたいし」
「本当? 私、ダンス部の発表でステージに立つの。恥ずかしいけど、遥人くんにだけは見てもらいたくて」
2. 変装(?)と、潜入の朝
文化祭当日。
遥人は悩み抜いた末、一番大人っぽく見える紺色のカーディガンにチノパンという格好で、朱里の学校の門を叩いた。
受付では、お洒落をした他校の女子中学生や、娘の晴れ姿を見に来た保護者たちで溢れかえっている。
「……場違いじゃないかな」
不安になりながらも、招待状を提示して校舎へと足を踏み入れた。
校内は、甘いクレープの香りと、華やかな装飾で彩られていた。
塾時代の、あの殺伐とした模試会場の雰囲気とは正反対の世界。
遥人が掲示板を頼りに講堂へ向かっていると、後ろから「あ、あの子じゃない?」という声が聞こえた。
「ねえ、あの子。仲田さんが言ってた『大切な人』かな?」
「えー、かっこいいじゃん。塾が同じだったって子でしょ?」
朱里の同級生らしき女子たちの囁き声に、遥人は耳を真っ赤にした。
どうやら、朱里は学校の友達にも、自分の存在を(少なくとも一部には)明かしているらしい。それが誇らしくもあり、同時に「変なところは見せられない」と背筋が伸びる思いだった。
3. ステージ上の「ひかり」
講堂の照明が落ち、大音量の音楽が流れ始めた。
ダンス部のパフォーマンスが始まる。
いくつものグループが入れ替わり立ち代わり踊る中、ついに朱里たちのグループが登場した。
遥人は息を呑んだ。
ステージの端から飛び出してきた朱里は、いつもの控えめな彼女とは別人のようだった。
ポニーテールを高く結い上げ、キラキラした衣装を身に纏い、全身を使ってリズムを刻んでいる。
塾の廊下ですれ違った時の、あの消え入りそうな笑顔ではない。
自分の好きなものを全力で楽しみ、光を浴びている一人の少女の姿がそこにあった。
(すごいな、朱里……)
遥人は、彼女が自分の知らないところで、こんなにも眩しく成長していることに感動を覚えた。
同時に、あの時「中学受験」という選択を二人でして良かったと、心から思った。
あの苦しい日々を越えたからこそ、彼女は今、この自由なステージで輝けているのだ。
4. 誰もいない図書室での「再会」
出番を終えた朱里と、事前にメールで打ち合わせた「旧校舎の図書室前」で合流することになった。
文化祭の喧騒から離れたその場所は、驚くほど静かだった。
「遥人くん!」
衣装の上に制服の上着を羽織った朱里が、息を切らして走ってきた。
「あ……お疲れ。すごかったよ、ダンス。びっくりした」
「本当? 緊張して、足が震えちゃったんだけど……でも、客席に遥人くんの顔が見えた時、あ、頑張らなきゃって思ったの」
朱里はまだ少し上気した顔で、遥人を見上げた。
「遥人くんの学校の制服姿もいいけど、今日の私服も……すごく似合ってる」
「……ありがとな」
二人は、静まり返った図書室の窓際で、外から聞こえるブラスバンドの演奏を遠くに聞きながら、ほんの少しだけ寄り添った。
「中学生になって、お互い忙しくなっちゃったけど」
朱里が遥人の手のひらに、自分の指を重ねる。
「でも、こうして遥人くんが私の世界に来てくれると、すごく安心する。……浮気、してないよね?」
「するわけないだろ。あんなに輝いてる朱里を見ちゃったら、他の誰かなんて目に入らないよ」
遥人は、彼女の肩をそっと引き寄せた。
春のディズニーランドで交わしたキスよりも、少しだけ長く、二人の影が教室の床に伸びていた。
中学生活にも慣れ、二人の会話には「部活」や「新しい友人」の話題が当たり前のように混ざるようになっていた。
そんな中、朱里の通う私立女子中学校で文化祭(桜華祭)が開催されることになった。
「遥人くん、私の学校、基本的には招待制なんだけど……」
月曜日の放課後、いつもの喫茶店。朱里が差し出したのは、桃色の小さな招待チケットだった。
「家族以外は、招待状がないと入れないの。これ、お姉ちゃんに頼み込んで一枚余分にもらったんだよ。……来てくれる?」
遥人は緊張で唾を飲み込んだ。女子校。それは男子校や共学校に通う男子にとって、未知の聖域であり、同時に少し恐ろしい場所でもある。
「もちろん。朱里の学校での姿、見てみたいし」
「本当? 私、ダンス部の発表でステージに立つの。恥ずかしいけど、遥人くんにだけは見てもらいたくて」
2. 変装(?)と、潜入の朝
文化祭当日。
遥人は悩み抜いた末、一番大人っぽく見える紺色のカーディガンにチノパンという格好で、朱里の学校の門を叩いた。
受付では、お洒落をした他校の女子中学生や、娘の晴れ姿を見に来た保護者たちで溢れかえっている。
「……場違いじゃないかな」
不安になりながらも、招待状を提示して校舎へと足を踏み入れた。
校内は、甘いクレープの香りと、華やかな装飾で彩られていた。
塾時代の、あの殺伐とした模試会場の雰囲気とは正反対の世界。
遥人が掲示板を頼りに講堂へ向かっていると、後ろから「あ、あの子じゃない?」という声が聞こえた。
「ねえ、あの子。仲田さんが言ってた『大切な人』かな?」
「えー、かっこいいじゃん。塾が同じだったって子でしょ?」
朱里の同級生らしき女子たちの囁き声に、遥人は耳を真っ赤にした。
どうやら、朱里は学校の友達にも、自分の存在を(少なくとも一部には)明かしているらしい。それが誇らしくもあり、同時に「変なところは見せられない」と背筋が伸びる思いだった。
3. ステージ上の「ひかり」
講堂の照明が落ち、大音量の音楽が流れ始めた。
ダンス部のパフォーマンスが始まる。
いくつものグループが入れ替わり立ち代わり踊る中、ついに朱里たちのグループが登場した。
遥人は息を呑んだ。
ステージの端から飛び出してきた朱里は、いつもの控えめな彼女とは別人のようだった。
ポニーテールを高く結い上げ、キラキラした衣装を身に纏い、全身を使ってリズムを刻んでいる。
塾の廊下ですれ違った時の、あの消え入りそうな笑顔ではない。
自分の好きなものを全力で楽しみ、光を浴びている一人の少女の姿がそこにあった。
(すごいな、朱里……)
遥人は、彼女が自分の知らないところで、こんなにも眩しく成長していることに感動を覚えた。
同時に、あの時「中学受験」という選択を二人でして良かったと、心から思った。
あの苦しい日々を越えたからこそ、彼女は今、この自由なステージで輝けているのだ。
4. 誰もいない図書室での「再会」
出番を終えた朱里と、事前にメールで打ち合わせた「旧校舎の図書室前」で合流することになった。
文化祭の喧騒から離れたその場所は、驚くほど静かだった。
「遥人くん!」
衣装の上に制服の上着を羽織った朱里が、息を切らして走ってきた。
「あ……お疲れ。すごかったよ、ダンス。びっくりした」
「本当? 緊張して、足が震えちゃったんだけど……でも、客席に遥人くんの顔が見えた時、あ、頑張らなきゃって思ったの」
朱里はまだ少し上気した顔で、遥人を見上げた。
「遥人くんの学校の制服姿もいいけど、今日の私服も……すごく似合ってる」
「……ありがとな」
二人は、静まり返った図書室の窓際で、外から聞こえるブラスバンドの演奏を遠くに聞きながら、ほんの少しだけ寄り添った。
「中学生になって、お互い忙しくなっちゃったけど」
朱里が遥人の手のひらに、自分の指を重ねる。
「でも、こうして遥人くんが私の世界に来てくれると、すごく安心する。……浮気、してないよね?」
「するわけないだろ。あんなに輝いてる朱里を見ちゃったら、他の誰かなんて目に入らないよ」
遥人は、彼女の肩をそっと引き寄せた。
春のディズニーランドで交わしたキスよりも、少しだけ長く、二人の影が教室の床に伸びていた。
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