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第10章:既読がつかない夜、画面越しの距離(中1・12月)
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1. 魔法の道具、スマホの登場
2026年4月、中学入学のお祝いとして、遥人と朱里は念願のスマートフォンを手に入れていた。
塾時代の「夜22時のPCメール」という制約から解放され、二人の距離は一気に縮まるはずだった。
「おはよ! 今、電車乗ったよ」
「了解。俺もあと3分で着く」
LINEのやりとりは、朝の挨拶から夜の寝落ちまで途切れることがない。
いつでも繋がっている安心感。けれど、その「便利さ」は、同時に新しい「息苦しさ」を二人にもたらしていた。
2. 既読スルーの正体
12月のある金曜日。
遥人は部活の休憩中に、朱里にメッセージを送った。
『明日の放課後、いつもの喫茶店行けるよね?』
しかし、1時間経っても、2時間経っても、既読がつかない。
(塾のときはメールを待つのも楽しかったのに、今は1時間が1日に感じる……)
ようやく既読がついたのは、夜の21時だった。
『ごめん! 瀬戸くんたちのグループLINEで、合唱コンクールの相談が止まらなくて。通知がすごくて、遥人くんのメッセージ埋もれてた』
遥人の胸が、ドクンと跳ねた。
(瀬戸……またあいつか)
グループLINEという、自分が入ることのできない「朱里の日常」が、画面の向こう側に確実に存在している。自分が知らない彼女の顔、自分が知らない冗談。
スマホを手に入れたことで、以前より深く彼女を知れるようになったはずなのに、皮肉にも「自分の知らない彼女の世界」までが可視化されてしまった。
3. SNSに映る「知らない君」
さらに遥人を追い詰めたのは、朱里の友人がSNSにアップした一枚の写真だった。
放課後の教室。朱里が、瀬戸という男子と、一つのプリントを覗き込んで笑っている。
『仲田さんと瀬戸くん、お似合いすぎ!』という、周囲の無責任なコメント。
遥人はスマホを握りしめたまま、自分の部屋で立ち尽くした。
(俺たちは、あの合格発表の日にあんなに誓い合ったのに)
その夜、遥人は堪えきれずに朱里に電話をかけた。
「……もしもし、朱里?」
「あ、遥人くん。どうしたの、こんな時間に?」
朱里の声は明るい。けれど、遥人の声は沈んでいた。
「今日さ、SNSで写真見たよ。瀬戸と楽しそうだったな」
沈黙が流れる。
「……遥人くん、もしかして嫉妬してるの? あれはただの委員会の仕事だよ」
「わかってるけど、メッセージは埋もれるし、写真は楽しそうだし……。スマホなんてなかった時の方が、俺たちの心は近かったんじゃないか?」
4. 画面を消して、声を聞く
「ひどいよ、遥人くん……」
朱里の声が震えている。
「私だって、遥人くんの部活のマネージャーの子が写ってる写真見て、ずっと我慢してたんだよ。スマホがあるから、見たくないものまで見えちゃうだけじゃない!」
初めての、電話越しの喧嘩だった。
二人はしばらくの間、無言のまま繋がった電話を切り損ねていた。聞こえるのは、お互いの荒い鼻息と、微かな嗚咽だけ。
「……朱里」
先に口を開いたのは、遥人だった。
「ごめん。俺、余裕がなかった。スマホに振り回されて、一番大事な『朱里の言葉』を信じられなくなってた」
「……私も。文字だけだと、ついキツい言い方になっちゃう。ごめんね」
二人はその夜、約束をした。
『大事な話は、LINEじゃなくて、会って話すか、電話で声を聞くこと』
便利すぎる道具は、時に心を怠けさせる。
中学受験を戦い抜いた二人に必要なのは、インスタ映えする写真ではなく、泥臭く本音をぶつけ合う、あの頃と同じ「熱量」だった。
冬の夜空、窓の外には冷たい月が浮かんでいた。
画面を消したスマホを机に置き、遥人は深く息を吐いた。
明日は、画面越しではなく、直接彼女の目を見て謝ろう。そう決めて、彼は眠りについた。
2026年4月、中学入学のお祝いとして、遥人と朱里は念願のスマートフォンを手に入れていた。
塾時代の「夜22時のPCメール」という制約から解放され、二人の距離は一気に縮まるはずだった。
「おはよ! 今、電車乗ったよ」
「了解。俺もあと3分で着く」
LINEのやりとりは、朝の挨拶から夜の寝落ちまで途切れることがない。
いつでも繋がっている安心感。けれど、その「便利さ」は、同時に新しい「息苦しさ」を二人にもたらしていた。
2. 既読スルーの正体
12月のある金曜日。
遥人は部活の休憩中に、朱里にメッセージを送った。
『明日の放課後、いつもの喫茶店行けるよね?』
しかし、1時間経っても、2時間経っても、既読がつかない。
(塾のときはメールを待つのも楽しかったのに、今は1時間が1日に感じる……)
ようやく既読がついたのは、夜の21時だった。
『ごめん! 瀬戸くんたちのグループLINEで、合唱コンクールの相談が止まらなくて。通知がすごくて、遥人くんのメッセージ埋もれてた』
遥人の胸が、ドクンと跳ねた。
(瀬戸……またあいつか)
グループLINEという、自分が入ることのできない「朱里の日常」が、画面の向こう側に確実に存在している。自分が知らない彼女の顔、自分が知らない冗談。
スマホを手に入れたことで、以前より深く彼女を知れるようになったはずなのに、皮肉にも「自分の知らない彼女の世界」までが可視化されてしまった。
3. SNSに映る「知らない君」
さらに遥人を追い詰めたのは、朱里の友人がSNSにアップした一枚の写真だった。
放課後の教室。朱里が、瀬戸という男子と、一つのプリントを覗き込んで笑っている。
『仲田さんと瀬戸くん、お似合いすぎ!』という、周囲の無責任なコメント。
遥人はスマホを握りしめたまま、自分の部屋で立ち尽くした。
(俺たちは、あの合格発表の日にあんなに誓い合ったのに)
その夜、遥人は堪えきれずに朱里に電話をかけた。
「……もしもし、朱里?」
「あ、遥人くん。どうしたの、こんな時間に?」
朱里の声は明るい。けれど、遥人の声は沈んでいた。
「今日さ、SNSで写真見たよ。瀬戸と楽しそうだったな」
沈黙が流れる。
「……遥人くん、もしかして嫉妬してるの? あれはただの委員会の仕事だよ」
「わかってるけど、メッセージは埋もれるし、写真は楽しそうだし……。スマホなんてなかった時の方が、俺たちの心は近かったんじゃないか?」
4. 画面を消して、声を聞く
「ひどいよ、遥人くん……」
朱里の声が震えている。
「私だって、遥人くんの部活のマネージャーの子が写ってる写真見て、ずっと我慢してたんだよ。スマホがあるから、見たくないものまで見えちゃうだけじゃない!」
初めての、電話越しの喧嘩だった。
二人はしばらくの間、無言のまま繋がった電話を切り損ねていた。聞こえるのは、お互いの荒い鼻息と、微かな嗚咽だけ。
「……朱里」
先に口を開いたのは、遥人だった。
「ごめん。俺、余裕がなかった。スマホに振り回されて、一番大事な『朱里の言葉』を信じられなくなってた」
「……私も。文字だけだと、ついキツい言い方になっちゃう。ごめんね」
二人はその夜、約束をした。
『大事な話は、LINEじゃなくて、会って話すか、電話で声を聞くこと』
便利すぎる道具は、時に心を怠けさせる。
中学受験を戦い抜いた二人に必要なのは、インスタ映えする写真ではなく、泥臭く本音をぶつけ合う、あの頃と同じ「熱量」だった。
冬の夜空、窓の外には冷たい月が浮かんでいた。
画面を消したスマホを机に置き、遥人は深く息を吐いた。
明日は、画面越しではなく、直接彼女の目を見て謝ろう。そう決めて、彼は眠りについた。
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