上 下
84 / 313
第一部 異世界ものの定番の人たち

71. 異世界332日目 異世界の年始

しおりを挟む
 今日はせっかくなので早めに起きてから新年の朝日を見ることにした。ここの部屋からちょうど見えるからよかった。アメリカにはそのような風習はないみたいだが、せっかくなので付き合ってくれるようだ。天気が良くて良かった。
 もちろんこっちでも新年の朝日を拝むというような風習はないみたいだ。夕べ明日の日の出の時間を聞いたら「0時過ぎに決まってる。」と返された。正確な時間が聞きたかったんだけどね。


 日の出前に0時になったところで挨拶をする。

「「新年おめでとう!」」

 そう言ったところで、ジェンがキスしてきた。

「え?え?」

「今年もよろしくね!」

 軽くだけど、いまキスされたよね? ほっぺにだけど・・・。

「新年の挨拶よ。いやだった?」

「いやじゃないけど・・・」

 そういえばアメリカとかで新年を迎えたときに近くの人とキスするとか言うことがあったような気がする。

 だけど・・・ええ~~~っ!!

 ジェンの唇に目線が行く。ジェンは普通にしているけど・・・ええっ?そんな軽いのりでいいの?

 自分のほっぺに触ると、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。まだ暗いからばれないかな。これはただの挨拶だ。アメリカでは普通の挨拶だ。気にしちゃだめだ。

 ジェンが何か言っているけど全く耳に入ってこない。


 しばらくしてやっと落ち着いた頃に地平線から太陽が昇ってきたのでそっちに目線を移す。異世界での初日の出かあ・・・。まさかこんなことになるとはねえ。お互いに改めて新年の挨拶をしてから朝食へ向かう。



 こっちは新年に何か特別なものを食べるのかと調べたんだが、地域によって異なるようだ。ただ、魚や動物や魔獣などが丸ごと調理されてみんなで食べる感じのようだ。この町では魚となるみたい。
 朝食に行くと、大きな魚が丸ごと焼かれたものがテーブルに置かれていた。そこから食べられる分をよそってもらって食べるらしい。魚はブリかな?
 食事を終えてから準備をして出かけることにした。


「どこに行くの?」とジェンが聞いてくるが、「とりあえず黙って付いてきてよ。」と海岸の方へと移動する。

「魔法で体を浮かべてみて。」

 ジェンの体が浮いたところで自分も土魔法と風魔法で体を浮かせる。それから造っていた魔道具に魔獣石をセットして稼働すると、魔道具を中心に空気の壁のようなものができた。

「よし!それじゃあ移動するからついてきてよ。」

 そう言ってジェンの手を取って海の上へと誘導する。

「水の中に入るから驚かないでよ。魔法は解除しないでね?」

「え?え?」

 ある程度海の上を進んでいき、目標辺りで下に移動する。周りの空気の層に囲われたまま海の中へと入っていく。

「大丈夫だから落ち着いて。」

 ゆっくりと海の中に沈んでいくと、波や空気との境が落ち着いて海の中がよく見えてきた。

「水の中に潜れないかいろいろ試していて、やっとなんとか潜ることができる様になったところなんだ。ただあまり深く潜ると水圧に耐えられないかもしれないのでこのくらいまでしか試してない。それでも結構見応えあると思うよ。どうかな?」

 目の前には熱帯の珊瑚礁が広がっていた。360度の水族館という感じで、なかなか見応えはあると思っている。

「こんなことやっていたんだ。時々出かけてくると言ってどっか行っていたのはこれだったの?」

「まあね。他にもいろいろとやっているけど、使えそうなのは今のところこのくらい。」

「すごいね!ダイビングはやったことがあるけど、それよりも自由に動けるし、すごいよ!!」

「よかった。喜んでくれて。」

「空気の関係もあるから30分ほどで上に戻るからね。安全君が作動したらすぐに上がらないと危ないので。」

 魔道具を中心に空間を確保しているのでその中なら自由に動くことができる。少しずつ移動しながらしばらく珊瑚や魚などを鑑賞してから地上に戻る。

「すごかったわねえ。久しぶりに海の世界を見たわ。ありがとう。」

「よかった。ただ問題なのは、浮遊できないと使えないからこっちの世界の人には今のところは無理だと思うんだよね。
 ほんとは魔道具なしでやってみたかったんだけど、呼吸する分の空気の確保がどうしてもできなかったんだ。それで魔道具を使ったんだけど、魔道具の魔獣石の消費が半端ないんだよ。10分で1000ドールほど使ってしまうんだ。まあたまの贅沢という感じでならいいけどね。」

「うん、ありがとう。少し休憩してからもう一回くらいいかな?」

「大丈夫だよ。そのくらいの資金なら十分にあるからね。ちょっと場所を変えて潜ってみよう。」

 このあとも2回ほど潜り、魚を見ながら水の中で昼食を食べるというかなり贅沢な時間を過ごした。時々魚が飛び込んできてから下に落ちていくこともあってちょっと驚いた。餌をやるとかなり魚も集まってきて大量に魚がこっちに落ち込んできたときは焦ってしまったよ。


 せっかくなので港の方に行ってみると、漁には出ていないようだが、なぜかえらく人が集まっていた。何かと思ったらどうも宴会をしているようだった。
 邪魔したら悪いと思って立ち去ろうと思ったらガバナンさんに見つかって宴会に引きずり込まれてしまった。
 結局この後も宴会は続き、刺身や魚料理を堪能する。夜中まで宴会は続きそうだったので、さすがに夕方には退散する。

 宿に戻ると宿でも宴会している人たちがいた。さすがにもうお腹いっぱいなので早々に部屋に撤収する。ただ、買ってきていたケーキで二人の誕生日を祝うことにした。

 自分たちの誕生日はそれぞれ10月30日と12月15日なんだが、そもそも日付がずれているので意味がないとお祝いはしなかった。なのでこっちの決まりに基づいて祝うことにしたのである。まあ、こっちでは成人の時以外は特に祝ったりはしないみたいだけどね。

「「これ誕生日のプレゼント。」」

 ハモってしまった。どうやらお互いに準備していたみたいだった。収納バッグがあるからそうそうばれないからねえ。
 プレゼントを交換してさっそく中を確認する。ジェンからもらったのは鷹のようなものをかたどった感じのブローチだった。そして自分が渡したのは同じくブローチで猫のような形のものだ。さっそくお互いにブローチをつけてみる。

「どんなものが好きなのかわからなかったから、前に家で猫を飼っていたと言っていたからそれっぽいのを見つけたので買ったんだ。」

「ありがとう。うれしい・・・。私も悩んだんだけど、前にこんな感じのレリーフを見ていいねって言っていたからそれにしたんだけど、よかった?」

「うん、ありがとう。」

 前に雑貨屋で見ていたのを覚えていたんだな。狩りの時には使えないけど、普段の町中ではつけてもいいかもね。

 ケーキは町で有名なところのものだったのでなかなか美味しかった。年末年始などは結構忙しいので早めに購入して収納袋に入れていたのだ。こういうときに収納袋があるのはいいね。


 朝のキスのせいで今日は一日ジェンの顔をまともに見られなかった。見てしまうと唇に目が行ってしまい、顔が熱くなってしまうんだ。今では一緒の部屋で生活しているとはいえ、女性と付き合ったことがない自分にとってはかなり刺激的な一日だったなあ。


 翌日はお店も開いているところが増えていたので、演劇などを見たり買い物をしたりとゆっくりと過ごす。
 夜は宿で宴会となっていたので参加させてもらう。いろいろな情報も聞けて楽しい時間を過ごすことができた。


~ジェンSide~
 今日はこっちの世界の新年だ。特にカウントダウンと言ったような新年のイベントと言うものはないみたいだったので、せっかくだから日本の風習にある初日の出を見ることになった。

 朝早く起きると、空は快晴で朝日が拝めそうだった。0時になったところで新年の挨拶をする。

「「新年おめでとう!」」

 そしてイチのほっぺにキスすると、イチがかなり動揺していた。

「え?え?」

「今年もよろしくね!」

「新年の挨拶よ。いやだった?」

「いやじゃないけど・・・」

「そういえば、日本ではこんな風習はなかったわね。私も小さな頃は父にしていたけど、最近はそこまで親しい人もいなかったからしていなかったわ。あれ?イチ?聞いてる?ねえ、大丈夫?」

 声をかけても返事がない。どうしちゃったんだろう?なにかブツブツ言っているけど、どうしたのかな?そういえばほっぺにキスしてしまったけど、日本ではそういう文化はなかったかな。それで私にはしなかったのね。
 朝日が昇ってくるときにはイチも復活していたけど大丈夫かな?



 今日は何かイチが試していたことに連れて行ってくれると言っていたのだけど、行ったところは海岸だった。飛翔魔法を使ってと言われたので使って浮かぶとイチが何やら魔道具をセットした。そのあと海の上についていくとそのまま海の中へ。
 かなり驚いてしまったんだけど、空気のカプセルみたいになっていて水中にいることができた。ダイビングはやっていたんだけど、久しぶりにこの景色を見るわ。珊瑚に小さな魚もいてとても綺麗。
 360度の水族館みたいでとても楽しい。ダイビングと違って自由に動けるのもいいわね。水の中での食事はとても幻想的だった。餌をやるとかなりの魚も集まってきたしね。こっちに飛び込んできたときは驚いたけど。結局3回も行ってもらうことにしたのよね。


 このあと港でガバナンさんに捕まってしまったのでそのまま宴会に参加させてもらった。これはこれで楽しかったけど、あまり遅くなってもいけないので早めに退散させてもらうことにした。きっと夜中まで宴会してそうだしね。

 宿に戻ってから誕生日祝いと思ったらイチもプレゼントを用意してくれていた。前に雑貨屋で見ていた猫のブローチだった。ちゃんと覚えてくれていたんだね。うちの猫は大丈夫かなあ?っていっても戻ったら時間はたっていないわね。
 このあとケーキも食べて楽しい一日は終わった。イチは今日一日、ずっと目を合わせないような感じだったけど、朝のキスのせいなのかな?スキンシップはちょっと気をつけないといけないわね。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

共鳴のペン

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王子だけど、地雷を踏むヒロインより悪役令嬢の義姉の方が素敵。【連載版】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:202

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,898pt お気に入り:3,109

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:15,870pt お気に入り:1,962

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,797pt お気に入り:2,186

わたくしは貴方を本当に…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2,473

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,158pt お気に入り:3,343

処理中です...