上 下
156 / 313
第一部 異世界での懐かしい人々

140. 異世界692日目 久しぶりのオカニウム

しおりを挟む
 約1年ぶりにやってきたオカニウムだ。まずは入国審査となるが、貴族のスペースは事前に部屋で入国手続きをやってくれているのですぐに下船できるのはありがたい。港は出迎えの人も結構いてかなりごった返していた。


 下船してから港を離れると、ジェンはかけだして町の方へと向かう。向かった先はメイルミの宿だ。今はお昼過ぎなのでまだ開いていないんだが、かまわずに扉を開けて建物に入っていってしまった。

「メイサン!ルミナ!」

 宿のドアを開けて大きな声を上げるジェン。

「は~い、まだ準備中なんですよ・・・。」

 掃除をしていたらしいルミナさんが出てきたんだが、ジェンを見て驚いている。

「ジェニファー!!!ジェニファーなのね?戻ってきたの?メイサン!ジェニファーよ!ジェニファーがやってきたわよ!!」

 その声が聞こえたのかドタドタと音が聞こえてメイサンさんがやってきた。

「ジェニファー!!
 よかった、元気そうだな。それに言っちゃ悪いがたくましくなったな。いまではいっぱしの冒険者か?
 それとジュンイチも元気そうだな。ジュンイチはさらにしっかりしてきた感じだな。ジェニファーとはうまくやっているのか?」

 少し話をした後、二人で宿の手伝いをして仕事を一段落させる。一息ついたところでこれまでのことを色々と話した。

「なんか、すごい冒険をしてきたのね。だけど無事でよかったわ。」

「そうだな。まさかハクセンとタイガまで行ったとは思わなかったぞ。冒険者になっていろいろな国に行くと言っていても行かないやつの方が多いと聞くからな。この大陸を一周してきたんだな。」

 心配するので死にかけたことやさらわれたことなどは黙っておいた。あまり詳しく話せないことも多いからね。

 話が一段落したところで、年明けまではこの町に滞在するのでしばらくここに泊まらせてもらいたいことを話す。好きな部屋を使っていいと言われたのでジェンは開いている部屋を見て二人に確認をとる。

「それじゃあ、204号室の部屋を使わせてもらうわね。」

「「っ!!」」

「ああ、それでかまわないぞ。なんだったら206号室でもいいぞ。」

「「あっ!」」

「いや、私たちはまだそういう関係じゃないから・・・。」

「そうですよ、パーティーメンバーだから一緒に部屋に泊まるのが普通だっただけだから・・・。」

「はいはい、わかったからとりあえず荷物を置いてきなさい。」

 二人に生温かい目で見送られながらツインの204号室に移動する。ちなみに206号室はダブルの部屋だ。どう考えても変な誤解をされているな・・・。



 夕食の時間になるといつもの常連客がやってきたんだが、久しぶりにいるジェンを見ていろいろと声をかけていた。ちょっといやな気持ちになるのは嫉妬なんだろうか?
 話を聞いたジェンの友人のアキラとマラルも夕食にやってきて明後日一緒に出かけることにしたらしい。


 ある程度一段落したところで、ルミナさんから声をかけられる。

「長い船旅で疲れたでしょ?船旅は結構ベッドも狭くて疲れると聞くからね。今日は早めに休んでね。」

「・・・はい、わかりました。ありがとうございます。」

 まあ貴族用の個室で帰ってきたとはいえないな。とはいえ、せっかくなので好意に甘えて早めに休むことにした。

「ジェン、久しぶりの接客で疲れたんじゃないか?」

「まあ疲れてないというわけではないけど、久しぶりに会う人達が声をかけてくれてうれしかったというのが一番ね。結構経つのに私のことをちゃんと覚えていてくれたって言うことがね。」

「明後日は出かける約束をしたと言っていたけど、明日は役場やカサス商会とか回ってみようと思っているんだ。
 あと年末年始はゆっくりしようと思っている。自分の方は特に予定はないからなにか考えておいて。」

「わかったわ。」

 この後は今後の予定を少し話して早めに眠りについた。



~ルミナSide~
 今日はほんとに驚いたわ。いきなりジェニファーがやってきたんだもの。あれから1年半くらい経ったのかしら。かなり立派になっていて驚いたわ。

 ジェニファーが旅立った後、メイサンと誰かを雇おうかと話をしたんだけど、結局二人で頑張ることにしたのよね。ジェニファーが戻ってきたときの居場所を残してあげたいと思ったのかしらね。

 時々手紙が来ていたけど、思った以上に立派になっていて驚いたわ。冒険者も上階位になったと言っていたからかなり頑張ったんでしょうね。
 アルモニアに行くことは手紙で聞いていたけどハクセンやタイガまで行ったと聞いて驚いたわ。それに貴族の方とも知り合いになったというのが驚きだわ。ナンホウ大陸よりはいいけど、やっぱり貴族の権限が強いところは私たち平民にはちょっと怖いところがあるのよね。
 ナンホウ大陸の話は冒険者や商人から聞くんだけど、結構無茶なことを言われたりすることがあるみたいだからね。商人はまだそれを前提にうまく立ち回っているみたいだけど、冒険者の人達は「もう二度と行くか!!」と言っている人達も結構見かけるからね。もし二人がナンホウ大陸にいくって言いだしたらそのあたりは言ってあげないといけないわ。

 だけど一番驚いたのは来年行われる予定のクリストフ殿下の結婚式に招待されたということね。いくら王族を離れた殿下と言ってもやっぱり有名だからね。まさか殿下の相手との関係を取り持ったとは思わなかったわ。また来たときには結婚式の話を聞かないといけないわね。


 だけどジュンイチとはうまくやっているみたいでほっとしたわ。どうなっているか気になっていたんだけど、まさか普通にツインの部屋に入ろうとするから驚いたわ。言われるまで気がつかなかったくらいだからいつものことなんでしょうね。パーティーメンバーでも普通は部屋は分かれて泊まるわよ。
 だけどやることはやっているのかしらね?どうも恋人としては距離感が変なのよね。メイサンは特に気付いていなかったみたいだけど、ここにいる間に一度確認した方がいいかもしれないわね。

~~~~~



 翌朝、宿の手伝いの後で朝食を取り、ジェンと役場へ向かうと、受付にマーニさんがいた。

「あら、ジュンイチさんにジェニファーさんじゃない。お久しぶりですね。」

「マーニさん、お久しぶりです。昨日タイガ国から戻ってきたので登録をお願いします。」

「タイガ国まで行っていたの?昨日の客船で戻ってきたのね。結構色々と回ったみたいね。」

「ええ、いろいろあってせっかくだからと大陸を一周してきた感じですよ。」

「実績ポイントもたまりが早いわね。去年上階位になったばかりでしょ?このペースならあと1年もしないで実績ポイントがたまりそうじゃない?」

「ええ、結構実績ポイントのいい依頼を受けることができたのでよかったですよ。」

 実績ポイントの詳細は記録されているのだが、閲覧は権限がある人しかできないらしい。昇格試験の時には調べられるみたいだけどね。
 良階位以上は常時依頼だけで実績をためてもだめで、特別依頼を最低限一つは受けて高評価をもらわないといないらしい。確実にするには3つ以上は必要らしい。
 上階位で特別依頼を受けることがかなり少ないので結構大変なんだけどね。通常は魔獣の討伐関係を受けるらしいが、そのあたりは昇格が近いときに役場の方である程度融通してくれるらしい。もちろんそれまでにある程度実績を示していないとダメだけどね。
 自分たちはコーランさんたちの護衛が2回、海賊の宝と金属蜥蜴の討伐、北の遺跡調査、ジョニーファン様の使いと6つ受けて高評価をもらっているので十分だと思う。

 手続きを終えてから資料をいくつか確認する。前来たときからはそれほど変わっていない感じだな。少し他の冒険者と話をしてから役場を後にする。


 続いてやってきたのはカサス商会だ。とりあえず納品依頼は無かったんだが、こっちの国に戻ってきたので状況を聞きたかったのである。商売の話が一段落したところでフラールさんが家族のことを話し出した。

「最近になってやっと娘も本格的に商会の仕事をするようになりましてね。今までは冒険者のまねごとなどをやったりしてなかなか本腰を入れていなくてちょっと困っていたんですがね。おそらく親友の冒険者からの手紙を読んで何かやらないといけないと思ったんでしょう。」

「そうなんですか。いずれはこのお店の跡取りと言うことですかね?」

「ちゃんと能力があればですね。一応カサス商会の系列ですので私の一存だけでは決められませんので。一応話すことについて許可はもらっていますので、ちょっと紹介させてください。おい、マラルを呼んでくれ。」

 マラル?ジェンの友人と同じ名前なんだな。しばらくして頭を下げた女性が入ってきた。

「こちらがカサス商会のアドバイザーのジュンイチさんとジェニファーさんだ。くれぐれも粗相のないようにな。」

 顔を上げたマラルさんが驚いていた。

「え?ジェン?」

「マラル?」

 あれ?どう見てもジェンの友人のマラルさんじゃないか?

「こら!ジェンってなんだ!」

「あ、ジュンイチさん、ジェ、ジェニファーさん、よろしくお願いします。」

 あわてて言い直すマラルさんだったんだが、その言葉を聞いたジェンが少し落ち込んでいた。

「フラールさん、お仕事関係の話をする際は仕方ありませんが、マラルは私の親友なのです。ですから普段の言葉遣いとか態度とか気にしなくてかまいません。」

「マラル、もしかして遠くに行ったと言っていた友人ってジェニファーさんのことなのか?」

「うん。ジェン、ジェニファーさんから手紙をもらって。それを見て私も頑張らないといけないと思ったの。」

「マラル・・・」

「・・・わかったわ。ジェン。
 アルモニアとハクセンから手紙を書いてくれていたでしょ?ハクセンでは褒章までもらったと聞いて頑張っているんだと思って、私もこのままじゃいけないと思ったの。」

「そうなんだ。こっちの道を進むことにしたのね?」

「うん。もちろん何かの時のために自己鍛錬は続けているけどね。アキラも本格的に仕事をすることにしたみたいよ。」

「そうなのね。また明日話をしようね。」

 このあとお店の中を見て回り、色々と助言をしてから一緒に昼食を食べることになった。

「まさかあの魔道具を納品しているのがジェン達だとは思わなかったわ。いくつかの魔道具はトップシークレットになっていてわからなかったからね。」

「コーランさんにいろいろと気を遣ってもらっているの。さすがにあまり公にすると狙われたりして困るだろうからね。」

「マラル、このことは絶対に口外はするなよ。」

「さすがにそれはわかっているわよ。」

 食事の後、他にもお世話になったいくつかお店に挨拶して回り、宿に戻る。早めに夕食をとった後、宿の手伝いをしてから眠りにつく。



 翌日ジェンはウキウキしながら出かけていった。自分は宿の手伝いのあと、図書館で調べ物をしたり、役場で資料を見たりした。夜遅くなってジェンはかなり上機嫌で帰ってきた。少しお酒も入っているみたいだったので大丈夫かな?しかしかなり楽しかったんだろう。

~マラルSide~
 その日はカサス商会のアドバイザーと会うことになって緊張していた。カサス商会でもかなり重要な人物らしく、対応は基本的に支店長が行うことになっているのだ。今回は今後の教育を含めて会うことができるようだ。今後の私に大きな影響を与えてくれるはずだと父が言っていた。

 そして部屋に呼ばれて中に入って顔を見たときとても驚いた。なぜジェンがここにいるのかと思ってしまった。ジェンも私の名前を呼んだので間違いないだろう。
 すぐに父から叱責が飛んで慌てて言い直した。ただ混乱して頭が回らない。どういうことなのかと頭の中でぐるぐる考えているとジェンから「私の親友だから」と言われて少し冷静になった。間違いなく本物のジェンだ。

 このあとカサス商会でもトップシークレットになっている魔道具の作成や、カップラーメンなどの販売、商売の方法について助言をしている人と聞いて驚いた。ジュンイチさんも同じ年齢なのに父と対等に話をしていることに驚いた。


 翌日、アキラも合流して遊びに行った。アキラにも秘密を守ってもらうことでアドバイザーのことを話すとかなり驚いていた。このあとは3人で色々と買い物に行ったり、食事をしたりしているとあっという間に時間が過ぎていった。

 夕食の時にジェンにジュンイチさんとのことを聞いてみた。ジェンはかなりアピールしているようなんだけど、ジュンイチさんは気がついているのかいないのか、何も手を出してこないらしい。ただ意識はしているが、なにかが引っかかっているような感じらしい。
 さすがに私たちが理由を聞くのは難しいので、ジュンイチさんの友人とかに話を聞いてもらえないか聞いて見た。「アーマトにいる冒険者か、クリスさんかな?」と心当たりはあるようだ。
 ジュンイチさんもクリスさんという人に相談したいことがあるとか言っていたらしいのでもしかしてそのことかもしれないねと言うと、ちょっとうれしそうにしていた。

 でも話を聞くとクリスさんって・・・クリストフ殿下のこととしか思えないんだけど。詳しく聞くと、どうやら殿下の結婚相手と縁をつないだのが二人だったらしく、今回の結婚式にも招待されているらしい。ちょっと・・・それってすごすぎない?

 なんか、私たちの知らない間にすごい人物になっているよね?だけど、マラルとアキラは私の親友だから、ずっと親友のままでいてねと言われて感激してしまった。結婚式には呼んでよねと言うと真っ赤な顔をして「もしほんとに結婚できたらね」と小さな声で言っていた。
 もうお酒の力を借りてでもジェンから告白した方がよくない?ジェンに告白されて断る人はほとんどいないと思うのになあ。
しおりを挟む

処理中です...