【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

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第二部 異世界の争い

208. 異世界1401日目 交渉

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 商会の中の部屋に案内されるがさすがに警戒しなければならない。前に話したときの感じでは変なことをするとは思えないんだけどね。向こうも変に疑われたくないせいか、オープンスペースのような感じのところに通された。まあ防音処理はされているとは思うけどね。

「すまなかったな、あそこであまり長々話するわけにもいかなかったし、お前達も下手なことはしゃべられなかっただろう。でもどうやってそのペンダントを手に入れたのかは興味があるな?平民から奪ったのか?」

「そんなことはしていないですよ。ただこれを用意してくれた人のことはその人達の迷惑になるので言えません。」

「ふふ、まあいいさ。短い時間だったが、そんなことをする人間だとは思ってないよ。」

「なんの目的で自分たちを案内したのでしょうか?別に知っている人だからと言っても声をかける必要は無かったでしょう?」

「そこまでたいした目的はないさ。単に知った顔がいたから声をかけただけさ。」

 ここに誘った目的は何なんだろう?とりあえずジェンとは今回の革命のことについて話もしているし、こういう交渉事はジェンにお願いしているからな。ジェンの方を見るとうなずいてくれた。

「ハクさんは革命軍の中では結構な地位を持っているのですか?爵位を持っていましたよね?それなのに革命軍に顔が利くというのは何かあるのですか?」

「まあ爵位はあるが、この国の貴族じゃなかったんでね。商売をしているといろいろとな。こう見えても顔は広いんだ。」

「先に断っておきますが、私たちは今回の革命について直接的にどちらかの味方をするつもりはありません。目の前に困っている人がいるなら助けることもあるかと思いますが、戦いに直接参加することはありません。」

「まだ何も言っていないのに先に断りを入れてくるか・・・。まあそこまで固執しているわけではないんだがな。優階位の魔獣を倒したときの能力が気になって、紹介できればと思っただけさ。」

 単に革命軍への誘いだったのか?

「せっかくなのでこちらから少しお願いがあるのですが、それを聞いてもらうことはできますか?」

「内容次第だな。」

「この国を出るための許可証を出していただきたいのです。今は国から出るのは難しいようですが、許可証さえあれば通ることができるのでしょう?」

 貴族ということもあるのでできれば早めにこの国を出ておきたいのが本音だ。別に出られないならどこかで拠点を決めて狩りをしながら決着が着くのを待つという手もあるけど、いつになるかもわからないからねえ。下手したら半年とかかかる可能性もある。ただそれ以外にもこの国のことを考えると話しておきたいことがあるんだよな。

「おいおい、モクニク国の許可証はこっちの国の都合だけでなく、モクニク国の都合もあるから簡単には下りないぞ。それ以前に俺にそんな権限があるわけはないだろう。」

「いえ、モクニク国への許可証ではなく、タイカン国への許可証です。それだったらなんとかなるんじゃないですか?」

「・・・どういうことかな?ここからタイカン国へ行くのは山を越えていくしかないが、いくら夏とは言え山越えはやめておいた方がいいぞ。しかも許可証の発行なんて俺ができるわけ無いだろう。」

 周りの護衛と思われる人達の雰囲気が変わった。殺気と言うわけではないんだが、緊張しているという感じだ。

「ここまで来たらごまかさなくても大丈夫です。あなたの商会はタイカン国との交易品を扱っているんでしょ。別に山を越えなくても通れるルートがあれば季節に関係なく行き来はできるでしょう。前にお会いしたときに、あなたたちがタイカン国に関係があることは把握していますし、今回それを証明できる資料が見つかったので納得できたんです。

 ”古代遺跡の通路”を発見したんでしょ?」

 さすがにハクさんの表情が少し変わった。

「証明できる資料というのは何のことだ?」

「私たちが遺跡の調査をするためにこの国に来たという話はしましたよね。そして遺跡の調査の中でこの大陸の中央を抜ける通路について書かれた資料を見つけたんですよ。その位置がこのオカロニアの西だったのでそこを使っているのだと思ったわけです。
 あなた方と初めて会ったときに、色々と会話をしましたよね?そのときに商会の人とも少し話をしたんですが、多くの人がタイカン語を理解していました。会話の中で使っていたので気がつかれなかったかもしれませんが、おかしいと思っていたんです。」

「会ったときから違和感があったって訳か。まさかそんなところで気がついていたとは思わなかったよ。正直驚きだ。」

「もう一つ確信はありませんが理由があります。それがあなた方を信用する理由でもあります。」

「ほう。聞いてもいいのか?」

「タイラス・チャクシー。

 そしてチャクシー商会のあなたならタイカン国への入国許可証を発行することはできるのではないでしょうか?」

 ハクさんは手を上げて笑い出した。

「恐れ入ったよ。今までもいろいろと商売については疑われたことはあった。ただあの山を越えての商売というものがかなり難しい、割に合わないという認識のおかげでごまかせていたんだがな。
 そしてその名前を知っているとは驚きだ。すべての公式の記録からは消されてしまったと思ったんだがな。他国でもちゃんとした話はほとんど記録にないはずだ。どこでその話を知ったんだか・・・。その口ぶりからすると、依頼書のことも気がついているんだろうな。

 ただ許可証を用意するのは別の話だ。用意することで俺たちに何のメリットがあるんだ?今更このルートがばれてもたいして痛くはないさ。革命が成功したらこのルートは世間に公表するつもりだったからな。」

「ええ、もちろんその対価は考えていますよ。
 おそらく今回の革命の援助の対価としてこの国の鉱物などの権利を差し出しているのでしょう?たとえ国力が落ちるとしても革命を成功させるにはどこかの国に援助をしてもらわなければうまくいくはずがないですからね。
 そしてその代替えとなり得る話をお渡しすることができますが、いかがでしょう?」

「それはこの場で話してくれるのか?」

「ええ、詳細は私たちの要望を受けてくれた後と言うことになりますけどね。」

「わかった、一応話を聞こう。でもいいのか?ここまで話したら俺たちが拷問してでもその情報を得ようとするとは思わなかったのか?」

「あの英雄を尊敬していると言うあなたたちがそんなことをするとも思えません。それに最終的な利益を考えると通行許可証くらいは安いものだと考えるでしょう?」

「彼を英雄というか・・・。まあそうだな。そこまで自信のあるものなのか?」

「ええ・・・。

 先ほど言いましたよね。古代遺跡でこの大陸の中央の山脈を抜ける通路を示したものを発見したと。その通路は一つとは限りませんよね?」

「まさか・・・。」

「ええ、資料によると他にもルートがありました。もちろん遺跡がちゃんと使えるかどうかはわかりませんが、可能性は高いのではないかと思っています。その一つはタイカン国からモクニク国へと抜けるルートです。現在の輸送ルートを考えると、タイカン国にとってはかなり有益な話になると思いますよ。
 もちろんこの話だけで私たちの力を借りずに遺跡を探すことはできるかもしれませんが、どのくらい時間がかかるかはわかりません。
 もちろん許可がもらえないと言うことであればこの話はなかったことでかまいません。その場合は諦めてこの国に留まることでもいいですし、国を出るには他にも方法はありますので・・・。

 ただ今の話は今後のこの国にとってはかなり大きな変換点になると思いますよ。」

「・・・わかった。少し考えさせてくれ。」

「ええ、さすがにあなたの一存では決められないと思いますのでご検討よろしくお願いします。しばらくはこの町に滞在しますので連絡をいただければと思います。」

 さすがに交渉に関してはジェンに任せて良かったよ。自分だったらどういう風に話していいか分からなかったからな。

 そのあとも少し情報交換を行い、商会を出る。



「あ~~~、よかった。緊張したわ。」

 結構堂々としていたけどさすがに緊張していたようだ。店を出てから予想通り監視はつけられているみたいだけどまあそのくらいは仕方が無いだろう。

 前に泊まった宿にチェックインしてから夕食を食べに行く。正直前の時よりも町の雰囲気が良くなっているのはいいことだ。食べ物も美味しくなっているしね。たしかタイカン国は農業国だったから食材については十分な量があるのだろう。おそらく余剰な農作物は輸出して外貨を稼ぎたいはずだ。
 まさかヤーマン王家の秘蔵の書籍がここで役立つとは思わなかったな。普通の本にはほとんど載っていなかったし、載っていても反乱の一言で終わらせられていたからね。
 ヤーマン国ではこの反乱についてちゃんと調査は行われていたみたいで詳細が書かれていたのだ。そのおかげでいろいろと確認することができたのでかなり助かったよ。ただ貴族社会が多いこの世界ではいろいろと国の関係もあってあまり表に出せないことだったんだろうな。


 宿でも監視が付いているみたいだが、のぞきに来るまではしていないようだ。まあさすがにそこまではできないだろうし、こちらの実力もある程度わかっているだろうからね。だけどやっぱり気になるので視界と音は遮断することにしたよ。見られながらするような趣味はないし、他の人に見せたくもないからね。
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