299 / 430
番外編 後日談
9. サクラにやってきた
しおりを挟む
王都のサクラも以前よりエリアが拡張しているみたいだ。建物の高さも若干高くなっているようだが、それよりも横方向へ広がりが大きい。
ただ城の周りの農園はそこまで広がっていない印象を受ける。まあ広がりすぎると魔獣の対応が出来なくなりそうだしね。
さすがにやって来ている人が多く、以前に比べると格段に短いが行列が出来ていた。とはいえ、流れが速いのでそこまで時間はかかりそうにはない。車を収納してから列に並んでゲートを抜ける。
ルイサレムやオーマトと同じように入口付近にはバス乗り場があり、ゲートをくぐったあとには大きな駐車場があった。バス停にはかなりのバスが止まっていて、飛行艇も止まっている。かなり混雑しているのは発着数を考えると仕方がないのだろう。
門から入ったところは拡張されたエリアらしく、入口近くにあった案内板を見ると南自由区画となっていた。もともとあったエリアの外周に4つのブロックが拡張されていて、縮尺が正しいのなら面積は3倍くらいになっているみたい。元々あったエリアは制限区画となっており、入場者は制限されているようだ。
まずは自由区画にある役場の出張所に行っていろいろと確認をしてみる。制限区画に入る項目にはサクラでの滞在期間なども必要みたいだが、良階位以上の冒険者であれば入ることが出来るようだった。
「とりあえず制限区画には入れそうなので最初にクリスさんのところに行ってみるか?」
「まあすぐには会えないかもしれないけど、いったん行ってみてもいいかもしれないわね。」
一通りの案内を見終わって役場を出ようとしたところで前からやって来た団体に目がとまる。
「えっ!?クリスさん!!?」
って、そんなわけはないな。どうやら冒険者のようなんだが、記憶にあるクリスさんの姿が重なる。格好も似ているので余計にそう思ってしまったのだろう。
思ったよりも声が出ていたみたいで、にらまれてしまった。
「たしかに記憶にある姿だけど、いくらなんでもあの若さは無いと思うわよ。」
「それは分かっているけど、あまりに似ていたからとっさに声が出てしまったんだよ。しかも装備も同じような感じだっただろ?」
「たしかに似ていたわね。まさかお子さんって事は無いわよね?」
「まあ、もしそうだったらまた会うこともあるだろう。」
年齢的に考えても子供という可能性はあるけど、変に声をかけるのもやめておいた方がいいだろう。
制限区画のゲートでは少し質問を受けたが、問題なく通り抜けることが出来たのでほっとする。昔の知り合いに会いに来たと説明したんだが、年齢を見てちょっと驚いていたようだ。良階位の更新試験を受けていて良かったな。
先に宿を取ろうと以前よく使っていたシルバーフローへとやってきた。まだあるのか心配だったが、改装されたのかかなり綺麗になっている。
「今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」
身分証明証を確認してから少しすると返答があった。
「はい、大丈夫ですよ。ダブルの部屋で一泊は3500ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」
さすがに前よりもかなり値段が上がっているな。
「それでお願いします。」
特に預ける荷物もないのでチェックインの時間を聞いてからすぐに宿を出る。
記憶を頼りにクリスさんの家に行ってみると、以前と同じ場所に建物があった。多分住む場所は変わってないと思うんだけど、大丈夫だよね?
入口には門番が二人立っているが、知っている人ではない。以前は形だけの門番という感じだったけど、警備が厳しくなっているような気もするなあ。治安が悪くなっているのだろうか?
ちょっと怖いけど、とりあえず聞いてみるしかないよな。
「あの、すみません。クリストフ王爵に面会を希望する場合はどのようにすれば良いのでしょうか?」
門番はじろりとこちらを見てきたが、親切に答えてくれた。
「ん?ああ。直接ここにそんなことを聞きに来るのは珍しいな。
基本的に面会をするにはクリストフ王爵に伝のある人からの紹介しか受け付けていないな。あとはクリストフ王爵との関係を証明できるものを持っている場合くらいだ。
すまんがそれ以上のことは私から説明は出来ない。」
うーん、紹介と言っても今は誰かに紹介してもらうのは難しいよな。最初にクリスさんに連絡を取ろうというのはハードルが高すぎたか?
「たしかにそうですよね。ありがとうございます。」
前は門番が自分たちのことを知っていたから普通に入っていたんだけど、正式な手続きなんてよく分からないもんなあ。
あ、そういえばアムダの戦いの前にクリスさんに渡されたものがあったな。あれを使ったら大丈夫だろうか?
「あの、すみません。クリストフ王爵との関係を証明できるかわかりませんが、以前クリストフ王爵にいただいたものがあるのですが、これは証明にはなりませんか?」
そう言って見せたのはミスリスで装飾された中心に赤い宝石のようなものが付いている装飾品だ。
かなり特殊な加工がされているので簡単には作ることが出来ないらしく、さらにクリスさんの魔力を封印しているので複製は出来ないものと聞いている。装飾の中にはクリスさんの紋章も入っているからクリスさんの関係と分かるはずだ。
「こ、これは・・・。少しお待ちください。」
最初は面倒くさそうにしていたんだが、それを見ると慌て出した。そのあと、「ちょっと待ってください!!」と言って、なにやら門の横にある控え室のようなところで書類をあさっている。しばらくすると戻ってきた。
「申し訳ありませんが、私では正式に確認できません。確認が出来るものを呼びますので少しお待ちください。」
そういってなにやら電話みたいなものでどこかに確認をとると、すぐに執事のような正装をした男性がやって来た。なにやらこっちをじっと見ているが、やっぱり疑われているのだろうか?
「初めまして、執事をしているカルデリアと申します。今回クリストフ王爵より授かったと言われるものをお持ちだと聞きましたが、見せていただくことは出来ますか?」
「ええ、これなんですけど・・・。」
まあとられることは無いと思うので素直に渡すと、なにやらいろいろと確認している。執事と言っているけど、前にもいたのかな?あまり見た記憶が無いんだよなあ・・・。
「たしかにご主人との関係を証明するものになります。ただ・・・。
いえ、すみません。
申し訳ありませんが、ご主人はただいま外出していまして、後で連絡するということでもよろしいでしょうか?お泊まりの場所を教えていただければありがたいのですが、いかがでしょうか?」
「急にやってきて申し訳なかったです。えっと、シルバーフローというところに宿をとっていますので、そちらに連絡をいただければ大丈夫です。」
「承知いたしました。またあとでご連絡させていただきます。」
このままここにいてもしょうがないのでいったん屋敷を後にする。
「時間もあるのでカサス商会に行ってみるか?この名刺ってまだ有効なのかな?」
「流石にそれは無理なんじゃない?」
「でも、普通だったらコーランさんとかには簡単に会えないと思うよ。ダメ元で聞いてみよう。ダメな時はクリスさん経由で聞く方法もあるからね。」
サクラのカサス商会の場所は変わっていなかったんだが、半端なく立派になっていた。建物の案内を見ると、5階までは商店となっているが、それから上はオフィスのようになっているみたい。いるとしたらこの建物でいいみたいだけど・・・。
「すみません。コーランさんかカルニアさんに面会したいのですが、可能でしょうか?」
総合受付のようなところに行って聞いてみる。
「予約はされているのでしょうか?」
「いえ、特に予約は取っていないのですが、以前はこれを見せれば面会できていたので・・・。」
そういって名刺を見せる。名刺にはアドバイザーの肩書きと、カサス商会内で使われていた名前が記載されている。
「えっ?カサス商会のアドバイザー?これは・・・。
・・・
申し訳ありませんが、少し見させていただいてもよろしいでしょうか?」
渡した名刺をなにやら機械にかけてなにやら確認していたが、しばらくすると返してくれた。
「担当の者を呼びますので、しばらくこちらでお待ちください。」
近くにある商談スペースのようなところに案内されたので、そこでしばらく待っているとなにやら見たことのあるような印象の男性がやって来た。
「はじめまして、ここの人事部長をやっているカーランと言います。
今回、持ってこられた名刺なのですが、これをどこで手に入れたのでしょうか?」
やっぱりそうなるよね。
「すみませんが、コーランさんからいただいたものとしか説明できません。」
「名刺本人ということでしょうか?申し訳ありませんが、以前当商会でやっていただいていた事をいくつか説明していただけますか?」
「えっと、インスタント食品やいろいろとお店のアドバイスや結婚式のアドバイスを行いましたが、おそらくこれが一番確認できることだと思います。」
そういって魔符核をカーランさんに見せる。
「以前のものよりも性能は上がっていると思います。補助の術式はもしかしたらもっと効率がいい物があるのかもしれませんが、自分たちの知っている範囲で作成しています。」
カーランさんは慎重に魔符核を受け取り、そこに書かれている付与魔法を確認している。「これは・・・」とかなにやら小さな声でぶつぶつと言っていたが、おもむろに顔を上げた。
「ありがとうございます。いったんこちらの部屋へお願いします。」
そういって案内されたところはかなり立派な応接室だった。一応認めてくれたということだろうか?
しばらくするとカーランさんが年配の男性をつれてやって来た。カルニアさんかな?護衛と思われる人も一緒にやって来ているのは仕方が無いだろうな。
「カルニアさんですよね。お久しぶりというべきでしょうか?」
「あっ、あっ・・・ジュンイチさんとジェニファーさん!!その姿はどうして?」
いったん落ち着いた後、いろいろと昔のことを話すと、護衛の二人とカーランさんは退席した。どうやら信用してくれたみたいだ。ちなみにカーランさんはカルニアさんの息子らしい。
自分たちが亡くなったという話は聞いていたんだが、いろいろと自分の交友関係の人からの話で亡くなったのではないと思ったらしい。それで直接自分たちを知っているカルニアさんが現役の間は契約料の支払いを続けることにしていたようだ。
そしてもしもの時のために受付に名刺を持った二人がやって来た場合の対処方法は伝えていたらしく、今回もスムーズに対応できたようだ。
しばらく話をしていると、ドアがノックされた。
「ああ、父にも連絡が付いたようです。」
そういうとドアが開いて、コーランさんが入ってきた。もう60歳を超えているはずなんだが、まだまだ元気そうだ。
「コーランさん、お久しぶりです。」
「ジュンイチさん、今までどこで・・・」
コーランさんの後ろに入ってきた人も目に入る。年はとっているが、間違いないだろう。
「えっ?まさか・・・、クリスさん?」
~カサス商会受付Side~
私はカサス商会で受付の仕事をしている。カサス商会で働くにはかなりの倍率の競争を勝ち抜かなければならない。ここで働けるというのはかなりのステータスになるからだ。もちろん待遇もいいし、給料もいいからね。
カサス商会は先代のコーラン現相談役の時に一気に事業を拡大し、世界的な商会となった。そのきっかけになったのはインスタントラーメンや重量軽減バッグなどの商品と、画期的な販売戦略だ。コーラン相談役と当時親交のあった人物が中心となって考え出したものらしい。
今では他の商会もまねをしているが、常に漸進的な戦略、そして多くの人脈から今も世界的な規模の商会としてその地位を守っている。
私は本店の受付であるが、面会を求めてやってくる人も多く、事前に人物の選別を行うことをしなければならない。単に取り次ぐだけではないので大変だ。
今日も飛び込みで面談を求めてきた人物がいた。コーラン相談役とカルニア会長への取り次ぎとはとんでもないことだ。しかもかなり二人のことをなれなれしく呼んでいることに少し怒りを感じてしまった。
これはここで断らないといけないと思っていたところ、名刺を出してきた。何の名刺かと思ったのだけど、そこに書かれていたのはカサス商会アドバイザーの名刺だった。
受付業務をやることになったとき、いくつかの特例について説明を受けていた。その中の一つがこの名刺だ。商会内でもこの存在を知っている人は限定されることであり、各支店の受付業務を行うものには周知されていることだ。
本物なのかどうかは確認方法がマニュアル化されており、確認してみると本物であることが分かった。特殊な加工をしたものなので、ある道具を使うと指定された色が見えるのだ。
そのときに初めて指定されている封のされた封筒を開けて確認することが出来るように指示されていて、もちろんこれをあけるのは初めてのことだ。
確認できた色は青であり、開封した中にある青色の場合の封を開けて中を確認した。すぐにカーラン人事部長に連絡を取り、こちらに来ていただくことになった。
部屋に案内してしばらくしたところで別の応接室に移動することになったようだ。案内された応接室は最上級の応接室だ。
噂レベルであるが、コーラン相談役に助言を行っていた人物が持っていたと言われるアドバイザーの名刺。でもそれだったらもっと歳を召されていてもおかしくないはずだけど・・・。
あとで今回のことは箝口令が敷かれた。口外することは許されないが、今回ちゃんとマニュアルに沿った対応をしたと言うことで特別ボーナスをいただくことになった。とてもうれしいことではあるんだけど、あの方達が誰なのか気になってしまう。
ただ城の周りの農園はそこまで広がっていない印象を受ける。まあ広がりすぎると魔獣の対応が出来なくなりそうだしね。
さすがにやって来ている人が多く、以前に比べると格段に短いが行列が出来ていた。とはいえ、流れが速いのでそこまで時間はかかりそうにはない。車を収納してから列に並んでゲートを抜ける。
ルイサレムやオーマトと同じように入口付近にはバス乗り場があり、ゲートをくぐったあとには大きな駐車場があった。バス停にはかなりのバスが止まっていて、飛行艇も止まっている。かなり混雑しているのは発着数を考えると仕方がないのだろう。
門から入ったところは拡張されたエリアらしく、入口近くにあった案内板を見ると南自由区画となっていた。もともとあったエリアの外周に4つのブロックが拡張されていて、縮尺が正しいのなら面積は3倍くらいになっているみたい。元々あったエリアは制限区画となっており、入場者は制限されているようだ。
まずは自由区画にある役場の出張所に行っていろいろと確認をしてみる。制限区画に入る項目にはサクラでの滞在期間なども必要みたいだが、良階位以上の冒険者であれば入ることが出来るようだった。
「とりあえず制限区画には入れそうなので最初にクリスさんのところに行ってみるか?」
「まあすぐには会えないかもしれないけど、いったん行ってみてもいいかもしれないわね。」
一通りの案内を見終わって役場を出ようとしたところで前からやって来た団体に目がとまる。
「えっ!?クリスさん!!?」
って、そんなわけはないな。どうやら冒険者のようなんだが、記憶にあるクリスさんの姿が重なる。格好も似ているので余計にそう思ってしまったのだろう。
思ったよりも声が出ていたみたいで、にらまれてしまった。
「たしかに記憶にある姿だけど、いくらなんでもあの若さは無いと思うわよ。」
「それは分かっているけど、あまりに似ていたからとっさに声が出てしまったんだよ。しかも装備も同じような感じだっただろ?」
「たしかに似ていたわね。まさかお子さんって事は無いわよね?」
「まあ、もしそうだったらまた会うこともあるだろう。」
年齢的に考えても子供という可能性はあるけど、変に声をかけるのもやめておいた方がいいだろう。
制限区画のゲートでは少し質問を受けたが、問題なく通り抜けることが出来たのでほっとする。昔の知り合いに会いに来たと説明したんだが、年齢を見てちょっと驚いていたようだ。良階位の更新試験を受けていて良かったな。
先に宿を取ろうと以前よく使っていたシルバーフローへとやってきた。まだあるのか心配だったが、改装されたのかかなり綺麗になっている。
「今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」
身分証明証を確認してから少しすると返答があった。
「はい、大丈夫ですよ。ダブルの部屋で一泊は3500ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」
さすがに前よりもかなり値段が上がっているな。
「それでお願いします。」
特に預ける荷物もないのでチェックインの時間を聞いてからすぐに宿を出る。
記憶を頼りにクリスさんの家に行ってみると、以前と同じ場所に建物があった。多分住む場所は変わってないと思うんだけど、大丈夫だよね?
入口には門番が二人立っているが、知っている人ではない。以前は形だけの門番という感じだったけど、警備が厳しくなっているような気もするなあ。治安が悪くなっているのだろうか?
ちょっと怖いけど、とりあえず聞いてみるしかないよな。
「あの、すみません。クリストフ王爵に面会を希望する場合はどのようにすれば良いのでしょうか?」
門番はじろりとこちらを見てきたが、親切に答えてくれた。
「ん?ああ。直接ここにそんなことを聞きに来るのは珍しいな。
基本的に面会をするにはクリストフ王爵に伝のある人からの紹介しか受け付けていないな。あとはクリストフ王爵との関係を証明できるものを持っている場合くらいだ。
すまんがそれ以上のことは私から説明は出来ない。」
うーん、紹介と言っても今は誰かに紹介してもらうのは難しいよな。最初にクリスさんに連絡を取ろうというのはハードルが高すぎたか?
「たしかにそうですよね。ありがとうございます。」
前は門番が自分たちのことを知っていたから普通に入っていたんだけど、正式な手続きなんてよく分からないもんなあ。
あ、そういえばアムダの戦いの前にクリスさんに渡されたものがあったな。あれを使ったら大丈夫だろうか?
「あの、すみません。クリストフ王爵との関係を証明できるかわかりませんが、以前クリストフ王爵にいただいたものがあるのですが、これは証明にはなりませんか?」
そう言って見せたのはミスリスで装飾された中心に赤い宝石のようなものが付いている装飾品だ。
かなり特殊な加工がされているので簡単には作ることが出来ないらしく、さらにクリスさんの魔力を封印しているので複製は出来ないものと聞いている。装飾の中にはクリスさんの紋章も入っているからクリスさんの関係と分かるはずだ。
「こ、これは・・・。少しお待ちください。」
最初は面倒くさそうにしていたんだが、それを見ると慌て出した。そのあと、「ちょっと待ってください!!」と言って、なにやら門の横にある控え室のようなところで書類をあさっている。しばらくすると戻ってきた。
「申し訳ありませんが、私では正式に確認できません。確認が出来るものを呼びますので少しお待ちください。」
そういってなにやら電話みたいなものでどこかに確認をとると、すぐに執事のような正装をした男性がやって来た。なにやらこっちをじっと見ているが、やっぱり疑われているのだろうか?
「初めまして、執事をしているカルデリアと申します。今回クリストフ王爵より授かったと言われるものをお持ちだと聞きましたが、見せていただくことは出来ますか?」
「ええ、これなんですけど・・・。」
まあとられることは無いと思うので素直に渡すと、なにやらいろいろと確認している。執事と言っているけど、前にもいたのかな?あまり見た記憶が無いんだよなあ・・・。
「たしかにご主人との関係を証明するものになります。ただ・・・。
いえ、すみません。
申し訳ありませんが、ご主人はただいま外出していまして、後で連絡するということでもよろしいでしょうか?お泊まりの場所を教えていただければありがたいのですが、いかがでしょうか?」
「急にやってきて申し訳なかったです。えっと、シルバーフローというところに宿をとっていますので、そちらに連絡をいただければ大丈夫です。」
「承知いたしました。またあとでご連絡させていただきます。」
このままここにいてもしょうがないのでいったん屋敷を後にする。
「時間もあるのでカサス商会に行ってみるか?この名刺ってまだ有効なのかな?」
「流石にそれは無理なんじゃない?」
「でも、普通だったらコーランさんとかには簡単に会えないと思うよ。ダメ元で聞いてみよう。ダメな時はクリスさん経由で聞く方法もあるからね。」
サクラのカサス商会の場所は変わっていなかったんだが、半端なく立派になっていた。建物の案内を見ると、5階までは商店となっているが、それから上はオフィスのようになっているみたい。いるとしたらこの建物でいいみたいだけど・・・。
「すみません。コーランさんかカルニアさんに面会したいのですが、可能でしょうか?」
総合受付のようなところに行って聞いてみる。
「予約はされているのでしょうか?」
「いえ、特に予約は取っていないのですが、以前はこれを見せれば面会できていたので・・・。」
そういって名刺を見せる。名刺にはアドバイザーの肩書きと、カサス商会内で使われていた名前が記載されている。
「えっ?カサス商会のアドバイザー?これは・・・。
・・・
申し訳ありませんが、少し見させていただいてもよろしいでしょうか?」
渡した名刺をなにやら機械にかけてなにやら確認していたが、しばらくすると返してくれた。
「担当の者を呼びますので、しばらくこちらでお待ちください。」
近くにある商談スペースのようなところに案内されたので、そこでしばらく待っているとなにやら見たことのあるような印象の男性がやって来た。
「はじめまして、ここの人事部長をやっているカーランと言います。
今回、持ってこられた名刺なのですが、これをどこで手に入れたのでしょうか?」
やっぱりそうなるよね。
「すみませんが、コーランさんからいただいたものとしか説明できません。」
「名刺本人ということでしょうか?申し訳ありませんが、以前当商会でやっていただいていた事をいくつか説明していただけますか?」
「えっと、インスタント食品やいろいろとお店のアドバイスや結婚式のアドバイスを行いましたが、おそらくこれが一番確認できることだと思います。」
そういって魔符核をカーランさんに見せる。
「以前のものよりも性能は上がっていると思います。補助の術式はもしかしたらもっと効率がいい物があるのかもしれませんが、自分たちの知っている範囲で作成しています。」
カーランさんは慎重に魔符核を受け取り、そこに書かれている付与魔法を確認している。「これは・・・」とかなにやら小さな声でぶつぶつと言っていたが、おもむろに顔を上げた。
「ありがとうございます。いったんこちらの部屋へお願いします。」
そういって案内されたところはかなり立派な応接室だった。一応認めてくれたということだろうか?
しばらくするとカーランさんが年配の男性をつれてやって来た。カルニアさんかな?護衛と思われる人も一緒にやって来ているのは仕方が無いだろうな。
「カルニアさんですよね。お久しぶりというべきでしょうか?」
「あっ、あっ・・・ジュンイチさんとジェニファーさん!!その姿はどうして?」
いったん落ち着いた後、いろいろと昔のことを話すと、護衛の二人とカーランさんは退席した。どうやら信用してくれたみたいだ。ちなみにカーランさんはカルニアさんの息子らしい。
自分たちが亡くなったという話は聞いていたんだが、いろいろと自分の交友関係の人からの話で亡くなったのではないと思ったらしい。それで直接自分たちを知っているカルニアさんが現役の間は契約料の支払いを続けることにしていたようだ。
そしてもしもの時のために受付に名刺を持った二人がやって来た場合の対処方法は伝えていたらしく、今回もスムーズに対応できたようだ。
しばらく話をしていると、ドアがノックされた。
「ああ、父にも連絡が付いたようです。」
そういうとドアが開いて、コーランさんが入ってきた。もう60歳を超えているはずなんだが、まだまだ元気そうだ。
「コーランさん、お久しぶりです。」
「ジュンイチさん、今までどこで・・・」
コーランさんの後ろに入ってきた人も目に入る。年はとっているが、間違いないだろう。
「えっ?まさか・・・、クリスさん?」
~カサス商会受付Side~
私はカサス商会で受付の仕事をしている。カサス商会で働くにはかなりの倍率の競争を勝ち抜かなければならない。ここで働けるというのはかなりのステータスになるからだ。もちろん待遇もいいし、給料もいいからね。
カサス商会は先代のコーラン現相談役の時に一気に事業を拡大し、世界的な商会となった。そのきっかけになったのはインスタントラーメンや重量軽減バッグなどの商品と、画期的な販売戦略だ。コーラン相談役と当時親交のあった人物が中心となって考え出したものらしい。
今では他の商会もまねをしているが、常に漸進的な戦略、そして多くの人脈から今も世界的な規模の商会としてその地位を守っている。
私は本店の受付であるが、面会を求めてやってくる人も多く、事前に人物の選別を行うことをしなければならない。単に取り次ぐだけではないので大変だ。
今日も飛び込みで面談を求めてきた人物がいた。コーラン相談役とカルニア会長への取り次ぎとはとんでもないことだ。しかもかなり二人のことをなれなれしく呼んでいることに少し怒りを感じてしまった。
これはここで断らないといけないと思っていたところ、名刺を出してきた。何の名刺かと思ったのだけど、そこに書かれていたのはカサス商会アドバイザーの名刺だった。
受付業務をやることになったとき、いくつかの特例について説明を受けていた。その中の一つがこの名刺だ。商会内でもこの存在を知っている人は限定されることであり、各支店の受付業務を行うものには周知されていることだ。
本物なのかどうかは確認方法がマニュアル化されており、確認してみると本物であることが分かった。特殊な加工をしたものなので、ある道具を使うと指定された色が見えるのだ。
そのときに初めて指定されている封のされた封筒を開けて確認することが出来るように指示されていて、もちろんこれをあけるのは初めてのことだ。
確認できた色は青であり、開封した中にある青色の場合の封を開けて中を確認した。すぐにカーラン人事部長に連絡を取り、こちらに来ていただくことになった。
部屋に案内してしばらくしたところで別の応接室に移動することになったようだ。案内された応接室は最上級の応接室だ。
噂レベルであるが、コーラン相談役に助言を行っていた人物が持っていたと言われるアドバイザーの名刺。でもそれだったらもっと歳を召されていてもおかしくないはずだけど・・・。
あとで今回のことは箝口令が敷かれた。口外することは許されないが、今回ちゃんとマニュアルに沿った対応をしたと言うことで特別ボーナスをいただくことになった。とてもうれしいことではあるんだけど、あの方達が誰なのか気になってしまう。
13
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる