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番外編 後日談

12. クリスさん一家

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訓練をしながらサクラの町も少し散策してみたが、いくつかの店は無くなっていたり、店舗が大きくなっていたり、逆にかなり小さくなっていたりといろいろだ。まあ20年も経てばそんなものだろうな。


今日はクリスさんとの約束の日だったので屋敷に向かう。事前にもらっていた招待状を門番に見せるとすぐに通してくれた。
門を抜けて建物に向かうと、門番から連絡が入ったせいか、玄関のところでみんなが待っていた。その中に例の冒険者達の顔があったんだが、かなり驚いているようだ。

クリスさんとスレインさんとアルドさんと・・・、あれ?イントさんとデルタさんの姿が見えないぞ。なにか用事をしているんだろうか?スレインさん達はもう40歳を超えているはずなんだが、思った以上に若々しい。以前のジェンよりも若く見えるのはやっぱり種族のせいなのだろうか?

「こんにちは。スレインさん、アルドさん、お久しぶりです。」

「ジュンイチ、ジェニファー、よく来てくれたな。」

「久しぶり!!まさかまたこうやって会えるなんて信じられないよ!!」

「ああ、ほんと亡くなったと聞いたときはほんとにショックだったからなあ。」

そう言ってスレインさんとアルドさんが話しかけてきたんだが、やはりイントさんとデルタさんがいないようだ。

「ありがとうございます。
あ、あの・・・イントさんとデルタさんは?」

そういうとクリスさんがちょっと目を伏せて言ってきた。

「ああ、二人はな・・・。」

「あ、そ、そうなんですか・・・すみません。」

やはり20年も経つと亡くなっている人がいてもしょうが無いか・・・。ジェンもかなりショックを受けているようだ。

「まあ、それはまた後で話しことにしよう。

それからこっちにいるのが息子と娘達だ。名前だけは分かるものもいるかもしれないが、さすがに会ったのは赤ん坊の頃だったからな。改めて紹介するよ。
上からスレインの息子のスリク、イントの娘のイルラン、アルドの息子のアルリフ、デルタの息子のデリフ、娘のデルニアだ。この5人は一応紹介したことがあったと思う。

いろいろと経験させるためにうちの店で少し修行した後、いくつか知っているところで働かせてもらっていたんだ。そのあとまたうちの店に戻ってきて修行しているところだが、定期的に冒険者としても活動している。
これは妻達とも話して決めたことなんだが、やはり私たちが冒険者だったこともあり、身分を気にせずいろいろと世間を知るにはいいことだと思ったからな。そこそこ実力はあると思うので、あとで相手をしてやってくれると助かる。

あとジュンイチ達がいなくなった後で生まれたのが、スレインの娘のスラー、アルドの息子のアルリフ、デルタの娘のデストルだ。こっちはまだ成人したばかりで商会で手伝いをしているんだが、この3人もある程度したら冒険者として各地を見て回らせるつもりでいる。

ん?どうしたんだ?」

「あ、あの・・・彼らが父上の親友でアムダの英雄のジュンイチさんとジェニファーさんなのですか?」

「ああ、いろいろあって見た目はかなり若いんだが、間違いないぞ。」

やはり普通の反応はそうなるよな。どう考えても彼らより年下に見えるからなあ。

「ジュンイチと言います。そしてこっちが妻のジェニファー。クリスさんやスレインさん達にとてもお世話になったものです。まあ、クリスさん達が付き合うことになるときにいろいろとお世話をしたこともあるんだけどね。あのときのクリスさんは・・・」

「ジュンイチ!!」

「あれ?あまり言ったらまずかったですか?」

「いろいろと言われると、父としての威厳がな・・・。」

「まあ詳しい話は後でするとして・・・アル君とリク君、そしてデル君とあとはイルランさんとデルニアさんかな?もしかしてと思ったけど、やっぱりクリスさんの子供達だったんだね。二人の動きがスレインさんとアルドさんに似ていたのでもしかしてと思っていたんだけどね。
しかもアル君はクリスさんにそっくりだし、装備もクリスさんが使っていたものを手直ししたもののようだったみたいだね。
あと、スラーさん、アルリフくん、デルトルさん初めまして。」

「「「「「・・・・!!」」」」」
「「「は、はじめまして!!」」」

「なんだ、もしかしてアル達はもう会っていたのか?

そういえば・・・先日訓練場で年下の冒険者に全くかなわなかったとぼやいていたな。もしかしてジュンイチ達のことだったのか?
おまえ達も結構なレベルと思っていたのに、おまえ達より若いのにまったくかなわなかったときいてちょっと驚いていたんだが納得だよ。私の全盛期でも勝てなかったんだから、おまえ達がまだかなうわけがないな。

まあ、立ち話も何だからとりあえず中に入ろうか。」


部屋に案内されると、以前と同じサイズのテーブルが一つ増えており、その一つに子供達が座るようだ。自分たちはクリスさん達の座っているテーブルに座ることになるが、イントさんとデルタさんが座っていた席はあいたままだ。
二人はいないんだが、まるでそこにいるかのように食器などが準備がされていた。いつもこんな風にしているのだろうか?

みんなが席に着くとメイドさん達がお茶を運んできた。クリスさん達と話していたんだが、ふとお茶を運んできた人の顔が目に入る。

「イントさん!!」
「デルタさん!!」

ジェンとの声が重なった。

「あら、すぐに分かっちゃった?」
「もっと引っ張ろうかと思っていたんだけどな。」

「えっ?えっ?クリスさん!どういうことですか!?」

「すまんな。今回の話をしたらみんなかなり驚いてな。20年も待たせたんだから仕返しすると言って聞かなかったんだ。
って、泣かなくてもいいじゃないか・・・。」

「い、いや、20年も経っているからそんなこともあるかと納得しようとしていたのに・・・でも良かった・・・。」

ほんとに亡くなったのだと思っていたから、涙が止まらなかった。ジェンも泣きながら笑っていた。



このあと出会った頃の話や結婚の頃の話など昔話をしているとあっという間に時間が過ぎていった。クリスさん達はすでに冒険者は引退しているが、やはり今もある程度鍛錬は続けているらしい。みんな体格は当時とあまり変わっていない感じだしね。
商売は食堂の経営が中心だが、他にもいろいろと手を広げているらしく、カサス商会と提携しているものもかなりあるようだ。ヤーマンが中心ではあるが、他の国に支店も出しているらしく、かなりの規模になっているようだ。

いずれは子供達の誰かが後を継ぐ形になるだろうと言うことだが、まだ時間はかかるだろうとみているみたい。



子供達はアムダの戦いのことがかなり気になっていたみたいでいろいろ話してあげるとかなり感激していた。

ちなみに冒険者をやっているときはクリスさんの子供達と言うことは伏せられており、名前も愛称で呼び合っているみたいだ。
今は仕事もあるのでなかなか遠出は出来ないらしいが、良階位に上がれば他の国に行くことを計画しているみたい。

夕食を終えた後はそのまま夜遅くまで7人で語り合った。いくら話してもつきなくて、結局床に就いたのは10時を回ったところだった。



翌朝はいつもの習慣で早く目が覚めたので、ジェンと庭で鍛錬していると、子供達がやって来た。相手をしてもらえないかと言われたので順番に相手をしていく。十分見所がありそうな感じだが、まだまだ鍛錬が足りないのはしょうが無いところか?

ふと気がつくと、少し離れたところでクリスさん達がお茶を飲みながらこっちを見ていた。一段落したところでクリスさん達のところに行って自分たちもお茶をいただく。

「ジュンイチ、おまえ達そんなに強かったのか?動きを見ていると前に別れたときよりも格段に強くなっているように思うぞ。何というか動きがなめらかだ。」

「なんか以前より体の動きが良くなっているんですよね。なので最初はかなり戸惑いましたよ。最近になってやっと身体の動きになれてきたところです。」

実は地球にいたときにも鍛錬を続けていたせいか、武道系のスキルもかなり上がっていてスキルが5になったものもいくつかあったんだよな。最近まで気がつかなかったんだが、どうやらスキルの恩恵で能力が上がったことも身体の動きが先行する理由だったみたいだ。

結局この後もいろいろと話が尽きず、そのまま2泊することになってしまったよ。その間にまた別の人に会うことになってしまったんだけどね。


~クリストフSide~
あれからもうどのくらいだっただろう。親友を失うとは思った以上に私の心に傷を残した。ただ、夢で会ったジュンイチの言葉が私を繋ぎ止めてくれだ。決して死んだわけではない。いつかきっと戻ってくると信じて・・・。


長年の付き合いのあるカサス商会のコーラン相談役と打ち合わせをしているとノックの音が響いた。打ち合わせ中にやってくるとはよほどの急用なんだろう。

伝言を受け取った彼から衝撃の言葉が発せられた。

「ジュンイチさんとジェニファーさんがやってこられたようです。」

ジュンイチだと!!本当なのか?ただコーランがそんな嘘をつく意味が無いし、よく知っている彼だからこそ確信があるのだろう。


彼の後について入った部屋に二人の姿を見つけた。年をとっているわけではなく、当時のままの姿だ。本当にジュンイチとジェニファーなのか?
そう思っていると以前ジュンイチに渡した装飾品を出してきた。震える手でそれを受け取り、魔力を当てて確認してみる。私が渡したもので間違いないし、残っている魔力からもジュンイチ本人であることは疑いようもないだろう。
本当に、本当に戻ってきたのか・・・。
涙が止まらなかった。
おかえり・・・。


ジュンイチ達から聞いた話は衝撃だったが、当時の状況や今の二人の風貌を考えると信じるしかないだろう。
もっとゆっくり話したかったんだが、このあと外国からきている要人の相手をしなければならないので仕方なく店を後にした。またあとで会う約束をしたので大丈夫だろう。話したいことはいっぱいあるのでできる限り時間を空けよう。


スレイン達に連絡を取り、要人の対応を済ませてやっと明日二人がやってくる日になった。家に戻るとすでにスレイン達が戻ってきていた。たしか夜遅くなると言っていたと思うんだが、よほど急いで戻ってきたのかもしれないな。

「クリス!!ジュンイチとジェニファーが戻ってきたというのは本当なのか!!」
「いったいいままでどこに!!」
「どういうことなんだ!」
「二人は元気にしてたの?」

一気に話しかけられて収拾が付かない状態になってしまった。いったんお茶を入れてもらい、落ち着いた後で簡単に経緯を話した。かなり驚いていたようだが、かなりうれしそうだった。
イントとデルタから二人をだまそうという提案があった。「あれだけ心配をかけたんだがら、残された人たちの気持ちを少しは分かってもらわないと」と言うことだったんだが・・・。

興奮して話す私たちの姿に子供達はかなり驚いているようだった。それよりもアムダの英雄がやってくると言うことにさらに驚いている。子供達にとってはあこがれの存在だからな。



無理をしてでも仕事を先に終わらせて時間を空けておいて良かったと本当に思った。久しぶりの二人との会話はつきることなく、初日は明け方まで話してしまった。
気の置けない友人というのは結局後にも先にもジュンイチ達だけだったからな。こうやって再び酒を酌み交わしながら楽しい話を出来て本当によかった。ただデルタ・・・珍しいお酒は分かるが、飲み過ぎだよ。


~スリクSide~
自分はスリク・ヤーマン。冒険者として活動しているときは本名は伏せてリクとだけ言われている。それは父のことが関係している。父は現国王の弟であり、すでに王室から出たとは言え、復帰することの出来る王爵という地位に就いている。
このためいろいろと接触を図ろうとしている人たちも多く、自分たちも利用されないように小さな頃からいろいろと教育を受けてきた。

商売人としても冒険者として尊敬する父だが、それ以上に父を自慢と思うのはアムダの英雄との関係だ。アムダの英雄のジュンイチとは親友という間柄だったらしく、お互いの結婚式にも出席しあう仲だったらしい。どちらかというと父の方が慕っている感じだ。
二人が亡くなったと聞いたときはそれはひどいくらい落ち込んでいたらしい。ただ夢で二人からのメッセージが届いたと言って気力を戻したらしいが、母を含めてその夢のことは本当に信じているようだ。


アムダの英雄を知ったのは少し大きくなったときに読んだ伝記だ。かなりわくわくした内容だったが、それを父に話したときに、親友だったという話を聞いて驚いた。たしかに話の中に父のような人物も出てくるが、それが本当に父だったとは思いも寄らなかった。
ある程度成長した時に父からアムダの英雄の話は作られたものがかなり多いと聞いて少しショックを受けた。アムダの英雄によく出てくるタルバンのパーティーとは確かに親交があったみたいだが、一緒に冒険をしたことはないはずだと言っていた。結構好きな話だったんだけどな。
実際の人物像も若干違っていたが、正義感が強く、頼まれると断れない性格は間違っていないようで、目標とするには間違いない人物だと言っていた。

ちなみに自分の言い方や話し方もジュンイチにあこがれてまねたものだ。



鍛錬は必要だと他の兄弟と一緒に勉学だけでなく、武道についてもいろいろと学んだ。本当はジュンイチのような戦い方にあこがれていたんだけど、残念ながら魔法の才能はあまりなかったようでそれはあきらめた。そして装備についてもどちらかというとジェニファーのスタイルがあっていたみたいだ。アルがちょっとうらやましかった。

成人してからしばらくいろいろな仕事をした後、やっと冒険者としての活動の許可が出た。ただし良階位になるまでは国から出ることは禁止されていたのでひたすらがんばった。やっとあこがれの冒険者になれたんだから。


鍛錬のために行ったサクラの訓練場ですごい二人に会った。自分たちよりも若いのに正直全くかなわないレベルだったのだ。自分は女性の方と戦ったんだが、途中から指導のようななってしまったくらいだ。アルもかなり鼻っ柱を折られて、帰ってから父にかなり愚痴っていた。

このときにかなり衝撃的な話をきいた。他言することは伏せられたが、なんとあのアムダの英雄がやってくるらしい。死亡したと聞いていたが、それは間違いだったようだ。本当に彼の英雄に会えるのか?興奮してなかなか眠ることが出来なかった。



アムダの英雄という二人を見たときには見間違いかと思ってしまった。若いと言うこともあるが、先日訓練場で相手をしてもらった人たちだったからだ。
うちの母達も若いんだが、それよりもずっと若い。「本当に英雄の二人なのか?」と思ったが、父とのやりとりを見ているとどう考えても友達との会話だ。父とここまで親しく話す人物は見たことがない。本当の兄弟と話すときでももう少し堅いからな。
しかも母達も一緒になって二人をだまそうにするなんて、正直こんな一面があったことに驚きだった。


そのあと紹介を受けてかなり緊張してしまった。食事の間も二人の会話に耳を傾けていたが、そのあとアムダの話を聞いたときはかなり興奮した。

翌日稽古を付けてもらったんだが、やはり改めて本当に実力の差を感じた。いつも両親が目標にするなら二人を目指すといいと言っていた気持ちが分かったような気がする。武道だけでなく、知識力や人柄についてもあこがれることの出来る人物だったからだ。
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