【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

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14. ジェンside-1 異世界にやってきた

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14. ジェンside-1 異世界にやってきた
ジェニファーが異世界にやってきたからの話です。ジュンイチと出会ってからの内容はジュンイチと別視点の見方および心情となります。主人公以外の心情は明確にしない方がいいという意見もあるかもしれませんが、自分的には書いておきたい内容だったのでこのあともジェンSideの話は書いていくことになります。
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 私の名前はジェニファー・クーコ。アメリカニューヨークのハイスクールに通っている。顔もスタイルもなかなかのレベルだと思っているわ。東洋の血が混じっているので人によってはちょっと差別してくる人もいるけどね。でもそのせいか、肌が綺麗ねとよく言われるわ。親はいくつかの大きな会社を経営していていわゆるお金持ちと言われる階層なのよね。

 両親ともに忙しいせいで、会えるのは月に数回くらいだったけど、誕生日とかの記念日にはちゃんと休みを取ってお祝いをしてくれるし、私のことを大切に思っているのは分かるくらいの愛情を注いでくれた。
 それに両親はあまり家にはいなかったけど、小さな頃から世話をしてくれている家族のような人たちもいて、特に寂しい思いをしたことはなかったわ。


 学校の勉強はあまり好きじゃないけれど、将来のことを考えて語学や経営学などには力を入れているし、自衛のために合気道などの武道も習っている。

 学校に行き、友達と遊び、学校の後は習い事や家庭教師からの教育を受ける。友達といえる人は結構いるけど、本当の友達かというと違うかもしれない。みんな私の容姿や私の後ろにあるものを見ているだけで私という人間を見ているわけではないと感じている。それが悪いとは言わないし、そういう付き合いも必要と思っているのだけどね。
 ボーイフレンドもいるけど、本気で付き合うような人にはまだ出会えていない。両親は学生時代に出会って恋に落ちたらしいので、そういうことにあこがれているけど、なかなかないのよね。

 小さな頃からこのような環境で育ってきたので、表情や行動を見るとある程度その人のことが分かるようになってきた。もちろんまだまだ人生経験は少ないのでうまく隠している人もいるとは思うけどね。そういう面が先に見えてしまうせいもあってなかなか踏み込めないのかもしれないわね。

 勉学については落ちこぼれというわけではないけれど、平凡であり、商才については両親ほどはないと感じてる。高校生になってからは両親の仕事に付き添ったり、業務の一部を手伝ったりとかしてるけど、将来事業を継ぐのかどうかも分からないし、両親が本気で継いでもらおうと思っているのかも分からない。

 最近空いた時間には日本の漫画や小説を読んでいる。日本語がちゃんと読めればいいのだけれど、まだ勉強中なので翻訳されたものしか分からないから新しいものが読めないのがちょっと残念。
 でも、こういう小説に出てくる金持ちの女の子ってなんでこんなに性格が悪い人が多いんだろう?私の周りにもお金持ちの娘は結構いるけど、こんな人はかなり珍しいと思うんだけどなあ。



 夕食を終えてからやっと一息ついてそろそろシャワーを浴びようかと思っていると、急に辺りの風景が変わった。真っ白な空間の中に投げ出された感じ。夢?そう思っているとまた景色が変わった。

「えっと、ここはいったい・・・?」

 ホテルかどこかのロビーなのだろうか?大きなホールにカウンターがあって中で仕事をしている人が見える。働いている人はファンタジーな人たちだ。呆然とたたずんでいると声が聞こえてきた。

「はじめまして、ジェニファー・クーコ様。私は異次元課のスイサイと申します。」

 自分の名前を呼ばれて我に返ると、長い黒髪の女性が立っていた。東洋人?にしては顔立ちは私達に近いわね?

「とりあえずこちらにどうぞ・・・。」

 案内されるままに近くにあるボックス席に座る。ふと周りを見ると、他にも案内されている人がいた。あっちは男の人かな?



 いろいろと説明をしてくれるのだけど、最近読んでいる異世界転移のような話だった。夢?きっと夢よね?夢だったら夢で楽しまないといけないかな?

 今回は転生ではなく、どうやら異世界に転移する設定みたい。勇者召喚とかではなくて、たんに世界の狭間に入ってしまい、別の世界、いわゆる異世界ね、に行くことになったらしい。
 ただ向こうに行って戻れないわけではなく、10日間で戻ってこられるようだからまだ大丈夫ね。行き先は剣と魔法の世界でモンスターもいるので、行っている間死なないように楽しんでくださいと言うことだった。
 異世界ものの定番のようなチートスキルというもがないのは残念ね。夢にしてはあまり都合がいい設定ではないわ。

「そろそろ時間になります。」

 そう言われたところで再び目の前が真っ白になった。



 目を開けるとどこかのベンチに座っていた。

「えっ?ええっ?ええ~~~~っ!!」

 しばらく辺りの風景に混乱していたのだけど、やっと落ち着いてきた。大声を上げたせいか、あたりでこちらを見ていた人も「なんだったのかな?」という感じで去って行った。
 もしかしてこれって夢じゃないの?日の光や漂う風など、どう考えても夢ではない。しかも夜遅かったはずなのに、どう見ても昼間になっている。時間的には昼過ぎ位なのかな?

 私もついに異世界デビュー!?

 って事じゃなくて、こんなことならもっとしっかりと話を聞いておけば良かったわ。とりあえず周りの状況を見る限りそんなに危険という感じでもないわね。まだ太陽も高い位置にあるし、もうしばらくはここにいても大丈夫そうね。
 この世界についてはガイド本に記載されていると言っていたから、まずは状況を確認することから始めましょ。



 一通りガイド本を読んで、表に表示されている時間を見てみる。あと10日間かあ。長いような短いような時間ね。でもせっかくこういうファンタジー世界に来たんだからやっぱり魔法よね。あとは魔獣の退治とかかな?

 身分証明証を見てみるとこんな感じに書かれていた。

名前:ジェニファー
生年月日:998年12月15日
年齢:17歳
職業:なし
賞罰:なし
資格:なし
クラス:なし
婚姻:なし

 生年月日の年数はもとの世界と変わっているけど、生まれた日付は変わってないのね。年はこっちの世界の付け方なのかな?年齢はまだ16歳のはずだけど年齢の数え方が違うのかもしれないわね。たしか東洋の方で生まれたときに1歳という数え方があったと思うからそれなのかも。


 身につけていたリュックにはいつも持ち歩いているものが大体入っていた。ただブラスチックケースの材質とかは変わっているのでこっちにはない材質なのかな。化粧品とかは最低限のものが入っているし、生理用品は材質が若干変わっているんだけど、大丈夫なのかな?ピリオドを考えると10日間なら大丈夫か。


 異世界ものの定番と言えばチートスキルだけど・・・説明にあったように、何もないというのが残念ね。こっちの言葉だけは話せるようになっているみたいだけどね。定番の鑑定スキルを得るにはすぐには無理そうなので10日間では諦めるしかないかな。商人のスキルにある鑑定だったらなんとかなるかな?

 服装はこっちの人の服装という感じに変わっているし、武器として短剣も身につけていた。お金は一日1000ドールあれば十分と言っていたので、もらった5万ドールあれば十分生活できるはず。感覚的に1ドル=10ドールという感じかしら?
 荷物の中の巾着袋に硬貨が50枚くらい入っているようなのでこれ1枚が1000ドールと考えたらいいのかな。とりあえず2枚くらいは別にして取り出しやすいところに移しておこう。お金の保管方法も考えないといけないわね。

 ただ魔獣を狩るにしても装備とかもいるし、それ以前に魔法とか使えるようになりたいけど、どこかで教えてもらうことはできるのかな?レベルを上げたらすぐにスキルを覚えられるというわけではないみたいだからそんなに簡単に魔法とかが使えるようになるわけでもなさそうだしね。

 まずは10日間過ごすことのできる環境の確保が一番なんだけど、冒険者ギルドのような受付もやっているという役場に行ってみるのが最初かな。そこに行けば町の情報も得られると思うしね。



 途中で道を聞きながら役場へとやってきた。冒険者の窓口である受付はお昼のせいか人も少ないので助かるわね。

 冒険者について説明を聞いたけど、ちょっとイメージしていたのとは違っていたわね。まあそれでもせっかくなので冒険者登録してもらおう。
 冒険者の登録には100ドールかかるようなので持っていたお金で支払いをすると、おつりに少し小さな色の違う硬貨が9枚返ってきた。数的にはこれが10ドール硬貨と言うことかな?お金はすべて魔獣石と言われる魔獣から取り出すものを代用して使っているみたいなのですべてコインというのがちょっと慣れないところね。

 魔法の講習会が明日あるようなので早速受けさせてもらうことにする。あとは女性が一人でも安心して泊まる手頃な値段の宿がないかを聞いてみると、いくつか候補を教えてもらえてくれた。

 町の中央から少し外れたところにあるメイルミの宿というところが一番良さそうだったのでここにするかな。宿は夫婦で運営しているところで、一泊400ドールで朝食もついているので値段的には手頃なのかな?とりあえず一泊だけお願いすることにして、良さそうなら延長すればいいか。
 時間もそんなに十分あるわけじゃないから、泊まるところはそこまでこだわらなくてもいいのよね。それよりもいろいろと体験することの方が重要だわ。


 役場に戻ってからいろいろと置いてある資料を読んでみる。近郊の魔獣であれば少し訓練すれば一人でもなんとかなるかな?受付で聞いた限りでは、子供でも倒せるくらいの魔獣もいるみたいだしね。あとはあまり考えたくはないけど、魔獣だけでなく人間の方も気をつけないといけないかな。

 一通り資料を読み終わったけど、まだ夕食には早い時間だったのでいろいろと店を見て回ると、思ったよりも文明が進んでいることが分かった。調味料とかもかなり充実しているし、食材もかなり豊富なので食べ物については大丈夫そうね。

 美容関係はもとの世界の方がいろいろ進んでいる感じだけど、ある程度そろっているので問題はなさそう。ただやっぱり値段は結構するみたいなのはどこの世界でも一緒かな?とりあえず今持っているクリームや乳液や簡単な化粧道具があれば10日間なら十分足りそうなので大丈夫かな。


 電化製品も魔道具という形で大体のものがあるし、車もあるようなのであまり生活レベルは変わらないとみていいのかな?車の値段は高いのでまだ一般的に普及していないかもしれないけど、ないわけではないからね。
 ただテレビやラジオはないみたいなのが残念ね。まあ劇場みたいなものがあったのでこの分野については遅れている感じかな。

 こうやって見てみると、大体のものがあるのでよくある異世界知識チートというものはできそうにもないかな。まあ10日間であればお金は十分なのでいいんだけど。

 鍛冶屋に行くといろいろと装備が売られていたけど、今のところ短剣はあるので明日はこのままでも大丈夫かな。薬や携帯食もあるからね。

 宿に戻って部屋に荷物を置いた後、併設する食堂でご飯を食べることにした。メニューはビーフシチューのようなものにパンとサラダで、味もなかなかよかった。これだと私の料理の知識の出番はないわね。うまく作れないけど、知識だけはそれなりにあると思うんだけどね。遅くなると酔っ払いも出てきそうだったので早々に部屋に戻ってガイド本を何度か読み返してみる。


 私が持っているスキルは予想通りという感じ。ただ学識関係のスキルレベルが思ったより高いのはこの世界の知識レベルが低いと言うことなのかしら?
 レベルアップという概念がないし、スキルはその関係の経験や知識を手に入れた場合に認定されるものなので簡単には上がらないと言うことなのね。地道に鍛えていかないといけないってことね。

 とりあえず短剣の扱い方を習って、攻撃魔法や治癒魔法を使ってみたいかな。あとは何か面白いものがないかを見てまわるくらいね。

 暦は若干差があるけれど、もとの世界と大きな差はないみたいだし、時間も1時間が120分と考えればいいだけだからそこまで差はなさそう。

 シャワーを浴びたけど、お湯も出るし、石けんやシャンプー、トリートメントまであるので十分だった。明日は講習もあるのでちょっと早めに休むことにした。

 家で使っているベッドに比べると寝心地は良くないけど、まあこのくらいのものだったらまだ十分かな。思ったよりもぐっすり眠っていたのは昨日精神的に疲れてしまったせいと、もとの世界で夜だったのにそのまま昼になっていたので実質起きている時間が長かったこともあるのかもしれない。だけど特に時差ぼけにもならなかったので助かったわ。



 翌朝の朝食はトーストとハムを焼いたものと野菜のサラダとデザートというメニューだった。卵はちょっと高めだったからメニューには入れられないのかな?

 朝食を終えてから、宿はもうここでいいかと残りの9日分の支払いを済ませることにした。もっといいところもあると思うけど、10日間だったらここでも十分と思うからね。簡単に準備を整えてから役場へと向かう。


 役場の受付で魔法の講習会費用の200ドールを支払って訓練場へ。案内が出ている場所に行くと、私の他に私と同じくらいの年齢の男性がいたんだけど、女性はいないみたい。この3人は同じパーティーの人なのかな?私の方を見るとすぐにやってきて話しかけてきた。

「講習を受けるんだよね?一人だけ?もしまだ初心者でパーティーを組んでいないなら俺たちと一緒にどう?」

「一人ですけどまだ冒険者としてやっていくかはわかりませんので、パーティーとかまでは考えていません。ありがとう。」

「わかった。もし俺たちのパーティーに興味があったら声をかけてくれよな。まだ俺たちも初心者の集まりみたいなもだからパーティー内の役割はこれから決めていく感じなんだ。」

「そうそう。今のところ3人とも使えるのは剣や弓だけなんだけど、誰か魔法を使う素質がないか講習を受けに来ているんだ。」

 普通にパーティーの勧誘だったみたいね。話した感じだと初心者レベルの人に声をかけて仲間を集めているみたいね。少し話をしていると、講師の方がやって来た。

「よし、みんなそろっているな。今回はこの4人と言うことだが、そっちの3人は講習2回目だったな。とりあえず前回の内容を復習しておいてくれ。
 えっと、そっちのジェニファーか?魔法については基礎からと聞いているが、間違いないか?」

「はい、基本から確認したいと思っています。」

「分かった。それでは簡単な講義から始めよう。ただ今日の講師は私一人だけなので、簡単な内容しか出来ないことは理解してくれ。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

 まずは魔法がどんなものなのかの説明を受けてから実践となったんだけど、魔素というもののイメージがなかなかつかめない。指導員が集めた魔素を触ってみると少し感覚がつかめたのか、しばらくするとやっと魔素というものを体に取り込むことができるようになった。

 このあとはそれを手に集めることに集中すると、結構あっさりとできるようになった。日本の漫画の知識が役に立っているのかな?
 それからイメージで貯まった魔素を変換したり操ったりするんだけど、まずは空気を操るのがやりやすいと言うことだったので挑戦してみる。

「手のひらにある魔素をつかって空気が集まるイメージをするんだ!そして、ある程度集まったと思ったところで的に向かって飛ばすんだ!」

 言われていることは分かるけれど、実践するというのはまた別の事みたいね。


 お昼には近くで買ったサンドイッチを食べてからひたすらイメージを繰り返していると、やっと手のひらに空気の塊のようなものができるようになった。これを手のひらから飛ばすイメージをするが、途中で霧散しているのか何も変化がない。
 ひたすらイメージを繰り返していると、的に何か当たった。当たったよね?繰り返すと間違いなく自分の飛ばした空気の塊が当たっているようだ。

「で、できた?」

「お、空気弾ができたか?威力はまだまだだが、イメージはうまくいったようだな。あとはこのイメージを膨らませていけば威力が上がってくるはずだぞ。」

 よかった。魔法だよね。まだはっきりと自覚しにくいけど魔法が使えたよね。でも、もう少し魔法っぽいのがいいから・・・水の生成とかやってみようかな?
 このあとしばらく魔素を水に変換するイメージをしていると、手のひらに水の玉が生まれた。

「や、やった!!!水が作れた!!!」

「おおっ!!すごいな。水の生成が出来たのか?水の生成は水を操るよりも上のレベルなのによく出来たな。
 この水は飲むことも出来るから、水を作れるのなら狩りの時とかにはかなり助かるぞ。もちろん飲み水としても使えるし、他にも使い道は多いからな。」

 指導員は1日で風魔法と水魔法が使えるようになったのをみて驚いていた。多分イメージの仕方の問題だと思うけど、これって漫画とか本とか読んでいたせいでイメージしやすかったのかな?でもこれだったら他の魔法もイメージがうまくいけば使えるようにはなりそうね。ただまだまだ威力が弱すぎて戦いには使えそうにないんだけどね。

「なあなあ、もしよかったら夕食をおごるからコツとか教えてくれないかな?」

 講義の最初の時の態度と違ってかなり丁寧な感じで聞いてきた。

「それじゃあ、店はこっちで決めてもいいならいいわよ。」

 変な店に連れて行かれても困るので、宿の近くの店を指定して行くことになった。事前にいくつか店を確認しておいてよかったわ。

 彼らは本当に魔法のことが聞きたかったようで、食事の間色々と質問をしてきた。とりあえず私が持っているイメージを伝えてあげて、こちらも変な印象を持たれない範囲で情報収集することにした。最初はちょっと緊張したけど、思ったよりも楽しい食事だった。

「本気で冒険者になるようだったら、パーティーのことは考えてくれよな!!」

 食事をおごってくれた後、そう言って去って行った。もしもずっとこの世界にいることになったらパーティーを組むことを考えてもいいのかもしれないわね。

 宿に戻ってからシャワーを浴びてベッドでくつろぐ。魔法で空気や水を操るのはとても楽しいわね。やっぱり異世界と言ったら魔法だよね。絶対にもとの世界ではできないことだから。いろいろと遊んでいるとかなり遅い時間になってしまったので慌てて眠りについた。



 夕べは夜更かしをしてしまったせいか朝はなかなか起きることができなかった。宿にモーニングコールをお願いしていてよかったわ。目覚まし時計のようなものがあればいいんだけど、こっちでもあるのかな?なにか考えないといけないわね。

 朝食はロールパンのようなものと、ソーセージとサラダだった。今日は剣術の講習があるのでしっかりと食べておかないといけないわ。

 準備を整えてから役場に行って講習の受付をすませる。講習費用は魔法の講習よりも安く50ドールだった。訓練場の集合場所に行くと、今回は講習に女性もいたのでちょっとほっとする。



 今回の講習で受けることができるのは剣や短剣となっていたので短剣の使い方を習うことにした。訓練では練習用の短剣を使ってやるみたい。
 剣や弓はスキルを持っているんだけど、フェンシングや弓道で身についたスキルなのでさすがにこっちの武器を使えるとは思えないからね。スキルを持っているから補正でそれらの武器が使えるというわけではないみたいだし。

 ある程度の基本的な型を習ってから素振りや指導員との対人を繰り返す。さすがにそう簡単に使い方に慣れるわけではないのだけど、しばらくやっているとなんとなく形っぽくなってきた・・・かな。

 お昼の時に講習を受けていた人たちと話をすると、全員が成人した人ではなく、成人前の人たちも護身術の意味も含めて講習を受けているようだった。ちなみに成人した人は一応冒険者登録しているけど、冒険者になるというわけではないみたい。

 すでに働くことは決めているが、こういう世界なのである程度魔獣とも戦えるようになっていた方がいいと言うことで訓練を受けているみたいだ。

 午後も他の講習生と一緒に訓練を続けたけど、これだけで十分なレベルになったとは思えないので、もうしばらく講習は受けておいた方がいいかもね。明日も短剣の講習はあるみたいなので受けることにしようかな。

「ねえねえ、せっかく知り合ったんだから私達と一緒に夕食に行かないかな?」

 宿に戻ろうと身支度を調えていると、一緒に講習を受けた女性二人から声をかけられた。

「えっ?私と?」

 二人がうなずいてくれたんだが、見た感じでは純粋に食事を誘っているみたいね。

「それじゃあ、折角だから・・・。どこかいい店を知ってる?」

「最近よく行ってるおすすめの店があるわ。値段もお手頃だし、きっと気に入ると思うわよ。遅くなると混んでくるからこのまますぐに行こうと思っているけど、どう?」

「わかったわ。行きましょう。」

 移動しながら簡単に自己紹介をする。彼女たちの名前はアキラとマラルで、この町で生まれ育った幼なじみらしく、今年の1月に成人したばかりのようだ。今は2/6なので1ヶ月前くらいなのかな?調べてみたところ、年齢は1/1にまとめて上がると言っていたはず。

 二人の親は漁師と雑貨屋経営をしているらしく、今は家の手伝いをしながら訓練をしているらしい。一応冒険者として時々二人で狩りに行ったりしているようだが、結果は聞かないでと言っていた。

 私は他の村からやってきたんだけど、両親は急用が入ったせいで別の町に行ってしまい、少しの間一人で生活しているということにしている。もともと小さな村で過ごしていてほとんどそこから出たことがなかったのであまり周りの情勢がわかっていないと言うことにした。なんか事情がありそうと言うことでそれ以上の詮索はされなかったので助かった。

「この店にしようと思っているけどいいかな?」

 店の外観は他と変わらないんだけど、中は綺麗に飾り付けられており、女性が好みそうな雰囲気のところだった。まだちょっと時間が早いせいもあり、店内はすいていたので早速席に着く。

 メニューに日替わりのセットが2種類あったので、ハンバーグセットの方を注文する。セットで40ドールとかなりお手軽で量も女性向きというという感じだった。

 やっぱり女性と言うだけでパーティーに誘われることが多いみたいだけど、実力も確認せずにいきなり誘ってくる人達はどう考えても危なくて一緒には行けないと言っていた。まあそれは当然よね。他にも色々と町の情報や今のはやりなど聞くことができて、とても楽しい時間を過ごすことができた。

 帰りに雑貨屋に行くと目覚まし時計のようなものがあったので購入していく。どういう構造なのか聞いてみると、「それは1ドール硬貨で使えるタイプだよ」と返答があった。よく見てみると、後ろの部分に硬貨を差し込む穴が開いていたので、ここに魔獣石を入れると魔素を取り出すということなのかな?
 宿に戻ってから1ドールの魔獣石をある程度合成してから時計にセットする。1ドールの魔獣石をセットしてしまうとすぐになくなってしまうので10ドールになる直前のものがいいみたい。



 次の日も短剣の講習で一日訓練をした。少しは上達したのかなあ?と思っていたら、指導員から魔法も使えるのなら町周辺の魔獣くらいなら大丈夫だろうと言われてほっとする。明日はアキラとマラルの3人で一緒に狩りに行くことにしているのでちょっと楽しみなんだよね。

 今日は講習の後に図書館に行って色々と調べてみる。魔法には一般魔法と言われる生活に関わる魔法があり、他の魔法についても攻撃魔法だけでなくいろいろと応用ができることが書かれていた。やっぱり魔法ってイメージさえすれば何でもできる万能なものなのね。

 宿に戻ってから浄化の魔法をやってみた。体の汚れを分解するイメージでいろいろと試していると、うまく発動したみたいだ。ただすごくキレイになったという感じでないのはイメージがまだ足りないせいなのか、単に魔法に慣れていないせいなのかは分からない。使っていれば効果も上がるのかな?

 シャワーを浴びたあと、服を洗ってから眠りにつく。浄化魔法が進化すればシャワーや洗濯は魔法でできるようになるのかなあ?本に書かれている内容ではぬれタオルで拭くくらい程度くらいにしかならないようだけど・・・。



 翌朝、朝食を食べたあと、早々に準備をしてから町の出入口の近くの待ち合わせ場所へと向かうと、すでにアキラとマラルが待っていた。言われていたように二人とも男の子っぽく変装していた。

「ごめんね。待たせちゃったかな?」

「大丈夫、大丈夫、あたしたちも今来たところだから。」

「そうそう。アキラは寝坊しそうになって、慌てて準備をしたくらいだしね。ほんとにさっき着いたところよ。」

「ちょっと!!あたしの評価を下げるような発言はやめてよね!!」

 なにやら言い合っているけど、ほんとに仲が良さそうね。幼なじみって言う関係はうらやましいわ。装備の方は二人とも片手剣に簡単な防具という出で立ちで私とあまり大差がない。マラルは弓も持ってきているが、ほとんど当たらないと言っている。


 いろいろと話をしながらスライムや角兎が出るという森の周辺にやってきた。スライムは上位種が出ることもあるみたいだけど、動きが遅いのですぐに逃げれば大丈夫らしい。

 辺りを警戒しながら歩いていると木の陰にスライムを発見。みんなで囲んで順番に切りつけていく。特に反撃もないうちに核の部分を割ることで倒すことができた。
 このあとも交代でスライムを倒していく。せっかくなので風魔法でも攻撃したりもしてみたんだけど、スライムの表面に傷が入るくらいですぐに修復されて意味がなかったのはちょっと悲しかった。まあ威力も弱いからしょうがないのかな?

 途中で何度か角兎も見つけたんだけど、すぐに逃げられてしまって倒すどころか攻撃すらできないのよね。逃げられる前に風魔法や弓で攻撃もしてみたんだけど、うまく当たらないのでどうしようもない。


 スライムは順調に倒していたのだけれど、慣れてきて大胆になりすぎたのか、アキラがスライムから吐き出された液体を浴びてしまった。スライムはすぐに倒せたんだけど、アキラは大丈夫かな?

「大丈夫!?」

「ええ、毒スライムではないみたいだけど、ちょっとぴりぴりするわね。」

「ちょっと待ってね。」

 水魔法で水を生成してから消化液のかかった部分を洗い流す。大丈夫かな?

「うん、大丈夫みたい。ありがとう。
 やっぱり水魔法は便利ねえ。まだ水魔法は覚えていないんだけど、覚えたら水を持ち歩かなくていいから楽になるわね。」

「普通のスライムだったから良かったけど、毒スライムだったら危なかったわ。いくらスライムって言っても気をつけないとダメね。」

 お昼は持ってきたサンドイッチで簡単に済ませるが、このあたりは魔獣から襲ってくることも少ないので大分気楽だった。二人といろいろと話しながらピクニック気分。

 ここで女性特有のことについての話になる。どうやら月のものや妊娠をさせない薬や魔法があるらしく、女性のほとんどはこの薬を使っているらしい。月のものが来たときから服用すれば、使っている間はそのあとずっとこなくなるらしい。ただし個人差はあるが、7~10日おきに一回は服用しないと効果が出ないみたい。

「今まで使ったことなかったの?」

「うん、うちは自然のままにというスタンスだったから、教えてもらえなかったのかも。」

「確かにそういう家や村もあるわね。ただ一度使い始めるともう手放せなくなるわよ。」

 一応そういう人たちもいるようなので納得してくれて助かったわ。でも正直いって元の世界でもほしいわ。とりあえず今回の期間なら問題ないと思うけど、一応薬は飲んでおこうかな。


 お昼を食べた後も狩りを続けていたら、風魔法で角兎を攻撃したときにうまく足に当たてることができた。動きが鈍くなっていたのでみんなで囲んでとどめを刺す。

 素材として買い取り対象だったのでそのまま持って帰るのかと思ったのだけど、アキラが解体できるようなのでやってもらうことになった。仕事の手伝いで魚を捌いたり、魔獣や動物を捌いたりすることがあるみたい。
 首を落としてから血抜きをして解体していくのだけど、思ったよりは嫌悪感がなかった。小さな頃に牛の解体現場などを見たりしていたせいかなあ?

 買い取りの対象である角と肉を切り分けて袋に詰める。あまり長く置くと価値も下がってしまうので、ちょっと早いけど帰ることになった。


 今日はスライムを20匹くらい倒したけど、素材はないので魔獣石が20個だけ。マラルが魔獣石を分解していくと、全部で26個になったので26ドールだ。
 角兎はちゃんと処理ができていたらしく、80ドールで売れたので魔獣石と併せて一人30ドールくらいの稼ぎとなった。

「せっかくだからこのお金で夕食に行かない?」

 マラルがそう言ってきたので私たちもうなずいた。もちろんそんなに贅沢できるわけではなのだけど、初めて狩りで得られた報酬なのでみんなテンションが高い。食事をしながら今日の狩りについて話し、また都合が合ったら一緒に狩りをしようねと言って宿に戻る。

 もしこっちにずっといるのだったら彼女たちとパーティーをくんで冒険したら楽しいかもしれないなあ。



 昨日は結構疲れていたのに寝るのも遅かったせいでいつもよりもちょっと起きるのが遅くなってしまった。まあ仕方が無いわね。
 朝食を取ってから町の教会へと向かう。今日は治療系の魔法を覚えようと思っている。魔法は覚えたけど、折角なら「ヒール!!」とか言って回復させることもやってみたいのよね。

 治療系の魔法についていろいろと聞いたり調べたりしたんだけど、なかなか習得できないのにお金がかかると言って受ける人は少ないみたい。
 治療系の魔法の治癒魔法は、ゲームとかにあるHP回復というように漠然と回復するわけではなく、あくまで治療をして怪我を治すという感じらしい。回復魔法は毒や病気の治療ね。
 このため、スキルを覚える前に体の構造や病気などの知識について内容を理解しないといけないらしく、これを理解する時点であきらめる人も多いみたい。


「すみません。治療系の魔法を習いに来たんですが、大丈夫でしょうか?」

 教会の受付に声をかける。

「はい、大丈夫ですよ。まずは知識が十分にあるか試験を受けてもらうことになりますが、大丈夫でしょうか?試験の合否に係わらす試験費用はかかりますよ。」

「ええ、勉強はしてきているので大丈夫だと思います。」

 ガイド本に載っていたスキル内容を見ると医学スキルが3あるのでおそらく大丈夫だと思ってる。前に教会に来たときにちょっと本を読ませてもらったら特に大きな違いも無かったからね。

 さっそく試験を受けさせてもらうと、問題なく合格できたのでそのまま実技に入ることになった。他の魔法と同じように魔素を体に取り込み、手に魔素を集める。その後は治療する部分にその魔素を注ぎ込むように当てて魔法を発動させるらしい。そのときに切り傷であればくっつけるイメージ、擦り傷であれば皮膚が再生するイメージで魔法を発動すればいいということなんだけど、うまくできるかな?

 子ネズミに傷をつけて治療を実践してみるけど、やっぱりそう簡単には治癒できない。魔法は発動しているみたいなのだけれど、発動しても傷が治っていない。どうやら治療のイメージがうまくいっていないために魔法が発動しても治療がうまくいかないようだ。
 さすがに連続でやっていると精神的にかなり疲れてくるので休憩を取りながら頑張ってみたんだけど、この日は残念ながら治療をすることができなかった。早くても数日はかかるものだからがんばってと励まされたけど、ほんとに使えるようになるのか不安になってしまう。
 思ったよりも精神的に疲れたみたいで、宿に戻って食事をとった後はそのまま眠ってしまった。



 翌日も講習を受けるが、なかなかイメージがつかめない。治療に関するイメージが違うのかと思い、血管の修復、皮膚の再生について単純にくっつけるのではなく、自己治癒力を高めることで治ることをイメージしてみるとうまく傷が治ってくれた。

「もう治療が出来るようになったんですか?すごいですよ。」

 かなり驚かれたけど、うまく出来るようになって良かったわ。骨折や内臓などの治療をするには、イメージを習得するための講義を受けたり、実際の現場で治療したりする必要があるため、時間とお金がかなりかかるらしい。でもイメージで治療ができるのであれば上のランクでもあまり変わらないような気もするのよね。
 骨折や内臓の治療、もしかしたら癌の治療とかもイメージさえしっかりしていればできるのではないのかな?とはいえ、自分で骨を折る気もないし、こればかりは実践してみなければわからないのでなにか機会があればやってみようかな。

 途中でお弁当を買ってきてから部屋で食べる。魔法でいろいろと遊んでみた。風魔法は空気を操るので空気の振動を止めると音が聞こえなくなるみたいなのでうまく使えば防音になるわね。同じように工夫すれば攻撃魔法だけでなくて他にも応用ができそうだわ。



 今日は早めに起きてから一人で狩りに行くことにした。最初は気にせずに狩りに行っていたけど、魔獣よりも他の人たちに襲われたりするのが怖いこともあって、開門の0時に狩り場へと向かう。

 狩りの対象はスライムや角兎、狼もどきくらいなのでそこまで危険なことはない。狼もどきだけはこちらを見つけると襲ってくるんだけど、最初に風魔法で攻撃してひるんだところを短剣で攻撃することで対応出来る。もう少し水魔法が使えるようになれば水の盾で攻撃を防ぐことができるようになるかもしれないわね。

 せっかくなので部屋の中では練習できない火魔法や土魔法も挑戦してみた。少し時間がかかったけれど、火魔法は手のひらに小さな炎が出るくらいだけど火を出すことができたし、土魔法は土を生み出すことはできなかったけれど、石を飛ばして攻撃することができた。
 威力はともかく、魔法がイメージしやすいのは火や水や風は原理を知っているからなのかな?そのせいで土魔法はイメージしにくいのかもしれないわね。

 狼もどきを倒すことができたので牙を回収したけど、やっぱり頭の一部を潰すというのは少し抵抗があった。やり方は聞いていたんだけど、やっぱり自分でやるというのはねえ。
 あと、うまく魔法が当たって角兎も倒すことができたんだけど、さすがに解体は無理なので持って帰ることにした。ちょっと早いけど、いろいろと体験できたから良かったかな。

 町に戻ってから素材を買い取ってもらうと全部で120ドールになった。やっぱり角兎を倒せたのが大きいわね。でも冒険者として生活するというのはどう考えても無理そうだわ。


 役場に行くと、初日に剣の講習を受けた男性3人がすでに戻ってきていたんだけど、なにやら落ち込んでいる。

「こんにちは。どうかしたの?」

「ああ、ジェニファーさんか。こんにちは。狩りの途中でこいつが足首をねんざしたみたいで、さすがに危ないので戻ってきたんだけどね。薬を買って治すか悩んでいるところなんだよ。」

 治療薬は初級でも400ドールと初級者にはちょっと高いものなのよね。数日で治るのなら自然治癒で済ませるのが普通だけど、足を痛めたというのが厳しいわね。冒険者以外も肉体労働の職場で働いていると言っていたから足が動かないと働くことも出来ないわね。

「ちゃんと治るか分からないけど、治療してみましょうか?特にお金はいらないわよ。」

「え?治癒魔法を使えるのか?もしそうだったらお願いしたいけど・・・。」

 靱帯が傷ついたり、骨がずれていたりする可能性が高いので修復するイメージで治療をしていく。治療と並行して痛みを感じる物質を取り除くイメージを加えると、徐々に痛みが引いていったようだ。

「どうかな?」

「あ、少しだけ痛みは残っているけど、いや、うん、大丈夫っぽいよ。」

「だけど、ほんとにちゃんと治ったかも分からないので、無理はしないでね。まだ覚えたばかりだから自信は無いんだよね。」

「いや、これだけ痛みがなくなっていれば十分だよ。ありがとう。」

 近くで治療の様子を見ていた冒険者達が「うちのパーティーに入らないか!!」と誘ってきた。なんか今までの勧誘とは違ってかなり必死な印象なんだけど、もしかしてなんかやらかしたかな?

 いろいろ言っていることを整理すると、どうやら今回の事でも分かるように治療系の魔法を使えるというのはパーティーとしては安全面からも経済面からもかなり大きなメリットらしい。さすがにまずいと思ってなんとか断り、逃げるように宿に戻った。まあ明後日にはもとの世界に帰るから大丈夫だよね?



 翌朝になり、今日で実質最後の異世界生活となるのでせっかくなので町をゆっくり過ごすことにした。こっちに来てから結局講習や狩りばかりでまともに観光していなかったからね。

 アキラとマラルには事前に連絡を取っていたので、宿の前で待ち合わせていたので時間になると二人がやってきた。彼女たちもゆっくりとした休みは久しぶりらしく、「今日は一日遊ぶぞ~~!」と叫んでいた。



 最初は雑貨屋やアクセサリー、服を売っている店を見て回る。特に何を買うわけではないが、いろいろと見て回るだけで楽しい。

 お昼は私がおごってあげることにしていたのでちょっと豪華なランチをとることにした。事前に予約をしている店に行くと、二人はかなり驚いていた。

「こんな高そうな店でおごってもらっていいの?」

「うん、大丈夫だよ。実は明日、他の町に行くことになったんだ。それでこの町にいるのは実質今日が最後になるんだ。だから最後に二人と一緒に楽しみたかったの。」

 そういうと二人は悲しそうな顔になっていた。

「せっかく友達になれたと思っていたのになあ・・・。」

「ごめんね。なかなか言い出せなくて。でも最後だからみんなで楽しもうよ。」

 そうと言うと、納得したように笑ってくれた。このあとも夕方までいろいろと店を見て回り、楽しい時を過ごすことができた。

 明日見送りに来ると言われたんだけど、やっぱり別れるのが悲しくなるからといって断らせてもらった。とてもうれしいけど、さすがに消えてしまうところを見られるわけにもいかないからね。



 翌朝、朝ごはんを食べた後、宿の二人にお礼を言ってからチェックアウトする。そのあとは昨日行っていない店や港の方まで足を伸ばした。

 お昼にはちょっと贅沢して魔獣のステーキを食べてみた。魔獣なんだけど美味しいわね。買い取りをしているくらい需要は大きいんだから当たり前か。食事を終えてから転移してきた港近くのベンチへと向かう。


 ガイド本の表紙に書かれている時間がまもなく0だ。せっかくの経験なのに記憶がなくなるのはちょっと悲しいけど、まあしょうがないかな。

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 あれ?

 あれ?

 なんで?

 残り時間だったカウントはどんどん進んでいくが、転移される気配がない。

 どういうこと?

 結局そこで60分ほど待っていたが転移されることはなかった。

 いったいどういうことなの?

 戻れない?

 戻れないの?

 気がつくと辺りに夕暮れが迫っていた。

 とりあえず宿に戻ろう。

 メイルミの宿に戻ると、奥さんのルミナさんが慌てて出てきた。

「あら?ジェニファーさんじゃない?どうしたの?」

「あの、部屋は空いていますか?泊めてもらえますか?」

 ルミナさんは何も言わずに部屋の準備をしてくれた。

 気がつくと夜明け前になっていた。ベッドにうずくまったまま眠っていたみたい。もとの世界には戻っていないのね。改めてガイド本を見てみたけれど、時間がどんどん進んでいるだけだった。



 翌日もトイレに行く以外は部屋に閉じこもっていた。ベッドで横になっていてもなかなか寝ることが出来ない。寝てもすぐに目が覚めてしまう。

 さらに翌日になると心配したルミナさんが部屋にやってきた。

「大丈夫?なにがあったのか分からないけど、ずっと部屋に閉じこもっているのはあまり良くないわよ。」

「うん、分かっているんだけど・・・。分かってる・・・。でも、戻るはずだったところに戻れなかったの。どうすればいいのか分からないの。」

 いつの間にか泣いていたみたいでルミナさんが優しく頭をなでてくれた。

「とりあえず落ち着きなさい。何があったのか詳しくは聞かないわ。でも結局はなにかやらないと何も変わらないと思うの。」

「うん。」

 たしかにこのまま宿に閉じこもっていても何も変わることはないけど・・・。

「ジェニファーさん。もし良かったらうちの宿で働いてみる?そろそろ人を雇おうかと思っていたところなの。あまりお給金は払えないけど、住み込みとしてやってもらってかまわないわよ。落ち着いたらゆっくり考えてみてね。」

「うん・・・。」

 どうしようか考えていると、ほっとしたのかそのまま深い眠りに落ちていたみたいだった。


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