【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ

文字の大きさ
332 / 430
再編集版

19. 異世界149日目 新たな町への誘い

しおりを挟む
19. 異世界149日目 新たな町への誘い
 今日は31日で祝日なので自分たちもこの日は休みを取ることにした。まだまだ暑い日は続いているけど、北の方は徐々に涼しくなってきているらしい。冬になると北の方は雪が結構積もったりもするようだ。
 このため北の方にいる冒険者達は冬の間は別の仕事をしたり、南の方に移ったりするらしく、蓄えが十分な人たちは訓練や休養に当てるなどしているようだ。自分たちもどうするか考えないといけないなあ。
 まあこのままだとこの辺りで冒険者として頑張るという選択肢しかないんだけどね。この辺だと冬になってもそこまで寒くならないみたいだし。


 今日は冒険業は休みを取っているけど、休みの日は朝のうちは宿の手伝いをしている。一息ついて遅めの朝食を取っていると、伝言が届いた。
 どうやらコーランさんからのようで、こっちにやってきたので久しぶりに一緒に夕食でもどうかということだった。パーティーを組んでいるのは知っているらしく、パーティーメンバーも一緒でいいと言うことだった。都合が良ければ今晩にでもと書かれている。

「ジェン、前にこっちに来るときにお世話になった人がオカニウムに来ているみたいなんだ。それで一緒に夕食はどうかって誘われたんだけど大丈夫?」

「私も一緒に行っていいの?」

「うん。自分がパーティーを組んでいるのは知っているみたいでパーティーメンバーも一緒にどうぞって言われてるよ。」

「いつなの?」

「滞在期間もそれほど長くないみたいで一応都合は付けられるみたいだけど、問題なければ今晩にでもと言われてるんだ。」

「うーん、、、どういう人なの?」

「アーマトで知り合った人なんだけど、簡単に言うとカサス商会の会長だよ。」

「えっ!?カサス商会の・・・会長?え・・・?そんな人と一緒に食事?」

「うん、アーマトで泊まっていた宿の食堂で会ってね。その後で再会したときにオカニウムまでの運賃を貯めているという話をしたら車の空いているスペースで良かったらと乗せてくれたんだ。」

「そ、そうなんだ。
・・・まあ会ってみないとどんな人かは分からないわね。わかったわ。」

 なにやらちょっと険しい顔で考えていたんだけど、一緒に行くことは同意してくれた。すぐに返事をもらってくるように言われていたようなので伝言を持ってきた人に返事を書いて渡してもらう。



 朝食の後、訓練場に行ってジェンと一緒に稽古をする。ジェンと二人で打ち合いをやったり、実践で鍛えたりしているのでだいぶ上達したと思う。買い換えた鉄の盾はちょっと大きめのものにしたので最初はちょっと慣れなかったけど、やっとうまく扱えるようになってきた。

 今日のお昼は最近いろいろ試行錯誤して作ったインスタントラーメンを食べることにした。作り方は以前某博物館で即席麺作り体験をしていたのと、図書館の本にある程度やり方が載っていたので助かった。
 麺はスタンダードに揚げてみたり、魔法で乾燥させてみたりいろいろ試してみたんだけど、市販の麺でそのまま利用できるものがあったので助かった。粉末だしも市販の粉末だしにスープを乾燥させたものを混ぜてそれなりのものができたので、いわゆるインスタントラーメンが再現できた。カップがないのでチ○ンラーメンという感じだけどね。

 せっかくなので箸も作って使っているので懐かしい記憶がよみがえってくる。ジェンも最初の頃は箸に四苦八苦していたけど、最近は大分使い方にも慣れてきている。

 昼からは買い物にいき、今後購入するものについて検討する。気温も下がってくれば冬服も用意しないといけないけど、あまり買いすぎると町を移動する場合には邪魔になるから難しい。まあ、先にこの冬をどうするかを決めなければ予定も立てられないんだけどね。



 夕方に迎えが来ると言っていたので準備をして待っていると宿の前に車がやって来た。どうやらこの車で移動するみたい。
 車に乗って少し走って店に着いたんだけど、高級感あふれるところだった。同乗してきた人に案内されて中へと入るが、なんか場違い感が・・・。

「すみません、この店はこんな格好でもいいのでしょうか?」

 一応外出用に綺麗な服装で来ていたんだけど、あくまで普通の格好だ。こっちの世界でドレスコードとかがどんなものなのかは分からないので案内してくれている人に聞いてみる。

「そこまできちんとした服装の必要はありませんし、本日は個室での食事となりますので大丈夫ですよ。」

「ねえ、こんなところに招待されるとか大丈夫なの?」

 一緒に歩いているジェンがこっそりと声をかけてきた。

「大丈夫・・・だと思う。」

 部屋に案内されるとコーランさんが出迎えてくれた。

「ジュンイチさん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。今日は突然のお誘いにもかかわらず、来てくださってありがとうございます。」

「コーランさんもお元気そうで何よりです。こちらこそありがとうございます。あと、彼女がパーティーを組んでいるジェニファーです。」

「どうも、初めまして。ジュンイチとパーティーを組んでいるジェニファーです。今日は私までお誘いいただきましてありがとうございます。」

「いえいえ、お気になさらずに。さあ、席にどうぞ。」

 席に着くと食前酒と思われるお酒で乾杯となる。ちなみにジェンはもとの世界でも飲んでいたらしく飲むことには全く抵抗がないようだ。乾杯の後、食事が運ばれてきた。

 コーランさんは相変わらず忙しいみたいでこっちにいる間も精力的に活動しているようだ。こちらもジェンとパーティーを組んで冒険者として活動していることを話す。

 前に話したフードコートとショッピングモールのようなところを首都のサクラで実験的に始めたらしく、結構賑わっているらしい。フードコートはいろいろな食事を選ぶことが出来るので人気が高いみたいだし、併設する店の売り上げも上がっているようだ。
 また併せて惣菜の販売コーナーも始めたらしく、こちらも好評のようだ。こっちは出来合いの食べ物がサンドイッチとか焼き鳥とかで家庭用の惣菜とかほとんど見なかったからねえ。

「今回お話ししたかったのはその店舗のことなんです。今のところうまくいっていますが、何か足りないような感じがしているんです。そこでもしよろしければ直接見てもらって助言をいただけないかと思っているんですよ。」

 店舗ってサクラにあるって言っていたよね?そこまで来てくれって言うことなの?

「直接と言うことはサクラまで来てほしいと言うことでしょうか?」

「ええ、このあと我々もサクラまで戻る予定にしているのですが、できればそれに同行していただけないかと思っています。もちろん途中にかかる経費はこちらで持ちますし、相談料もお出しするつもりです。
 あと前回と同じくサクラまでの護衛依頼も出させてもらおうかと思っています。もちろんパーティーメンバーのジェニファーさんもご一緒されて問題ありません。」

 ジェンも一緒に行っていいのか・・・。まあ一緒に行ってくれるかどうかは分からないけどね。

「前にも話しましたが、ちゃんとした助言が出来るかどうかは分かりませんよ?」

 商売についてちゃんと勉強したわけでもないから、あくまでもとの世界で実際にあったものの話をしているだけだしなあ。もしかしたらジェンの方がいろいろと助言できるかもしれないけどね。

「いえいえ、それは気にしなくてもかまいません。見てもらって気になったこと、感じたことでかまいませんので、そのことを話をしてもらえれば十分です。」

 もともと今年の冬をどうするか考えていたし、サクラまでの移動代が無料となると考えるとかなりおいしい話だ。しかも護衛依頼が出るとなると実績もかなり大きい。以前のこともあるし、自分のことを悪用しているという感じはないから大丈夫か?

「サクラに行く場合、どのような予定になっていますか?」

「急な話で申し訳ないのですが、出発は3日後となります。10日ほどでアーマトに到着し、そこで5日滞在後に首都サクラに向けて出発しますので、おおよそ30日の行程になると考えています。準備もありますので、明日中には返事をいただければと思っています。」

「わかりました。どうするか考えてみます。」

 食事の後、お土産まで出してもらって宿まで送ってくれた。また何かいいアイデアがあったら教えてほしいと言われたけど、インスタントラーメンとかはどうなんだろう。それなりにいい感じにできあがっているので試食してもらうか?



 部屋に戻ってから今回の申し出についてジェンと話をする。

「自分はせっかくなので行ってみたいと思っているんだ。サクラがどんなところかは実際に行ってみてみないとわからないけど、もしその町に合わないと思ったら別の町に移動すればいいだけだし、せっかくの異世界なのでいろいろな町を見て回りたいんだ。」

「・・・たしかにこの国の首都と言われるサクラは興味引かれるわね。どのくらいの規模なのか、どのくらいの町なのか、この世界のことを知るならやっぱりその国の中心を見ないと分からないからね。」

「特に今回は移動の費用もかからないし、護衛代も出ると言うことだからサクラから移動する旅費くらいは出ると思う。サクラまで行くことを考えると移動費だけで数万ドールかかるはずなのでそれがただというのはかなりお得だからね。」

「一応確認なんだけど、今回護衛を依頼してきたコーランさんは信用のおける人なの?わざわざ並階位の私たちに護衛費用や相談料だけでなく、途中の経費も払ってくれるなんてなにか裏があるように思えるんだけど。」

「いろいろと商売とかの話をしていたらなぜか気に入られてね。前回も色々話をしてくれるのならただで乗せていけるといわれたんだ。途中の経費は自分持ちという話だったけど、結局いろいろとおごってもらえたんだよね。」

 全部は覚えていないが、コーランさんに話した内容を説明する。

「それって相談料として対価を払ってもらってもいいものじゃないの?いくらもとの世界では普通のことだったとしても、こっちではかなり有益な情報でしょ?」

「うん、もちろん情報は重要なものだし、それがお金になるというのは分かっているよ。ただ実績も何もない自分が相談料をもらうというのはそもそも無茶だよ。何も後ろ盾も伝も資金もない自分がそれを生かすのはさらに難しいと思っているんだ。
 自分では本格的に商売をやってもうまくいくとは思えないから、やれる人がいたらやってもらった方がいいと思ってるんだ。自分がやったとしても、資金があるところにまねされて潰される可能性の方が高いと思うしね。
 あと、やっぱりもとの世界の生活を知っているとこっちの生活はやっぱり不便なことも多いよね。うまくやってくれたらやってくれたで、その方が自分たちも便利になるんだからいいんじゃない?
 あまりにもこの世界とは違う知識を伝えるのは正直良くないとは思っているんだけど、自分が話していることはいずれは誰かが気がつく事だと思うんだ。」

「まあ確かに資金力とか販路を考えたら私達が手を出してもアイデアを盗まれたりしてつぶされる可能性の方が高いわね。資金を貯めて本格的に商売をするのなら別だけど、そうでなければ誰かにやってもらった方がいいとは思うけど・・・。」

「もちろん完全に信用していいのかと言えばそうではないかもしれないけど、少なくともその分の対価はもらっている感じなんだよね。町の移動費だけでも数万ドールの価値があるわけだし、いろいろと気を遣っているのは分かるからね。
 もしほんとに悪いことを考えているのなら対価は払わないだろうし、どこかに監禁されたりしてしまうと思うんだ。もちろん最初に甘い汁を吸わせてあとで回収するということも考えられないわけではないけど、そのつもりだったらもっとやり方が違っていたと思うんだよね。」

「たしかに話した感じだと、私達をだまそうとしているようには見えなかったわね。
・・・
・・・
 わかったわ。イチの目を信じるわ。」

「よかった。もしかしたら一人で行くことになるかと思っていたよ。」

「ここまで一緒にやってきたのに、いきなり一人なんてことはないわよ。」

「ありがとう。」

「それじゃあ、サクラのことに戻るけど、サクラは魔素がかなり薄いところにできた町の上、歴史もあるから町の周りの魔獣のレベルも低いし、数が絶対的に少ないらしいの。それで自分たちがやっているような町の近くで素材狩りをするような活動は厳しいみたいだわ。」

「ああ、それは自分も前にこっちの国のことについていろいろ調べたときに書いていたね。」

「そのせいでサクラの冒険者は高階位の人がほとんどで、護衛やかなり珍しい素材の注文を受けて遠征する、または長期間の遠征をする前提で拠点を構えているというスタンスみたいなの。特別依頼は多いみたいだからね。」

「まあ、到着してから冬になるまでは2ヶ月以上はあるし、厳しいと思ったら少しだけ滞在して、それから南下していくのもありだと思う。」

 今が6/31と夏も終わりくらいなのでサクラに到着するのは7月末だろう。話に聞いたところでは10月になるとかなり冷え込んでくるという話だ。とりあえず2ヶ月くらいは滞在してそれからまた南下してもいいし、状況によってはサクラにそのまま滞在するのもありかもしれない。

「それもそうね。それじゃあ後でメイサン達にそのことを話さないといけないわね。」

 とりあえず今はまだお客の相手で忙しそうなのでもう少し後で話すことにした方が良さそうだ。


「そうそう、あとインスタントラーメンを見せてみようと思っているんだ。」

「それはいいかもしれないわね。私もなにかこちらで売り出せないかと考えていたんだけど、大体のものが魔道具であるし、食べ物についても大体のものがそろっていたのでいわゆる異世界チートは諦めていたのよね。」

「自分も同じように厳しいと思っていたんだけど、これはこっちの世界ではないみたいだからいいとは思ったけど、売り出す手段が見つからなかったから悩んでいたんだ。」

「一応こっちの世界の経済についても調べておいたんだけど、販売の登録や認定など色々と面倒なこともあるようなので、新規に商売に参入するのは厳しいみたい。なのでもし何か売るとかなら、今回のように既存の店と提携する方がいいと思うわ。
 あと、新しいアイデアについては特許のようなものがあって登録すると3年間は独占販売ができるらしいの。もちろんその権利を譲ることもできるらしいけどね。」

「自分たちとコーランさんで申請すればいいのかな。ある程度似たものが販売される可能性もありそうだけど・・・。」

「内容はもとの世界で言う特許とは違って、ほんとにこの世界で初めての独創的な考えとその実物のみに与えられるもので、登録される数はそこまで多くないらしいわ。類似のものまですべて含まれることになるみたい。」

「この世界で先に同じようなものがあったらだめと言うことか。」

「とりあえずカサス商会に話してから考えていいと思うわ。」

「そうだね。魔法の保存食料はあるけどかなり高いので値段が安くできれば十分需要が出ると思うんだよね。インスタントラーメンは麺の内容を変えればいろいろと応用ができるから、かなり売れると思う。地球でも半端ない数が売れていたみたいだし。」

「自分たちには拡販するルートがないのでもしうまく話が進むようなら、製造と販売をやってもらってその利益からアイデア料という形でもらうのがいいかもしれないわね。
 アイデア料は10~30%ほどとっているみたいだけど、研究とかもあるだろうから10%くらいでお願いすれば受けてくれるんじゃないかな?」

「まあそこは交渉次第だけど、それはジェンに任せるよ。自分はあまり経済とかわからないし、交渉とか無理だから。」

「わかったわ。ある程度勉強しているし、交渉はそれなりに経験があるので大丈夫だと思う。」

「まかせたよ。何年こっちの世界にいないといけないかもわからないし、冒険者の収入以外でも固定収入があるとありがたいからね。」


 麺は油で揚げたもの、水魔法で水分を抜いたもの、風魔法で一気に乾燥させたものと3パターン作っていて、それぞれで麺の食感が違うので好みが分かれるはずだ。ただ油で揚げるもの以外は魔法が必要なので実質は油で揚げたものが最有力だろう。あとはどのくらい持つのか試すために3ヶ月ほど前に作った試作品も持って行くことにしよう。

 宿の仕事が一段落したところで宿の経営者であるメイサンとルミナ夫妻と話をする。今回の経緯を話して、他の町に行くことを伝えると、やはり引き留められてしまった。
 手伝いがいなくなると言うよりも、他の町に行くことをかなり心配している感じだ。冒険者として活動することは前に話していたこともあり、最後は納得してくれたんだけど、「何かあったらいつでも戻ってきなさいね。」と言われてジェンは少し涙ぐんでいた。



 翌朝準備を始めたんだけど、できるだけ荷物は整理した方がいいだろう。そんなに荷物は増やしたつもりはなかったんだけど、それでもリュックには収まらないくらいになっていた。ジェンは完全に持ち歩けないくらいの量だ。
 整理と言っても売ってしまうものはあまりないので古くなった服とかを処分するのが中心となる。ほんと収納魔法か収納バッグがほしいよ。

 宿の手伝いが終わってからカサス商会に行き、同行してサクラに行くことを伝える。あとでまた寄ろうと思っていたんだけど、コーランさんが出てきたのでちょうどいいとそのまま話をすることにした。

「もし都合がよろしければ15分くらいでかまいませんのでお時間を取れませんか?ちょっと商売になるかもしれないアイデアを持ってきたんです。」

 そういうとコーランさんはかなり興味を引いたようだ。

「どういったものなのですか?」

「長期保存が出来て、お湯さえあればすぐに食べることの出来る保存食なんです。ですのでお湯と入れ物をいただければすぐに試食することが出来ます。」

「わかりました。すぐに準備しましょう。他にも数人に声をかけたいのですが、大丈夫ですか?」

「ええ、数人くらいなら十分に試食できると思います。」

 部屋に案内されて待っていると、フラールさん達数人を連れてきた。とりあえず数が足りそうなので人数分のお椀とふたになるものを用意してもらう。

「手順としては袋から麺を取りだしてカップに入れます。そのときにこの乾燥したスープと野菜も一緒に入れます。そのあとお湯を入れて蓋をして3分くらい待ちます。」

「これで終わりなのですか?」

「やることはこれだけです。好みによって待つ時間は若干調整したほうがいいですが、あまり長くなると麺が溶けてスープみたいになりますので注意してください。まあそれが好きという人もいるかもしれませんけどね。」

 お湯を入れて3分ほどしたところで食べてもらう。

「ちゃんと麺にも火が通っているし、麺に味がしみこんでいて美味しい。」

「これはうまい。3分でこれだけのものが食べられるなら十分じゃないか?ちょっと寒いときには身体も温まるな。」

「お湯さえ準備できればこんなに簡単にできるなら冒険者や兵士達の非常食にも最適だな。」

 コーランさんたちはお湯を注ぐだけでほんとに3分もかからず普通の麺料理が食べられることに驚いていた。感想を聞く限り、合格点はもらえたようだ。

「あと、これが3ヶ月前に作ったものです。これはどのくらい持つのか実験のために残しているもので、あまり数がないので一つだけ作ってみますね。」

 保存していたのは数個分しかなかったのでとりあえず一つ作ってみる。

「さっきと差がわからないな。」

「これなら十分じゃないか?」

「特に腐食防止の魔法をかけていたわけではなく、袋に入れて空気をある程度抜いた状態で保管しただけのものです。
 あまり古くなると臭くなってきておいしくなくなると思いますが、腐ってしまうわけではありません。保存の状態にもよりますが、おそらく半年くらいは保持できると思いますが、そこは試してみないとわからないです。魔法でつくった麺だったらもっと持つかもしれませんが、作るコストが高くなると思います。」

 袋に入れているので何かに移して食べる形になるけど、最初から容器に入れて売ればお湯を注ぐだけになること、その場合の工夫など知っている内容を伝える。

「申し訳ないですが、少し打ち合わせをしたいのでちょっと待ってもらえますか?」

 そうと言ってコーランさんたちは他の部屋へと移っていった。どうやら採用するかどうかを話しているんだと思う。出されたお茶を飲みながら待っていると15分ほどして戻ってきた。

「ジュンイチさん、おそらくこれは今まで発明されていないものだと思います。それで特許申請して問題ないようであればこちらでもう少し研究を進めて売り出したいと思います。申し訳ありませんが、このことは他には内密でお願いします。」

 すぐに契約書が作られて、特許申請することになったんだけど、契約の話はジェンがやってくれたので助かった。申請は発明者に自分とジェン、販売者にコーランさんとしておいた。

 申請はそれぞれに該当する神様にするらしく、教会に行ってから手続きをすることになった。今回は豊穣と技の神であるタミス神にお願いするようだ。
 教会の司祭が祭壇に書類を置いて祈りを捧げると、書類の一部が光り出した。どうやら書類にサインが入ったみたいでこれで認められたことになるらしい。うーん、さすがファンタジーの世界だな。

 ちなみにこの申請内容を閲覧するシステムがあるらしく、過去からの申請内容を見ることができるようだ。これで申請期間も確認できるらしい。すごいシステムだなあ。


 ちなみにジェンとコーランさんで契約した内容は、大まかにはこんな感じらしい。
 ・どのくらいの利益が出たのかの申告は商会に任せること。
 ・場合により台帳を確認させてもらうこと。
 ・最初の3年間は利益の15%を支払うこと。
 ・利益配分の割合は3年おきに見直すこと。

 口頭でも説明はしたんだけど、作り方のレシピを渡す。すぐに研究部門で研究を進め、来月には売り出したいと張り切っていた。研究部門はアーマトの町にあるようなので先に連絡のみ入れておくようだ。

 最初の3年間でこの商品の地位を確立して、後から参入する商店を引き離すつもりらしい。すごい意気込みだな。原理が分かれば作れるようにはなると思うけど、根本的な考えが分からなければ難しいかもしれない。製作方法は完全に秘密にするらしいけど、どこまで対応できるのかねえ。

 契約などで思ったよりも時間がかかってしまったため、お昼はごちそうになった。前ほどでもないけどやっぱりちょっと高そうなお店だった。さすがにコース料理ではなかったので気楽ではあったけどね。

 今回も護衛依頼を出してくれているようなので、混み出す前に役場へと向かう。

「こんにちは、アース当てに依頼が出ていると思いますので確認をお願いします。」

「はい、伺っていますよ。カサス商会からの依頼のサクラまでの護衛ですね。護衛の報酬は通常は1日単位での計算となるのですが、今回は一括で5万ドールと聞いています。
 通常の上階位の護衛が1日当たり1000ドール程度ですので日数を考えると二人で6万ドールですが、並階位と言うことを考えるとかなり破格の報酬となりますね。普通は並階位の場合は報酬は出ない場合が多いですからね。」

 並階位の場合は護衛と言うよりは自分の安全のために同行させてもらうというのが普通なので報酬が出ないし、途中の経費を払うのが普通らしい。

「そうなんですね。サクラまでの運賃を考えてもかなり助かります。」

「あ、あと二人とも今回の護衛の実績で上階位に上がるための実績ポイントが貯まると思います。護衛の実績ポイントはかなり大きいですからね。」

 ちなみにこの護衛の実績は金持ちの冒険者が実績ポイントをためるために使われたりもするみたいで、実質は護衛ではないのに護衛依頼として受けたりすることも多いようだ。
 箔をつけるために上階位まであげておきたいという意向でやっているようだけど、試験で落ちてしまうために並階位止まりという人も多いみたい。
 自分たちも同じように思われているのかと思ったんだけど、もともとカサス商会がこのような依頼をすることがないこと、今回はサクラまでの同行を依頼したために護衛依頼を出していることを説明してくれていたらしい。


 手続きを終えるともう夕方になったせいか冒険者達の姿がちらほらと見え始めた。一緒に狩りはしてはいないけど、いろいろと情報交換とかお世話になった人も多い。特にジェンは最初に来たときからお世話になった人も多くてかなり話し込んでいた。「結婚式には呼べよ!!」と声をかけてくる人もいたけどね。

 明日はメイサン達と一緒に食事することにしているので今日は行きつけの店でちょっと豪華に魚料理を堪能した。しばらく新鮮な魚は食べられないだろうしね。
 食事の後は不要な荷物を分別して明日処分してもらうことにする。とりあえずリュック一つ分にはなったのでこれで大丈夫かな。



 翌日は早めに起きて宿の手伝いをする。いろいろお世話になったから、最後はきっちりとしておきたい。
 朝の手伝いが終わったところで、ジェンはルミナと食事の準備に取りかかった。夜は宿の対応でゆっくり出来ないので、お昼に時間を取ることにしていたからね。ちょっと豪華な食事を楽しみながらいろいろと昔話をしているとみんなちょっと涙ぐんでいた。

 食事の後、少し時間をもらってなじみの店に挨拶回りに行く。鍛冶屋や食堂などさすがに3ヶ月もいたらいろいろと知り合いができるものだ。

 あと、持っていた武器の中で鉄の短剣(高)はやはり使うこともないので売ることにした。鍛冶屋のドウダンと交渉の結果、2万5千ドールで買い取ってくれることになった。ちょっと金額にはびっくりだが、まあそんなものか?付与魔法にもう少しいいものがついていたらもう少し高かったらしい。
 低レベルで5千ドールくらい、並レベルで1万5千ドールくらい、高レベルだと4万~5万ドールとかで売られているからねえ。買った金額を考えると25倍なので丸儲けだな。

 宿に戻ってから再び手伝いで忙しくしていた。常連客には明日出発することを伝えるとちょっと驚いていたんだけど、夕食のときにいろいろとすすめられてしまう。特にジェンはかなりのペースで飲んでいるんだけど・・・明日大丈夫か?


しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...