【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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20. 異世界152日目 生きるという覚悟

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20. 異世界152日目 生きるという覚悟
 朝の忙しい時間にもかかわらず、メイサンとルミナ夫妻は見送りをしてくれた。宿の常連の人も一緒に見送ってくれる。
 ジェンは5ヶ月、自分は3ヶ月お世話になったところだし、ジェンに至っては最初の色々と困ったときに助けてもらった恩のある人たちだからね。
 この世界の冒険者は危険も伴うため、また会えるというのも確実なことではない。ジェンは涙を流しながら「また来るからね。」と約束している。

 ちなみにジェンはやはり飲み過ぎたみたいでちょっと二日酔い気味になっていたので朝から治癒魔法で回復させることになってしまったよ。



 カサス商会に行くと、店の前に車が止まっていて準備をしているところだった。コーランさんに挨拶をしてからこの後の予定を簡単に聞く。あと30分くらいで出発するようだ。

 集団の中に風の翼のメンバーを見つけたので声をかける。

「フェルナーさん、カルマさん、ニックさん、お久しぶりです。」

「おお、ジュンイチじゃないか。今回もまた同じ護衛と言うことは聞いているぞ。こっちに来たときに声をかけようかと思ったんだが、どうせ護衛で一緒になるからと思って他の知り合いに会っていたからなあ。
 他の奴らから聞いたんだが、今パーティーを組んでいるんだって?どんな相手か聞いてもどうせ会うならそのとき分かるだろって教えてくれなかったんだよ。」

「えっと・・・ジェン!!」

 見送りに来てくれていたアキラとマラルの二人と話をしていたジェンを呼ぶ。

「こちらがパーティーを組んでいるジェニファーです。よろしくお願いします。
 ジェン、こちらの3人が話をしていた風の翼パーティーメンバーだよ。」

「初めまして。ジェニファーと言います。呼ぶときはジェンでかまいません。今回は護衛に同行させていただきますのでよろしくお願いしますね。」

「あ、あぁ・・・よ、よろしく。」

「あ、あの、すみませんが、友人達が見送りに来ているので、いったん失礼させていただきますね。またあとでお話ししましょう。」

 簡単に挨拶を少しした後、また二人のところに戻っていった。まあフェルナーさん達はこのあとも一緒に行動するからいくらでも話す機会はあるだろう。

「おい!!なんだ、なんだ。あの美人さんはなんなんだ!?」

 3人共にしばらく固まっていたんだが、すごい勢いで聞いてきた。

「か、顔が近いですよ。
 前にこの町に来たときに言っていたじゃないですか。なんとか無事に再会できたんですよ。そのあといろいろあって今は一緒にパーティーを組んでいるんです。」

「知り合いって、女だったのか・・・。」

 なんか打ちひしがれているんだけど、メンバーが女性だったのがそんなにショックだったのかな?フェルナーさんだけでなく、カルマさんとニックさんもなんかおかしい。
 このあと復活した3人になれそめとかいろいろと聞かれたんだけど、話せる内容もそんなにないしなあ・・・。



 準備が出来たと言うことで車に乗り込んで出発となる。今回の移動は前と同じような割り振りなんだけど、普通車が6人乗りとなったので自分たちは車の後ろの席に乗ることとなった。コーランさんたちの他にいるのは前回と同じくクリークさんとハリーさんだ。
 アキラとマラルの二人に見送られて出発し、町の外へ。スピードがある程度出ると結構うるさいので車の中ではひたすら勉強することになる。
 前と同じように1~2時間おきくらいで休憩を取りながら夕方には途中の村に到着。今回も泊まりは基本的に宿なのでかなり楽だ。今のところ盗賊が出るという話もないし、大丈夫だろう。


 宿についてチェックインが終わると鍵を一つ渡される。

「ジュンイチさんとジェニファーさんは201号室を使ってください。」

「「えっ?」」

 どういうこと?ジェンと同じ部屋ってこと?ジェンも驚いている。

「あ、あの・・・自分たちは出来れば別々の部屋にしてほしいのですが・・・。」

 もしかしたらジェンと付き合っていると思われていたのかな?

「え?あ、そうなのですか・・・ちょっと待ってください。」

 しかし今日は運が悪く部屋は満室になっているようだ。他にも宿はあるらしいけど、今日は団体客が多いのでもしかしたらそっちもいっぱいになっているかもしれないと言うことだ。

「ないならしょうが無いわね。とりあえず部屋に移動しましょ。」

 どうしようかと悩んでいると、ジェンに手を引っ張られて部屋に向かうことになった。いや、自分はいいんだけど、ジェンはいいのか?さすがに一緒にいるのには慣れてきたけど、同室というのはちょっと・・・。

 ベッドはちゃんと二つあるので同じベッドで寝るというわけではないんだけど・・・女性と同室って・・・寝られるのかな?

「自分はいいけど、ジェンは大丈夫なの?」

「一緒のパーティーなんだからこういうこともあると思うから慣れておいた方がいいと思うのよね。野営の時とかも同じテントで寝ることもあるだろうしね。でも着替えの時とかはちゃんと気を遣ってよ。」

「わかってるよ。着替えの時は外に出ているからそこは信用してよ。」

 部屋に荷物を置いてから宿にある食堂へ行き夕食を取る。今回は食事代もすべてコーランさんが持ってくれるのでとても助かる。いろいろと話をしながら食事をとり、シャワーを浴びてから部屋に戻る。

 たしかにジェンと同室だと気を遣ってしまうけど、今後もパーティーを組んでいくことを考えるとこういう状況にも慣れておいた方がいいのかな?男女のパーティーとかだと宿泊の時はどうしているのだろうか?
 服を着替えてからベッドに入るが、なかなか寝付けない。ジェンも同じだったみたいで話をしていたんだけど、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。



 朝起きるとまだジェンは眠っていた。自分も緊張して寝られないかと思っていたんだけど、そうでもなかったな。やっぱり車で移動しているだけとは言え、疲れがたまっているのだろう。
 そういえばあまり気にしないようにはしていたけど、改めてみると本当にかわいいよな。まあジェンも同郷と言うことで一緒に行動しているだけだろうから、きちんと距離はもつようにしておかないとまずいよな。大切な人が地球にいるという話もしていたし、手を出すようなことはさすがにできないよ。
 異世界に行った二人が恋に落ちるというような話は多いけど、自分なんかが付き合えるレベルではないだろう。まあ、小説みたいにあんなにすぐ恋に落ちて体の関係を持つっていうのはあまりにも短略的すぎだと思う。


 寝顔を見ているとジェンも起きたようだ。しばらくぼーっとした感じだったんだが、いきなり目を見開いた後、枕を投げつけてきた。

「寝顔をのぞくなんて最低!!」

「ご、ごめん・・・。これからは気をつけるよ。」

 たしかに女性の寝顔を眺めるというのは失礼だよな。つい見入ってしまっていた・・・。



 朝食に行くと、他のメンバーに少しからかわれるが、そんな関係ではないです。はい。今日の予定を確認してから車に乗り込んで出発するが、ジェンはかなり眠そうだ。やっぱりあまり眠れなかったのかな?

 車で走っているので魔獣が出てきても道路近くにいなければそのまま通り過ぎるんだけど、上階位の魔獣がいる場合は今後のことを考えて退治しておくのが通例となっている。前の時と同じように魔獣は風の翼の3人が対応してくれたので出番はない。もともとの力が違いすぎるので自分たちが出ても邪魔になるだけだしね。
 ただ今回は大蜂の大群に襲われたせいで、そのときは自分たちも戦うことになった。連携には不安があるため別れて戦ったけど、自分たちは風魔法と水魔法を駆使することで問題なく対処できた。
 大きな怪我もなく、風の翼のメンバーからも褒めてもらえてちょっとうれしい。本当は何度か刺されたんだけど、治癒魔法と回復魔法ですぐに治療をしたので大丈夫だった。
 今後のことを考えると巣を駆除した方がいいんだけど、残念ながら見つけることが出来なかった。探知魔法にも引っかからなかったのと、思った以上に大群だったのでもしかしたら分蜂で新しい巣を作る前だったのかもしれないと言うことだった。

 途中倒した魔獣の解体をやらせてもらうことで解体のレベル上げを行った。ニックさんだと解体魔法を使えるんだが、時間は少しかかるがある程度解体が慣れるまでは手作業での解体をさせてもらう。途中からは解体魔法でできるようになったけどね。


 移動中はコーランさんたちも寝ていることが多いので、自分たちも仮眠をとるか、ひたすら学識スキルの向上に努めた。
 ちなみに語学レベルを上げるため、自分たちだけの会話時は英語や日本語でできるだけ話すようにしている。もし他の人に聞かれた場合も何を言っているかわからないので暗号にもなっていい。
 休憩中や夕方早く着いたときにはフェルナーさんたちに簡単に訓練してもらえたのもよかった。やっぱり他の人と訓練をすると学ぶことが多くていいね。



 予定通り10日ほどかけてアーマトの町に到着。4ヶ月ぶりくらいになるんだなあ・・・。すでに滞在カードの期限が切れているので今回はちゃんとチェックを受けなければならないのは仕方が無い。
 5日後の朝に店の前に集合することになったのでそれまでは自由行動となった。風の翼はここで護衛任務が終わるようで、首都までは別のパーティーが護衛につくらしい。また機会があればご一緒しましょう。



 旅の途中、フェルナーさんからは魔獣については問題なさそうだが、盗賊などの対人についての覚悟を確認された。”人を殺すことに対して覚悟をしているのか。”ということだ。
 盗賊が出てきたとしても風の翼メンバーだけで対応できるかもしれない。ただそうはいっていられない場合もあるかもしれないのだ。盗賊を殺すことに躊躇することは、そのまま”死”につながると言うことだけは考えておいてくれと言うことだった。

 これはジェンとパーティーを組んだ後に何度か話をしたことでもある。ジェンは他の冒険者からもちょっかいを出されていたこともあり、襲われる可能性もあった。

 ジェンは地球にいたときにもそういうことは常に考えるように教えられていたみたいで、”自分に害を及ぼすものに対しては容赦をするな!”という考えを持っていた。ただ人を殺すということまでできるかと言えば正直わからないらしい。

 自分はどうかというと、現時点では正直わからない。日本で普通に育ってきた高校生が人を殺せるかというとかなり抵抗があるというのも事実だ。


 オカニウムにいた時に、いったんは落ち着いていたと思っていた例の3人組に襲われた。このときはいきなりではなかったため、魔法を駆使することで3人を撃退することができた。結局は相手を殺すまではいかなかったけど、重傷というところまで”攻撃”したのだ。

 戦いになったときは無我夢中だったので躊躇することもなく攻撃したんだけど、いったん落ち着くとさすがにちょっと考えることになった。とはいえ、こちらが悪いわけではなく、被害を受けそうになったから攻撃したまでなので、思ったよりはすっきりしていた。
 うまく反撃できなければ自分は殺されていたかもしれないし、ジェンもどうなっていたか分からなかっただろう。そのときに殺されなくてもどこかに監禁されて死んでしまっていたかもしれない。

 そのあと3人は厳罰が下され、遠い場所で奴隷のように働かされると聞いた。この国には奴隷制度がないため、あくまで労役という形であるけど、おそらく数年で死んでしまうのではないかとの話だった。その可能性があったのに襲ってきたというのはよっぽど恨んでいたんだろうな。

 こちらの法は”目には目を”みたいな感じなので、人を殺したことがばれるとまず死刑となってしまう。直接殺した場合は身分証明証に記録されるから言い逃れはできない。
 強姦の場合はあそこの切断みたいなのでかなり怖い。ただし強姦は証明が厳しいため、なかなか立証されないことも多いようだ。

 この世界では命は軽い。あっちの世界でも日本にいると感じなかったけど、国によって命は軽いものだろう。

 ただ、よく小説で殺されかけた相手を殺して葛藤するシーンが描かれているけど、自分はそこまでになるとは思っていない。殺すつもりで来たのに反撃されて殺されたのであればそれは自業自得であり、反撃して殺した側が気に病む必要はないと思っているからだ。
 もし見逃してしまった場合、改心する可能性は低いし、そのせいで罪も無い人が襲われて命を落とすと言うこともあるからね。

 魔獣に対しても最初倒したときはかなり抵抗があった。血の臭いにも抵抗があり、吐きそうにもなった。最初はゲーム感覚もあったかもしれないけど、今では普通にやっている。
 お金の稼ぎ方にはいろいろあるけど、生き物を殺すことで生きるためのお金を得るのは間違っていないと思っている。結局は誰かが殺さなければ肉は食べられないのに、それをする人を卑下するのは間違っている。
 ”人間死ぬ気になれば何でもできる”ということを聞いたことがあるけど、ほんとにその通りだと思った。

 正直人殺しはしたくはないけど、しなければならない状況になったのならば躊躇しないつもりだ。これは動物に対してと同じような事だ。人を殺すよりも殺される方がいいとは決して思わない。もしかしたら後で葛藤することがあるかもしれないが、それは生き残ってからの話だ。



 コーランさんからは店の宿泊施設に泊まってもいいと言われていたんだけど久しぶりの町なので宿に泊まると言ってお断りをした。宿代は助かるんだけど、泊まると気を遣ってしまいそうだからねえ。

 宿はどうするかと悩んだけど、やっぱり前にも泊まっていたカイランにした。一泊朝食付きで600ドールだが、なかなかよかった宿だったからね。受付に行くと前と同じように息子のカインがいた。

「おひさしぶり。今日から5泊したいんだけど、空いてる?」

「あ、えっと、ジュンイチさんでしたよね?5泊ですか?えーっと、部屋はどのようにしますか?」

「シングルで2部屋お願い。」

「えっと・・・はい、大丈夫です。一人1泊朝食込みで600ドールとなりますがよろしいですか?」

「それでお願い。二人分の5泊分で6000ドールね。」

「はい、それでは鍵を渡しますね。」


 それぞれに鍵を受け取って部屋に入る。結局移動中はずっと同じ部屋にされていたので、一人だとなんかちょっと寂しい感じもするのはしょうがないことかな。

 少し荷物の整理をしてからジェンと一緒に宿屋併設の食堂で夕食をとることにした。今回も気に入っている煮込みシチューを食べることにした。ジェンも同じものを頼むようだ。

 ここで夕食をとったおかげでコーランさんと知り合うことができたし、そのおかげでジェンとも早く知り合うことができたと言ってもいいだろうな。

「こっちの世界に来たときにしばらくここに泊まったんだけど、夕食がおいしかったので泊まっていないときにも来ていたんだ。特にこのシチューが気に入っていたんだよ。」

「うん、確かにおいしいわね。」

「これを食べに来たおかげで運良くコーランさんと再会できたおかげでオカニウムに行くのも早くなったんだよね。」

 いろいろとこの町の話をしながら食事を済ませ、シャワーを浴びてから部屋へと退散。前は衣類を洗濯に出していたんだけど、今は浄化の魔法で一発なのでありがたい。衣類についているほこりなどを分解、雑菌などを消毒するイメージで使うことでかなりキレイになっている。
 ほんとは体も浄化の魔法でも十分なんだが、やっぱりお湯で体を流した方がさっぱりした気持ちになるのは気分だけの問題なのだろうか?もう少し浄化の魔法が上達すれば気にならなくなるんだろうか?

 ここはベッドがほどよい堅さでいいんだよなあ・・・と思っているとすぐに眠りに落ちていった。



 翌朝、やはりベッドがよかったのか、かなりすっきりした目覚めとなった。ジェンを誘って朝食に行き、用意されたベーコンエッグとパンを食べる。簡単に準備をしてからまずは役場へ。

「カイルさん、こんにちは。お久しぶりです。」

「あら~、ジュンイチさんじゃないですか。向こうでは目的の人に会えましたか?」

「ええ、無事に再会できました。そのあとパーティーを組むことになりました。」

「こんにちは。パーティーを組んでいるジェニファーと言います。」

「あら~、女性だったの?隅に置けないわね。」

「いやいや、普通にパーティーメンバーですから。」

「あら、そうなの?」

 なんか怪しい目で見られているように思うのは気のせいか?

「とりあえず護衛の完了証明をお願いします。あと5日ほどはこの町に滞在した後、サクラまでの護衛業務になります。」

「わかったわ~。」

 手早く完了証明を行ってくれた。

「あら、ジュンイチさんは上階位への実績ポイントが貯まっているわね~。ジェニファーさんはサクラまで護衛依頼が無事に完了したら実績ポイントが貯まると思うわ。
 ジュンイチさんは昇格試験はここで受けてみる?」

「いや、試験の対策もあるし、時間も無いのであとで受けることにします。」

「わかりました~。上階位への試験は大きな町では一ヶ月に1回行われていますが、日程は町によって異なりますので注意してください。
 試験の内容ですが、上階位は学識試験、実技試験の2つがあります。試験は人数にもよりますが、1~2日かかりますので日程を合わせて受けるようにしてくださいね。」

「わかりました。」

 とりあえず状況は確認できたのでまたどこかで試験を受けることにしよう。二度手間になっても何なのでジェンの実績がたまるサクラで受けるのが一番かな?

 実質今日を入れて4日間あるんだけど、明日と明後日くらいは狩りに行くかな?今日はアーマトの町を久しぶりに散策することにしよう。


 ジェンと一緒にいくつかの店に寄ってみたんだけど、大体のところで「嫁さんか?」と言ってくるのは勘弁してほしい。あくまで同郷と言うことで一緒に行動してくれているだけだって。

 お昼は久しぶりにカレーライスを食べる。オカニウムにはなぜかなかったからなあ。ジェンの好みを聞いてみたところ、好き嫌いはほとんどないらしく、何でも食べるようだ。ただやっぱり魚よりは肉が好きらしい。

 このあとは鍛冶屋に寄ったり、買い物をしたりしてから夕方に役場に行って他の冒険者達と話をする。でもってここでも同じ突っ込みはやめてほしい。
 クーラストさんとアマニエルさんにも会いたかったんだけど、どうやら遠征に出ているようなのでしばらくは戻ってこないようだ。まあしょうがないな。


 ユータとカナにも会ったので一緒に夕食をとることにした。二人ともに並階位に上がっており、大分戦闘にも慣れてきているみたい。今は2、3日の遠征で魔獣を狩っており、当初考えていたとおり、ユータが前衛で、カナは魔法で補助をしながら攻撃に加わっているようだ。
 ユータは残念ながら魔法の威力はあまり上がらなくて狩りにはほとんど使っていないらしい。それもあってか二人パーティーだと厳しいみたいでどうしようか悩んでいた。

 自分たちも二人で戦闘をしているけど、魔法での足止めを使うことでうまく回っていることを説明する。どうやらあまり足止めと言うことは考えていなかったようだった。

 この辺りの狩り場の状況についていろいろと話をして1時間ほどして二人と別れて宿に戻る。今日もシャワーを浴びてさっぱりしてから眠りについた。もちろん日課にしている勉強などは忘れないでやっている。



 翌日は近くの森で狩りをすることにした。近くと言っても移動が早いので、普通は遠征で行くエリアになる。生息しているのはいつも狩りをしている魔獣だったのでそこまで苦労もなく狩りをして6000ドールとなかなかの稼ぎとなった。
 毛皮関係は浄化魔法をかけて処理をしているし、血抜きも水魔法で処理しているので、買取の店ではかなり高評価で買い取りしてくれた。ほんと魔法は便利だなあ。他の人たちも浄化魔法で綺麗にはしているようだけど、聞いている限りレベルが違うようだからね。

 その次の日はユータたちに自分たちの戦い方を教えるために一緒に狩りに行くことになった。ただ一緒に移動するため、目的の狩り場までは思ったよりも時間がかかったけど、それは仕方が無い。途中でいろいろと話が出来たからまあいいんだけどね。

 二人の戦い方は基本的に自分たちと変わらないんだけど、魔法の使い方が聞いていた通りまだ単純だった。自分たちの戦い方を実演して、強度はなくても視界を防ぐだけでも効果が大きいことを伝える。
 ユータは魔法をあまり使えないけど、土魔法で若干の起伏を作ることはできるようなのでそれだけでも効果のある使い方を教える。それに使っていれば少しずつでも上達していくからもっと使い勝手は良くなるだろう。
 この日の稼ぎはほとんどなかったけど、いろいろと楽しかったので良しとしよう。夕食はユータたちがおごってくれるというので言葉に甘えることにした。

「それじゃあサクラに行ったあとはどうするか決めてないのか?」

「ああ、サクラがどんなところかもまだわかってないからね。そもそも対象となる魔獣も少ないみたいだし、着くころには冬も近くなっているみたいだから着いてから考える感じかな。
 なのでもしかしたらまたこっちに戻ってくるかもしれないかな。」

「まだ話してなかったけど、俺たちももう少し実力が付いたらこの町を出ようと思っているんだ。やっぱり家があると甘えが出てしまうからね。大変になるかもしれないけど、そうしないと冒険者としては成長できないような気がしてな。
 今はカナが治癒魔法の勉強をしているところなんだ。本当は治癒魔法を使える仲間を考えていたんだけど、なかなか見つからないからね。」

「今は教会に行って勉強をしているところなの。治癒魔法を覚えるのにはお金も結構かかるし、ちゃんと勉強をしておかないと使えないらしいからね。一回受けたんだけど、やっぱりできなったのよね。
 町を出るときには治療魔法を使えるようになっておきたいのよ。まずは初級レベルだけでも覚えておけばそれだけでもかなり違ってくると思うのよね。」

 ジェンにこっそり鑑定してもらうように言うとすでに医学スキルは手に入れているようだった。

「私も治癒魔法は使えるので明日少し教えてあげましょうか?簡単なコツだけでも知っていると、早く身に着けることができると思うわ。」

「え?いいの?それはほんと助かるわ!!」

 最後の日は二人で治癒魔法の訓練を行うことにした。ジェンがカナに教えていたので自分はユータに医学知識を教えることにした。治癒魔法は二人とも使えた方がいいのは間違いないからね。
 カナはなんとか簡単な治癒魔法は使えるようになったみたいなので、あとは使っていれば成長していくだろう。ユータにもある程度知識を教えておいたのでこのあと勉強していけばカナに聞きながらきっと使えるようになるだろう。

~フェルナーSide~
 俺はアーマトの町を拠点にしている良階位パーティー・風の翼のリーダーをやっている。風の翼と言えばこの町ではそこそこ有名なパーティーだ。
 目標の一つは優階位まで上がることで、それを目指して頑張っているんだが、なかなか大変だ。まあ優階位に上がれる人間はほんの一握りだからな。

 もう一つの目標は30歳までに結婚することなんだが、悲しいのはなかなか女性と縁がないことだ。ちなみにパーティー仲間の二人も同じみたいだ。
 冒険者としての活動は仕事と考えているので、別にパーティー仲間で彼女がほしいわけではない。夫婦でパーティーをやっている奴らもいるが、よっぽどでなければ今の3人の連携が崩れてしまうのでそこは割り切っている。

 ここ1年ほど知り合いに女性を紹介してもらっているんだが、まず見た目で少し怖がられてしまう。なんとか付き合うことになっても数回で「やっぱり無理だと思う。」と断られてしまうのだ。俺の何がいけないのだろう?


 今回いつもひいきにしてもらっているカサス商会からの護衛依頼でオカニウムまでやってきた。カサス商会との付き合いはもう数年になっていて、金払いも待遇もいいので優先的に受ける依頼の一つだ。

 3ヶ月ほど前になぜかジュンイチという並階位の冒険者と一緒に行くことになった。コーランさんから直々に「護衛という形で雇っていますが、護衛対象と考えて下さい。」と言われて不思議に思ったものだ。
 よくある金持ちの道楽の実績ポイント稼ぎかと思ったんだが、ジュンイチは何度か助言を行ったこともある礼儀正しい青年だ。そのようなことをするようには思えないので本人に聞いたところ、オカニウムにいる知り合いを探しにいくらしく、カサス商会の好意で護衛依頼を出してくれたと言っていた。
 移動中にもいろいろと質問してきたり、訓練をお願いしてきたり、魔獣の解体を手伝ったりと向上心もあって好感が持てるやつだった。
 コーランさんとかなり親しくしており、正直どういう関係なのか未だはっきりしない。店で意気投合したと言っていたが、カサス商会の会長と意気投合するってどういうことだよって感じだ。

 今回はアーマトまでではなく、サクラまで同行するらしく、前と同じく護衛対象となっている。ただあのときよりも実力は上がっているので何かの時には戦力と考えてもいいらしい。


 出発の朝にジュンイチがやってきたんだが、一緒にいたのはかなり美人の女性だった。どういうことか聞いたら前回探していた相手だったようだ。知り合いって女性だったのか・・・。

 アーマトの移動中はジュンイチとジェンという女性は同室で泊まるようだ。最初の宿ではなにやら言っていたようだが、そのあとは普通に泊まっていたからすでにそういう関係なのだろう。うらやましいぞ。

 ジュンイチもそうだが、ジェンも礼儀正しい女性だった。最初はなかなかちゃんと話せなかったんだが、訓練のときにいろいろ話していると、普通に会話ができるようになった。いつも女性といるときは緊張してまともに話せないからな。ジュンイチが一緒にいるせいもあるんだろう。

 そういえば前に付き合った女性から、まともに会話もできないのがつらいとか言われたことがあったな。そのあたりが原因なのか?よくよく考えてみると緊張しすぎて会話らしい会話をしていなかったように思う。
 ジェンに前に体験した話をするとかなり喜ばれた。女性はこういう話は苦手かと思って俺のあまり知らない話をしようとしたのが間違いだったのか?

 他に聞かれると恥ずかしいのでジェンが一人の時に聞いてみると、「そういう話に興味ない人もいると思うけど、自分の知っていることを話す方が一番楽しく話せるだろうし、それを受け入れてくれる人じゃないとちゃんと付き合えないんじゃないの?」と言われてしまった。
 かなり衝撃だった。そうか、そうだよな。かっこつけてもしょうがないよな。結婚まで考えるんだったら一番自然体でいられる相手が一番だよな。

 「ジェンのその相手がジュンイチなんだな。」というと、顔を真っ赤にして何か言っていた。よく聞こえなかったけどそういうことなんだろう。


~魔獣紹介~
大蜂:
並階位中位の魔獣。岩場や山岳地帯に多く生息している蜂の形をした昆虫型の魔獣。大きさは握りこぶしくらいで通常は動物や魔獣の死体を餌としているが、生きているものを襲うこともある。
1匹1匹は弱いが、100匹程度の集団で襲ってくることがほとんどで、最後の1匹になるまで攻撃をやめない。お尻にある針には弱い毒が含まれており、刺されると徐々にだるくなってくる。できるだけ早い段階で治療をした方がよい。
体が小さいため、剣や弓での攻撃は難しく、魔法攻撃が最も有効。体が油に覆われているため、特に火魔法が有効であるが、延焼には注意が必要。
もし巣を見つけることができれば女王蜂を退治することが望ましいが、地中に巣を作るため見つけるのは難しい。
素材としての買い取り対象はない。巣で育っている幼虫を食べる地域もあるため、地域によっては買い取りも行っている。


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