【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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27. 異世界186日目 いろいろとお勉強

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27. 異世界186日目 いろいろとお勉強
 今日から付与魔法を習うことにしているんだけど、時間がまだあるので朝食を食べてから役場の訓練場に行って簡単に体を動かす。60分ほど鍛錬してからカサス商会へ。

 受付に行ってしばらくするとちょっとごつい感じのひげを生やした男性がやってきた。

「あなたたちが付与魔法を習いたいという二人だね。私は魔道具部門でリーダーをやっているトルイトだ。今日から10日間講師として指導させてもらうのでよろしくな。」

「始めまして、ジュンイチと言います。よろしくお願いします。」

「初めまして、ジェニファーと言います。よろしくお願いします。」

 部門のリーダーってかなり偉い人なんじゃないのか?いいのか?

「あまり緊張しなくてもいいよ。カルニアさん直々の依頼であれば他のものには任せられんからな。」

 なんかちょっと大事になっているような気がする。

「すみません。申し訳ないですが、ほんとに付与魔法についての知識はゼロなのですがいいのですか?」

「問題ないよ。こう見えても以前は教師みたいなこともやっていたので教えることには慣れているからな。」

 そういうことではなく、そんな役職の人が自分たちに時間をとっても大丈夫かと聞きたかったんだけどね。まあこれ以上は何も言うまい。


 このあと作業する部屋に移動して、付与魔法についての勉強から始まった。

 付与魔法の術式の基本は二つあり、一つは頭脳部分となる付与魔法を発動するための術式、もう一つは補助的な部分となる増幅、伝達などの効果がある術式だ。付与魔法を刻んだものは魔符核と呼ばれ、ちゃんと刻印されることで効果が発揮される。

 付与魔法を発動する術式にはいろいろな文字が使われていて、効果を念じながら文字を刻むことで効果を発動する。このため同じ内容でも文字数が少ない言語で刻まれるほど有利となるが、その言語をマスターしていなければ効果は得られないため、通常は母国語が使われる。おそらくそれぞれの言語レベル4とか5が必要な感じか?
 文字数を少なくするためだけにその言語を学ぶ付与魔術師もいるらしく、現在最も効率がいいとされているのはナンホウ大陸で使われている言葉のようだ。以前に簡単な記号に意味を持たせて効果が得られないかやってみたらしいが、うまくいかなかったようである。おそらく言語として認識されていなかったせいかもしれない。
 ただし付与する効果はその魔法を使えなければ効果を発揮できないようだ。このため氷魔法とか雷魔法とか上位魔法を使える付与魔法士はかなり貴重らしい。

 補助の術式は模様や記号がメインであり、多く刻めば刻んだだけその効果が大きくなるようになっている。こちらは最低限の魔力と手先の技術があれば誰でも刻むことができるらしい。このため、魔道具の製作にはメイン部分と補助部分を分業で行っていることが多いようだ。

 付与魔法の刻印を刻むサイズを大きくすればそれだけ効果が大きなものができると考えてしまうが、刻印の大きさに比例して加速的に使用しなければならない魔素の量が増えてしまうらしい。研究用であれば魔素の使用量が多くなってもまだいいんだけど、実用レベルだとその効果と魔素量はバランスが必要となってくる。
 このため、魔符核の大きさは最大で200ヤルド(20cm)までらしく、通常のものは100ヤルド(10cm)程度に抑えられている。付与魔法の内容によっても魔素の使用量は変わるけど、大きさによるインパクトの方が断然大きいようだ。

 文字を小さく、文様を細かくできればそれだけ高性能な魔道具を作れることになるので、付与魔法の技術者は精度をどこまで上げられるかが重要となる。
 刻むのに失敗するとその部分は使えなくなるので無駄なところが増えて、刻む部分が少なくなるため、効果が少なくなってしまう。失敗した場所によっては致命的で効果を発揮しなくなって使えなくなってしまうこともあるようだ。魔符核は刻んだ面積ではなく、外周となるため、円が一番効率がいいらしい。


 一般的な魔道具は使用する魔素を魔獣石から取り込むようにしているため、メインとなる付与魔法の刻印と効果増幅、伝達の効果の刻印が使われている。

 原理的には魔素の取り込みの文様を多く入れると、魔獣石などを使わずに空気中から魔素を取り込む永久機関とすることもできるが、一つの魔符核で魔素の取り込みまでできるものは効果がかなり小さなものになってしまうのが現状のようだ。
 そもそも魔素取り込みの魔符核は作れるんだけど、現代のレベルでは効率がかなり低く、魔獣石の消費の補助というレベルでしかできないらしい。魔素の取り込みの魔符核を作ってもその魔符核自体が魔素を消費するため、抽出できる魔素がごくわずかになってしまうのである。
 これを100個も200個もつなげればいいんだけど、そこまでするのなら魔獣石を使った方がいいと言うことになってしまう。


 収納バッグなど過去の高位の魔道具には現代では解析されていない文字が使われていて、またかなり緻密な模様が刻まれているため復元ができないらしい。文字も形だけ同じように作っても理解していないため発動してくれないようだ。

 現在使われている一般的な魔道具を見せてもらったんだけど、それでも小さな板にびっしりと文字や模様が刻まれていた。
 ただ過去の高位の魔道具は見たらすぐ分かるぐらいのレベルで緻密に刻まれており、差は歴然だった。しかしメインに使われている文字は漢字のような雰囲気だ。漢字を使うと文字数が少なくて意味を持たせやすいような気もする。もちろん漢字でも複雑な場合は大変だけどね。


 付与魔法を刻むのは金属や木片などなんでもいいんだけど、木など柔らかいものだとせっかく刻んだ文様が壊れてしまうことが多いため、普通は金属を使うみたいだ。この金属も種類によって効果が増幅されるらしい。
 やはりこちらの世界にもあったミスリルやオリハルコンだと効果が大きくなるようだけど、価格が高い上にそれだけ技術も必要になってくるらしい。このため通常使われるのは銅や鉄になる。

 なお装備品に付与されるのは個別に依頼がない限りは30ヤルド(3cm)以下の大きさになっている。これは使用者の魔素を使う前提で作られているためで、魔素の使用量を抑えるためのようだ。複数の効果を付与する場合はさらに小さくしなければならないので複数の効果のあるものは価格が高くなっていく。
 このため耐久性向上の効果が付与されていても誰かに使われていないと付与がされていないものと同じように劣化したり錆びたりしていくらしい。


 この日は一日かけて文様や記号の意味の理解や付与魔法の使い方など座学を中心とした講義となり、最後に少しだけ実際に付与魔法を実践してみた。文様を刻む以前に刻印すること自体が思ったより大変だった。正直10日間でできるようになるのかかなり不安である。

 4時半に講義が終了してから1時間ほど図書館で勉強。帰りに夕食を食べてから宿に戻り、魔法のイメージトレーニングや勉強をすることにした。



 翌日からも朝は剣術の訓練、そのあとは付与魔法の講義、終わった後は勉強と魔法の訓練とひたすら勉強漬けだ。地球にいた時にここまで必死になってやることなんてなかったんだけどねえ。一人ではないことと、全く未知の内容を覚える楽しさがあるせいかもしれない。

 必死に勉強したせいもあって、10日目には自分もジェンも最低限の魔道具を作ることができる様になった。付与学はレベル3まであがったけど、付与についてはレベル1なのでまだ駆け出しレベルなんだけどね。
 知識的には十分な感じなので、あとは刻印の技術を磨いていけばいいようだ。そうそう腕が落ちるものではないけど、上達するにはできれば毎日少しだけでも練習をしていった方がいいらしい。


 試しに日本語を使った魔道具を作ってみたところ、ちゃんと効果を発揮してくれた。画数の多い漢字は難しいけど、ひらがなでも文字数的には少ないので日本語の方が良さそうな気もする。
 トルイトさんは自分が使っている文字を見て「これだけでこの効果が出るのか?」とちょっと驚いていた。「火」や「ひ」という1文字で火が出るようにもできたし、「水」という文字で水が出るようになったからね。
 トルイトさんがかなり興味を引いていたんだけど、もう少しいろいろやってものになりそうなものができたら連絡するように言っておいた。まだまだ刻印のレベルが低すぎるからねえ。

 予定していた講義が終了したのでお礼を言ってからいつものように図書館にお勉強へ。夕食の後はお風呂に入り、この日は早めに寝ることにした。とりあえず付与については最低限の知識と技術を手に入れたかな。


 ジェンは引き続きカサス商会で調合の勉強をすることになった。知識だけはすでに勉強済みなので、あとは実際の調合の場所で習いながら働かせてもらう形だ。

 自分はというと罠解除の技術を修得するために役場で行われている講習を受けることにしている。このために罠に関する勉強をしておいたので知識的には大丈夫だろう。講習は4日に1回のペースで行われているので今日から受けていけばそれなりの数はこなせるはずだ。


 ジェンと一緒に朝の鍛錬に行ってから自分はそのまま講習を受ける。講習代は300ドールとそれなりの値段だ。罠の知識は一通りある前提での講義なので、実習がメインの講習となるんだけど、今回講習を受けているのは全部で6人だった。

 簡単な説明の後、郊外に造られた訓練場へ移動する。罠の探知方法や発見方法について、この訓練場で実演しながらの訓練となる。探知方法については索敵と同じような感じなんだけど、罠についてしっかり把握していないとうまく探知ができないみたい。ここは経験していくしかなさそうだね。
 もちろん罠の探知だけですべてを把握できるわけではないので、視覚や音による確認も必要となってくる。

 一通り罠の探知ができるようになった人から、訓練場に順番に入って罠を探知しながら進むという実習となった。指導者と一緒に進み、罠があれば止まって確認するという感じだ。全部で30個ある罠の内、探知できたのは25個だった。初めてにしては十分優秀なレベルらしい。
 この簡易ダンジョンは魔法である程度仕掛けの位置が変えられるようになっているので、繰り返し訓練に使えるという優れものだと指導者が自慢していた。もちろん罠は本格的なものではないんだけどね。

 そのあとは落とし穴、スイッチの仕掛け、鍵の罠などの解除、回避方法についての説明を受けていく。もちろん罠の種類や解除方法などは色々あるので、ここで体験するのは代表的なものだけで、あとは経験を積み重ねていくしかないようだ。


 ちなみにこの世界には異世界ものの小説でよくあるような生き物のダンジョンというようなものはない。あくまで盗賊の隠れ家や昔の遺跡に時々ある罠や隠し扉の発見などに対応するための訓練なので、パーティーに専門職が必須という訳ではないらしい。実際、蠍の尾のパーティーではイントさんやスレインさんがその役を兼任しているくらいだからね。
 ただ最低限の知識を持った人が一人はパーティーにいないとなにかのときに困ってしまうと言うのが大きい。

 また講習では鍵開けの技術というのは教えてくれない。これは独自に訓練するしかないようだまあピッキング方法を教えてしまったら泥棒とかに使われてしまうからね。
 ちなみに鍵には通常の鍵と、魔法による鍵の2種類がある。通常の鍵はシリンダー式のものが多く、コツさえつかめばある程度は開けられるようになるらしい。地球でも鍵開けの道具とかあったけど、どうにか訓練してみるしかないな。

 問題は魔法の鍵の方で、これは固有の魔力で鍵をかけられているので、普通は鍵がないと開錠はできないらしい。もちろんマスターキーのようなものはあるみたいだけど、それ以外では物理的に壊すしかないようだ。


 自分の罠の講習がない日は錬金について体験させてもらうことにした。錬金は鉱石から必要な物質を抽出したり、それらから合金やものを作ったりする魔法となる。地球では融点の違いなどで抽出しているものなんだけど、こっちでは魔法で抽出するようだ。

 錬金術と言っても物質を変えて目的の物質が得られる訳ではない。もしかして魔法で物質を変えられるのかもしれないけど、それは分からないし、本にもそういう記述は見つけられなかった。

 カサス商会に行ってから、ジェンは調合の部門へ、自分は受付の女性に案内されて錬金の部署のリーダーであるカルクさんと言う方と会う。錬金は鉱石を使うため、町から離れた鉱山近くで行っているらしい。このため車で30分ほど走ったところに移動する。
 鉱山近くに塀に囲まれた工場のような施設が作られており、採掘と併せて金属の抽出をしているらしい。抽出を行っている作業場に入ると、20人くらいの人が黙々と作業を行っていた。

 ここでは鉱石から必要な物質を抽出しているが、主に抽出するのは鉄らしい。他の金属についてはそれぞれの鉱山で行っているようで、貴重な鉱物についてはもっとセキュリティーの高いところで熟練者がやっているようだ。
 魔法を使うせいか連続しての作業は厳しいらしく、一日のノルマが決められているので最低限そのノルマをこなせばあとは自由となる。まあ抽出以外の作業もあるので実際はそこまで自由というわけではないようだけどね。


 チームリーダーと言われる人から簡単にやり方について教えてもらう。最初に取りかかるのは鉄からとなる。基本となる鉄のサンプルに結合するように鉱石から同じものを取り出す。サンプルを鑑定してみると純度100%の鉄となっている。これってたしか地球でもかなり貴重なものじゃなかった?
 鉱石を見ると鉄やアルミなどいろいろなものが混じっているようだ。なんでサンプルがいるのかよく分からない。そのまま鉄だけ分離すればいいような気もするんだが・・・。

 お手本としてやって見せてくれたんだけど、サンプルを左手にもち、鉱石に右手を当てて魔力を流し込んでいる。すると鉱石から鉄が取り出されてサンプルの周りに堆積していく。
 原子とかが解明されていないため鉄というのがどういうものか分かっていないのかもしれない。このためサンプルと同じものを鉱石から抽出というイメージで魔法を行っているのだろう。


 とりあえず同じようにやってみることにした。鉄を鉱石から取り出すようイメージしてそれをサンプルに結合させていくと、思ったよりもうまくいった。ただ思いのほか精神的に疲れてしまう。結構魔力を使ってしまうようだ。

 うまくいったことを確認したのか、頑張って経験を積んでくれといって席に戻っていった。他にも鉱石をいくつか置いていったんだけど、見てみると、含まれているのは銅、金、銀、ニッケル、モリブデンなどだった。

 このあとは鉄と炭などを規定量混ぜて材料を作り、武器などを作る材料となる。それを鍛えて武器の強度を上げていくのが鍛冶となるんだが、錬金でも鋳造なら作れるみたいだ。もちろん鋳造だとそれなりのレベルにしかならないんだけどね。


 そういえば刀の原料となる鉄は地球の現在の技術でも簡単には作れないというのを前にテレビで見たことがあったなあ。今のところ昔ながらの工法でないとだめとか言っていたような気もする。魔法でもできないのかね。まあ強度向上とかの魔法があるからそこまで強度はなくてもいいのかもしれないけどね。

 試しに他の金属についても抽出してみると、問題なくできてしまった。これって元素が分かっていたら結構簡単にできるんじゃないのか?ちょっとまずいかもしれない。取り出したのは少しだけだったので気付かれないと思う。
 あとステンレスとかの合金って言うのはこっちの世界ではあるのだろうか?向こうの本の知識と錬金の技術を使えば結構簡単に作れそうな気もする。


 とりあえず一日頑張って鉄の抽出をやっていたんだけど、10kgのインゴットを二つが限界だった。ちなみにノルマは10kgなので十分な成果ではある。初日でこれだけやったので驚いていたしね。でも一日一人この量だったら抽出も結構大変な気もするなあ。鉄の抽出って地球では紀元前には出来ていたはずなんだけどなにかあるのかねえ。
 スキルを見てみるとちゃんと錬金のスキルが付いていた。思ったよりも早く付いたな。帰りは大型のバスで町まで送ってくれた。


 ちなみにこちらで製品の生産をするのは基本的に魔法を使うみたいで、紙や袋なんかも油や液体から作り出しているようだ。作り方は金属の抽出と同じような感じで作っているようなんだけど、最初の製品をどうやって作り出したのかはよく分からない。
 ものによっては魔道具を使って作っているものもあるようだけど、少量生産であれば錬金術師がそのまま生産しているようだ。
 魔法で作るので水質汚染や大気汚染とかがなくていいんだろうけど効率的と言っていいのか、非効率と言っていいのか・・・。


 ジェンに調合のことを聞くと、材料のバランスとか、魔力の調整とかが結構難しくて大変だったようだ。こっちは知識だけだとうまくいかないみたい。
 そうは言っても初日から最低限の調合ができるようになったようなので、やはり給料を払わないといけないのではないかという話になっているみたい。そういえば自分も同じようなことを言われたなあ。



 翌日からも毎日ではないけど、ジェンは調合、自分は罠と錬金の勉強をしていく。カサス商会も自分たちが思った以上に成果を出しているため、バイト代を出してくれたのでありがたかった。付与魔法と違って科学知識が意外に使えたのが大きかったね。

 せっかく鉱山に行ったので採掘もやらせてもらった。採掘は露天掘りで行われており、魔法で目的の鉱石を探すらしい。手にサンプルを持って同じものが多く含まれるエリアを探索するらしい。探索については索敵の感じに近く、それを土魔法で行う感じだ。

 土魔法と言ってもどうすればいいのか簡単にはイメージできない。いろいろと聞いてみると、どうも超音波のような振動を発すればいいようだ。土に若干の振動を与える要領で魔法を飛ばすと、索敵で魔獣を見つけるように地中に目的の鉱物の位置がわかってきた。元素をイメージしてやってみるとそれもうまくいった。
 発見したエリアに土魔法を使い少し鉱石を取り出してみると、それなりに純度の高いものがとれたので、思ったよりも簡単だなと思っていたら、普通は探索ができるまでかなり時間がかかるらしい。
 ここで直接目的の金属を取り出すこともできるらしいが、効率を考えるといったん鉱石を回収してからの方がいいみたいだ。



 他には鍛冶や調合、商売についての本もいろいろと読んでいる。とりあえず知識だけは仕入れておかないと、技術スキルは身につかないからね。
 ただ鍛冶についてはカサス商会でもやっていないので、ほんとに習うのなら鍛冶屋にお願いしてやらせてもらうしかないかもしれない。あとは我流でやるかだけど、そもそも設備がないからなあ。そんなレベルではスキルは身につかないだろうし・・・。


~トルイトSide~
 俺はカサス商会のサクラ支部にある魔道具部門をとりまとめている。魔道具部門は魔道具の生産と、新たな魔道具の開発を行っているところで、生産品の管理や研究の進捗具合の管理で忙しい日々を送っている。
 いつものように魔道具に関するとりまとめをやっていたらカルニア支店長から連絡があった。特に問題は起こしていないはずだが・・・と思って話しを聞くと、ある人物を教育してくれないかと言うことだった。
 若い二人だが、商会でいろいろと世話になっている人で、今度は付与魔法について勉強をしたいと相談に来たのでうちで学べると伝えたようだ。
 基礎からと言うことらしいので、最低5日、出来れば10日は時間を取ってくれなければ教えることは無理だろう。他にも習う場合の内容を伝えていったん話は終わったんだが、そのあと明日から10日間やってくれないかとの話が来た。
 人選は任せると言われたんだが、せっかくなので俺が行うことにした。10日間はかなり忙しくなるが、なんとかなるだろう。


 目的の人物が来たというので受付に行ってみると、成人したばかりと思われる男女がいた。若いとは聞いていたが、まさかこんなに若い二人とは驚いてしまった。

 さっそく講義を始めるが、付与魔法については全くの素人だった。しかし講義を始めると、思った以上に吸収力が高く、数日で付与魔法の内容を一通り理解してしまったのには驚いた。付与魔法のことは知らなかったが、それの元になる知識量が多いように感じる。


 さすがに刻印の技術は0からだったが、知識の講義が短かったことと、かなり集中して取り組んでいたこともあり、10日間で簡単なものではあるが販売しているレベルの魔符核を作れるようになった。もともとは学識と簡単な実技の講義で終わる予定だったんだがな。

 一番驚いたのは俺の知らない文字を使って刻印をしていたことだ。文字としては1文字なんだが、それだけで効力を発揮していた。古代の魔道具に刻印されている文字に似ている印象も受ける。時々二人の会話で使われている言語だろうか?

 せっかくなので譲ってほしかったが、もう少し改良したいので、確認が終わったら連絡すると言われたのでおとなしく引き下がった。カルニア支店長からも無理強いをしなければちゃんと連絡をしてくれるということを聞いていたので素直に待つしかないだろう。

 もともとは会長のコーランさんがジュンイチさんを見つけてきたらしく、その知り合いがジェニファーさんらしい。下にも置かない対応をしているのも分かるような気がする。正式には聞いていないが、最近の商会で行っている数々のアイデアを出した人なのだろう。


~ジェンSide~
 しばらくサクラでいろいろな技術を身につけようという話になった。今後生活していくためにいろいろなことを知っておくのはいいことだと私も賛成してやることにした。

 付与魔法を習いに行くと、かなり偉い人が指導してくれるみたいなので、やはり私たちの利用価値が高いと考えているのだろう。ただ無理は言ってこないので今のところはいい関係を築けていると思っている。


 トルイトさんはかなりわかりやすく指導してくれたので付与魔法についてかなりのところまで理解することができた。イチと二人で色々と確認しながら付与魔法を覚えていく。10日間だけだったけど、それなりの魔符核ができるようになったのでよかった。

 やっぱり日本語はこういうものには向いているみたいで、かなり少ない文字で効果を出すことができたみたい。他の言語はどうかと試したみたところ、スキルレベルが4のスペイン語では刻印できたけど、日本語やドイツ語などのスキルレベルが3以下のものでは効果が発揮できなかったのでスキルレベル4以上の語学力がいるってことみたい。日本語はもう少し頑張ろう。

 日本語の刻印を見たトルイトさんはかなり興味を引かれたみたいだけど、もう少し改良したいと言うと、すぐに引き下がってくれた。変な方向に行ってしまうと使い潰されてしまうかもしれないので慎重に進めた方がいいわね。



 付与魔法のあとは調合のスキルを勉強することにした。イチと一緒に行動するなら同じものだけを取得するよりも、手分けして取得した方が効率いいはずだからね。

 調合はいろいろな薬草を決められた比率で混ぜ合わせていくのだけど、混ぜ合わせるときに魔力の供給を常に安定して注ぎ込んでいかないと効果が低下してしまうと言うかなり難しい作業となる。常に一定であればいいのだけど、目的の薬によって注ぎ込む量が変わるので必要な魔力を覚えるだけでも大変なのよね。

 ある程度基本的な調合比率は勉強していたので、魔力の調整を行うことに注力できたのはまだよかったわ。おかげで初日から簡単なものであれば作れるようになったので教えてくれていたチームリーダーのサルファニーさんは驚いたみたい。

 薬を入れる瓶は熱湯消毒していたので、浄化の魔法ではだめなのか聞いたところ、浄化だけだと薬の劣化が早いらしい。どうやら普通の浄化魔法だと殺菌まではできないようなのよね。もしかして私たちは浄化魔法と言いながら治癒魔法とかも併用して浄化しているのかしら?

 調合の時に治癒魔法を意識して魔力を注ぎ込んでいたら思ったよりも高い品質のものができてしまった。鑑定してみると「初級治療薬(良)」とでている。
 薬の種類について聞いてみると、原料によって初級、中級、高級、特級とランクは決まっているのだけど、作る人によって品質は異なるらしい。通常販売されているのは並か高グレードで低グレードのものは販売していないようだ。実際には捨てるのももったいないため、寄付されているみたいだけどね。

 私の独り言を聞いていたのか、サルファニーさんが私の作った薬を鑑定して驚いていた。

「りょ、良グレード・・・。」

 サルファニーさんは他の部屋に移動してから説明してくれた。どうやら良グレードを作れるのはかなりの熟練者になるようだ。習い始めてすぐにこのレベルのものが作れるというのは普通あり得ないらしい。

「もしかして治癒魔法を使えるの?」

 しばらく考え込んでいた後、私に問いかけてきた。まあ否定してもしょうが無いかな。

「ええ、簡単な治癒魔法を使うことは出来ます。」

「なるほど・・・。はっきりとは解明されていないが、治癒魔法を使える場合、作る薬の効果が高くなることがあるらしい。」

 どうやら治癒魔法を使える人は教会が囲っていることが多く、研究があまり進んでいないみたい。実際にスキルが無くてもグレードの高い薬を作れる人もいるようだしね。

「良グレード以上の品質は効果が大幅に高く、価格が通常の1.5倍以上で取引されている。とりあえず品質をチェックする担当者には話をしておくよ。」

 翌日からは初級治療薬だけでなく、他の薬についてもいろいろと挑戦させてくれるようになった。サルファニーさんも前以上に時間をとって熱心に教えてくれるのでちょっと驚いている。調合だけでなく、薬草の効果の説明をしてくれるので、非常にわかりやすかった。



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