【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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28. 異世界196日目 蠍の尾パーティーのお宅拝見

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28. 異世界196日目 蠍の尾パーティーのお宅拝見
 付与魔法の勉強が一段落した頃、いろいろと指導してもらっているスレインさん達のところに遊びにいくことにした。上階位昇進のお祝いと言うことでお昼をスレインさん達が準備してくれるらしい。
 3時前に来てくれと言うことだったので、今日は遅めに起きようと思っていたんだけど、いつもの習慣か0時には起きてしまった。ジェンはまだ眠っている。よく自分と一緒にいてくれるよなあ・・・と思って眺めていると、ジェンも起きたようだ。
 「だから寝顔をあまり覗かないでって言ったでしょ!!」といつもの文句が飛んできた。横で寝ているんだから見えるのはしょうがないじゃんか・・・。見られたくないなら自分より先に起きろって。


 最初の頃は脱衣所に行って着替えていたんだけど、狭いからと言って今は自分がいるのに部屋で着替えをするので困ってしまう。もちろん下着までで裸にまではなっていないと思う・・・。着替えるときは後ろを向いているんだけど、やっぱり気になって仕方がない。だけどもう男としてみてないよね?


 準備が終わったところで朝食に向かったけど、今日はいつもとは違う店に行くことにした。ジェンがいろいろと調べて気になっていたところらしく、特に女性に人気のある店らしい。休日だと結構混むらしいけど、今日は平日なので大丈夫なようだ。

 店はちょっとしゃれた喫茶店のようなところで、サンドイッチをメインとした店らしい。飲み物とのセットで100ドールとそれなりにはするのはしょうがないか。
 人気の店だけあって味もなかなか良かった。ジュースも絞りたてのフレッシュジュースみたいで内容的には満足できるものだ。付与魔法のことや今後の話をしながら食事を楽しんで店を出る。

 そろそろ店も開き始める時間となり、せっかくなので時間まではいろいろと店を見て回ることにした。今のところ拠点もないため、あまり荷物は増やせないのがつらいところだ。また移動になるようだったら処分しなければならなくなるからね。

 携帯電話のようなものは売られているんだけど、まだトランシーバーのようなもので、誰にでもかけられるものではない。届く範囲もそこまで広くないようなのでコーランさんの車のように団体移動の時に使うのが主流のようだ。
 固定式のものであればかなりの距離が届くらしいんだけど、一般的に販売はされていないため、詳細は分からない。おそらく各主要都市間とか国家間とか大手の商会とかの連絡用なんだと思う。値段がかなり高いと言っていたからね。もう少ししたら携帯電話のようなものが使われるようになるのかねえ。

 最近気分転換用にゲームも購入している。ゲームと言ってもゲーム機ではなく、ボードゲームの方だ。リバーシやトランプ位なんだけど、トランプは枚数が違っているのでもちろん遊び方も違ってくる。チェスや将棋のようなものも、もちろんルールや駒の形は違っている。
 異世界ものでの知識チートの定番のゲームはここでは使えないようだ。もちろんここにないようなゲームもあるんだけど、娯楽道具がすでにあると言うことは爆発的な普及は見込めないだろうね。



 時間も迫ってきたので書いてもらった地図を頼りに家の方へと向かう。番地案内とかはないので地図がないとたどり着けないだろうなあ。
 場所は高級住宅地の外れになるんだけど、大きめの家が多い。地図と聞いていた建物の特徴をみて家は分かったんだけど思ったよりも大きな家だった。庭も広そうで門番と思われる人も立っている。まあこの辺りの家はすべて門番がいるんだけどね。

「すみません、ここはスレインさん達の蠍の尾のメンバーの家でしょうか?」

「はい、そうですけど、どういったご用件でしょうか?」

「今日こちらの家に訪問させてもらう約束をしていたジュンイチとジェニファーです。」

 門番の女性はこっちの方を見てちょっと驚いた表情をしている。

「は、はい、お二人のことは聞いていますので少々お待ちください。」

 そう言って門の非常口から中に入っていったので、しばらく待っているとスレインさんを連れて戻っきた。

「ジュンイチ、ジェニファー、ようこそ。さ、中に入ってくれ。ジャニー、連絡ありがとう。中には私が案内するから大丈夫だ。」

 門をくぐると広い庭になっていたんだけど、訓練に使っているみたいな道具がいろいろと置いてあった。玄関から家の中に入ると、日本とは違って部屋の中も靴は脱がないスタイルのようだ。宿がそういうスタイルしかなかったからそうだとは思っていたけど、やっぱりなあ。宿では部屋用にスリッパを履いていたけどね。

 そのままリビングのような部屋に案内されると、テーブルの上にいろいろな料理が準備されていた。

「うわ~、いろいろと用意してくれたんですね。」

「ああ、野営の時に交代で料理をするからな。それぞれ得意料理があるから各々作っていたら結構品数が増えてしまったんだ。あまり家庭的な料理じゃなくて申し訳ないが、味は保証するよ。」

 お手製の料理を準備してくれるとはありがたい。お土産に持ってきたお菓子の詰め合わせを渡しておく。

「それじゃあまずは乾杯するけど、ワインでいいのかな?」

「すみません、自分はジュースかお茶で・・・。」

「私はワインで大丈夫です。」

「そういえばジュンイチはあまり飲めないと言っていたな。折角いいワインを用意したのに残念だ。」

「それでは改めて。上階位昇進おめでとう!!乾杯!!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 さっそく料理を取り分けながら食べていく。たしかに無骨な感じの料理が多いけどおいしかった。かなり細かな飾り付けをしているお皿がいくつかあるんだけど誰が作ったものなんだろうな。

 料理がある程度一段落したところでアルドさんがケーキを運んできた。

「アルドは料理もだけどデザートも作るのが得意なのよ。この辺りのがアルドが作ったものよ。」

「アルドさんは料理が得意なんですね。ケーキもとてもおいしそうです。」

 細かな飾り付けとかをしているのがアルドさんが作ったものだったようだ。ケーキも綺麗な飾り付けをしたホールケーキでおいしそう。

「他の方達も全員料理はされるんですね。どの料理もおいしかったですよ。」

「ありがとう。まあ一番はさっき言ったとおりアルドで、その後はイントと私かな。デルタは・・・料理には手を出さないかな。」

「で、できないわけじゃないよ、しないだけだから!!」

「そ、そうなんですね。」

 この言い方はきっと何も出来ないんだろうな。うん、これ以上は突っ込まないでおいた方が良さそうだ。

「いたっ!!!」

「だ、か、ら、しないだけだって!!その分かったような顔はやめてよね!!」

 こっちの考えが分かってしまったのか、どうやら風魔法で攻撃されたようだ。危ないからやめてほしい・・・。

 デルタさんの言い訳をしばらく聞いていたんだが、アルドさんがケーキを切り分けてくれたのでそこで話は終了となる。ケーキは思った以上においしかった。



 この家は良階位になったあと、しばらくしてから購入した家らしいけど、不在にすることも多いため、屋敷の管理と見張りをかねて管理人を2名雇っているそうだ。一人は門のところにいた人でもう一人は今休憩しているみたい。

 一階はこのリビングや台所の他に管理人たちが泊まる小部屋が二つあり、お風呂もあるらしい。スレインさん達は2階にそれぞれ別に部屋があるようだ。
 良階位のパーティーくらいになると、大体どこかの町に拠点を購入するか借りているらしく、サクラで借りてもそれを維持するくらいの収入はあるみたい。
 ちなみにサクラで活動している冒険者は遠距離の依頼も多いので、車を持っていることが多く、スレインさん達ももちろん所有していた。狩りをするときは車で5~10日間かけて行っているらしい。


 話が一段落したところで、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「スレインさん達といろいろと店を回ったときに、店の人がかなり驚かれていたでしょ?他の冒険者の人たちも同じ感じでしたけど、パーティーメンバー以外の人と一緒に行動することが珍しいとかなんですか?」

「「「「あ~~~~。」」」」

「まあ別に隠すことでもないから話しておこう。」

 スレインさんが説明してくれるみたい。

「私達は冒険者として活動を始めたときからこの4人でやってたんだ。女性のみのパーティーだったせいもあったのか、最初の頃からよくからかわれたり、いろいろと嫌がらせや差別を受けたりしていてね。まあ言いにくいことだが、襲われかけたことも結構あったんだよ。やっぱりそのトラウマのせいか男性にはかなり警戒するようになったんだ。
 コーランさんのように長年付き合っているとまだ大丈夫なんだが、初めて会う男性などにはやはりそれが態度にも出ているみたいだ。
 私達のことを知っている人たちは気を遣って声をかけてこないんだが、知らない人たちは未だに一緒に食事はどうかとか、いろいろと絡んでくるんだよ。」

「まあ確かに初めて会ったときは対応が冷たい感じでしたね。」

「あのときは申し訳なかった。男性だったこともあるが、実績ポイント稼ぎの冒険者と思ったこともあって態度に出てしまったようだ。
 まあ、あのあといろいろと接しているとかなり警戒が薄れてきた感じではあるかな。あの盗賊退治でかなり信頼が置けるようになったのも大きいと思う。今までの男性よりもジュンイチは気が置けない感じではあるな。」

「それは・・・あまり男性としてみられていないような・・・。」

「そういう訳ではないんだがな・・・。」

 苦笑いしながらジェンの方を見ている。ジェンに何か言われたのかな?


「だけど、スレインさん達くらいの美人でスタイルもいい女性が4人もいたら下心がなくても声をかけたくなるのもわかる気がしますよ。折角なら知り合いになりたいと思うのは男としてはしょうがないように思いますけどね。」

「「「「美人って・・・?」」」」

「え?いや・・・、さすがにそれは自覚してくださいよ。なあ、ジェン。」

「うん、私もそう思うわ。男性だったらほっとかないと思う。」

「え?そ、そうなの?たんに女性だからと思って絡んできているのかと思ってたんだけど・・・。」

 まあ下心がなかったとは言わないけど、男性不信が強くて悪い方にしか受け取っていなかったのかな?もう少し自分たちがどう見えているか自覚した方がいいと思うんだけどね。どう考えても普通に目を引くレベルだと思うし、それがパーティー全員となれば余計に声をかけると思う。


 このあとは今後の自分たちがやろうとしていることに対して助言をもらったり、他の町や国のことについていろいろと話したりした。スレインさん達はナンホウ大陸のモクニク出身らしく、最近は大分良くはなってきているけど、男尊女卑がここよりもひどいために成人したところで国を出たらしい。
 国を出てからはヤーマンを中心に北のアルモニア、東のハクセンを活動の場にしているようだ。他の国にも行ってみたいのでそれぞれの国の情報もいろいろ聞くことができた。

 年齢のことをそれとなく確認したところ、成人するまでにかなり訓練をしていたこともあり、冒険者になって4年で良階位になったらしい。良階位になってから3年と言っているので今は21~22歳くらいかな?
 彼女たちは成熟が早いが、その後の老化が遅いみたいで20歳くらいから40歳くらいまでは容姿があまり変わらないらしい。うらやましいねえ。

 しかし4年で良階位になるというのはかなり早いほうだろう。上階位まではなんとか上がれるが、良階位に上がれるのはほんの一握りで、かなりの実力が必要となってくるはずだ。良階位になる人たちは20代で昇格する人が多く、逆に年齢が上がってから昇格する人はかなり珍しいようだ。



 気がついたらもう5時になっていたのでおいとますることにした。玄関まで見送りに来てくれて、「また時間ができたら遊びに来てくれ。」と言われる。門番の女性がかなり驚いているのはきっとこんなやりとりが今までなかったからだろう。

 結構お茶やお菓子など食べていたせいであまりおなかもすいていなかったので、夕食にはハムと野菜のサンドイッチで簡単に済ませることになった。


~スレインSide~
 今日はジュンイチとジェンが遊びにやってくるというので朝から料理をした。アルドは前日からケーキの準備もして、かなり張り切っている。デルタは相変わらず料理には手を出さないけど、出してもらうと困ることになるからいいんだけどな。
 家に誰かを招くと言うことは仕事の都合でどうしてもというとき以外はほとんどなかったのでちょっと緊張している。

 お昼前に二人がやってきたので門まで出迎えに行くと、門番のジャニーが少し驚いていた。たしかに今まで迎えに出ることはなかったかもしれない。


 ジュンイチもジェンも用意した料理を「おいしい、おいしい。」と言って食べてくれた。アルドが作ったケーキにはかなり驚いていたけどね。アルドはかなり照れていた。

 ジュンイチに他の人の態度について聞かれて説明したときに、ジュンイチから「美人だから」と言われてみんな黙ってしまった。いつもは言われても聞き流しているんだが、ジュンイチから真剣な顔で言われるとどう対応していいのか分からなくなってしまう。
 ジェンからももう少し自覚した方がいいと言われてちょっと焦ってしまった。今までは女性パーティーが珍しいからからかわれているだけだと思っていたんだけど・・・。



 ジュンイチ達は今いろいろと勉強しているようだ。冒険者だけでやっていけるかも分からないし、何か向いていることがあるかもしれないので一通りやってみるらしい。武術のレベルも結構あるし、特に魔法についてはかなりの実力だと思うのだけどね。

 二人と話しているとあっという間に時間がたって夕方になっていた。自分たち以外と時間を忘れて話をするなんていつ以来ぶりだろう。また遊びに来てくれるかな?


~アルドSide~
 今日はジュンイチとジェンが家に遊びに来るというので料理だけでなくケーキも焼いてみることにした。小さな頃からお菓子などの甘いもの好きで、いろいろなものを食べたいと結局自分で作るようになってしまった。

 かわいいものも大好きなんだけど、やっぱり似合わないので普段は身につけていない。おかげで部屋の中はみんなに引かれるような感じになっているのは自覚している。ぬいぐるみなんかは自分では買えないのでいつも他の人にお願いして買ってきてもらっているので部屋はぬいぐるみであふれてしまっているのは秘密だ。

 人見知りな上、体が大きくて怖がられていることもあり、無口な人と思われているようだけど、本当はいろいろと話すのは大好きだ。

 最近知り合ったジュンイチとジェン。最初はもちろん全く話すことができなかったが、他の皆が話すようになってから私も徐々に話すことができるようになってきた。
 頑張って作った料理やケーキを二人は美味しいと言って食べてくれた。ケーキを私が作ったのには驚いていたので、やっぱり似合わないかなと思ったが、「家庭的でいいなあ。」と普通に言ってくれた。

 ジュンイチから「みんな美人だから」と言われて照れてしまう。そのあとの二人の熱弁を聞いてさらに恥ずかしくなってしまった。そんなに褒めてもらうと・・・。

 いろんな話をしているとあっという間に時間が過ぎてしまっていた。こんなに話したのは久しぶり。こんな男性もいるんだなとジェンがちょっとうらやましくなった。

~~~~~


 訓練や講習を頑張っていたある日、カサス商会に呼ばれていたのでジェンと合流してから顔を出してみると、カルニアさんがやってきた。講習のお礼をいうと、付与魔法で面白い文字を使っているんですねという話をされたので、もう少し形になったらお話ししますと言っておいた。

 呼ばれたのはインスタントラーメンのことらしい。前に説明した事前調査と言うことでモニターに試作品を渡してアンケートをとったところ、すぐに売り出してくれと言う意見が大半だったらしい。味や容器のサイズなど改善点もいくつかあったけど、概ね問題はなかったようだ。
 来月から販売を開始するらしく、売り上げを期待してくださいとのことだった。まずはここサクラで販売し、そのあと徐々に他の町に広げていくらしい。現在は消費期限を3ヶ月とするようだけど、状況を見て使用期限は伸ばしたいと言っている。モニターの人には長期間保存の検証の依頼も行っているらしい。


 しばらく話をした後で、箱を取り出して渡してきた。

「よろしければこれを使ってください。」

 開けてみると、中には大きさ100ヤルド四方のポシェットのような形でウエストバッグになるようにひもがついているものが二つ入っていた。

「鞄ですか?」

「普通の鞄に見えますが、それは収納バッグと言われるものです。」

 まじか!???

「えっと・・・たしか収納バッグってかなり値段のするものでしたよね?さすがにこんなに貴重なものをもらうわけにはいかないですよ。」

「いえ、確かに貴重なものではありますが、容量は1キリル(1m3)くらいと収納バッグにしてはかなり小さなものなので、商売に使うとしてはそこまで大きなインパクトはないんです。会長からせっかくならジュンイチさん達に役立ててもらった方がいいと言われたんです。」

 たしか前に調べたときは8キリルの容量で800万ドールとかで、大きくなればなるほど加速的に値段が高くなっていたはずだ。1キリルのサイズでも50万ドールくらいしていたと思う。それ以前になかなかものが出ないのでお金を出せば買えるものでもなかったはずだ。
 たしかにこの間の輸送の時も収納バッグにも荷物を入れて輸送しているとか言っていた。どのくらい持っているのかは分からないけど、商会によっては冒険者を雇って探しているという話も聞いたことがある。

 商売では使い勝手があまりよくないと言っても1キリルの大きさがあれば今持っている荷物は余裕で運べるくらいだ。たしかに欲しいものだけどいいのか?蠍の尾ではデルタさんが収納魔法を使えるのでだいぶ楽みたいだけど、それでも収納量は10キリルくらいらしい。他に収納バッグは3キリルくらいのものを持っているらしいが、やはりもう少し大きなものがほしいと言っていた。

「とてもありがたいお話なんですが、さすがにただでこれをもらうというのは・・・。」

 結局レンタル代というわけにもいかないので、期限は設けないが借りると言うことで落ち着いた。


 いきなり渡されても使い方がわからないので、使い方について話を聞く。
 収納バッグは中に入れるサイズが決まっていて、容量を超えるとそれ以上は収納できなくなるらしい。まあこれは予想通りだな。
 容量は決まっているんだけど、収納するものによって使用する容量が異なるらしく、軽いものは多く入り、重いものはあまり入らないという感じで、中に入れるとある程度圧縮した感じで詰まっているイメージのようである。このため、ここでいう容量については水を入れたときに入る体積で確認されているようである。

 使い方はバッグに使用者の魔力を登録することから始まる。登録した人しか保存ができないし、保存した人しか取り出しはできない。登録できる人数は1人だけなので、登録した人が収納しているものがある間は他の人は使えないことになる。
 ものを中に入れるときはバッグにくっつけた状態で入れたいものに魔力を込めて、バッグ収納をイメージすると中に入る。バッグの口の大きさは気にしなくていいらしい。

 中に入れたものはバッグに手を当てて魔力を当てると取り出せるものが頭に浮かぶようだ。その中で取り出したいものを念じると自分の周り1キヤルドくらいの範囲に取り出すことができるようだ。ただしバッグから出てくることになるので、ものがあると認識されている空間には出せないようだ。
 水を挟んで出そうとした場合には水がはじけ飛んでしまうし、ものがあった場合は取り出せないか、ぶつかってしまうようだ。ただし取り出すものの大きさにかかわらず、ある程度の穴があればその遮蔽物の先に出現させることは出来るみたい。

 装備品と同じく、使用者の魔力を使って収納を維持しているらしいけど、魔素の回収効率が高いのか、魔力の供給がなくなっても1年くらいは持つらしい。ただその魔素が切れたときの中身がどうなるかは最初に登録したときにどうするか考えることで決まるようだ。

 ほとんどの人がバッグから出てくるというのを選択するんだけど、消えてしまうを選択する人もいるらしい。「これは誰にもわたさん!」と考えている人は後者のようだ。おかげでその人が急死したときとかに大変なことになるようだ。

「それじゃあ、さっそく試してみます。」

 バッグの色は茶色と薄茶色のものだったんだけど、ジェンが薄茶色のものを使うようだ。自分の魔力をバッグに流し込んで登録してみたんだけど、思ったよりも時間がかかる。もちろん魔力切れの時は出てくるようにイメージしておく。登録した人を変える場合は登録者が登録を解除するか、魔力の供給が切れるのを待つしかないみたい。

 登録が終わったところで持っている盾に魔力を込めて収納を意識すると盾が消えた。バッグに手を当ててバッグの中を見ようとすると、頭の中に「鉄の盾」のイメージが浮かんできた。それから鉄の盾を自分の手の上に出るようにイメージすると出てきた。なるほど・・・これは便利だ。ジェンも同じように何度も試している。

「どう?とりあえず何となくは使い方は分かったけど、かなり便利そうだよね。」

「ええ、もう少し使ってみないと分からないところもあるけど、特に難しいものではないわ。」

 入れたものの重量についてはそれぞれのバッグで違うみたいで、このバッグは元々の重さの千分の1になるようだ。程度の低いものでも百分の1くらいで、優れたものになるとほとんど0になるものもあるらしい。千分の1なので1トンでも1kgになるので十分かな?
 この機能だけでもかなり便利だよね?容量が小さくでも荷物運びにも十分使えるし、使い道はかなり大きいよなあ。コーランさんが気を遣ってくれたと考える方が無難だな。まあもう借りることになっているので好意は素直に受けることにしておこう。

 バッグに入れている間の時間経過についてはよく分かっていないみたい。ものは腐らないので時間経過がないようなんだけど、熱いものを入れてすぐに取り出しても冷えてしまうし、取り出すときの温度は大体同じ温度で出てくる。氷など室温で溶けるものは残念ながら溶けて出てくるようなので、バッグの中身は常に一定温度になると考えられている。

 あとの注意点としては簡単には壊れないようなんだけど、もし壊れてしまうと、中身がその場で全部出てくるようだ。ただ運が悪いと消えてしまうこともあるらしい。

 ちなみに収納バッグにも魔符核があり、いろいろと研究はされているみたいなんだけど、いまだに解明はされていないようだ。まあそれ以前に次元魔法を使える人が少ないのでそれも問題のようだけどね。


 原理はよくわからないけど、入れるときに大きさが関係なく入ってしまうことから、いったん分子レベルに分解されているような気がする。分子レベルに分解されているのであれば体積はあまり関係ないし、消えてしまう場合も理解しやすい。それにいったん分子になるから取り出したときの状態の温度が一定というのも理解が出来る。

 あと収納されたもののイメージはインベントリみたいにできないかやってみよう。鑑定も一緒に表示できればかなりイメージしやすくなるからね。

「ありがとうございました。これで移動するときにもかなり便利になりそうです。」

「いえいえ、役に立ちそうで良かったです。ただ収納バッグは容量が少ないと言ってもやはり貴重なものとなりますので、あまり人前では使わない方が良いかと思います。」

 確かにそうだろうね。まあある程度実力が付けばまだいいかもしれないし、次元魔法が使えるようになればいいな。

「わかりました。それでは失礼いたします。」



 店を出るとおもむろに頭の中に声が聞こえてきた。

「タミスだ。今回の新しい食品の開発見事だった。今後も新しい食や技術の開発に努めてくれ。私の加護を与えておくぞ。」

 どうやらジェンにも同じように聞こえていたらしく、調べてみると、タミスの加護がついていた。この世界ではそれぞれの神の分野に貢献したものには加護がつくことがあるらしいけど、こんな感じで付与されるのか?
 効果を確認したら「技術力吸収向上」がついていた。ありがたいけど、もう少し早かったら付与魔法の技術の向上が早かったのかもしれないね。


~~カルニアSide~~
 事前に連絡をもらっていた収納バッグが届いた。1キリルと容量は少ないが、地方の村に行くときにはよく使われているものだ。
 大半の荷物は車で運ぶ前提だが、町の中の移動や個別の荷物の運搬を考えるとこの容量でも使いどころはかなり多い。値段も大容量のものに比べると安く、相場は50万キリルと決まっているので人気も高い。

 父からジュンイチさん達へ渡すように言われていた。荷物の運搬や素材の運搬を考えると冒険者にとって収納バッグは有用性が大きく、収納魔法を使える人間はパーティーからの勧誘も多いと聞いている。彼らはいずれ収納魔法は使えるようになるだろうが、まだ時間がかかるだろうと父は考えているようだ。
 それならば1キリルとかではなく、もっと容量の大きなものを渡したらどうかと言ってみたんだが、あの二人の性格を考えるとこのくらいにしておかなければ受け取ってくれないと言われてしまった。
 たしかにそう言われてみるとそうかもしれない。好意は受けるが、あまりに大きなものは受け取らないような感じだったな。

 二人に来てもらってから収納バッグ渡すが、予想通り断ってきた。いいわけは考えていたのでそれを伝えたんだが、結局借りると言うことで落ち着いた。ただ収納バッグの性能を考えると容量の小さなものでも有用性は高いことは分かるだろう。


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