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31. 異世界228日目 変わった依頼
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31. 異世界228日目 変わった依頼
朝食を食べた後、部屋の中の荷物を確認してからチェックアウトをする。何があるか分からないので短剣や革鎧などは身につけているけど、それ以外の装備関係は収納バッグに入れているが、リュックに最低限の荷物を入れて運ぶことにしている。
バスが通るのは主要の道路だけなこと、バス移動の客を襲っても実入りが少ないこと、すぐに討伐依頼が出て討伐されることから盗賊に襲われることはほぼないらしいので大丈夫と思いたい。フラグはいらない。
バス乗り場に到着してから目的のバスを確認する。バスは1列に2席と1席の3席が10列くらいの大きさで25席とトイレが完備されている。途中の町でバスを乗り換えることもあるが、乗るバスのグレードはほぼ一緒らしい。
運転手は2名が乗車しており、その二人が護衛を兼ねているみたいでかなりがっちりとした体格をしている。
乗客は全部で20人くらいなので席には余裕がある。乗っている客は商人と冒険者、買い出しに来ている人たちという感じだ。
荷物の量によって追加料金を取られるみたいだが、自分たちは小さなリュックだけなので特に問題はないようだ。まあ自分たちも収納バッグがなかったら結構な荷物になっていただろうけどね。
席は二人がけのところに並んで座っている。ずっと話をしていてもいいんだが、せっかくなので移動中は仮眠をとったり、勉強したりしていた。前みたいなことがあっても困るので訓練もかねて索敵は常に展開しておく。
途中で休憩は取るんだが、サービスエリアのようなところがあるわけでもないので、日本のように買い物とかができるわけではない。地球にいたときは旅行の時のサービスエリアや道の駅に寄るのは楽しかったけどね。
お昼は各人が準備したものを食べる感じなので自分たちも買っておいたサンドイッチで簡単に済ませる。朝夕の食事関係は途中の町で購入する予定だが、一応ある程度の食事は収納バッグに入れている。温かいままという訳ではないんだが、腐らないだけでも十分だからね。
途中の町の宿はツインの部屋に泊まることにした。まあもう今更だ。宿のレベルは町の規模によってさまざまだが、一応そこそこのレベルの宿に泊まっていたので特に不満はない。
何回か魔獣は出てきたけど、車でそのまま通り過ぎたり、場合によっては護衛の人が退治したりで予定通り10日目の夕方にオーマトの町に到着する。特に定番のイベントはなくてほっとする。
たださすがにずっとバスに座っているのでかなり身体が痛くなってしまったのは仕方が無いだろう。途中の休憩でも十分に休めるわけではないからね。
オーマトの町の規模はアーマトの町と同じくらいの印象だ。城壁も結構高くて町の雰囲気もそんなに変わらない。
町に入るのには60分ほどかかったが、まあこれはしょうが無いだろう。さすがに連続での移動もきついが予定通り2日後の朝一に出発するバスの予約を済ませておく。
スレインさん達に事前に聞いておいたお勧めの宿に行ってからツインの部屋をお願いする。アーマトで泊まっていたカイランと同じような雰囲気だ。すぐに部屋に入れるようなので部屋に移動してから持っているリュックなどを部屋に置いて夕食へ。
夕食には野菜炒めのようなものやスープを頼んだんだが、ちょっと香辛料が強い感じだ。オカニウムはそうでもなかったけど、南の方だから香辛料を使った料理が多いのかな?ハーブ系がきつい感じなのでだめな人も多いかもしれない。ジェンは少し苦手らしい。
夕食の後はすぐに宿に戻るが、さすがに疲れていたのでシャワーは諦めて浄化魔法で済ませる。ベッドに入るとそうそうに眠りに落ちていた。
翌日起きるとすでに1時半になっていた。やっぱり疲れがたまっていたんだろう。まあ予定もないのでゆっくりするつもりだったからいいんだけどね。
ジェンを起こしてから服を着替えて遅めの朝食へ。宿の朝食時間はすでに終わっていたので諦めて近くにあった店で簡単に済ませることになった。
役場に行ってから置いてある資料の確認を行う。町の周りはそこまで魔獣の種類が違う感じではない。町からは遠いが、一応遠征エリアにはかなり上のレベルの魔獣が住んでいるところもあるようだ。そこを狩り場にする場合は近くに町があるらしいのでそこを拠点にした方が良さそうだな。まあ、今日はもうさすがに狩りには出ないけどね。
特に予定もなかったので図書館をのぞいたり、ショッピングに行ったり、役場の訓練場で稽古をしたりした。骨董屋にも覗いていくがそうそう掘り出し物が見つかるわけでもない。まあ骨董店をやっている店だと大体が鑑定スキルを持っているからね。
夕食にはちょっと辛めのラーメンのようなものを食べてから宿に戻る。シャワーを浴びてから今日もちょっと早めに就寝だ。
翌朝から再びバスに乗って移動となるが、ここからはバスの休憩ペースが長くなる。途中の町の数が少ないんだろうな。途中の町に泊まりながら、予定通り5日目の夕方に港町ルイサレムに到着した。海が近いせいかオカニウムの時のように潮の匂いがしている。
やはり南下してくると徐々に気温も上がってきて、出発の時には長袖に上着まで着ていたんだが、こっちに来たら半袖でもいいくらいの感じになってきた。真冬でも長袖くらいでいいかもしれないな。
ルイサレムは海辺に面した港町で、高い城壁に囲まれているが、西側が少し高い丘になっているようで城壁より上に建物が見える。丘の斜面にも家が建ち並んでいるので丘の上だと展望が良さそうだ。
町の周りの畑は他の町に比べて小さいみたいだけど、農業よりも漁業が中心のせいだろうか?それとも土があまりよくないのだろうか?まあ海が近いと塩害とかもあるだろうからね。
役場に行ってから、しばらくこの町に滞在する旨を説明して登録を済ませる。しかし役場の受付が女性ばかりというのはなにか決まりがあるのかねえ?
掲示板を見てみると、珍しく特別依頼というものが張られていた。特別依頼は普通高レベルのパーティーに割り振られたりするんものなんだけど、何で張られているんだろう?
内容を見ると財宝探しみたいで、詳細は受付に聞くようになっていた。財宝探しというのはかなり惹かれるね。ジェンも同じように依頼を熱心に見ている。
「すみません。掲示板に貼っている特別依頼について聞きたいんですけどいいですか?」
詳細は受付に聞くようになっていたので声をかけてみる。
「特別依頼ですか?あぁ、財宝探しの依頼ですね。
えっと、依頼を出されたのは5年ほど前で、期日の指定もないこと、探し出せる確率も低いこと、違約金もないことから、依頼者と相談の上、特に制約を設けずに受注できるようにしています。
いつまで依頼が出されるか確約はできませんが、これを受けていても他の依頼は受注できるのでこの辺りの冒険者はほとんどこの依頼を受けていますよ。やってみますか?」
「やってみたいと思っているんですが、どのような内容なのか聞いても良いですか?」
「ええ。もともとこの付近に海賊にまつわる話があるのですが、その海賊が隠したとされる宝玉を手に入れるということが依頼となっています。
過去に何パーティーか宝玉を見つけたと報告を受けましたが、依頼者からは目的のものと違うと判断されたみたいでまだ達成されたことになっていません。
今言いましたように、成功の判断は依頼者が行います。成功報酬は50万ドールと高額ですが、依頼者はかなり信用がおける方なので本当に達成できたとしたら依頼料は払ってくれるはずですよ。」
まあ額が額だから嘘ついてでも達成したことにしたいよな。まあ本当にどこかで見つけたけど、目的のものじゃなかったと言うこともあるかもしれないけどね。
「せっかくだから受けたいと思っているけど、ジェンもいいよね。」
かなり食いついている顔を見たら受けない選択肢は無さそうだ。速攻でうなずいている。
「依頼を受けたいと思いますが、何か手がかりなどはないのでしょうか?」
「依頼者に連絡しておきますので、明日の朝にまた来ていただけますか?」
「わかりました。また明日寄らせていただきますね。」
明日またここに来るので今日はすぐに撤収して宿へと向かう。スレインさん達や他の冒険者から事前にいろいろ聴いていたのでこういうときは助かるね。
今回泊まろうとしているのは海鳥の館という宿屋だ。建物は町の中心からは少し外れたところのちょっと高台にあるところだった。建物は石造りなんだが、町中にあるようなビルのようなものではなく、ちょっとしゃれたペンションのような建物だ。
さっそく受付にいくと部屋は開いていたのでツインで朝食が付いて一泊1200ドールの部屋をお願いする。部屋に行くと窓からは海が一望できていい眺めだった。ここからだと朝日がきれいに見えそうだ。前に家族で行った岬の宿からの眺めを思い出すなあ。
日も落ちてきたので今日の夕食は宿併設の食堂でとることにした。せっかくなので焼き魚の定食を食べることにしたが、やはりこっちの料理は香辛料がきつい感じだ。魚は普通の塩焼きなのでいいんだけど、付け合わせ関係がねえ・・・。ジェンはこういう魚料理を食べ慣れていないのかちょっと苦労している。
部屋に戻ってから今日は浄化魔法できれいにしてからそうそうに寝ることにした。最近浄化の魔法がかなりレベルアップしたのか、シャワーに入るよりも綺麗になっているような気がする。歯磨きもこれで済ませられるのでかなり楽でありがたい。洗濯もしなくていいしね。
この浄化魔法だけど、ジェンと話したところ、やはり自分たちの浄化魔法は他の人とは違うらしい。通常は殺菌まではできないようなので治癒魔法とかも一緒に使っているのかもしれないということだった。あまり公にしない方がいいね。
部屋全体を浄化魔法できれいにもできるんだが、さすがにそれをすると何か言われそうなのでベッドとかだけ浄化魔法をかけるようにしている。
ちなみに浄化魔法と言っても汚れがすべて消えてしまうわけではない。たしかに汚れの一部は浄化魔法で分解してしまうようなんだが、目に見える汚れはとれるだけで消えてしまうわけではない。まあ当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
最初の頃は汚れが落ちても落ちた汚れがまとわりついて面倒だったんだが、最近は汚れを小さな固まりにすることができる様になったので楽になった。固まりを捨てるだけで済むからね。
湿ったものは水分が蒸発するのか、消えてしまうので、泥汚れの場合は後に土だけが残る感じ。このため浄化魔法で乾燥もできるのでお風呂上がりはかなり楽になっている。
あくまで汚れやゴミと意識したものを浄化、消毒するので、部屋の中であまりうかつに使ってしまうと、必要なものまでなくなってしまう可能性もあって怖いということもある。まあイメージなのである程度大きなものは除外と意識すれば大丈夫とは思っているんだけどね。
朝起きてからジェンと一緒に朝食へと向かう。朝から魚料理満載というのは港町なのでしょうがないところか。オカニウムの時はここまでなかったんだけどね。
朝食を終えてから荷物の片付けをして、1時に役場へと向かう。まあ荷物の片付けと言っても収納バッグが手に入ってからかなりずぼらになっている。だって片付けなくていいんだからねえ。洗濯もしなくていいから余計にだ。
受付に特別依頼のことを確認すると、4時半頃に依頼主のお店に来てくれないかということでお店の地図を渡された。通常は役場で説明を受けるんだけど、今回は時間があるので直接説明をすることになったようだ。
このあと魔獣の生息エリアや種類、素材内容について調べておく。魔獣の種類は全体的にオカニウムと同じくらいの感じ?上階位以上の狩り場となるとやはり遠征しなければならないようだ。
冬になったら少し寒さ対策をすればいいだけだから遠征はしやすいかもしれないな。最低限魔獣よけの魔道具くらいはほしいところだけどね。
一通り調べ物が終わった後、こっちでしばらく滞在するので、まずはカサス商会に話をしておくことにした。お店は本店ほどではないけど、思ったよりもお店の規模が大きかった。アーマトの町のお店よりも大きい感じだ。
受付に行って自分の名前とコーランさんの名刺を見せてから、「しばらくこの町に滞在するので何かあれば海鳥の館にいるので連絡をください。」と話すと、しばらくお待ちくださいと言って奥に行ってしまった。
少しして先ほどの受付の女性が戻ってきて「こちらにどうぞ。」と案内してきた。うーん、単に連絡先だけを伝えるだけのつもりだったんだけどなあ。
部屋に案内されて出されたお茶を飲んでいると、年配の女性が入ってきた。
「初めましてだね。ここの店長をしているステファーだよ。よろしく頼むよ。」
どうやらこの女性が店長らしい。こっちの世界で女性が上の方にいるって結構珍しいな。それだけカサス商会が先進的なのかな?
「コーラン坊にいろいろとアイデアを出している若者がいるという話を聞いていたけど、ほんとに若いんだね。それとも見た目がそうなだけなのかい?最近いろいろと新しい商売方法を言ってくるからどうしたのかと思っていたんだよ。いろいろと助言してもらっているみたいですまないね。こういう商売に関してはかなり貪欲だからそのあたりは勘弁してやってくれるかい。」
「あ、はい。」
なんか一気にまくし立ててきて返事をする間もない。話を聞いてみると、どうやらコーランさんが小さいときからお店で働いていた人で、会長となった今でも頭が上がらない一人のようだ。しばらくいろいろと話をした後、お店を後にする。すごい人だったなあ。
お昼を食べてから聞いていた鍛冶屋を覗いていく。鍛冶屋は珍しい形の武器とかも置いている。鞭とかもあるけど、現実問題、普通の戦闘に使えるのかねえ。牽制とかにはなるかもしれないけど、致命傷を与えるのは難しいような気もする。ゲームとかではよく出てくる武器だけどね。今のところ武器の買い換えは考えていないので、眺めていくだけだ。
他にも雑貨屋や骨董店を見て回ったけど、特にめぼしいものは見つからなかった。付与のついたアクセサリーとかはあるけど、付与部分が壊れているものは修理しようもないしねえ。
時間になったところで地図に書かれていた商会のカルミーラへとやってきた。カサス商会と変わらない規模の店舗だ。
何代も前から続いている商会で、店舗数は少ないが堅実な商売をしていることで有名なところらしい。ゲームなどの娯楽用品を中心に取り扱っているようだ。
お店に到着して依頼書を見せると、応接室のようなところに通される。出された紅茶を飲みながら待っていると、50歳くらいの男性が現れた。頭は白くなっているが、しっかりとしている。
「今回の依頼書を出しているショウバンだ。よろしく。
前はこの商会の会長をしていたが、今は息子に家督を譲って隠居の身だから気にしなくていい。君たちが依頼を受けてくれるということでいいのかな?」
「初めまして。この町に来たのは今回が初めてで、面白そうな依頼があったので受けさせてもらおうと思いました。自分はジュンイチ、彼女はジェニファーでアースというパーティーを組んでいます。」
「丁寧にありがとう。私が子供の頃に聞かされた海賊の宝について興味があってな。ある程度自由にできるお金ができたのでせっかくだからと依頼を出したのだよ。本当は自分でやってみたいところだが、さすがにそこまでの元気もなくてな。」
一通りの挨拶の後、依頼の内容について説明される。
「依頼の報酬額は50万ドール。期限については特に気にしなくてもいいし、辞退する場合の報告も必要がない。依頼の達成条件は話に出てくる宝玉を手に入れることで、宝玉の真偽については私の判断となる。
宝玉を見つけるということは、海賊の宝を見つけたと言うことになるので発見者の保護を考慮して依頼の取り下げはすぐには行わない。その辺りについてはこちらと役場のやりとりとなるので気にしなくていい。
発見した場合には詳細について報告する義務もないし、その内容は他人には伝えないし、こちらで特に調べもしない。ただできる範囲でいいので状況などを説明してほしい。
この内容でいいというのであれば依頼を受けてくれ。依頼を受けるというのであればヒントとなる地図を渡そう。」
もちろん断る選択はないので依頼を受けると返事をし、地図のようなものをもらう。地図自体は複製したもののようだ。
地図や説明の書かれた紙を見てみるが、正直よく分からない。地図はかなり適当で、描かれているのはルイサレムの町とその南東方向の島。
そしてその島の下に何やら読めない文字が書いており、翻訳が書き添えられている。文字は古代ライハン語で書かれているようだ。
「いろいろな解釈をする人がいたが、結局は見つかっていない。これまでの解釈が間違っている可能性が高いと思うので、今までの情報は気にせず、自分で考えてもらった方が良いと思う。
なのでこちらが出せる情報はこの地図と地図に書かれている文字の翻訳だけだ。文字の読みは分かっているが残念ながら意味が判明していない。数字については間違っていないはずだ。」
たしかに下手に助言をもらうとそれをもとに考えてしまうかもしれないからなあ。とりあえずはあとで地図を見ていろいろと考えてみることにしよう。
「わかりました。この地図から宝のありかを考えてみます。
ただ、この地図を見る限り宝はどこかの島にあると思われるのですが、船を出してもらう伝がありません。申し訳ありませんが、誰か紹介してもらうことはできるでしょうか?」
「移動が必要な場合はこの紹介状を持って港の事務所に行ってくれ。1日は無料で送迎してくれるように言ってある。それ以降は自分たちで出してもらうことになるが、もし依頼を達成できたら、途中でかかった経費は払うので、領収書はもらっておいてくれ。」
「ありがとうございます。」
「おそらくないとは思いますが、もし何か聞きたいことができた場合は役場の窓口に連絡を取ればよろしいでしょうか?」
ジェンが連絡先を聞いてくれた。何かの時の連絡先を聞いておかないといけなかったね。
「そうだな・・・そのときはこの商会に連絡してくれ。都合が良ければすぐに会うことができるだろうし、いない場合は伝言を頼む。
基本的に4時から6時はここにいるはずなのでその時間に来てもらえると助かるな。」
「わかりました。」
あとはないよね?頷き合って確認する。
「それでは依頼が達成できるように頑張ってみます。失礼します。」
ちょっとテンションを上げながらお店を出る。宝の地図って、地球ではほぼあり得ないことだからなあ・・・。埋蔵金とかいう話は時々テレビとかで見るけど、見つかったという話はほとんどないからね。
とりあえず海賊の宝と言うことなのでこの辺りの海賊に関する伝記でもないかと図書館に行って探してみることにした。
少しくらいと思っていたんだけど、思ったよりいっぱい出ていたのでジェンと二人がかりで見ていく。絵本みたいなものから長編の小説までいろいろとあり、視点は色々とあるんだけど、大筋は同じ感じだった。
~海賊物語の要約~
150年ほど前、この辺りを縄張りにした海賊がいました。百人を超える配下を持ち、多くの商船を襲い、財宝を集めていました。
都度都度海軍の討伐隊が組織されましたが、なかなか捕まりません。海賊の本拠地もなかなか見つかりません。
海賊の持つお宝には虹色に輝く宝玉がありました。この宝玉はどこに行けばいいのかを示す力を持ち、海賊達は逃げおおせていたのです。
あるとき海賊の本拠地の情報がもたらされ、討伐隊がその島に向かいました。しかしその島には海賊の本拠地と思われるものはありませんでした。
多くの討伐隊が本拠地に向かっている間に、討伐隊が拠点としている町が海賊達により襲撃されました。そして多くの人々の命が奪われました。さらに討伐隊も町に戻る途中に待ち伏せされほとんどの兵士はなくなりました。
ここまでされては国の威信に関わります。海軍の名将ステーファンにより討伐隊が組織されました。先に島の情報をもたらしたものから海賊が襲撃しようとしている場所の情報を得ました。そして海賊を無事に討伐しました。
残念ながら最後の最後にその海賊の頭であったヘンリーバッハを取り逃しました。とどめを刺す直前に姿が消えてしまったのです。
それ以後、海賊の姿は見なくなりました。海賊の頭は実は悪魔で、倒すとともに消滅したのではないかと言われました。
生き残った海賊達から本拠地の場所を得ようとしましたが、詳細を知っているものもなく、見つけることができませんでした。
多くの島々のどこかに海賊の財宝が今も眠っているかもしれません。
~~~
海賊を退治したけど、宝が見つかっていないので海賊の宝というのが伝説になっているのだろう。海賊視点で書かれていたり、名将視点で書かれていたりするけど、大筋は同じような内容だ。
情報をもたらしたものだけが海賊の手下だったとする視点や、殺された親族の敵討ちのためにスパイとして活躍したとかいろいろと解釈がされている。最後は処刑されたとか、町から追放されたとか、英雄としてたたえられたとかいろいろあった。
海賊についての本を一通り読んでから、夕食へと向かう。宿の近くにある魚専門のお店に行ってみるが、やはり刺身は置いていなかった。生の魚は食べないのか聞いてみたところ、漁師達は食べるみたいだけど、それ以外ではあまり食べないらしい。
特に毒があるとかいう訳ではないけど、種類によっては寄生虫がいることもあるので魚は選ばないといけないらしい。
新鮮な魚と醤油があるのか聞いたところ、あるみたいだったので見せてもらう。鯛のような魚だったので、保険として浄化の魔法をかけてから薄くスライスしてもらった。
残念ながらわさびは置いていないようだったので醤油につけて食べてみる。周りからは奇異な目で見られているが気にしないでおこう。
うん、おいしい。
これは十分に食べられるな。残りの魚の半分もさばいてもらい、半分は煮付けにしてもらった。ジェンも地球にいるときに何度か食べたことはあったみたいで手を出してきた。うん、おいしいなあ。なんでこれが普及していないのか分からん。
周りの目を気にすることもなく、刺身を堪能する。これでわさびがあれば完璧なんだけどね。やはりちょっとだけ生臭い。魚も市場で直接仕入れたらもっとおいしいものになるかなあ?
かなり満足してから宿に戻り、宿で海賊関係の本を読み返してみるけど、どれも海賊の本拠地については、詳細は書かれていない。行ってみたが建物も港もなく、戻る途中に襲撃を受けたというものや、本拠地を見つけたがそこで反撃に遭って全滅したとかだけだ。全滅したのに何でその辺りの話が伝わっているんだ?という話もあるしね。
この情報提供者が嘘をついていたのか、それともわかりにくいように隠されていたのか。それでもかなりの人数で捜索したはずだから見つからないというのも変だと思うんだけどねえ・・・。
翌朝の朝食を食べた後、地図を見ながらジェンと一緒に考えてみる。
「とりあえず伝記からは海賊の本拠地についての情報は得られそうにないし、すでに調べられていることだと思うので、まだこの地図から解読する方が良さそうだよね。」
「ええ、最近になってからこのクエストを出したと言うことは新しく見つかった資料と考えていいと思うわ。」
「とりあえず島の位置をちゃんと把握すべきかなあ?ただ当てずっぽうで動き回っても仕方ないかな?」
この天体が丸いと言うことはすでに認識されているみたいで、逆さまになっても魔力によって引っ張られるから落ちないという解釈がなされている。
以前は地図関係の情報については秘匿されていたようだけど、現在はそれなりに精度の高いものが発行されている。ただしまだ探索されていないエリアなどは海岸線が適当に描かれていたりしているのはしょうがないところか。
ガイド本にはこの地図データが取り込まれていて、最初はかなりアバウトな感じだったんだけど、地図を取り込むことでだいぶ精度が上がっている。地図の機能はガイド本のレベルが2に上がったところで追加された。某地図アプリみたいに拡大縮小が可能なのでかなり使い勝手がいい。
さらに自分が行った場所はかなり正確に記載されるというオートマッピング機能付きだ。本から得た内容の地図はグレーなんだけど、自分が歩くとその部分が修正されてカラーになっている。
ガイド本はただの案内本だったんだけど、滞在期間が長くなればなるほどガイド本のチートさが見えてくるな。10日間だとここまでの機能は把握できないだろうからね。なんでこんな機能を付けていたんだろう?
「地図にはルイサレムの町が載っていてその南東方向の島とは分かるんだけど、地図を見る限りはかなりの数の島があるから当てずっぽうだとまず無理じゃないかしら。地図の縮尺もどこまで正確なものか分からないわよ。」
「たしかにルイサレムの町の南東方向の海にはかなりの島があるのは分かっているんだけど、特に重要な島ではないので地図の配置は結構適当になっているみたいなんだよね。やっぱりこの数字の謎を解かないと難しいかな?」
数字については一番考えられるのは、どこかの町からの距離となる。多くの町には場所を示す魔道具が置かれており、コンパスのような魔道具を使うと、登録した場所までの距離と方角が出るようになっている。コンパスによっていくつ登録できるのかは異なるけど、これで進む方向や距離を確認することができるようだ。
ただ距離が遠くなると検知ができなくなるらしく、ここからだとオーマトの町しか反応しないらしい。範囲を広くすると起点とする魔道具の消費魔素が半端ないことになるようだ。
書かれている文字と数字は「とい322135 めい380102」となっている。翻訳なんだけど、この文字の意味は分かっていないようだ。数字についても単位が不明だ。
「普通に考えると地図にはルイサレムの町が載っているからそこからの距離と考える感じなんだろうけど・・・。「とい」か「めい」が東か南ということになって、そのあとが距離とかかな?ただそんなことはすでに前の人が考えているだろうから、ダメだろうなあ。」
「まあ簡単に分かるものだったらすでに見つかっているだろうし、依頼を出していたショウバンさんもそのくらいはやっていると思うわ。」
とりあえず図書館に行って文字について調べてみることにした。書かれている文字は古代ライハン語のようなので、図書館にある本とガイド本で古代ライハン語について調べてみる。
いろいろと本を調べてみたが、やはりこの文字の説明は見つからなかった。方位を示す言葉は別の言葉だったので、文字は方向ではなくて別の意味と言うことになるのか?
古代ライハン語も完全に解読されたわけではないみたいだからねえ。遺跡に残っている言葉がある程度見つかっているくらいで、解読できるような資料が少ないらしい。かなりの文明レベルだったんだけど、今の文明とはつながっていないようだ。
結局一日費やしたけど、大きな収穫はないままだった。まあそう簡単に意味が分かるようだったらもう宝は見つかっているよね。
翌日も図書館に行って調べてみるけど、昨日大体の本には目を通したので新しい発見はない。ガイド本を見ながらなにか手がかりになるようなものはないかとみていたところ、本関係のページの最初になんか変なページが追加されていることに気がついた。
ちなみにガイド本の取り込み本のところは、タブレットのような感じで本のタイトルなどからページが開くようになっている。取り込みの時にイメージすることで分類分けもできるし、後から変更することもできるというかなり便利なものだ。
カーソルのようなところの横には「検索文字」と書かれていた。もしかして?
「どうしたの?」
ジェンが声をかけてきた。
「いや、ガイド本がレベルアップしたせいなのか、検索機能が追加されているみたいなんだ。」
入力するキーボードのようなものはないので頭の中で文字を念じてみると、その言葉の引っかかる部分が抽出されて表示されていた。もしかしてガイド本のレベル-3は検索機能の追加もあるのか?
「頭の中に検索したい言葉を思い浮かべると検索できるみたい。」
ジェンも同じように試している。
「インターネットと言うよりはガイド本に取り込まれている本の検索機能といった感じね。これだけでもかなり助かるわ。」
とりあえず「とい」という古代ライハン語を検索してみる。古代ライハン後もちゃんと検索文字に入れられるようだ。
「『とい』という文字が一つだけ引っかかったよ。えっと・・・文章じゃなくて写真のような絵の中に書かれている文字みたい。絵の部分も検索かけてくれるとはかなり驚きだな。」
ジェンと表示された写真を見てみると、どうやらトウセイ大陸にある古代遺跡の柱に刻まれていたもののようだ。下の方は見えなくなっているけど、同じ文字が書かれている。
「とい 61 85 86」
「 27 53 」
「下の見えない部分は「めい」の可能性が高いかな。数字については下の2桁が見えていないという感じか?」
「よく見てみると、数字の間に空白があるから、これは一連の数字じゃなくて2文字が3つ連なっていると考えた方がいいかもしれないわね。」
「ということは、今分かっているのを並べて書いたらこんな感じか。」
海賊の島
とい 32 21 35 めい 38 01 02
トウセイ大陸
とい 61 85 86 めい 27 53 ??
「うーん、やっぱりどこかの都市とかを起点とした距離なのかな?海賊の島とトウセイ大陸の遺跡の位置関係を考えたら、遺跡の方が北東にある感じか。」
「遺跡の数字は「とい」は数字が大きくて、「めい」は数字が小さいということは・・・起点となる場所はもっと西で北の方と言うことかしら?それから考えると結構遠い感じよね。」
「この数字の並びってどこかで見たような気もするんだけど・・・。」
なんだったかな?
「あ!!わかった!!」
ジェンが声をあげたせいで周りから注目を浴びてしまった。周りに謝ってからまた小さな声で話を続ける。
「これって経度と緯度みたいなものじゃない?」
「たしかにそんな感じかも。」
今はGPSで地点の場所を表記しているけど、地球単位での現在地を示すのに有効な方法だったはずだ。
「今回の地図の数値と遺跡の場所から考えると経度の0点はホクサイ大陸の西の方か、ナンホウ大陸の東の方かな?緯度に関しては極点が0かもしれない。」
「それじゃあ、起点となるようなところが無いか調べてみましょう。」
起点となるのなら町か何かがあったはずだと思い、古代遺跡について調べてみると、経度0と思われるホクサイ大陸に大きめの古代遺跡があることが分かった。とりあえず遺跡の中央付近にあったみたいな塔の跡を0として考えることにしよう。
ガイド本にあった世界地図をベースにトウセイ大陸の遺跡を見てみると、それぞれの3つの数字が100等分という感じで考えればいいようだ。外周が地球と同じ40000kmとすると、一番下の数値の1つが40mくらいとなる。
大きな都市間の距離や方向は魔道具で確認されているので、位置自体に大きなずれはないと考えていいだろう。
それを前提に遺跡の位置を確認すると緯度(とい)が考えていた数値と合っていることがわかった。緯度(めい)については最後の数字が分からないけど、大体あっているとみていいだろう。これをもとに海賊の島の場所を考えると、ルイサレムの南東の地点で間違いなさそう。
「予想した数値で場所にずれがないので間違いはないと思う。あとはガイド本の地図で目的地と一致する島があれば特定できるんじゃないかな?」
「ええ、とりあえずこの仮説が正しければいけると思うわ。とりあえず地図が更新出来ないか探してみましょう。」
図書館にも付近の地図はあったんだけど、島の配置についてはかなりアバウトだったので港の事務所にも行ってみる。ここにも地図が置いてあったので確認してみたけど、やはり正確に確認するには現地に行ってみるしかなさそうだ。
ショウバンさんからの紹介状を見せて、船を出してもらうことをお願いする。明後日だったら1日大丈夫との返事をもらえたので待ち合わせ時間を決めて港を後にする。
お昼も食べずにいろいろと調べていたんだけど、もうすでに夕方になっていた。さすがにおなかもすいてきたので早めの夕食を取りに行く。さすがにちょっと違うものを食べたいなあと思ってカレーの匂いにつられて入ってみると、シーフードカレーの店だった。ナンのようなものにつけて食べておなかも満足した。
緯度と経度って地球では普通に使っていたけど、この世界では普通じゃないよなあ?まだ確定ではないけど、古代文明ってかなり進んだ科学力を持っていたんじゃないだろうか?海賊は何かしらの方法でその数字を見つけたんだろうな。
緯度経度って自分たちの時は衛星との通信で位置を把握していたし、その前は測定が結構大変だったと思うんだけど、この世界ではどうなんだろう?魔法があるからそれでなんとかなっているのかねえ?
まあ今も各都市までの距離と方向を認識させる魔道具があるから、それと同じようにある地点に基準の装置を置いてそれに対する表示をするようにすればいいのかもしれない。ただ惑星規模で探知できるのか?
朝食を食べた後、部屋の中の荷物を確認してからチェックアウトをする。何があるか分からないので短剣や革鎧などは身につけているけど、それ以外の装備関係は収納バッグに入れているが、リュックに最低限の荷物を入れて運ぶことにしている。
バスが通るのは主要の道路だけなこと、バス移動の客を襲っても実入りが少ないこと、すぐに討伐依頼が出て討伐されることから盗賊に襲われることはほぼないらしいので大丈夫と思いたい。フラグはいらない。
バス乗り場に到着してから目的のバスを確認する。バスは1列に2席と1席の3席が10列くらいの大きさで25席とトイレが完備されている。途中の町でバスを乗り換えることもあるが、乗るバスのグレードはほぼ一緒らしい。
運転手は2名が乗車しており、その二人が護衛を兼ねているみたいでかなりがっちりとした体格をしている。
乗客は全部で20人くらいなので席には余裕がある。乗っている客は商人と冒険者、買い出しに来ている人たちという感じだ。
荷物の量によって追加料金を取られるみたいだが、自分たちは小さなリュックだけなので特に問題はないようだ。まあ自分たちも収納バッグがなかったら結構な荷物になっていただろうけどね。
席は二人がけのところに並んで座っている。ずっと話をしていてもいいんだが、せっかくなので移動中は仮眠をとったり、勉強したりしていた。前みたいなことがあっても困るので訓練もかねて索敵は常に展開しておく。
途中で休憩は取るんだが、サービスエリアのようなところがあるわけでもないので、日本のように買い物とかができるわけではない。地球にいたときは旅行の時のサービスエリアや道の駅に寄るのは楽しかったけどね。
お昼は各人が準備したものを食べる感じなので自分たちも買っておいたサンドイッチで簡単に済ませる。朝夕の食事関係は途中の町で購入する予定だが、一応ある程度の食事は収納バッグに入れている。温かいままという訳ではないんだが、腐らないだけでも十分だからね。
途中の町の宿はツインの部屋に泊まることにした。まあもう今更だ。宿のレベルは町の規模によってさまざまだが、一応そこそこのレベルの宿に泊まっていたので特に不満はない。
何回か魔獣は出てきたけど、車でそのまま通り過ぎたり、場合によっては護衛の人が退治したりで予定通り10日目の夕方にオーマトの町に到着する。特に定番のイベントはなくてほっとする。
たださすがにずっとバスに座っているのでかなり身体が痛くなってしまったのは仕方が無いだろう。途中の休憩でも十分に休めるわけではないからね。
オーマトの町の規模はアーマトの町と同じくらいの印象だ。城壁も結構高くて町の雰囲気もそんなに変わらない。
町に入るのには60分ほどかかったが、まあこれはしょうが無いだろう。さすがに連続での移動もきついが予定通り2日後の朝一に出発するバスの予約を済ませておく。
スレインさん達に事前に聞いておいたお勧めの宿に行ってからツインの部屋をお願いする。アーマトで泊まっていたカイランと同じような雰囲気だ。すぐに部屋に入れるようなので部屋に移動してから持っているリュックなどを部屋に置いて夕食へ。
夕食には野菜炒めのようなものやスープを頼んだんだが、ちょっと香辛料が強い感じだ。オカニウムはそうでもなかったけど、南の方だから香辛料を使った料理が多いのかな?ハーブ系がきつい感じなのでだめな人も多いかもしれない。ジェンは少し苦手らしい。
夕食の後はすぐに宿に戻るが、さすがに疲れていたのでシャワーは諦めて浄化魔法で済ませる。ベッドに入るとそうそうに眠りに落ちていた。
翌日起きるとすでに1時半になっていた。やっぱり疲れがたまっていたんだろう。まあ予定もないのでゆっくりするつもりだったからいいんだけどね。
ジェンを起こしてから服を着替えて遅めの朝食へ。宿の朝食時間はすでに終わっていたので諦めて近くにあった店で簡単に済ませることになった。
役場に行ってから置いてある資料の確認を行う。町の周りはそこまで魔獣の種類が違う感じではない。町からは遠いが、一応遠征エリアにはかなり上のレベルの魔獣が住んでいるところもあるようだ。そこを狩り場にする場合は近くに町があるらしいのでそこを拠点にした方が良さそうだな。まあ、今日はもうさすがに狩りには出ないけどね。
特に予定もなかったので図書館をのぞいたり、ショッピングに行ったり、役場の訓練場で稽古をしたりした。骨董屋にも覗いていくがそうそう掘り出し物が見つかるわけでもない。まあ骨董店をやっている店だと大体が鑑定スキルを持っているからね。
夕食にはちょっと辛めのラーメンのようなものを食べてから宿に戻る。シャワーを浴びてから今日もちょっと早めに就寝だ。
翌朝から再びバスに乗って移動となるが、ここからはバスの休憩ペースが長くなる。途中の町の数が少ないんだろうな。途中の町に泊まりながら、予定通り5日目の夕方に港町ルイサレムに到着した。海が近いせいかオカニウムの時のように潮の匂いがしている。
やはり南下してくると徐々に気温も上がってきて、出発の時には長袖に上着まで着ていたんだが、こっちに来たら半袖でもいいくらいの感じになってきた。真冬でも長袖くらいでいいかもしれないな。
ルイサレムは海辺に面した港町で、高い城壁に囲まれているが、西側が少し高い丘になっているようで城壁より上に建物が見える。丘の斜面にも家が建ち並んでいるので丘の上だと展望が良さそうだ。
町の周りの畑は他の町に比べて小さいみたいだけど、農業よりも漁業が中心のせいだろうか?それとも土があまりよくないのだろうか?まあ海が近いと塩害とかもあるだろうからね。
役場に行ってから、しばらくこの町に滞在する旨を説明して登録を済ませる。しかし役場の受付が女性ばかりというのはなにか決まりがあるのかねえ?
掲示板を見てみると、珍しく特別依頼というものが張られていた。特別依頼は普通高レベルのパーティーに割り振られたりするんものなんだけど、何で張られているんだろう?
内容を見ると財宝探しみたいで、詳細は受付に聞くようになっていた。財宝探しというのはかなり惹かれるね。ジェンも同じように依頼を熱心に見ている。
「すみません。掲示板に貼っている特別依頼について聞きたいんですけどいいですか?」
詳細は受付に聞くようになっていたので声をかけてみる。
「特別依頼ですか?あぁ、財宝探しの依頼ですね。
えっと、依頼を出されたのは5年ほど前で、期日の指定もないこと、探し出せる確率も低いこと、違約金もないことから、依頼者と相談の上、特に制約を設けずに受注できるようにしています。
いつまで依頼が出されるか確約はできませんが、これを受けていても他の依頼は受注できるのでこの辺りの冒険者はほとんどこの依頼を受けていますよ。やってみますか?」
「やってみたいと思っているんですが、どのような内容なのか聞いても良いですか?」
「ええ。もともとこの付近に海賊にまつわる話があるのですが、その海賊が隠したとされる宝玉を手に入れるということが依頼となっています。
過去に何パーティーか宝玉を見つけたと報告を受けましたが、依頼者からは目的のものと違うと判断されたみたいでまだ達成されたことになっていません。
今言いましたように、成功の判断は依頼者が行います。成功報酬は50万ドールと高額ですが、依頼者はかなり信用がおける方なので本当に達成できたとしたら依頼料は払ってくれるはずですよ。」
まあ額が額だから嘘ついてでも達成したことにしたいよな。まあ本当にどこかで見つけたけど、目的のものじゃなかったと言うこともあるかもしれないけどね。
「せっかくだから受けたいと思っているけど、ジェンもいいよね。」
かなり食いついている顔を見たら受けない選択肢は無さそうだ。速攻でうなずいている。
「依頼を受けたいと思いますが、何か手がかりなどはないのでしょうか?」
「依頼者に連絡しておきますので、明日の朝にまた来ていただけますか?」
「わかりました。また明日寄らせていただきますね。」
明日またここに来るので今日はすぐに撤収して宿へと向かう。スレインさん達や他の冒険者から事前にいろいろ聴いていたのでこういうときは助かるね。
今回泊まろうとしているのは海鳥の館という宿屋だ。建物は町の中心からは少し外れたところのちょっと高台にあるところだった。建物は石造りなんだが、町中にあるようなビルのようなものではなく、ちょっとしゃれたペンションのような建物だ。
さっそく受付にいくと部屋は開いていたのでツインで朝食が付いて一泊1200ドールの部屋をお願いする。部屋に行くと窓からは海が一望できていい眺めだった。ここからだと朝日がきれいに見えそうだ。前に家族で行った岬の宿からの眺めを思い出すなあ。
日も落ちてきたので今日の夕食は宿併設の食堂でとることにした。せっかくなので焼き魚の定食を食べることにしたが、やはりこっちの料理は香辛料がきつい感じだ。魚は普通の塩焼きなのでいいんだけど、付け合わせ関係がねえ・・・。ジェンはこういう魚料理を食べ慣れていないのかちょっと苦労している。
部屋に戻ってから今日は浄化魔法できれいにしてからそうそうに寝ることにした。最近浄化の魔法がかなりレベルアップしたのか、シャワーに入るよりも綺麗になっているような気がする。歯磨きもこれで済ませられるのでかなり楽でありがたい。洗濯もしなくていいしね。
この浄化魔法だけど、ジェンと話したところ、やはり自分たちの浄化魔法は他の人とは違うらしい。通常は殺菌まではできないようなので治癒魔法とかも一緒に使っているのかもしれないということだった。あまり公にしない方がいいね。
部屋全体を浄化魔法できれいにもできるんだが、さすがにそれをすると何か言われそうなのでベッドとかだけ浄化魔法をかけるようにしている。
ちなみに浄化魔法と言っても汚れがすべて消えてしまうわけではない。たしかに汚れの一部は浄化魔法で分解してしまうようなんだが、目に見える汚れはとれるだけで消えてしまうわけではない。まあ当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
最初の頃は汚れが落ちても落ちた汚れがまとわりついて面倒だったんだが、最近は汚れを小さな固まりにすることができる様になったので楽になった。固まりを捨てるだけで済むからね。
湿ったものは水分が蒸発するのか、消えてしまうので、泥汚れの場合は後に土だけが残る感じ。このため浄化魔法で乾燥もできるのでお風呂上がりはかなり楽になっている。
あくまで汚れやゴミと意識したものを浄化、消毒するので、部屋の中であまりうかつに使ってしまうと、必要なものまでなくなってしまう可能性もあって怖いということもある。まあイメージなのである程度大きなものは除外と意識すれば大丈夫とは思っているんだけどね。
朝起きてからジェンと一緒に朝食へと向かう。朝から魚料理満載というのは港町なのでしょうがないところか。オカニウムの時はここまでなかったんだけどね。
朝食を終えてから荷物の片付けをして、1時に役場へと向かう。まあ荷物の片付けと言っても収納バッグが手に入ってからかなりずぼらになっている。だって片付けなくていいんだからねえ。洗濯もしなくていいから余計にだ。
受付に特別依頼のことを確認すると、4時半頃に依頼主のお店に来てくれないかということでお店の地図を渡された。通常は役場で説明を受けるんだけど、今回は時間があるので直接説明をすることになったようだ。
このあと魔獣の生息エリアや種類、素材内容について調べておく。魔獣の種類は全体的にオカニウムと同じくらいの感じ?上階位以上の狩り場となるとやはり遠征しなければならないようだ。
冬になったら少し寒さ対策をすればいいだけだから遠征はしやすいかもしれないな。最低限魔獣よけの魔道具くらいはほしいところだけどね。
一通り調べ物が終わった後、こっちでしばらく滞在するので、まずはカサス商会に話をしておくことにした。お店は本店ほどではないけど、思ったよりもお店の規模が大きかった。アーマトの町のお店よりも大きい感じだ。
受付に行って自分の名前とコーランさんの名刺を見せてから、「しばらくこの町に滞在するので何かあれば海鳥の館にいるので連絡をください。」と話すと、しばらくお待ちくださいと言って奥に行ってしまった。
少しして先ほどの受付の女性が戻ってきて「こちらにどうぞ。」と案内してきた。うーん、単に連絡先だけを伝えるだけのつもりだったんだけどなあ。
部屋に案内されて出されたお茶を飲んでいると、年配の女性が入ってきた。
「初めましてだね。ここの店長をしているステファーだよ。よろしく頼むよ。」
どうやらこの女性が店長らしい。こっちの世界で女性が上の方にいるって結構珍しいな。それだけカサス商会が先進的なのかな?
「コーラン坊にいろいろとアイデアを出している若者がいるという話を聞いていたけど、ほんとに若いんだね。それとも見た目がそうなだけなのかい?最近いろいろと新しい商売方法を言ってくるからどうしたのかと思っていたんだよ。いろいろと助言してもらっているみたいですまないね。こういう商売に関してはかなり貪欲だからそのあたりは勘弁してやってくれるかい。」
「あ、はい。」
なんか一気にまくし立ててきて返事をする間もない。話を聞いてみると、どうやらコーランさんが小さいときからお店で働いていた人で、会長となった今でも頭が上がらない一人のようだ。しばらくいろいろと話をした後、お店を後にする。すごい人だったなあ。
お昼を食べてから聞いていた鍛冶屋を覗いていく。鍛冶屋は珍しい形の武器とかも置いている。鞭とかもあるけど、現実問題、普通の戦闘に使えるのかねえ。牽制とかにはなるかもしれないけど、致命傷を与えるのは難しいような気もする。ゲームとかではよく出てくる武器だけどね。今のところ武器の買い換えは考えていないので、眺めていくだけだ。
他にも雑貨屋や骨董店を見て回ったけど、特にめぼしいものは見つからなかった。付与のついたアクセサリーとかはあるけど、付与部分が壊れているものは修理しようもないしねえ。
時間になったところで地図に書かれていた商会のカルミーラへとやってきた。カサス商会と変わらない規模の店舗だ。
何代も前から続いている商会で、店舗数は少ないが堅実な商売をしていることで有名なところらしい。ゲームなどの娯楽用品を中心に取り扱っているようだ。
お店に到着して依頼書を見せると、応接室のようなところに通される。出された紅茶を飲みながら待っていると、50歳くらいの男性が現れた。頭は白くなっているが、しっかりとしている。
「今回の依頼書を出しているショウバンだ。よろしく。
前はこの商会の会長をしていたが、今は息子に家督を譲って隠居の身だから気にしなくていい。君たちが依頼を受けてくれるということでいいのかな?」
「初めまして。この町に来たのは今回が初めてで、面白そうな依頼があったので受けさせてもらおうと思いました。自分はジュンイチ、彼女はジェニファーでアースというパーティーを組んでいます。」
「丁寧にありがとう。私が子供の頃に聞かされた海賊の宝について興味があってな。ある程度自由にできるお金ができたのでせっかくだからと依頼を出したのだよ。本当は自分でやってみたいところだが、さすがにそこまでの元気もなくてな。」
一通りの挨拶の後、依頼の内容について説明される。
「依頼の報酬額は50万ドール。期限については特に気にしなくてもいいし、辞退する場合の報告も必要がない。依頼の達成条件は話に出てくる宝玉を手に入れることで、宝玉の真偽については私の判断となる。
宝玉を見つけるということは、海賊の宝を見つけたと言うことになるので発見者の保護を考慮して依頼の取り下げはすぐには行わない。その辺りについてはこちらと役場のやりとりとなるので気にしなくていい。
発見した場合には詳細について報告する義務もないし、その内容は他人には伝えないし、こちらで特に調べもしない。ただできる範囲でいいので状況などを説明してほしい。
この内容でいいというのであれば依頼を受けてくれ。依頼を受けるというのであればヒントとなる地図を渡そう。」
もちろん断る選択はないので依頼を受けると返事をし、地図のようなものをもらう。地図自体は複製したもののようだ。
地図や説明の書かれた紙を見てみるが、正直よく分からない。地図はかなり適当で、描かれているのはルイサレムの町とその南東方向の島。
そしてその島の下に何やら読めない文字が書いており、翻訳が書き添えられている。文字は古代ライハン語で書かれているようだ。
「いろいろな解釈をする人がいたが、結局は見つかっていない。これまでの解釈が間違っている可能性が高いと思うので、今までの情報は気にせず、自分で考えてもらった方が良いと思う。
なのでこちらが出せる情報はこの地図と地図に書かれている文字の翻訳だけだ。文字の読みは分かっているが残念ながら意味が判明していない。数字については間違っていないはずだ。」
たしかに下手に助言をもらうとそれをもとに考えてしまうかもしれないからなあ。とりあえずはあとで地図を見ていろいろと考えてみることにしよう。
「わかりました。この地図から宝のありかを考えてみます。
ただ、この地図を見る限り宝はどこかの島にあると思われるのですが、船を出してもらう伝がありません。申し訳ありませんが、誰か紹介してもらうことはできるでしょうか?」
「移動が必要な場合はこの紹介状を持って港の事務所に行ってくれ。1日は無料で送迎してくれるように言ってある。それ以降は自分たちで出してもらうことになるが、もし依頼を達成できたら、途中でかかった経費は払うので、領収書はもらっておいてくれ。」
「ありがとうございます。」
「おそらくないとは思いますが、もし何か聞きたいことができた場合は役場の窓口に連絡を取ればよろしいでしょうか?」
ジェンが連絡先を聞いてくれた。何かの時の連絡先を聞いておかないといけなかったね。
「そうだな・・・そのときはこの商会に連絡してくれ。都合が良ければすぐに会うことができるだろうし、いない場合は伝言を頼む。
基本的に4時から6時はここにいるはずなのでその時間に来てもらえると助かるな。」
「わかりました。」
あとはないよね?頷き合って確認する。
「それでは依頼が達成できるように頑張ってみます。失礼します。」
ちょっとテンションを上げながらお店を出る。宝の地図って、地球ではほぼあり得ないことだからなあ・・・。埋蔵金とかいう話は時々テレビとかで見るけど、見つかったという話はほとんどないからね。
とりあえず海賊の宝と言うことなのでこの辺りの海賊に関する伝記でもないかと図書館に行って探してみることにした。
少しくらいと思っていたんだけど、思ったよりいっぱい出ていたのでジェンと二人がかりで見ていく。絵本みたいなものから長編の小説までいろいろとあり、視点は色々とあるんだけど、大筋は同じ感じだった。
~海賊物語の要約~
150年ほど前、この辺りを縄張りにした海賊がいました。百人を超える配下を持ち、多くの商船を襲い、財宝を集めていました。
都度都度海軍の討伐隊が組織されましたが、なかなか捕まりません。海賊の本拠地もなかなか見つかりません。
海賊の持つお宝には虹色に輝く宝玉がありました。この宝玉はどこに行けばいいのかを示す力を持ち、海賊達は逃げおおせていたのです。
あるとき海賊の本拠地の情報がもたらされ、討伐隊がその島に向かいました。しかしその島には海賊の本拠地と思われるものはありませんでした。
多くの討伐隊が本拠地に向かっている間に、討伐隊が拠点としている町が海賊達により襲撃されました。そして多くの人々の命が奪われました。さらに討伐隊も町に戻る途中に待ち伏せされほとんどの兵士はなくなりました。
ここまでされては国の威信に関わります。海軍の名将ステーファンにより討伐隊が組織されました。先に島の情報をもたらしたものから海賊が襲撃しようとしている場所の情報を得ました。そして海賊を無事に討伐しました。
残念ながら最後の最後にその海賊の頭であったヘンリーバッハを取り逃しました。とどめを刺す直前に姿が消えてしまったのです。
それ以後、海賊の姿は見なくなりました。海賊の頭は実は悪魔で、倒すとともに消滅したのではないかと言われました。
生き残った海賊達から本拠地の場所を得ようとしましたが、詳細を知っているものもなく、見つけることができませんでした。
多くの島々のどこかに海賊の財宝が今も眠っているかもしれません。
~~~
海賊を退治したけど、宝が見つかっていないので海賊の宝というのが伝説になっているのだろう。海賊視点で書かれていたり、名将視点で書かれていたりするけど、大筋は同じような内容だ。
情報をもたらしたものだけが海賊の手下だったとする視点や、殺された親族の敵討ちのためにスパイとして活躍したとかいろいろと解釈がされている。最後は処刑されたとか、町から追放されたとか、英雄としてたたえられたとかいろいろあった。
海賊についての本を一通り読んでから、夕食へと向かう。宿の近くにある魚専門のお店に行ってみるが、やはり刺身は置いていなかった。生の魚は食べないのか聞いてみたところ、漁師達は食べるみたいだけど、それ以外ではあまり食べないらしい。
特に毒があるとかいう訳ではないけど、種類によっては寄生虫がいることもあるので魚は選ばないといけないらしい。
新鮮な魚と醤油があるのか聞いたところ、あるみたいだったので見せてもらう。鯛のような魚だったので、保険として浄化の魔法をかけてから薄くスライスしてもらった。
残念ながらわさびは置いていないようだったので醤油につけて食べてみる。周りからは奇異な目で見られているが気にしないでおこう。
うん、おいしい。
これは十分に食べられるな。残りの魚の半分もさばいてもらい、半分は煮付けにしてもらった。ジェンも地球にいるときに何度か食べたことはあったみたいで手を出してきた。うん、おいしいなあ。なんでこれが普及していないのか分からん。
周りの目を気にすることもなく、刺身を堪能する。これでわさびがあれば完璧なんだけどね。やはりちょっとだけ生臭い。魚も市場で直接仕入れたらもっとおいしいものになるかなあ?
かなり満足してから宿に戻り、宿で海賊関係の本を読み返してみるけど、どれも海賊の本拠地については、詳細は書かれていない。行ってみたが建物も港もなく、戻る途中に襲撃を受けたというものや、本拠地を見つけたがそこで反撃に遭って全滅したとかだけだ。全滅したのに何でその辺りの話が伝わっているんだ?という話もあるしね。
この情報提供者が嘘をついていたのか、それともわかりにくいように隠されていたのか。それでもかなりの人数で捜索したはずだから見つからないというのも変だと思うんだけどねえ・・・。
翌朝の朝食を食べた後、地図を見ながらジェンと一緒に考えてみる。
「とりあえず伝記からは海賊の本拠地についての情報は得られそうにないし、すでに調べられていることだと思うので、まだこの地図から解読する方が良さそうだよね。」
「ええ、最近になってからこのクエストを出したと言うことは新しく見つかった資料と考えていいと思うわ。」
「とりあえず島の位置をちゃんと把握すべきかなあ?ただ当てずっぽうで動き回っても仕方ないかな?」
この天体が丸いと言うことはすでに認識されているみたいで、逆さまになっても魔力によって引っ張られるから落ちないという解釈がなされている。
以前は地図関係の情報については秘匿されていたようだけど、現在はそれなりに精度の高いものが発行されている。ただしまだ探索されていないエリアなどは海岸線が適当に描かれていたりしているのはしょうがないところか。
ガイド本にはこの地図データが取り込まれていて、最初はかなりアバウトな感じだったんだけど、地図を取り込むことでだいぶ精度が上がっている。地図の機能はガイド本のレベルが2に上がったところで追加された。某地図アプリみたいに拡大縮小が可能なのでかなり使い勝手がいい。
さらに自分が行った場所はかなり正確に記載されるというオートマッピング機能付きだ。本から得た内容の地図はグレーなんだけど、自分が歩くとその部分が修正されてカラーになっている。
ガイド本はただの案内本だったんだけど、滞在期間が長くなればなるほどガイド本のチートさが見えてくるな。10日間だとここまでの機能は把握できないだろうからね。なんでこんな機能を付けていたんだろう?
「地図にはルイサレムの町が載っていてその南東方向の島とは分かるんだけど、地図を見る限りはかなりの数の島があるから当てずっぽうだとまず無理じゃないかしら。地図の縮尺もどこまで正確なものか分からないわよ。」
「たしかにルイサレムの町の南東方向の海にはかなりの島があるのは分かっているんだけど、特に重要な島ではないので地図の配置は結構適当になっているみたいなんだよね。やっぱりこの数字の謎を解かないと難しいかな?」
数字については一番考えられるのは、どこかの町からの距離となる。多くの町には場所を示す魔道具が置かれており、コンパスのような魔道具を使うと、登録した場所までの距離と方角が出るようになっている。コンパスによっていくつ登録できるのかは異なるけど、これで進む方向や距離を確認することができるようだ。
ただ距離が遠くなると検知ができなくなるらしく、ここからだとオーマトの町しか反応しないらしい。範囲を広くすると起点とする魔道具の消費魔素が半端ないことになるようだ。
書かれている文字と数字は「とい322135 めい380102」となっている。翻訳なんだけど、この文字の意味は分かっていないようだ。数字についても単位が不明だ。
「普通に考えると地図にはルイサレムの町が載っているからそこからの距離と考える感じなんだろうけど・・・。「とい」か「めい」が東か南ということになって、そのあとが距離とかかな?ただそんなことはすでに前の人が考えているだろうから、ダメだろうなあ。」
「まあ簡単に分かるものだったらすでに見つかっているだろうし、依頼を出していたショウバンさんもそのくらいはやっていると思うわ。」
とりあえず図書館に行って文字について調べてみることにした。書かれている文字は古代ライハン語のようなので、図書館にある本とガイド本で古代ライハン語について調べてみる。
いろいろと本を調べてみたが、やはりこの文字の説明は見つからなかった。方位を示す言葉は別の言葉だったので、文字は方向ではなくて別の意味と言うことになるのか?
古代ライハン語も完全に解読されたわけではないみたいだからねえ。遺跡に残っている言葉がある程度見つかっているくらいで、解読できるような資料が少ないらしい。かなりの文明レベルだったんだけど、今の文明とはつながっていないようだ。
結局一日費やしたけど、大きな収穫はないままだった。まあそう簡単に意味が分かるようだったらもう宝は見つかっているよね。
翌日も図書館に行って調べてみるけど、昨日大体の本には目を通したので新しい発見はない。ガイド本を見ながらなにか手がかりになるようなものはないかとみていたところ、本関係のページの最初になんか変なページが追加されていることに気がついた。
ちなみにガイド本の取り込み本のところは、タブレットのような感じで本のタイトルなどからページが開くようになっている。取り込みの時にイメージすることで分類分けもできるし、後から変更することもできるというかなり便利なものだ。
カーソルのようなところの横には「検索文字」と書かれていた。もしかして?
「どうしたの?」
ジェンが声をかけてきた。
「いや、ガイド本がレベルアップしたせいなのか、検索機能が追加されているみたいなんだ。」
入力するキーボードのようなものはないので頭の中で文字を念じてみると、その言葉の引っかかる部分が抽出されて表示されていた。もしかしてガイド本のレベル-3は検索機能の追加もあるのか?
「頭の中に検索したい言葉を思い浮かべると検索できるみたい。」
ジェンも同じように試している。
「インターネットと言うよりはガイド本に取り込まれている本の検索機能といった感じね。これだけでもかなり助かるわ。」
とりあえず「とい」という古代ライハン語を検索してみる。古代ライハン後もちゃんと検索文字に入れられるようだ。
「『とい』という文字が一つだけ引っかかったよ。えっと・・・文章じゃなくて写真のような絵の中に書かれている文字みたい。絵の部分も検索かけてくれるとはかなり驚きだな。」
ジェンと表示された写真を見てみると、どうやらトウセイ大陸にある古代遺跡の柱に刻まれていたもののようだ。下の方は見えなくなっているけど、同じ文字が書かれている。
「とい 61 85 86」
「 27 53 」
「下の見えない部分は「めい」の可能性が高いかな。数字については下の2桁が見えていないという感じか?」
「よく見てみると、数字の間に空白があるから、これは一連の数字じゃなくて2文字が3つ連なっていると考えた方がいいかもしれないわね。」
「ということは、今分かっているのを並べて書いたらこんな感じか。」
海賊の島
とい 32 21 35 めい 38 01 02
トウセイ大陸
とい 61 85 86 めい 27 53 ??
「うーん、やっぱりどこかの都市とかを起点とした距離なのかな?海賊の島とトウセイ大陸の遺跡の位置関係を考えたら、遺跡の方が北東にある感じか。」
「遺跡の数字は「とい」は数字が大きくて、「めい」は数字が小さいということは・・・起点となる場所はもっと西で北の方と言うことかしら?それから考えると結構遠い感じよね。」
「この数字の並びってどこかで見たような気もするんだけど・・・。」
なんだったかな?
「あ!!わかった!!」
ジェンが声をあげたせいで周りから注目を浴びてしまった。周りに謝ってからまた小さな声で話を続ける。
「これって経度と緯度みたいなものじゃない?」
「たしかにそんな感じかも。」
今はGPSで地点の場所を表記しているけど、地球単位での現在地を示すのに有効な方法だったはずだ。
「今回の地図の数値と遺跡の場所から考えると経度の0点はホクサイ大陸の西の方か、ナンホウ大陸の東の方かな?緯度に関しては極点が0かもしれない。」
「それじゃあ、起点となるようなところが無いか調べてみましょう。」
起点となるのなら町か何かがあったはずだと思い、古代遺跡について調べてみると、経度0と思われるホクサイ大陸に大きめの古代遺跡があることが分かった。とりあえず遺跡の中央付近にあったみたいな塔の跡を0として考えることにしよう。
ガイド本にあった世界地図をベースにトウセイ大陸の遺跡を見てみると、それぞれの3つの数字が100等分という感じで考えればいいようだ。外周が地球と同じ40000kmとすると、一番下の数値の1つが40mくらいとなる。
大きな都市間の距離や方向は魔道具で確認されているので、位置自体に大きなずれはないと考えていいだろう。
それを前提に遺跡の位置を確認すると緯度(とい)が考えていた数値と合っていることがわかった。緯度(めい)については最後の数字が分からないけど、大体あっているとみていいだろう。これをもとに海賊の島の場所を考えると、ルイサレムの南東の地点で間違いなさそう。
「予想した数値で場所にずれがないので間違いはないと思う。あとはガイド本の地図で目的地と一致する島があれば特定できるんじゃないかな?」
「ええ、とりあえずこの仮説が正しければいけると思うわ。とりあえず地図が更新出来ないか探してみましょう。」
図書館にも付近の地図はあったんだけど、島の配置についてはかなりアバウトだったので港の事務所にも行ってみる。ここにも地図が置いてあったので確認してみたけど、やはり正確に確認するには現地に行ってみるしかなさそうだ。
ショウバンさんからの紹介状を見せて、船を出してもらうことをお願いする。明後日だったら1日大丈夫との返事をもらえたので待ち合わせ時間を決めて港を後にする。
お昼も食べずにいろいろと調べていたんだけど、もうすでに夕方になっていた。さすがにおなかもすいてきたので早めの夕食を取りに行く。さすがにちょっと違うものを食べたいなあと思ってカレーの匂いにつられて入ってみると、シーフードカレーの店だった。ナンのようなものにつけて食べておなかも満足した。
緯度と経度って地球では普通に使っていたけど、この世界では普通じゃないよなあ?まだ確定ではないけど、古代文明ってかなり進んだ科学力を持っていたんじゃないだろうか?海賊は何かしらの方法でその数字を見つけたんだろうな。
緯度経度って自分たちの時は衛星との通信で位置を把握していたし、その前は測定が結構大変だったと思うんだけど、この世界ではどうなんだろう?魔法があるからそれでなんとかなっているのかねえ?
まあ今も各都市までの距離と方向を認識させる魔道具があるから、それと同じようにある地点に基準の装置を置いてそれに対する表示をするようにすればいいのかもしれない。ただ惑星規模で探知できるのか?
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