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60. 異世界546日目 ハクセン国へ
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60. 異世界546日目 ハクセン国へ
出発するとすぐに町は見えなくなったけど、見えなくなるまで二人は門のところで手を振ってくれていた。次に来るときにはもっと幸せになっていると嬉しいなあ。
依頼の一つは完了したのであとはジョニーファン様からの依頼が残っている。まあ途中寄るところもあるから今年中に渡せばいいと言われていたので時間的には大丈夫だろう。
途中で拠点に泊まりながら南下してまずはクリアミントを目指す。せっかくなので拠点では料理を作ってみる。もちろんなかなか思うようにはいかないけど、それなりには形になってきた、と思う。
とはいえ、毎日はさすがにきついので、適当にお弁当とか出来合のものを食べたりしている。基本的に無理はしないというのが二人の取り決めだ。
しかし、二人で料理を作っていると変な気分になるな。「新婚の夫婦ってこんな感じなんだろうか?」とか考えてしまう。いかん、いかん。
クリアミントではカサス商会によって魔道具を卸していく。他にも魔道具とかでいいものがないかを見て回り、いくつか購入することができた。魔道具に関してはやっぱりこの国が一番いいだろうからね。
今回もいいものがみつかったのはいいんだけど、かなりの出費になってしまった。しばらくはこれらの魔道具が手に入らないと考えるとここで買っていくしかないと思ったからね。ジョニーファン様からの依頼報酬と魔符核の販売代でなんとかなったけど、後悔はない。残金は100万ドールを切ってしまった。まあそれでも1000万円持っていると思えばまあ十分なんだろうけどね。最悪何かあっても装備を売れば数100万ドールは手に入るし。
名称:治癒の指輪(良)=155万ドール
詳細:銀製の指輪。治癒魔法使用時の効果が30%向上する。
品質:良
耐久性:良
効果:良
効力:治癒力強化-3
名称:力のネックレス(良)=145万ドール
詳細:銀製のネックレス。筋力が30%向上する。
品質:良
耐久性:良
効果:良
効力:筋力強化-3
名称:耐久のアンクレット(高)=73万ドール×2
詳細:銀製のアンクレット。持久力が20%向上する。
品質:高
耐久性:高
効果:高
効力:持久力強化-2
魔術の指輪を入れ替えて治癒の指輪はジェンが、力のネックレスは自分のものをジェンに渡し、今回のものは自分が装備する。早く自分でこのレベルの付与魔法ができるようになればいいんだけどね。一応魔獣石の消費を無視したものは作れるんだけどなあ。まあ非常用だな。
クリアミントで一泊してから翌日から再び移動を開始し、行きにも寄っていったサイノレアに寄っていく。
前に泊まった北の湯という宿に行ってみると、部屋は開いていたので今回もここに泊まることにした。今回は温泉を十分堪能するために3泊の予定だ。なんて贅沢!!さすがに1週間とかは無理だけど、温泉を堪能するには最低2泊はいるからね。
夕食の時間を伝えてからさっそくお風呂に入ることにした。内湯と露天があるんだけど、露天では魔道具で虫が飛んでこないようになっているのはありがたい。
体を洗って露天の湯船に浸かってしばらくすると、今回もジェンがバスタオルを巻いてやってきた。今回は動揺しないぞ。
「期待を裏切らないで今回も入ってきたね。ちゃんと体を流してから入ってよ。」
きっと入ってくるだろうと思っていたから今回はあまり動揺しないですんだ。
「わかっているわよ。お風呂に関してはイチになんども言われたからね。」
体を洗っているようなので外の眺めを堪能していると、ジェンも湯船に入ってきた。
「あ~~~、ほんと、いいところね。前はお風呂なんてって思っていたけど、たしかに慣れたら気持ちがいいものね。」
「そうだろ。日本にはほんとにいろいろな温泉があるんだ。両親に連れて行かれた山の中の温泉とかは面白かったよ。
他にも河原を掘ったら湯船になるようなところもあるし、炭酸の入った温泉とか、滝の温泉とかいろいろあって面白いんだよ。海岸沿いの夕日が見える温泉とかは最高だったよ。」
「もとの世界に戻ったら行ってみたいわ。」
「もとの世界に戻ってもお風呂の気持ちよさは覚えていると思うよ。」
戻ったら連れて行ってあげるよとは言えないところがちょっと悲しいな。
ジェンもお風呂にはまってきたみたいなんだが、ふとジェンの方を見るとなんかおかしい。
「なあ・・・気のせいだと思うけど、水着って着てるのか?」
「お風呂に水着ではいるのは邪道って前に言っていたじゃない。」
「そ、それはそうだけど、それはあくまで普通のお風呂だ。混浴だったら水着を着るのはしょうが無いよ。」
「大丈夫、大丈夫、他にいるのはイチだけだからね。」
「いや、自分がいるから水着を着てよ!」
まずい、ほんきでまずい。水着でもかなり悩殺されてしまうレベルなのに、裸と言うことを意識したらしゃれにならない。
「はぁ~~~、いいきもち。ねえイチもくつろいでる?」
「くつろげるかぁ!!」って叫びたい。平常心、平常心・・・。せっかくの温泉なんだ、平常心。
「どうしたの?大丈夫?」
そういって顔に手を上げてくるジェン。
「先にあがるから!!」
そう言って逃げるように脱衣所へ。
「は~~~、勘弁してよ。」
部屋で休憩していると、しばらくしてジェンが上がってきた。
「うーん、いいお湯だったわ。イチごめんね。ちょっと刺激が強すぎた?」
「おまえなあ、そんなことして自分の自制が効かなかったらどうするんだよ!!」
「まあ、そのときはそのときね。襲ってみる?」
そんな根性がないのわかってて言ってるだろう!
「これ以上はほんとに勘弁してくれよ。」
「わかったわよ。ふふふ・・・。」
このあとは部屋で夕食となるが、ジェンが食前酒代わりに秘蔵のお酒を出してきた。お酒の持ち込みはいいのかわからないので食事を運んできた女性に聞いて見る。
「すみません。ここってお酒の持ち込みは問題ないでしょうか?」
「えっと、お酒ですか。本当は持ち込み不可なんですが、こちらで準備できないお酒などもあるので少々であれば大目に見ています。」
「そうなんですね。飲むと言っても一本全部飲むわけではありませんけど、これ以外は注文すると思います。」
そういってお酒を見せる。
「えっと・・・、っ!!」
瓶を見てなぜか驚きの表情で固まっていた。
「し、失礼しました。さすがにこれと同等のお酒は準備できませんので持ち込みは大丈夫です。」
なんかかなり動揺しているけど、大丈夫かな?準備途中で「少しだけ失礼します。」と言って出て行き、代わりに他の人が後を引き継いでやってきた。
とりあえずメインの食事は後にして簡単な前菜だけを準備してもらっていたのでお酒を飲みながらしばらく会話を楽しもうとしたところでノックが聞こえてきた。どうしたんだろうと思ってドアを開けると、なぜか頭を下げた二人と先ほどの従業員の姿があった。
「お食事中に失礼します。誠に申し訳ありませんが、少しばかり時間をいただくことはできないでしょうか?」
なんかえらく必死そうな顔をしているので食事はいったん中断して話を聞くことにした。なんか知らないうちに罪を犯したってこととかはないよな?ちょっと警戒してみるが、特に誰か隠れているという感じでもない。
最初に自己紹介されると、先ほどの従業員の他の二人はこの宿のオーナーと料理長らしい。なんでオーナーが?料理長もここで時間を潰していていいのか?
「ぶしつけなお願いになるのですが、先ほど持ち込みと言っていたお酒を見せてもらうことはできないでしょうか?」
持ち込みのお酒だめだったのかな?
「結構貴重らしいので注意して下さいね。」
そう言って瓶を渡すと3人が真剣な顔で見始めた。
「まちがいない・・・、そうだな・・・鑑定でもそう出ている・・・。ほん・・・。」
なにやら鑑定をしたりして色々とみているみたいだ。そう思っていると、突然頭を下げて聞いてきた。
「このお酒はかなり珍しいものなのですが、ご存じでしょうか?」
「えっと、確かに貴重みたいですね。幻と言われているという話は聞いています。なので特別な時とかにしか飲まないものですね。」
「失礼ですが、入手方法などをお聞きすることはできないでしょうか?」
「うーん、まあ簡単に言うと古代遺跡の調査中に昔の人が保管していたお酒を見つけたんですけど、その中にあったという感じです。
残念ながらあったものはすべて回収してきたので取りにいってももう無いと思いますよ。」
「そうなのですね。すみませんが、できる限りの金額は出させてもらいますので、このお酒の試飲をさせてもらうことはできないでしょうか?」
ジェンの方をみると、かなり驚いていたんだが、3人の表情を見てやれやれという顔になった。
「わかったわよ。試飲くらいでいいのならいいわよ。そのかわり宿代くらいは出してくれるんでしょうね?」
「はい、そのくらいは当然払わせてもらいます。」
そういうと速攻で試飲用のグラスを持ってきた。3人に少しずつ入れてあげると大喜びしていた。
「すごい、これが幻と言われるお酒か。奥が深い。口当たりがここまでまろやかだとは・・・。」
しばらく感想を言い合いながらお酒を堪能する3人。
「は、し、失礼しました。ほんとうに、ありがとうございました。」
「いえ、大丈夫ですよ。それでは今回の宿代くらいは出してもらえると言うことでいいんですよね?」
「「「え?」」」
「え、な、なにか・・・。」
「今の試飲だけでもこの宿の最高の部屋に長期間泊まる分の価値は十分にあるものなのですよ。それ以前にまず飲む縁に巡り会えることがまず無いことなんです。」
「そ、そうなんですか?まあ、今回の宿代を出してもらえるなら十分よね、イチ?
それにそこまで飲みたいと思う人に飲んでもらえたらお酒を造ってくれた人もうれしいと思いますし。さすがに全部飲まれると困りますけど、もう1杯くらいならいいので飲みますか?」
「「「ほんとですか!!」」」
3人に詰め寄られてジェンはかなり圧倒されていた。
しばらくおかわりのお酒を堪能していたんだが、先ほどのまかないの女性がなにやら言ってきた。
「今からでも部屋を移ってもらったらどうでしょう?たしかあの部屋が数日間は開いていたはずですよ。」
「それもそうだな。すぐに準備をさせよう。
申し訳ありませんが、部屋を移動していただいて大丈夫でしょうか?きっと今より満足できると思いますので、お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。」
なぜかそこから部屋を移動させられてさらに立派な部屋へとやってきた。なんか部屋の広さが3倍くらいになってるんだけど・・・。温泉の広さも3倍くらいになってしかも浴槽が数種類に増えてるんだけど・・・。
「え・・・この部屋使っていいんですか?」
「はい、大丈夫です。今日の夕食は無理ですが、明日からの料理は先ほどいた料理長が腕を振るうと言っていましたので期待して下さい。
今日の夕食も追加で特別料理を持ってきますので少しお待ち下さい。」
部屋を移ってから仕切り直して少し秘蔵のお酒を飲んでみるが、確かに美味しかった。ただあそこまで言われるとそんなには飲めないので、味見程度でやめておいた。ジェンは追加でお酒を頼んでいたけどね。
しばらくしてから料理が運ばれてきたんだけど、見るからに高そうなものが並んでいた。見た目だけでなく味も最高だったけど、いいのだろうか?
「オークションの時の話では1本50万ドールくらいだったよね?」
「確かそのくらいだったと思うわ。」
「それじゃあ、さっきの量だと2杯ずつとはいえほんとにちょっとしか飲まなかったから数万ドールもしないくらいだよね?この部屋って一泊1万ドールってレベルじゃないよね?」
「多分一泊数万ドール以上はするんじゃない?」
「なんか食事もすごいことになっているけど、いいのかな?」
「まあ酒好きにはそれ以上の価値があると考える人がいてもおかしくないわよ。せっかくなので堪能しましょう。」
「まあたしかに考えても意味が無いな。せっかくだから言葉に甘えるか。」
夕食を堪能すると、さすがに疲れてきていたので温泉にはひかれたんだが眠りにつくことにした。ベッドも最高級品なのか寝心地は最高だった。
翌日朝早く起きてから早速朝風呂へ。大浴場はまだ開いていないから部屋に温泉がついている人の特権だな。
朝日が昇ってくるのを見ながらのんびりを温泉に浸かっていると、またジェンが入ってきたが、今日はちゃんと水着を着ていた。刺激的ではあるんだけど、まだ大丈夫、大丈夫・・・。お風呂からは上がれないけど。
温泉はいくつかの種類を引いているみたいで、浴槽によって異なる泉質になっていた。すごいな。サウナもあって朝からさっぱりだ。朝食もかなり豪華な内容で十分に満喫することができた。
このあと町の中を散策する。特にめぼしい店があるわけではないんだけど、観光地という感じなのでちょっと遊ぶ遊技場などがあって気分転換にはなる。お昼は店先で売られているものを適当に買い食いしながら食べ回り、演劇なども見てから早めに宿に戻る。あとで考えたんだけど、これってデートだったのかな?
戻ってから大浴場や部屋の温泉を堪能してから夕食だ。夕食の時には今日もお酒を少し飲んでいたんだけど、出されるお酒も美味しくて結構飲んでしまったよ。ちょっとまずいな・・・。さすがに酔っ払った状態でお風呂に入るわけにもいかないのでそのままベッドに撃沈。
目を覚ますとなにやらいい匂いが・・・。なんか柔らかい感触がする・・・。あれ?これってもしかして。と目を開けると、ジェンを抱きかかえて眠っていた。というか胸に顔を埋めていた。
「ええ~~~!!」
「っ!もう、びっくりするじゃない。」
「なんでジェンが自分のベッドに入っているんだ?」
「よくみてよ。こっちは私が寝ていたベッドよ。夜中にトイレに行ったみたいでその後こっちに入ってきたの。途中から抱きしめられていたのでこっちは寝不足だわ。」
「・・・なにかした?」
「たいしたことじゃないわよ。私をずっと抱きしめていたけど・・・気持ちよかった?」
「ちょ、ちょっとまって・・・いや、大丈夫なはずだ。服も着ているし、ジェンもパジャマを着ているし。」
「大丈夫よ。責任とってもらうことでもないから。」
お酒は控えよう・・・。
朝から再び温泉を堪能し、今日の朝食もかなりのごちそうをいただく。この日は部屋でのんびり過ごすことにしたので掃除の時間だけ宿の中を散歩してからあとは温泉に浸かったり、部屋でくつろいだりとのんびり過ごす。夕食はまた豪華なものでおなかもいっぱいだ。さすがに今日はお酒はやめておいた。
翌日も朝食を食べてから温泉宿を満喫してから宿を出発することになったんだけど、お酒をおごった三人がまた挨拶をしてきたので恐縮してしまった。
~宿のオーナー・ハスカルSide~
この間は人生でもなかなか無い幸運に恵まれた日だった。お酒好きが講じて宿の経営の傍らお酒の収集をしているんだが、今日は死ぬまでに一度は飲んでみたいと思っていたあの幻のモンドリアのブランデーと出会うことができたのだ。
最近ヤーマンのオークションに出品されたという話を聞いて、参加できずに残念に思っていたところだ。しかもあのお酒を含めたセット10本で158万ドールという値段で落札されたようだ。直前での出品となったのでおそらくそれだけの価値を認める参加者が少なかったのだろう。もし私が参加していたらもっと出していたかもしれない。
食事の準備をしていた従業員でお酒仲間であるサミラから話を聞いたときはなんの冗談かと思ってしまった。あまりの必死さに料理長のタカミラも誘って押しかけてしまった。経営者としてはあるまじき失態だ。
そんな無礼な態度にもかかわらず、ジュンイチとジェニファーという二人は私たち3人に試飲させてくれた。素晴らしかった。幻と言われるものだが、誰もが求めるのがわかった。
あまりの展開にお礼の話をちゃんとしないまま試飲させてもらったので困ってしまった。後から何を言われてもしょうが無いと覚悟を決めていたのに、今の部屋の代金と言ってきた。価値を知らないのかと思ったが、価値を知っているのにせっかくのお酒だから飲みたい人にのんでもらった方がいいと答えが返ってきた。
サミラからちょうど最上級の部屋が開いていたはずだから移ってもらえばどうでしょうと提案があってすぐに準備してもらうことにした。かなり恐縮していたが、それだけの価値は十分にある。食事も最高のものを食べさせてやるとタカミラも腕を振るっていた。
宿を出発するときにはお礼と言ってお酒を渡してくれた。これも今ではなかなか手に入らないと言われるお酒だった。秘蔵のコレクションになるだろう。今回のお礼に私の知り合いを何名か紹介したが、釣り合いはとれるだろうか?お酒を受け取っているときに二人がすごい形相で見ていたので分けてあげないわけにはいかないだろうな。
~サミラSide~
素晴らしいお酒だったわ。まさか私があのお酒を飲むことができただなんて、酒仲間には一生自慢できることだわ。
若いカップルの二人の食事の準備をしていたら、お酒の持ち込みについて聞かれて驚いたわ。持ち込んでも何も言わない人も多いのに、若いのに礼儀正しいなぁと思い、少しだったら大丈夫ですよとお酒を確認して驚いたのよね。
同僚にあとのことをお願いしてオーナーのハスカルさんのところに大急ぎで行ったのだけど、なかなか信じてくれなかったわ。それじゃあ私だけでも飲ませてくれないか頼んでくるわというと驚きながらもついて来た。
結局本物だったのだけど、なんと二杯も試飲させてくれて天にも登る気分だったわ。お礼にオーナーに言って最上級の部屋を準備させてもらったけど、私も専属でお世話させてもらったわ。
宿を出る時にお礼と言って珍しいお酒をオーナーがもらっていたから、少しはお裾分けをもらわないといけないわね。
~タカミラSide~
前に一度だけ飲んだことのある幻のお酒を飲むことができた。しかも前は舐める程度だったのにあそこまで味わえるとはなんたる幸運か。
お礼に腕を奮って構わないと言うので秘蔵の食材も使って料理したさ。量はそんなにいらないといわれていたので一品一品を精魂込めて作ったよ。ここまで心を砕いたのも久しぶりだな。
お礼にまたお酒をもらっていたんだが、それもかなり珍しいお酒だった。ちゃんと自分たちにも分けてくれるのかな?
~~~~~
温泉宿を出発してからひたすら車を走らせる。拠点に泊まりながら国境の町のトレラムの町までやってきた。到着したのはすでに夕方近かったんだけど、さっさとハクセンに移動することにした。
受付には長い列ができていたけど、まあなんとかなるだろう。入国の時に払うお金は300ドールだ。身分証明証のチェックはあっさりと終わりハクセン側の町であるタブロムへと入る。
ハクセンはアルモニアよりも貴族の権力が強い国と聞いているので気をつけないといけない。特にジェンは目立つのでありがちな展開にはならないようにフードを深めに被ってもらっている。できるだけ変なことにはならないようにしたいからね。
「そこまで気にする必要ある?」
「ありがちな展開にはなりたくないんだよ。大丈夫とは思うけど、貴族と平民できちんと分けられているところを見るとやっぱり貴族の権力が強いので気になるよ。」
ハクセンに入って思ったのは店の入口にマークが記載されていることだ。マークは貴族専用、平民専用、指定なしの3種類となっている。
「今の地球でこんなに分けられているところってほぼ無いだろ?どういう展開になるのかわからないからね。」
「まあ、全くないとは言わないし、誰でも入れない店とかはあったけど、確かにここまで徹底しているのは見ないわね。昔海外では普通にあったらしいけどね。」
事前に聞いていたところでは、他国の貴族でも貴族扱いとはなるようだ。貴族は身分証明証の職業か賞罰のところに記載されているらしい。貴族と一緒の場合は入ることができるらしいけど、いい顔はされないみたいだ。まあ貴族の店はほとんどが個室になっているからそこまで問題は無いみたいだけどね。
こっちの世界の貴族は国によって若干の差はあるようだけど、基本的に上位爵、中位爵、下位爵の3段階となっている。感覚的に上位爵が公爵・侯爵、中位爵が伯爵、下位爵が子爵・男爵という感じだろう。
アルモニアは貴族が領地を治めているけど、ある程度は任命制だ。ハクセンはそれぞれの土地をそれぞれの貴族が治めるという形となっている。とはいえ、あまりに横暴な貴族は平民からでも嘆願ができるようにはなっているらしいけど、どこまで対応しているのかわからないし、嘆願書もどこまで効果があるのかわからない。
とりあえずはまずは聞いていた宿に行って今日の宿泊を確保する。入口には平民専用と書かれていた。このあと役場に行って資料などを確認してから夕食は宿の併設の食堂で食べることにする。武器とかも見てみたいけど、それはもっと大きな町で見ればいいだろう。
宿は平均的なところよりは若干ランクが下がるという感じかな?まあその分値段が安いんだけど、いいところは貴族専用となってしまうらしい。また平民用の高級宿はあまりないみたい。依頼は王都のハルストニアに移動しなければならないので、ここからだと15日くらいだろうか?
~ジェンside~
マイムシの町を出発してから拠点に泊まりながら移動を繰り返した。拠点では二人で料理を作ったりしてなんか新婚気分だわ。結婚しても一緒に料理を作ったりするのかなあ?なぁんて考えていたらちょっと恥ずかしくなってしまった。
イチが行きに泊まった温泉宿に今回も泊まりたいというので寄っていくことになったけど、今回は温泉を堪能したいので3泊はしていきたいというので久しぶりにのんびりしようと言うことになった。ここに泊まっている間は訓練も禁止としたので本当に久しぶりののんびり気分だ。
部屋に入るとイチは予想通りお風呂に行ったので私も後から入ることにした。私が入ってくるのは予想していたのかあまり驚きはなさそうだったけど、水着を着ていないとは思ってないようだったわ。ふふふ。
体を洗ってから湯船に入ってしばらくしたところで気がついたみたいでかなり驚いていた。そのあとのイチはかなり挙動不審に陥っていたのがおかしくて、笑いを堪えるのが大変だったわ。私が手をイチの顔に当てたところで勢いよくお風呂から出て行ったので、やっぱりまだまだかな。
部屋に戻るとイチはくつろいでいたんだけど、襲いたくなるような発言をしてくる。その勇気も無いのにね。襲ってくるくらいならもうとっくに手を出しているでしょ。
温泉は地球にいた時も結構あちこち行っていたみたいでいろいろな話を聞かせてくれた。行ってみたいなあ・・・。戻ったら連れて行ってあげると言ってこないのは記憶がなくなってしまうと思っているからだろうな。ちょっと悲しい。
そう考えるとこの世界のことは夢みたいなものなのかな?でも、それでもいいの。記憶が完全になくなるわけではないみたいだから、いっぱい思い出を作っていたら元の世界に戻っても何か覚えているかもしれないわ。
夕食の前に少しお酒を飲みたいのでつまみになりそうな料理だけ先に出してもらった。お酒の持ち込みについて係の人に聞いていたのだけど、係の人がなぜか驚いて出て行った。少しして戻ってきたときにはオーナー達を連れてきたので何があったのかと思ったわ。
お酒が大好きみたいで、今回見てもらったお酒がどうしても気になったらしい。まあかなり珍しいものらしいからね。ここまで言われるとさすがにかわいそうなので試飲してもらうことにしたんだけど、かなり感激したのか最上級の部屋に変更してくれたのには驚いたわ。
あとで聞いたところ、オークションの値段はかなり安い方だったらしいのよね。どうやら自分たちがギリギリに持ち込んだので参加者が少なかったみたい。あとで出品していたことを聞いてかなり悔しかったらしいわ。
翌日からの食事はかなり豪華になって十分すぎる内容だった。デザートの果物は美味しかったけど、値段を聞くのが怖い気がする。昼は町の中をぶらぶらとデートして楽しかった。久しぶりにゆっくりした感じだったわ。
この日の夕食ではイチも結構お酒を飲んでいたんだけど、かなり酔っ払ったみたい。早々に寝てしまったので私もベッドに入って眠りについた。まあ拠点だとなんだかんだいいながらそこまで気を抜けないからねえ。
夜中におもむろに誰かがベッドに入ってきたので焦ったんだけどイチだった。まさか?と思ったけど、どうやら酔っ払ってこっちのベッドに来てしまったようだ。なんだ・・・、まあイチに寝込みを襲うような度胸はないよね。
だけど、寝ぼけているのか私に抱きついてくる、ん・・・胸に顔を押しつけないで・・・。なんかいい夢を見ているのか笑っているような表情をしていた。仕方が無いかと諦めて抱かれるままにしておいた。
翌朝イチの声で目を覚したのだけど、どうやらまた私が冗談でイチのベッドに潜り込んだと思ったみたい。でも私のベッドだとわかって焦っていた。まあ抱きしめられたけど、それ以上は何もしてこなかったし、朝の状況を見てもほんとに寝ぼけていたんだろうな。逆に責任とってって迫った方がよかったかな?だけど、胸に顔を埋めていた感触を思い出しているのか顔をにやけさせているのは気がつかないふりをしておいた方がいいわよね。
結局3泊もかなり豪華な部屋で温泉と食事を堪能できた。さすがにここまでしてもらうというのは悪いので、秘蔵のお酒を一本渡すと、かなり喜んでくれたのでよかった。
ハクセンの国に入ってからイチからフードを被って顔を出すなと念押しされた。余計なトラブルに巻き込まれたくないからと言うことなんだけど気にしすぎよね。でも「ジェンはかわいいから、ほんとに危ないから。」と真顔で言われたら従うしかないわよね。
うふふ・・・かわいいだって。言った後でかなり照れていたけど、からかうのはさすがにやめてあげたわ。
~~~~~
今までと同じく、ここからは車での移動となる。途中の町は少し覗いていくけど、それほど目を引くところはないので泊まりは拠点のみだ。まだちょっと不安なところもあるのでまずは用事を済ませるのを優先した。
お昼は出来合のもので済ませ、拠点では時々料理をしたりする。季節はまもなく9月と冬に近づいてきているけど、まだそれほど寒さは感じない。こっちは雪も少ないという話だしね。とりあえず冬になる前に南下することはできそうなので大丈夫かな?
途中は特に何もないまま、予定通り15日目に王都のハルストニアに到着する。途中にハルアという少し大きめの町はあったんだけど、少し寄っていったくらいで特に買い物もしなかった。
この国で買いたいのは装備関係なんだけど、やっぱり買うなら首都のここハルストニアか南の工業都市ハルマだろう。まあお金の問題もあるのでどこまで買えるかわからないけど、とりあえず武器を買い換えたいところだ。ただちょっとみたけど、やっぱり高いんだよなあ・・・。
町に入るのには時間がかかってしまうのはしょうが無いけど、それでも1時間近くかかったのでさすがに疲れてしまった。かなりチェックが厳しいみたいで、一人にかける時間が普通の倍くらいかかっていた。受付の数も少ないのも時間がかかっている理由だろう。
通常の門の他に貴族用の門もあって、そこを通る人はほとんどいないのに結構な人が担当していた。まあ貴族優遇の一つなんだろう。
町に入ってからまずは宿の確保へと向かう。さすがに王都だけあって平民用でも結構高そうなところも多い。
「貴族に会うのならそれなりのところに泊まっておかないとまずいんじゃない?」
「確かにそうかもしれないね。でも高いんだろうなあ・・・。そういえばハスカルさんに紹介状を書いてもらったところがこの町にもあったよね。とりあえずそこに行ってみよう。」
場所を聞きながらやってきたんだけど、その宿はえらく立派なところだった。貴族用と平民用の建物があるので平民用なら泊まることはできそうだけど、大丈夫かな?
「すみません、今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」
「えっと、以前宿泊したことがありますか?もし初めてでしたらどなたかの紹介が必要となりますが、紹介状などはお持ちでしょうか?」
一見さんはお断りのところだったか。ハスカルさんの紹介状でいけるかな?
「ここを紹介していただいた人から紹介状をもらっていますが、これで大丈夫でしょうか?」
紹介状の名前を確認したあと、少しすると確認が取れたようだ。
「ハスカル様の紹介と言うことで少し割引となりましてツインの部屋で3000ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします。」
どうも紹介者がリスト化されており、その紹介者のランクで値段が変わってくるみたいだ。
宿を確保したところで依頼を果たすために宛先のある貴族のところへと向かう。しかし貴族街にはゲートがあり、誰でも入れるわけではないようだ。ここの受付で依頼証などを見せてから取り次ぎを頼まなければならないみたい。
「すみません、アルモニアから依頼を受けてきたのですが、面会の取り次ぎをお願いできますか?」
「ルイドルフ上位爵への依頼で面会希望か。さすがに面会希望がかなり多いので確認には時間がかかるかもしれないな。とりあえず依頼については連絡をしておくので、明日また確認に来てもらえるかな?そのときにいつくらいなら面会できるのか、面会できないのかが分かるはずだ。」
あまり相手のことを聞いていなかったけど、上位爵だったのか・・・。気軽に会える相手ではないよなあ。
「やはり面会できないこともあるんですか?」
「出来るかどうかは我々には分からないが、依頼報告と言っても面会できなかった場合もあるし、最悪報告すら受けてもらえない場合もある。」
「そうですか、わかりました。とりあえず明日朝にもう一度聞きに来ますのでよろしくお願いします。」
また明日来て確認するしか無いな。でも会えなかったら依頼は達成できないと言うことになってしまうなあ。大丈夫だろうか?
このあとカサス商会にいき、支店長のマルマンさんと面会する。マルマンさんはヤーマンからやってきている人みたいで、もう5年も勤務しているのでそろそろ帰りたいと愚痴っていた。やはり貴族相手の商売が面倒らしい。
「ここだけの話なんですが、こっそりと人身売買をやっている貴族がいるという話があるので注意して下さいね。」
「人身売買ですか?」
「ええ、特に若い女性とかがさらわれて売られているという話を聞きます。」
「取り締まられていないんですか?」
「やはり貴族という縛りがあってなかなか強制捜査ができないらしいですよ。キザール下位爵がやっているという噂があります。」
「わかりました、気をつけるようにしますよ。情報ありがとうございました。」
やっぱりフラグがあったよ。用事を済ませたら早めに国を出た方が良さそうだな。
今のところ、自分が納めているものやアイデアはこの国でもかなり好評のようだ。インスタントラーメンはかなりの売れ行きのようで、販売に個数制限をかけているが貴族相手だとなかなか大変らしい。
フードコートについてはハクセンでも作るかどうか検討中みたい。やはりこれも貴族相手だと自分で運ぶスタイルが受け入れられるか怪しいということだ。平民用としたとしてもそれはそれで反感を買ってしまいそうだということで面倒くさそうだ。
重量軽減バッグはかなり好評で、いいペースで売れているようだ。最近納めた魔符核でなんとか足りているようだけど、またしばらくしたら注文することになるだろうという話だった。
なにか他にいいものはないかと言われるけど、今のところまだ中途半端なものしかないので商品化できるものはないんだよね。まあ、いろいろと商品化するとまずいものもあるしね。
装備を整えたいことを話すと、いくつかの鍛冶屋を紹介してもらった。ただ、南のルートからヤーマンに戻るのであれば南の工業都市ハルマで購入した方がいいものが手に入りやすいと言われる。そこの店もいくつか紹介してもらったので購入はそこで考えた方がいいかもしれないな。
ただなにか商品を売るのであればここで売っていった方が高く買い取ってくれるはずだと言われる。それじゃあ使っていない装備関係も一回売り払ってしまう方がいいかもしれないな。
店を出てから夕食にはおすすめと言われた店に行ってみる。味付けは結構濃くて、フレンチのような感じ?結構値段は高かったけど、なかなか美味しいものだった。魚はなかったけど鶏肉が美味しかった。最近鶏肉は食べていなかったからなあ。
宿に戻ってからこの後の予定を確認してから眠りについた。さすがに疲れていたのか速攻で眠りに落ちていった。
出発するとすぐに町は見えなくなったけど、見えなくなるまで二人は門のところで手を振ってくれていた。次に来るときにはもっと幸せになっていると嬉しいなあ。
依頼の一つは完了したのであとはジョニーファン様からの依頼が残っている。まあ途中寄るところもあるから今年中に渡せばいいと言われていたので時間的には大丈夫だろう。
途中で拠点に泊まりながら南下してまずはクリアミントを目指す。せっかくなので拠点では料理を作ってみる。もちろんなかなか思うようにはいかないけど、それなりには形になってきた、と思う。
とはいえ、毎日はさすがにきついので、適当にお弁当とか出来合のものを食べたりしている。基本的に無理はしないというのが二人の取り決めだ。
しかし、二人で料理を作っていると変な気分になるな。「新婚の夫婦ってこんな感じなんだろうか?」とか考えてしまう。いかん、いかん。
クリアミントではカサス商会によって魔道具を卸していく。他にも魔道具とかでいいものがないかを見て回り、いくつか購入することができた。魔道具に関してはやっぱりこの国が一番いいだろうからね。
今回もいいものがみつかったのはいいんだけど、かなりの出費になってしまった。しばらくはこれらの魔道具が手に入らないと考えるとここで買っていくしかないと思ったからね。ジョニーファン様からの依頼報酬と魔符核の販売代でなんとかなったけど、後悔はない。残金は100万ドールを切ってしまった。まあそれでも1000万円持っていると思えばまあ十分なんだろうけどね。最悪何かあっても装備を売れば数100万ドールは手に入るし。
名称:治癒の指輪(良)=155万ドール
詳細:銀製の指輪。治癒魔法使用時の効果が30%向上する。
品質:良
耐久性:良
効果:良
効力:治癒力強化-3
名称:力のネックレス(良)=145万ドール
詳細:銀製のネックレス。筋力が30%向上する。
品質:良
耐久性:良
効果:良
効力:筋力強化-3
名称:耐久のアンクレット(高)=73万ドール×2
詳細:銀製のアンクレット。持久力が20%向上する。
品質:高
耐久性:高
効果:高
効力:持久力強化-2
魔術の指輪を入れ替えて治癒の指輪はジェンが、力のネックレスは自分のものをジェンに渡し、今回のものは自分が装備する。早く自分でこのレベルの付与魔法ができるようになればいいんだけどね。一応魔獣石の消費を無視したものは作れるんだけどなあ。まあ非常用だな。
クリアミントで一泊してから翌日から再び移動を開始し、行きにも寄っていったサイノレアに寄っていく。
前に泊まった北の湯という宿に行ってみると、部屋は開いていたので今回もここに泊まることにした。今回は温泉を十分堪能するために3泊の予定だ。なんて贅沢!!さすがに1週間とかは無理だけど、温泉を堪能するには最低2泊はいるからね。
夕食の時間を伝えてからさっそくお風呂に入ることにした。内湯と露天があるんだけど、露天では魔道具で虫が飛んでこないようになっているのはありがたい。
体を洗って露天の湯船に浸かってしばらくすると、今回もジェンがバスタオルを巻いてやってきた。今回は動揺しないぞ。
「期待を裏切らないで今回も入ってきたね。ちゃんと体を流してから入ってよ。」
きっと入ってくるだろうと思っていたから今回はあまり動揺しないですんだ。
「わかっているわよ。お風呂に関してはイチになんども言われたからね。」
体を洗っているようなので外の眺めを堪能していると、ジェンも湯船に入ってきた。
「あ~~~、ほんと、いいところね。前はお風呂なんてって思っていたけど、たしかに慣れたら気持ちがいいものね。」
「そうだろ。日本にはほんとにいろいろな温泉があるんだ。両親に連れて行かれた山の中の温泉とかは面白かったよ。
他にも河原を掘ったら湯船になるようなところもあるし、炭酸の入った温泉とか、滝の温泉とかいろいろあって面白いんだよ。海岸沿いの夕日が見える温泉とかは最高だったよ。」
「もとの世界に戻ったら行ってみたいわ。」
「もとの世界に戻ってもお風呂の気持ちよさは覚えていると思うよ。」
戻ったら連れて行ってあげるよとは言えないところがちょっと悲しいな。
ジェンもお風呂にはまってきたみたいなんだが、ふとジェンの方を見るとなんかおかしい。
「なあ・・・気のせいだと思うけど、水着って着てるのか?」
「お風呂に水着ではいるのは邪道って前に言っていたじゃない。」
「そ、それはそうだけど、それはあくまで普通のお風呂だ。混浴だったら水着を着るのはしょうが無いよ。」
「大丈夫、大丈夫、他にいるのはイチだけだからね。」
「いや、自分がいるから水着を着てよ!」
まずい、ほんきでまずい。水着でもかなり悩殺されてしまうレベルなのに、裸と言うことを意識したらしゃれにならない。
「はぁ~~~、いいきもち。ねえイチもくつろいでる?」
「くつろげるかぁ!!」って叫びたい。平常心、平常心・・・。せっかくの温泉なんだ、平常心。
「どうしたの?大丈夫?」
そういって顔に手を上げてくるジェン。
「先にあがるから!!」
そう言って逃げるように脱衣所へ。
「は~~~、勘弁してよ。」
部屋で休憩していると、しばらくしてジェンが上がってきた。
「うーん、いいお湯だったわ。イチごめんね。ちょっと刺激が強すぎた?」
「おまえなあ、そんなことして自分の自制が効かなかったらどうするんだよ!!」
「まあ、そのときはそのときね。襲ってみる?」
そんな根性がないのわかってて言ってるだろう!
「これ以上はほんとに勘弁してくれよ。」
「わかったわよ。ふふふ・・・。」
このあとは部屋で夕食となるが、ジェンが食前酒代わりに秘蔵のお酒を出してきた。お酒の持ち込みはいいのかわからないので食事を運んできた女性に聞いて見る。
「すみません。ここってお酒の持ち込みは問題ないでしょうか?」
「えっと、お酒ですか。本当は持ち込み不可なんですが、こちらで準備できないお酒などもあるので少々であれば大目に見ています。」
「そうなんですね。飲むと言っても一本全部飲むわけではありませんけど、これ以外は注文すると思います。」
そういってお酒を見せる。
「えっと・・・、っ!!」
瓶を見てなぜか驚きの表情で固まっていた。
「し、失礼しました。さすがにこれと同等のお酒は準備できませんので持ち込みは大丈夫です。」
なんかかなり動揺しているけど、大丈夫かな?準備途中で「少しだけ失礼します。」と言って出て行き、代わりに他の人が後を引き継いでやってきた。
とりあえずメインの食事は後にして簡単な前菜だけを準備してもらっていたのでお酒を飲みながらしばらく会話を楽しもうとしたところでノックが聞こえてきた。どうしたんだろうと思ってドアを開けると、なぜか頭を下げた二人と先ほどの従業員の姿があった。
「お食事中に失礼します。誠に申し訳ありませんが、少しばかり時間をいただくことはできないでしょうか?」
なんかえらく必死そうな顔をしているので食事はいったん中断して話を聞くことにした。なんか知らないうちに罪を犯したってこととかはないよな?ちょっと警戒してみるが、特に誰か隠れているという感じでもない。
最初に自己紹介されると、先ほどの従業員の他の二人はこの宿のオーナーと料理長らしい。なんでオーナーが?料理長もここで時間を潰していていいのか?
「ぶしつけなお願いになるのですが、先ほど持ち込みと言っていたお酒を見せてもらうことはできないでしょうか?」
持ち込みのお酒だめだったのかな?
「結構貴重らしいので注意して下さいね。」
そう言って瓶を渡すと3人が真剣な顔で見始めた。
「まちがいない・・・、そうだな・・・鑑定でもそう出ている・・・。ほん・・・。」
なにやら鑑定をしたりして色々とみているみたいだ。そう思っていると、突然頭を下げて聞いてきた。
「このお酒はかなり珍しいものなのですが、ご存じでしょうか?」
「えっと、確かに貴重みたいですね。幻と言われているという話は聞いています。なので特別な時とかにしか飲まないものですね。」
「失礼ですが、入手方法などをお聞きすることはできないでしょうか?」
「うーん、まあ簡単に言うと古代遺跡の調査中に昔の人が保管していたお酒を見つけたんですけど、その中にあったという感じです。
残念ながらあったものはすべて回収してきたので取りにいってももう無いと思いますよ。」
「そうなのですね。すみませんが、できる限りの金額は出させてもらいますので、このお酒の試飲をさせてもらうことはできないでしょうか?」
ジェンの方をみると、かなり驚いていたんだが、3人の表情を見てやれやれという顔になった。
「わかったわよ。試飲くらいでいいのならいいわよ。そのかわり宿代くらいは出してくれるんでしょうね?」
「はい、そのくらいは当然払わせてもらいます。」
そういうと速攻で試飲用のグラスを持ってきた。3人に少しずつ入れてあげると大喜びしていた。
「すごい、これが幻と言われるお酒か。奥が深い。口当たりがここまでまろやかだとは・・・。」
しばらく感想を言い合いながらお酒を堪能する3人。
「は、し、失礼しました。ほんとうに、ありがとうございました。」
「いえ、大丈夫ですよ。それでは今回の宿代くらいは出してもらえると言うことでいいんですよね?」
「「「え?」」」
「え、な、なにか・・・。」
「今の試飲だけでもこの宿の最高の部屋に長期間泊まる分の価値は十分にあるものなのですよ。それ以前にまず飲む縁に巡り会えることがまず無いことなんです。」
「そ、そうなんですか?まあ、今回の宿代を出してもらえるなら十分よね、イチ?
それにそこまで飲みたいと思う人に飲んでもらえたらお酒を造ってくれた人もうれしいと思いますし。さすがに全部飲まれると困りますけど、もう1杯くらいならいいので飲みますか?」
「「「ほんとですか!!」」」
3人に詰め寄られてジェンはかなり圧倒されていた。
しばらくおかわりのお酒を堪能していたんだが、先ほどのまかないの女性がなにやら言ってきた。
「今からでも部屋を移ってもらったらどうでしょう?たしかあの部屋が数日間は開いていたはずですよ。」
「それもそうだな。すぐに準備をさせよう。
申し訳ありませんが、部屋を移動していただいて大丈夫でしょうか?きっと今より満足できると思いますので、お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。」
なぜかそこから部屋を移動させられてさらに立派な部屋へとやってきた。なんか部屋の広さが3倍くらいになってるんだけど・・・。温泉の広さも3倍くらいになってしかも浴槽が数種類に増えてるんだけど・・・。
「え・・・この部屋使っていいんですか?」
「はい、大丈夫です。今日の夕食は無理ですが、明日からの料理は先ほどいた料理長が腕を振るうと言っていましたので期待して下さい。
今日の夕食も追加で特別料理を持ってきますので少しお待ち下さい。」
部屋を移ってから仕切り直して少し秘蔵のお酒を飲んでみるが、確かに美味しかった。ただあそこまで言われるとそんなには飲めないので、味見程度でやめておいた。ジェンは追加でお酒を頼んでいたけどね。
しばらくしてから料理が運ばれてきたんだけど、見るからに高そうなものが並んでいた。見た目だけでなく味も最高だったけど、いいのだろうか?
「オークションの時の話では1本50万ドールくらいだったよね?」
「確かそのくらいだったと思うわ。」
「それじゃあ、さっきの量だと2杯ずつとはいえほんとにちょっとしか飲まなかったから数万ドールもしないくらいだよね?この部屋って一泊1万ドールってレベルじゃないよね?」
「多分一泊数万ドール以上はするんじゃない?」
「なんか食事もすごいことになっているけど、いいのかな?」
「まあ酒好きにはそれ以上の価値があると考える人がいてもおかしくないわよ。せっかくなので堪能しましょう。」
「まあたしかに考えても意味が無いな。せっかくだから言葉に甘えるか。」
夕食を堪能すると、さすがに疲れてきていたので温泉にはひかれたんだが眠りにつくことにした。ベッドも最高級品なのか寝心地は最高だった。
翌日朝早く起きてから早速朝風呂へ。大浴場はまだ開いていないから部屋に温泉がついている人の特権だな。
朝日が昇ってくるのを見ながらのんびりを温泉に浸かっていると、またジェンが入ってきたが、今日はちゃんと水着を着ていた。刺激的ではあるんだけど、まだ大丈夫、大丈夫・・・。お風呂からは上がれないけど。
温泉はいくつかの種類を引いているみたいで、浴槽によって異なる泉質になっていた。すごいな。サウナもあって朝からさっぱりだ。朝食もかなり豪華な内容で十分に満喫することができた。
このあと町の中を散策する。特にめぼしい店があるわけではないんだけど、観光地という感じなのでちょっと遊ぶ遊技場などがあって気分転換にはなる。お昼は店先で売られているものを適当に買い食いしながら食べ回り、演劇なども見てから早めに宿に戻る。あとで考えたんだけど、これってデートだったのかな?
戻ってから大浴場や部屋の温泉を堪能してから夕食だ。夕食の時には今日もお酒を少し飲んでいたんだけど、出されるお酒も美味しくて結構飲んでしまったよ。ちょっとまずいな・・・。さすがに酔っ払った状態でお風呂に入るわけにもいかないのでそのままベッドに撃沈。
目を覚ますとなにやらいい匂いが・・・。なんか柔らかい感触がする・・・。あれ?これってもしかして。と目を開けると、ジェンを抱きかかえて眠っていた。というか胸に顔を埋めていた。
「ええ~~~!!」
「っ!もう、びっくりするじゃない。」
「なんでジェンが自分のベッドに入っているんだ?」
「よくみてよ。こっちは私が寝ていたベッドよ。夜中にトイレに行ったみたいでその後こっちに入ってきたの。途中から抱きしめられていたのでこっちは寝不足だわ。」
「・・・なにかした?」
「たいしたことじゃないわよ。私をずっと抱きしめていたけど・・・気持ちよかった?」
「ちょ、ちょっとまって・・・いや、大丈夫なはずだ。服も着ているし、ジェンもパジャマを着ているし。」
「大丈夫よ。責任とってもらうことでもないから。」
お酒は控えよう・・・。
朝から再び温泉を堪能し、今日の朝食もかなりのごちそうをいただく。この日は部屋でのんびり過ごすことにしたので掃除の時間だけ宿の中を散歩してからあとは温泉に浸かったり、部屋でくつろいだりとのんびり過ごす。夕食はまた豪華なものでおなかもいっぱいだ。さすがに今日はお酒はやめておいた。
翌日も朝食を食べてから温泉宿を満喫してから宿を出発することになったんだけど、お酒をおごった三人がまた挨拶をしてきたので恐縮してしまった。
~宿のオーナー・ハスカルSide~
この間は人生でもなかなか無い幸運に恵まれた日だった。お酒好きが講じて宿の経営の傍らお酒の収集をしているんだが、今日は死ぬまでに一度は飲んでみたいと思っていたあの幻のモンドリアのブランデーと出会うことができたのだ。
最近ヤーマンのオークションに出品されたという話を聞いて、参加できずに残念に思っていたところだ。しかもあのお酒を含めたセット10本で158万ドールという値段で落札されたようだ。直前での出品となったのでおそらくそれだけの価値を認める参加者が少なかったのだろう。もし私が参加していたらもっと出していたかもしれない。
食事の準備をしていた従業員でお酒仲間であるサミラから話を聞いたときはなんの冗談かと思ってしまった。あまりの必死さに料理長のタカミラも誘って押しかけてしまった。経営者としてはあるまじき失態だ。
そんな無礼な態度にもかかわらず、ジュンイチとジェニファーという二人は私たち3人に試飲させてくれた。素晴らしかった。幻と言われるものだが、誰もが求めるのがわかった。
あまりの展開にお礼の話をちゃんとしないまま試飲させてもらったので困ってしまった。後から何を言われてもしょうが無いと覚悟を決めていたのに、今の部屋の代金と言ってきた。価値を知らないのかと思ったが、価値を知っているのにせっかくのお酒だから飲みたい人にのんでもらった方がいいと答えが返ってきた。
サミラからちょうど最上級の部屋が開いていたはずだから移ってもらえばどうでしょうと提案があってすぐに準備してもらうことにした。かなり恐縮していたが、それだけの価値は十分にある。食事も最高のものを食べさせてやるとタカミラも腕を振るっていた。
宿を出発するときにはお礼と言ってお酒を渡してくれた。これも今ではなかなか手に入らないと言われるお酒だった。秘蔵のコレクションになるだろう。今回のお礼に私の知り合いを何名か紹介したが、釣り合いはとれるだろうか?お酒を受け取っているときに二人がすごい形相で見ていたので分けてあげないわけにはいかないだろうな。
~サミラSide~
素晴らしいお酒だったわ。まさか私があのお酒を飲むことができただなんて、酒仲間には一生自慢できることだわ。
若いカップルの二人の食事の準備をしていたら、お酒の持ち込みについて聞かれて驚いたわ。持ち込んでも何も言わない人も多いのに、若いのに礼儀正しいなぁと思い、少しだったら大丈夫ですよとお酒を確認して驚いたのよね。
同僚にあとのことをお願いしてオーナーのハスカルさんのところに大急ぎで行ったのだけど、なかなか信じてくれなかったわ。それじゃあ私だけでも飲ませてくれないか頼んでくるわというと驚きながらもついて来た。
結局本物だったのだけど、なんと二杯も試飲させてくれて天にも登る気分だったわ。お礼にオーナーに言って最上級の部屋を準備させてもらったけど、私も専属でお世話させてもらったわ。
宿を出る時にお礼と言って珍しいお酒をオーナーがもらっていたから、少しはお裾分けをもらわないといけないわね。
~タカミラSide~
前に一度だけ飲んだことのある幻のお酒を飲むことができた。しかも前は舐める程度だったのにあそこまで味わえるとはなんたる幸運か。
お礼に腕を奮って構わないと言うので秘蔵の食材も使って料理したさ。量はそんなにいらないといわれていたので一品一品を精魂込めて作ったよ。ここまで心を砕いたのも久しぶりだな。
お礼にまたお酒をもらっていたんだが、それもかなり珍しいお酒だった。ちゃんと自分たちにも分けてくれるのかな?
~~~~~
温泉宿を出発してからひたすら車を走らせる。拠点に泊まりながら国境の町のトレラムの町までやってきた。到着したのはすでに夕方近かったんだけど、さっさとハクセンに移動することにした。
受付には長い列ができていたけど、まあなんとかなるだろう。入国の時に払うお金は300ドールだ。身分証明証のチェックはあっさりと終わりハクセン側の町であるタブロムへと入る。
ハクセンはアルモニアよりも貴族の権力が強い国と聞いているので気をつけないといけない。特にジェンは目立つのでありがちな展開にはならないようにフードを深めに被ってもらっている。できるだけ変なことにはならないようにしたいからね。
「そこまで気にする必要ある?」
「ありがちな展開にはなりたくないんだよ。大丈夫とは思うけど、貴族と平民できちんと分けられているところを見るとやっぱり貴族の権力が強いので気になるよ。」
ハクセンに入って思ったのは店の入口にマークが記載されていることだ。マークは貴族専用、平民専用、指定なしの3種類となっている。
「今の地球でこんなに分けられているところってほぼ無いだろ?どういう展開になるのかわからないからね。」
「まあ、全くないとは言わないし、誰でも入れない店とかはあったけど、確かにここまで徹底しているのは見ないわね。昔海外では普通にあったらしいけどね。」
事前に聞いていたところでは、他国の貴族でも貴族扱いとはなるようだ。貴族は身分証明証の職業か賞罰のところに記載されているらしい。貴族と一緒の場合は入ることができるらしいけど、いい顔はされないみたいだ。まあ貴族の店はほとんどが個室になっているからそこまで問題は無いみたいだけどね。
こっちの世界の貴族は国によって若干の差はあるようだけど、基本的に上位爵、中位爵、下位爵の3段階となっている。感覚的に上位爵が公爵・侯爵、中位爵が伯爵、下位爵が子爵・男爵という感じだろう。
アルモニアは貴族が領地を治めているけど、ある程度は任命制だ。ハクセンはそれぞれの土地をそれぞれの貴族が治めるという形となっている。とはいえ、あまりに横暴な貴族は平民からでも嘆願ができるようにはなっているらしいけど、どこまで対応しているのかわからないし、嘆願書もどこまで効果があるのかわからない。
とりあえずはまずは聞いていた宿に行って今日の宿泊を確保する。入口には平民専用と書かれていた。このあと役場に行って資料などを確認してから夕食は宿の併設の食堂で食べることにする。武器とかも見てみたいけど、それはもっと大きな町で見ればいいだろう。
宿は平均的なところよりは若干ランクが下がるという感じかな?まあその分値段が安いんだけど、いいところは貴族専用となってしまうらしい。また平民用の高級宿はあまりないみたい。依頼は王都のハルストニアに移動しなければならないので、ここからだと15日くらいだろうか?
~ジェンside~
マイムシの町を出発してから拠点に泊まりながら移動を繰り返した。拠点では二人で料理を作ったりしてなんか新婚気分だわ。結婚しても一緒に料理を作ったりするのかなあ?なぁんて考えていたらちょっと恥ずかしくなってしまった。
イチが行きに泊まった温泉宿に今回も泊まりたいというので寄っていくことになったけど、今回は温泉を堪能したいので3泊はしていきたいというので久しぶりにのんびりしようと言うことになった。ここに泊まっている間は訓練も禁止としたので本当に久しぶりののんびり気分だ。
部屋に入るとイチは予想通りお風呂に行ったので私も後から入ることにした。私が入ってくるのは予想していたのかあまり驚きはなさそうだったけど、水着を着ていないとは思ってないようだったわ。ふふふ。
体を洗ってから湯船に入ってしばらくしたところで気がついたみたいでかなり驚いていた。そのあとのイチはかなり挙動不審に陥っていたのがおかしくて、笑いを堪えるのが大変だったわ。私が手をイチの顔に当てたところで勢いよくお風呂から出て行ったので、やっぱりまだまだかな。
部屋に戻るとイチはくつろいでいたんだけど、襲いたくなるような発言をしてくる。その勇気も無いのにね。襲ってくるくらいならもうとっくに手を出しているでしょ。
温泉は地球にいた時も結構あちこち行っていたみたいでいろいろな話を聞かせてくれた。行ってみたいなあ・・・。戻ったら連れて行ってあげると言ってこないのは記憶がなくなってしまうと思っているからだろうな。ちょっと悲しい。
そう考えるとこの世界のことは夢みたいなものなのかな?でも、それでもいいの。記憶が完全になくなるわけではないみたいだから、いっぱい思い出を作っていたら元の世界に戻っても何か覚えているかもしれないわ。
夕食の前に少しお酒を飲みたいのでつまみになりそうな料理だけ先に出してもらった。お酒の持ち込みについて係の人に聞いていたのだけど、係の人がなぜか驚いて出て行った。少しして戻ってきたときにはオーナー達を連れてきたので何があったのかと思ったわ。
お酒が大好きみたいで、今回見てもらったお酒がどうしても気になったらしい。まあかなり珍しいものらしいからね。ここまで言われるとさすがにかわいそうなので試飲してもらうことにしたんだけど、かなり感激したのか最上級の部屋に変更してくれたのには驚いたわ。
あとで聞いたところ、オークションの値段はかなり安い方だったらしいのよね。どうやら自分たちがギリギリに持ち込んだので参加者が少なかったみたい。あとで出品していたことを聞いてかなり悔しかったらしいわ。
翌日からの食事はかなり豪華になって十分すぎる内容だった。デザートの果物は美味しかったけど、値段を聞くのが怖い気がする。昼は町の中をぶらぶらとデートして楽しかった。久しぶりにゆっくりした感じだったわ。
この日の夕食ではイチも結構お酒を飲んでいたんだけど、かなり酔っ払ったみたい。早々に寝てしまったので私もベッドに入って眠りについた。まあ拠点だとなんだかんだいいながらそこまで気を抜けないからねえ。
夜中におもむろに誰かがベッドに入ってきたので焦ったんだけどイチだった。まさか?と思ったけど、どうやら酔っ払ってこっちのベッドに来てしまったようだ。なんだ・・・、まあイチに寝込みを襲うような度胸はないよね。
だけど、寝ぼけているのか私に抱きついてくる、ん・・・胸に顔を押しつけないで・・・。なんかいい夢を見ているのか笑っているような表情をしていた。仕方が無いかと諦めて抱かれるままにしておいた。
翌朝イチの声で目を覚したのだけど、どうやらまた私が冗談でイチのベッドに潜り込んだと思ったみたい。でも私のベッドだとわかって焦っていた。まあ抱きしめられたけど、それ以上は何もしてこなかったし、朝の状況を見てもほんとに寝ぼけていたんだろうな。逆に責任とってって迫った方がよかったかな?だけど、胸に顔を埋めていた感触を思い出しているのか顔をにやけさせているのは気がつかないふりをしておいた方がいいわよね。
結局3泊もかなり豪華な部屋で温泉と食事を堪能できた。さすがにここまでしてもらうというのは悪いので、秘蔵のお酒を一本渡すと、かなり喜んでくれたのでよかった。
ハクセンの国に入ってからイチからフードを被って顔を出すなと念押しされた。余計なトラブルに巻き込まれたくないからと言うことなんだけど気にしすぎよね。でも「ジェンはかわいいから、ほんとに危ないから。」と真顔で言われたら従うしかないわよね。
うふふ・・・かわいいだって。言った後でかなり照れていたけど、からかうのはさすがにやめてあげたわ。
~~~~~
今までと同じく、ここからは車での移動となる。途中の町は少し覗いていくけど、それほど目を引くところはないので泊まりは拠点のみだ。まだちょっと不安なところもあるのでまずは用事を済ませるのを優先した。
お昼は出来合のもので済ませ、拠点では時々料理をしたりする。季節はまもなく9月と冬に近づいてきているけど、まだそれほど寒さは感じない。こっちは雪も少ないという話だしね。とりあえず冬になる前に南下することはできそうなので大丈夫かな?
途中は特に何もないまま、予定通り15日目に王都のハルストニアに到着する。途中にハルアという少し大きめの町はあったんだけど、少し寄っていったくらいで特に買い物もしなかった。
この国で買いたいのは装備関係なんだけど、やっぱり買うなら首都のここハルストニアか南の工業都市ハルマだろう。まあお金の問題もあるのでどこまで買えるかわからないけど、とりあえず武器を買い換えたいところだ。ただちょっとみたけど、やっぱり高いんだよなあ・・・。
町に入るのには時間がかかってしまうのはしょうが無いけど、それでも1時間近くかかったのでさすがに疲れてしまった。かなりチェックが厳しいみたいで、一人にかける時間が普通の倍くらいかかっていた。受付の数も少ないのも時間がかかっている理由だろう。
通常の門の他に貴族用の門もあって、そこを通る人はほとんどいないのに結構な人が担当していた。まあ貴族優遇の一つなんだろう。
町に入ってからまずは宿の確保へと向かう。さすがに王都だけあって平民用でも結構高そうなところも多い。
「貴族に会うのならそれなりのところに泊まっておかないとまずいんじゃない?」
「確かにそうかもしれないね。でも高いんだろうなあ・・・。そういえばハスカルさんに紹介状を書いてもらったところがこの町にもあったよね。とりあえずそこに行ってみよう。」
場所を聞きながらやってきたんだけど、その宿はえらく立派なところだった。貴族用と平民用の建物があるので平民用なら泊まることはできそうだけど、大丈夫かな?
「すみません、今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」
「えっと、以前宿泊したことがありますか?もし初めてでしたらどなたかの紹介が必要となりますが、紹介状などはお持ちでしょうか?」
一見さんはお断りのところだったか。ハスカルさんの紹介状でいけるかな?
「ここを紹介していただいた人から紹介状をもらっていますが、これで大丈夫でしょうか?」
紹介状の名前を確認したあと、少しすると確認が取れたようだ。
「ハスカル様の紹介と言うことで少し割引となりましてツインの部屋で3000ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします。」
どうも紹介者がリスト化されており、その紹介者のランクで値段が変わってくるみたいだ。
宿を確保したところで依頼を果たすために宛先のある貴族のところへと向かう。しかし貴族街にはゲートがあり、誰でも入れるわけではないようだ。ここの受付で依頼証などを見せてから取り次ぎを頼まなければならないみたい。
「すみません、アルモニアから依頼を受けてきたのですが、面会の取り次ぎをお願いできますか?」
「ルイドルフ上位爵への依頼で面会希望か。さすがに面会希望がかなり多いので確認には時間がかかるかもしれないな。とりあえず依頼については連絡をしておくので、明日また確認に来てもらえるかな?そのときにいつくらいなら面会できるのか、面会できないのかが分かるはずだ。」
あまり相手のことを聞いていなかったけど、上位爵だったのか・・・。気軽に会える相手ではないよなあ。
「やはり面会できないこともあるんですか?」
「出来るかどうかは我々には分からないが、依頼報告と言っても面会できなかった場合もあるし、最悪報告すら受けてもらえない場合もある。」
「そうですか、わかりました。とりあえず明日朝にもう一度聞きに来ますのでよろしくお願いします。」
また明日来て確認するしか無いな。でも会えなかったら依頼は達成できないと言うことになってしまうなあ。大丈夫だろうか?
このあとカサス商会にいき、支店長のマルマンさんと面会する。マルマンさんはヤーマンからやってきている人みたいで、もう5年も勤務しているのでそろそろ帰りたいと愚痴っていた。やはり貴族相手の商売が面倒らしい。
「ここだけの話なんですが、こっそりと人身売買をやっている貴族がいるという話があるので注意して下さいね。」
「人身売買ですか?」
「ええ、特に若い女性とかがさらわれて売られているという話を聞きます。」
「取り締まられていないんですか?」
「やはり貴族という縛りがあってなかなか強制捜査ができないらしいですよ。キザール下位爵がやっているという噂があります。」
「わかりました、気をつけるようにしますよ。情報ありがとうございました。」
やっぱりフラグがあったよ。用事を済ませたら早めに国を出た方が良さそうだな。
今のところ、自分が納めているものやアイデアはこの国でもかなり好評のようだ。インスタントラーメンはかなりの売れ行きのようで、販売に個数制限をかけているが貴族相手だとなかなか大変らしい。
フードコートについてはハクセンでも作るかどうか検討中みたい。やはりこれも貴族相手だと自分で運ぶスタイルが受け入れられるか怪しいということだ。平民用としたとしてもそれはそれで反感を買ってしまいそうだということで面倒くさそうだ。
重量軽減バッグはかなり好評で、いいペースで売れているようだ。最近納めた魔符核でなんとか足りているようだけど、またしばらくしたら注文することになるだろうという話だった。
なにか他にいいものはないかと言われるけど、今のところまだ中途半端なものしかないので商品化できるものはないんだよね。まあ、いろいろと商品化するとまずいものもあるしね。
装備を整えたいことを話すと、いくつかの鍛冶屋を紹介してもらった。ただ、南のルートからヤーマンに戻るのであれば南の工業都市ハルマで購入した方がいいものが手に入りやすいと言われる。そこの店もいくつか紹介してもらったので購入はそこで考えた方がいいかもしれないな。
ただなにか商品を売るのであればここで売っていった方が高く買い取ってくれるはずだと言われる。それじゃあ使っていない装備関係も一回売り払ってしまう方がいいかもしれないな。
店を出てから夕食にはおすすめと言われた店に行ってみる。味付けは結構濃くて、フレンチのような感じ?結構値段は高かったけど、なかなか美味しいものだった。魚はなかったけど鶏肉が美味しかった。最近鶏肉は食べていなかったからなあ。
宿に戻ってからこの後の予定を確認してから眠りについた。さすがに疲れていたのか速攻で眠りに落ちていった。
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