【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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62. 異世界587日目 ジェンがいなくなった

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62. 異世界587日目 ジェンがいなくなった
 今日は朝から買い物だ。ジェンは久しぶりに服を色々と買いたいようなので、長丁場となりそうだけど久しぶりに付き合うしかないかな。女性の買い物が長いのはしょうがないし。

 良さそうな店を選んでから中に入り、いくつか服を選ぶのを待つ。試着するみたいなので荷物を預かってしばらく待っていたんだけど、なかなか戻ってこない。いくら何でも30分も出てこないというのはおかしいよな?店員に尋ねると、なぜか急に出て行ったと説明された。そんな馬鹿な!!
 ここで言い合ってもしょうが無いのでジェンに身につけさせていた魔道具を確認すると店から離れたところに移動していた。どういうことだ?

 大急ぎで追いかけるが。ジェンを乗せた車(?)は貴族街に入っていた。ラクマニア様に通行許可証を出してもらっていたのですぐに中に入ることはできたんだけど、場所を確認するとすでに貴族の屋敷の中に入ってしまっていた。
 まさかさらわれたのか?そういえば闇の人身売買という話があったな。ってことはもしかしてここがキザール爵の屋敷なのか?
 ここでわめいてもおそらく意味が無いだろう。町の兵士に言ったとしても対処は難しいと思われる。頼めるのは一人しかいないと思い、大急ぎでラクマニア様の屋敷に行ってなんとか取り次いでもらう。

「急な話で申し訳ありません。どうしても急がないといけないことだったので失礼と思いましたが、訪ねさせていただきました。」

「いや、そんな挨拶はいいよ。よっぽどのことが起こったのだろう。ところでジェニファー殿はどうしたのだ?」

「ジェン・・・彼女のことなんです。」

 経緯を説明したところ、やはりその場所はキザール爵の屋敷のようだった。ただ、いくら下位爵とはいえ、証拠も何もないのに捜査を強行するのは無理だと言われてしまった。

「そんな・・・それじゃあ助けることはできないということですか?」

「時間をかければなんとかなるかもしれないが、ジェニファー殿のことを考えると急がないと意味が無いだろう。」

「強行突破するしかないか?」

「下位爵とはいえ、ちゃんとした貴族だからね。優階位くらいの実力のある冒険者でないと速攻で対応されて不法侵入で処刑されるのが落ちだよ。しかも実力があったとしても彼女が見つかるとは限らん。あやつは今までも何度か検挙されているんだが、いつも決定的な証拠はつかめていないからな。」

「それだけうまく隠していると言うことなんですか?」

「古代の遺物も買いあさっているという話を聞いたこともあるからね。もしかしたら秘密の部屋などもあるのかもしれない。証拠さえあれば家宅捜査をできるからなんとかなるかもしれんがな。」

 証拠か・・・。

「わかりました。もし不正の証拠があったらそのときはお願いします。」

「私からはそれ以上はいえん。ただ、あやつはあまりに手を広げすぎた。あやつの上の人間もそろそろ手を引きたがっているという話も聞いているのでな。証拠さえ手に入れることができたらあとはこちらで何とかしよう。」

「ありがとうございます。」

 どこまでできるか分からないが、試してみるしかないだろう。



 屋敷を出てからまずは役場に行って有り金を全部下ろす。本当はすぐには下ろせないんだけど、ラクマニア様からの手紙でなんとかしてもらうことができた。手数料も結構かかってしまうけど仕方が無い。
 硬貨は100万ドールの硬貨で出してもらう。なかなか見ることのできない金色の硬貨だ。ほんとにこの硬貨でいいのか何度も確認された。

 このあと収納バッグから作っておいた魔道具を取り出して装備する。隠密、認識阻害、視覚阻害、音遮断、臭い遮断など隠密に使える魔道具だ。動くときの空気の振動を抑えたり、光を迂回させていないように見せたり、匂いを分子分解したりと映画や小説の世界の知識を集大成したものだ。
 上階位の魔獣までは効果があることは確認しているけど、人間相手にどのくらいの効果が出るのかは正直賭けとなってしまう。
 ただ自分の技術では大きな物にしか刻めなかったので魔獣石の消費が半端ないことになってしまったのは仕方が無い。今回使用するのはもちろん効果が高い方なんだけど、今はそんなことかまっていられない。全財産を使えば調査する時間くらいは持ってくれるはずだ。

 キザール爵の屋敷の近くに移動し、魔道具を起動したあと、飛翔の魔道具で空から近づいていく。魔法は使えない可能性が高いから魔道具を使う方がいいという判断だ。警備の基本は索敵による認識と、なにかが接触したときの感知システムのはずなので、上空から隠密を駆使して侵入すればある程度の警備は回避できるはずだ。
 もちろんこれが城とかになってくると結界のようなものがあるらしいけど、普通の貴族ではそこまではできないようだ。問題は古代の遺物がどんなものかだな。探知系のものだったら見つかる可能性がある。

 建物の中とか敷地内では魔法は使用できないようになっているけど、通常は付与魔法や収納魔法については除外されているのが救いだ。まあ、そうしないと魔道具が全く使えなくなってしまうからね。

 門の入口には警備の人が立っているけど、庭の方には特にいない感じ。塀を越えて敷地内に入って進んでいくと、空中にもワイヤーのようなものが貼られていて感知されるようになっていた。見えにくいけど、それほど厳重ではないので間を抜けて行くには問題はない。あくまで保険で張っているというレベルなんだろう。もしかしてと思って注意しておいてよかったよ。

 ジェンの位置を確認するけど、ほとんど感知できないので壁とかに何か仕掛けがあるのかもしれない。ただ若干感知できる気配からすると、地下牢とかではなく、2階辺りの部屋に入れられているようだ。

 とりあえず建物の中に入らないと調査も出来ないけど、窓は開いていないので建物の中には入れない。窓を調べていくと、開いている小さな窓があった。どうやら中は調理場のようなところで、人の出入りが頻繁にあってこっちには全く気がついていないようだ。
 中に入ってから天井付近を浮遊して廊下へと出る。特に警備が厳重で見回りが常に歩いているというわけではないけど、気を抜かない方がいいだろう。

 2階に上がって調べていると、通路の途中で警備の人が立っている扉があった。近づいてみるが、特に警戒をされている感じはないので大丈夫そうだ。警備が立っているということはこの屋敷の主人の部屋とかかな?
 どうやって中に入ろうかと思っていると、年配の男がやって来てドアをノックする。中から応答があったのか、警備の二人がドアを開けたので思い切って中に飛び込んだ。
 中にいたのはちょびひげをした中年太りの典型的な悪役貴族という風貌だ。顔は太っているせいもあって穏やかそうに見えるけどね。

「本日さらってきた女性のあとを付けようとしていたと思われる人物がいたと報告が上がっています。貴族街に入るときにルイドルフ家の許可証を出してきたとのことでした。」

「ルイドルフ家だと!!」

「はっきりと確認は出来ませんでしたが、可能性は高いと言うことでしたので報告しました。」

「そろそろガス抜きをしておいた方がいいかもしれんな。また強制捜査となるかもしれんからいつものように証拠を準備しておくか。

 報告ご苦労。下がって良いぞ。」

 しばらく何か考えていたようだが、おもむろに立ち上がり、壁の方へと歩いて行く。壁に手をつけると、壁の一部が開いて中に書類の詰まったスペースが現れた。おそらく隠し金庫のようなものだろう。
 今しかないと、窓の近くの壁に移動し、換気口のようなところを通して次元魔法から作成しておいた爆弾のようなものを取り出す。
 出した瞬間に部屋の隅に移動すると窓の外で爆発が起こり、窓が吹き飛んだ。驚いているキザール爵を横目に書類を収納し、爆発した窓から外に飛び出した。

 ちなみに爆弾の正体は水を分解して作った水素と酸素をためた風船のようなものだ。着火の魔道具で火をつけるとかなりの爆発を起こしてくれる。

 すぐに護衛の人たちが部屋に飛び込んできてキザール爵の安否確認をとり、何人かは窓の外へと飛び出していった。キザール爵は金庫の書類がなくなっていることに気がついてかなり落ち込んでいるようだった。

 なんとか不正の証拠を手に入れてから無事に屋敷を抜け出してラクマニア様のところに向かう。とりあえずある程度の証拠は押さえたので最低限の理由をつけて屋敷の調査は行うことができるはずだ。

 証拠の書類をざっくり見たラクマニア様はすぐに動いてくれたみたいで、翌朝には強制捜査の令状をもらってきてくれた。自分もお願いして検査官の一人として警備隊長に同行させてもらうこととなった。警備隊長には索敵能力に優れているので同行させるように言ったようだ。



 屋敷を訪問すると、執事らしき人が出てきた。

「我が屋敷にどういったご用件でしょうか?」

「朝早くから申し訳ありません。キザール爵の不正の証拠が挙がっており、屋敷の捜査の許可が出ています。申し訳ありませんが屋敷の調査への協力をお願いします。」

 令状を確認した執事は「しばらくお待ち下さい」と言って奥に引っ込んだ。しばらくすると主人のキザール爵を連れて戻ってきた。

「わざわざご苦労ですな。理由については不明だが、令状まで持っているのであれば従わざるを得ませんな。すまないが令状をもう一度確認させてもらってもよいですかな?」

 令状を確認しながら警備隊長に話しかけている。

「昨日は爆発音がしたと言って兵士達が我が家に入ろうとしたことも理由の一つですかな?たしかに夕べ不審者が屋敷に入り込んで、貴重な書類などが盗まれてしまいましてな。屋敷の中も少しあれていますがそのあたりは容赦願うぞ。
 その不審者のことに何か心当たりはありませんかな?町の警備も担っていると思うので早めに捕まえてほしいものですな。」

「それを含めての調査と言うことで理解していただきたいと思います。屋敷の調査を先に進めさせてもらいますのでよろしくお願いします。」

「どうぞご自由に。」

 今回調査に来ているのは全部で30人とかなりの数だ。とはいっても結構大きな屋敷と敷地なので確認するのも大変な作業となる。ただ調査する人の中には索敵能力の高い人も結構いるのでおかしなところを確認していくようだ。

 執事に案内されて執務室へと移動し、今回のことについて説明を行う。

「この部屋が襲撃を受けたという部屋ですね。」

「その通りだ。」

「そうですか。この壁に隠し部屋があるということで間違いないですね。」

「そ、それは・・・そうだ。ただ中の書類関係は夕べ盗まれたので何もないな。」

「そうですか、盗まれたんですね」

「ああ、そうだ。」

「ではこの書類がその盗まれた書類の一部なのですかね?これらの書類とともに密告がありまして、今回の強制捜査となったのです。」

 そういって証拠の書類と調査結果をまとめたものを差し出す。さすがに裏帳簿が見つかってしまえば言い逃れはできないだろう。しばらくいろいろと言い訳していたが、中身について説明を受けると観念したようだ。

「この点については素直にわびることにしよう。追徴金を払えばいいのかな?。」

「詳細は後で通達が来ると思いますが、追徴金はどういう額になるのかはわかっていますね。」

「下位爵は脱税した金額の3倍を支払うという取り決めとなっているはずだな。」

「そしてそれは過去に遡って適用されると言うこともご存じですね?それを素直に受け入れると言うことでよろしいでしょうか?」

「まあそこまで証拠を持っているのなら言い逃れはできないな。その意見に従うことにしよう。」

「いくつか書類を準備していますのでご確認をお願いします。」

 このあともいくつかのやり取りをする。

「捜査は終わりでよいですかな?」

「ええ、詳細はまだ後日手続きをしなければなりませんが、これらの書類についてのことはあらかた終了となります。」

 他の部屋に調査に行っていた人たちもある程度戻ってきたが、特に怪しいところは見つからなかったらしい。まあこれだけ広い屋敷なのでなかなか探すのは大変だろう。そのための索敵スキルの調査員なんだけどね。

 この世界では多くの国で貯金額を国に把握されているので、脱税の際には工芸品や宝石、魔獣石などで手元に置いておくのが定番らしい。ただ、魔獣石はかなり便利なんだけど、古代の遺物の魔道具で探知がある程度できるのでそのままで保管することはしないようだ。このため、ある程度の空間が必要となってしまい、索敵で脱税の調査が可能となるようだ。


~キザール爵Side~
 自分たちで書類を盗み出したくせに面倒な手続きをしおって腹が立つな。結局昨日の侵入者も手がかりすら見つけられなかったし、この部屋の修理だけでまた金がかかってしまうではないか。まあ今回の追徴金の6000万ドールは仕方がないがな。

 しかし馬鹿な奴らだな。ほんとに重要な書類や財産をこんなところに置いておくわけがないだろう。本当の隠し部屋は建物の構造的にもわからない作りになっているし、索敵スキルでもわからないように隠蔽しているので大丈夫なはずだ。そのために古代の遺物を使ってまで隠し部屋を作っているのだからな。
 あとは屋敷の調査を無事に終えてしまえばまたしばらくは問題ないだろう。古代の遺物がある限りはいくら索敵能力が高くても隠し部屋を見つけることはできないはずだ。まあ建物を作るときは大変だったがな。
 高い金を出して遺跡調査依頼をしていてよかった。あの魔道具が見つかったのは僥倖だったな。もし正式に報告していたら王家に取り上げられていただろうからな。

 夕べは侵入者のおかげで散々だったな。昨日のうちにさらってきた女達の味見でもしようと思っていたのに結局なにもできなかったからな。まあ憂さ晴らしをかねて今夜たっぷりとかわいがってやるとしよう。

~~~~~

「もう少しよろしいかな?」

 キザール爵は話が一段落してほっとしたような表情をしていたけど、やってきた人物を見てかなり顔が引きつっていた。こちらとしては予定通りなんだけどね。

「こ、これはこれは、王都の警備長官でもあるルイドルフ様自らやってくるとは驚きですな。今回の件はあなた様の指示で行われたものなのですかな?」

「まあ王都の警備の責任者でもあるからな。昨日の爆発騒ぎの件もあり、色々と確認しなければならないことも多いので私自ら来ることになったのだよ。」

「爆発事件についてはこちらも混乱している状況ですのでよろしくと言っていきましょう。ただルイドルフ様直々にとは驚きですな。」

「まあそれだけの内容だったと言うことでな。少し場所を変えたいのだがかまわないか?」

「はい?・・・わ、わかりました。」


 ラクマニア様に言われて、自分が先導して屋敷の中を歩いて行く。行く方向を知ってキザール爵がなぜか雄弁になってきた。

「えっと、どちらに行かれるのでしょうかな?そちらは行き止まりになっています。」

「そっちは普段行かない場所なのであまり掃除もされていませんので、話なら別の部屋で・・・。」

「行っても何もないです。」

 いろいろ言ってくるが、気にしないで先導していく。途中にセンサーのようなものもあるけど、罠が作動するわけではないようなので大丈夫だろう。

「そっちは行き止まりらしいが大丈夫か?」

「はい、ルイドルフ様大丈夫です。キザール様、申し訳ありませんが、少し協力をお願いしてよいでしょうか?」

「きょ、協力とはどういうことかな?」

 キザール爵のすぐ横にいた兵士が取り押さえて、自分の指示する場所に手を当てさせると、何か扉が開くような音が聞こえてきた。ただ、壁は見た目変わらないので島で見たような幻影なんだと思う。

「おそらくこちらが入口になっていますのでお進み下さい。どういうところかわかりませんので兵士の方もご一緒にお願いします。」

 キザール爵は顔面蒼白になっているが、キザール爵を先頭にして壁の中へと入っていく。予想通り本当に壁があるわけではなく、幻覚のようなもので壁の一部が通路になっていた。

「ここは何なのかな?扉がおぬしの魔力で開けられると言うことなので知らないとは言わせないぞ。」

 さすがに何を言っていいのかわからなくて口をパクパクさせている。

「しらないことなんだな、私は何も知らないことなんだな。」

 知らないとしきりに言っているけど、言い訳にもなってないよ・・・。

「うまく歩けないようなので手を貸してあげなさい。」

 ラクマニア様はキザール爵を引き連れて中を進んでいく。少し狭い通路は下り坂になっており、少し天井が低くなっているが、結構な広さのスペースになっていた。どうやら2階建ての1階と2階の間に部屋を作っている感じだ。
 認識阻害はエリアの外から効果はあるが、内部に入ると索敵は出来るようだ。反応を見ると特に強い護衛とかがいる感じではないので大丈夫かな?

 廊下を少し歩くとロビーのようになったところに出て扉が二つあった。この扉も魔力で開く鍵になっているようだ。ジェンがいるのはこっちか?

「ラクマニア様、こっちの部屋にさらわれてきた人がいるようです。特に護衛と思われる気配は感じませんが、他にも人がいるようです。
 隣の部屋は人の気配はありませんが、かなり広く作られています。ただちょっと部屋の配置に違和感があるので、もしかしたら・・・。」

「わかった。まずは、人の確保の方を優先しよう。おい!!」

 キザール爵を連行していた兵士が扉のところに連れて行き、手を当てて扉の鍵を解除する。兵士と一緒に部屋に入ると女性が4人いたんだが、一人がこっちに駆け寄ってきた。ジェンだ。

「イチ~~~~~!!!」

 同行した兵士が制止しようとしたが、知り合いと分かったのか通してくれた。ジェンが抱きついてきたのでしっかりと受け止める。特に怪我とかもなさそうだ。

「ジェン!!よかった。大丈夫?」

「うん、閉じ込められてちょっと不安だったけど、特に何もなかったわ。」

「よかった・・・。助けるのが遅くなってごめんね。でも無事でよかったよ。」

 近くには普段着の女性が2人と世話係と思われるメイドのような格好をした女性が3人いたんだけど、こちらの姿をみてかなりおびえてしゃがみ込んでいた。

「わ、わたしたちもさらわれてきたものなんです。さらってきた女性の世話をすれば生かしておいてやると言われて・・・。」

 まだすべてが終わっていないのでジェンを落ち着かせてから他の女性達と一緒に兵士達に任せてロビーに戻る。

「目的の人は見つかったか?」

「ええ、無事に保護できました。ありがとうございます。」

「さて、この部屋にいたご婦人方についてはまたあとで話しを聞くことにして、こっちの部屋の方も案内してもらえるかな?」

 隣の部屋も同じように鍵を開けて中に入る。ここの入口にも魔力認証があったけど、こちらも強引に開けさせる。
 こちらの部屋の中はかなり豪華な作りとなっており、かなりの数の絵画など美術品が飾られていた。大きなベッドとかまであるのはおそらくそっち目的なんだろう。

「この部屋の目的はだいたい予想できるが、まあそれはよしとしよう。しかし飾られている美術品はかなりのもののように見えるが、これは複製なのか?もし本物だとしたらかなり儲かっていると言うことになるが、そこまで収入があるとは聞いていなかったのだが間違っていたかな?」

「え・・・その・・・これらの作品は・・・。」

「まあ、いい、それはこのあとまた鑑定をしてもらえばいいだけの話だからな。」

 壁の鑑定をすると、やはり隣に部屋があるような感じがするが、ここも認識阻害の魔道具が使われているようだ。ダメ元でちょっと確認してみようか。

「ルイドルフ様、こちらの壁の先にも部屋があるようです。」

 キザール爵の様子を見ていると一瞬だけど壁の方に目をやっていた。他の兵士と協力して壁を調べてみると、魔素の確認プレートのようなものがあった。

「ここで開けられそうです。」

 同じようにキザール爵の手を当てると壁の一部が開いた。部屋の中にはこちらの部屋のものよりもさらに高価そうな技術品や工芸品などが並んでいた。本棚にいろいろな書類もあるし、大きめの金庫も置かれているので結構な金額になりそうだね。

「なるほど、こちらはさらにかなりの金額になりそうなコレクションだな。どう考えてもおぬしの収入に見合わないようなものがあるようだが、これはどういう経緯で入手したのかな?
 先ほどおぬしが言った言葉を覚えているかな?追徴金は3倍の額になり、さらに過去に遡って精算されると言うことをな。

 細かなことはあとでじっくり聞くことにする。連れて行け!!」

 わめき出す前に口を塞がれていたため、何やら言っていたようだが、屈強な兵士4人がかりで運ばれていった。

「それでは私は事後処理があるので失礼するよ。今回の件はかなり大がかりなものになるのでしばらくは忙しくなりそうだが、また追って連絡しよう。
 いろいろと心配なこともあるのでジェニファー殿としばらくはうちに泊まっておくように。屋敷のものにはすでに伝えているから心配しなくていい。ただ、しばらく外出は控えてもらうことになるが、そこは我慢して欲しい。」

「わかりました。いろいろとご心配いただきありがとうございます。」

 保護されたジェンと一緒に屋敷を出てからラクマニア様の屋敷へと向かう。ラクマニア様の護衛も一緒に行ってくれたので安心だ。


 キザール爵の家から車でラクマニア様の屋敷に着くと、話はすでに通っていたみたいで歓待してくれた。特に子供達は大喜びで出迎えてくれたのでちょっとほっこりする。

 夕方にいったんラクマニア様が戻ってきたので簡単に状況を尋ねたところ、あまりの額に確認作業だけで数日かかりそうだと言うことだった。そして芋づる式にいくつかの商会が捕まっているらしい。ジェンがさらわれた店の他、いくつかの店が人さらいに加担していたようだ。
 しばらくは忙しいのであまり屋敷には戻って来られないと言っていたので申し訳ないなあ。「やっとやつを処分できそうなので気にしないでくれ。」と言われたけどね。


 キザール爵の後見人になっているハックツベルト上位爵もキザール爵を切り捨てようとしていたみたいだったので、おそらく処分には同意するだろうと言われてほっとした。さすがに人身売買は刑が重すぎるのでそこまで手を出しているとわかって慌てて処分をしようとしていたらしい。

 このためキザール爵のみを切り捨てると言うことで話はつきそうだということを言っていた。まあ政治の世界ではよくある話ではあるんだろうね。あまりそのあたりには関わりたくないものだ。



 さすがに昨日のこともあるので、今日はゆっくりしたほうがいいと前に泊まった部屋に押し込まれた。食事も部屋に運んでくれるようだ。子供達はかなりがっかりしていたが、なんとか納得してくれたらしい。

 少し仮眠をとった後、昨日のことについてジェンと話をした。

「更衣室に入って着替えをしようとしたところでなぜか急に眠気に襲われてね。そこで記憶が途切れたのよ。」

「たぶん眠り薬か何かなのかな?ジェンがさらわれたとわかった後、急いで追いかけたんだけど、先に屋敷の中に連れ込まれてしまっていたんだ。それで大急ぎでラクマニア様に助力をお願いしたんだけど、やはり上位爵の貴族でも証拠もなしに調査はできないと言われてしまったんだよ。」

「まあそれはそうでしょうね。」

「それで屋敷に侵入して証拠を探すことにしたんだ。前に北の遺跡で死にかけたときの反省から隠密関係の魔道具を作っただろ。あれを使えばなんとかなるんじゃないかと思ってね。」

「ああ、あまりに魔獣石の消費量がすごくてよっぽどじゃないと使えないと言っていたものね。あれを使ったの?」

 ジェンと二人で使ってみて数秒使っただけで消費がすごすぎて、全部つけると1分で2万ドールくらい消費してしまったのだ。

「うん、おかげでほとんどお金がなくなっちゃったよ。ごめん。」

「ううん、私を助けるために使ったんだもの、怒るわけ無いじゃない。ありがとう。」

 このあとなんとかばれずに侵入してから水素爆発をさせたところまで説明する。

「ああ、音は聞こえなかったけど、部屋全体が振動するような感じがあったのがその時だったのかな?そのちょっと前くらいに目を覚ましたのよ。」

 部屋にいたのはジェンの他に2人いたんだけど、彼女たちもさらわれてきた女性だったらしい。他に世話役として3人のメイドがいたんだけど、この3人ももともとはさらわれてきた女性らしくて、お世話係として残されたようだ。どうもさらった中でお気に入りの娘は手元に残していたみたい。

「簡単に話を聞いた後は、薬のせいか眠いからと言ってずっと布団に潜り込んでいたわ。食事は準備されていたんだけど、さすがに怖いのでこっそりと持っていた食べ物で済ませておいたの。
 夜のある時間を過ぎると就寝してもよいことになっていると言われたんだけど、安心できないからほとんど寝てないのよね。何かの時にはすぐに動いて逃げだそうと思っていたし。」

「自分の方は爆発のあと、窓から水素の入った風船のようなものを放って出て行ったように見せかけたんだ。
 そのまま隠密状態で部屋の中で様子をうかがっていたんだけど、護衛など誰もいなくなったところでいきなりキザール爵が笑いだしたのは驚いたよ。気が狂ったのかと思ったもんな。」

「おかしくなったの?」

「これまでも証拠は見つかってもどう考えても額が小さすぎるので本命が他にあるはずだと聞いていたからね。おそらく今回もダミーの証拠だと思ったんだ。だから逃げたように見せて様子をうかがっていたんだよ。」

「逃げたと思わせて油断させたのね。」

「ああ。ただその後ジェンがいると思われる方に向かったからちょっと焦ったんだけどね。ただ『明日にでも調査が入るかもしれないから、終わった後でたっぷりかわいがってやるとするかな。せいぜい今晩くらいはゆっくりとくつろぐがいいさ。』とか言って戻っていったのでほっとしたんだ。」

「そ、そう・・・。」

「証拠が手に入ればラクマニア様が翌朝までには調査資料をそろえてくれると言っていたのですぐに撤収することにしたんだ。
 かなり混乱していたみたいであっさりと屋敷を抜け出してからラクマニア様のところに行って、証拠を提出したんだ。そのあとの行動についてラクマニア様と打ち合わせをしてから最低限の令状を出してもらって今朝訪問したという訳なんだ。」

「ふーん・・・。」

「調査の時にこっそりと行こうとした方の通路に行ってみたら、不自然な行き止まりがあったからね。いろいろと調べてみたら扉を開けるプレートを発見できたんだよ。あとはラクマニア様と一緒に隠し部屋の方に入っていったという訳だよ。」

「夕べそんな近くに来ていながら助けてくれなかったってことなの?わたしがあんな怖い目に遭っていたのに!!」

「それはほんとにごめんって!!あの場で動いたらすべて台無しだったし、言動から一晩は大丈夫と思ったんだよ。そもそもそのときだとドアを開けるのも難しかったから。」

「そんなこと言っても、もし私が襲われていたらどうしてたのよ!!どう責任取るのよ!!」

「そうなっていたら自分が一生かけてジェンを幸せにしてやるよ!!迷惑かもしれないけど、そんなことでジェンと離れるなんて・・・あっ・・・。」

「・・・・!!」

「・・・・!!」

「そ、そういうつもりだったらいいわ・・・。」

「まあ、なんだ、その・・・まあ・・・。とりあえず、ジェンを不幸にする気は無いから・・・。」

「う、うん・・・。」

 売り言葉に買い言葉で色々言ってしまったような気がする・・・。ジェンを幸せにするって、自分はどうしようと思ったんだよ。ジェンも困ってしまうよな?ジェンには好感は持たれているとは思うんだけど、そういう関係までとなるとどうなんだろうな。

 お互いに黙ってしまっていたが、メイドさんが食事を運んできてくれて助かった。なんか変な雰囲気に首をかしげていたけどね。
 食事のあとは微妙な空気を感じたのか、メイドさんが子供達を連れてきてくれたのでなんとかジェンとの変な雰囲気も少し解消された。ナイス判断です。


~ジェンSide~
 目を覚ますと見慣れない景色で驚いてしまった。たしか服の試着をしようとしていたはずなんだけど、倒れてしまったのかしら?
 そう思って周りを見てみると、小さなベッドに寝かされていることがわかった。横には私と同じように眠っている女性が二人いたんだけど、まだ目を覚ましていないようだ。
 部屋の中にはメイドの格好をした女性がいたので声をかけてみると、かなり気まずそうに状況を説明してくれた。まさか本当にさらわれてしまうことになるとは・・・。大げさとか思っていてごめんね、イチ。とりあえずなんとか脱出する方法を考えないといけないわね。

 魔力は使うことができるんだけど、残念ながら魔法は発動しなかった。きっと魔法を発動できない魔道具が設置されているのだろう。
 隠密関係の魔道具はあるけど、魔獣石があまりないから使えても数分ってところね。まあ数分でも使えたら逃げ出すくらいはできるかもしれないわ。とりあえず準備だけはしておくことにしよう。

 索敵は出来たので部屋の状況を確認してみたけど、何故かあまり広いエリアを探索できない。島で見たようなものかな?とりあえず索敵できる範囲内ではこの部屋の他には誰もいないようだ。
 部屋は結構広くて、小さめのベッドが6つと台所の様なスペースに食事用と思われるテーブルも置かれていた。シャワールームやトイレもあるようなのでここで一通りの生活が出来るようだ。
 時々小さなエレベーターのような物で荷物のやりとりをしているので外部とのやりとりはこれだけでやっているのだろう。大きさ的には人は中には入れそうにないわね。

 基本的に夜になるんだけど、呼び出されることがあってそのときは隣の部屋に連れて行かれるようだ。まあ予想通りの対応ね。
 メイドをしている3人も同じようにさらわれてきたようだけど、気に入られてそのままここにすむことになったようだ。食事などは基本的にすべて作ってくれるようだけど、簡単な掃除などはしているらしい。メインの役割は夜の対応みたいだしね。
 たださらわれてきたのが本当だとしても、どこまで本当なのかはわからないわよね。さらわれてきたという他の二人も含めてさらってきた人を懐柔するために役を演じているだけと言うことも考えられるわ。とりあえずここでは誰も信じることは出来ないわね。

 一通りの状況は把握できたので、「薬のせいかとても眠いので横になっておくわ。」と言って食事もシャワーも辞退して布団に潜り込んだ。
 簡単に装備を着込み、こっそりと持っていた携帯食を食べておなかを膨らませる。全く寝ないわけにもいかないので、警戒しながらも半分眠った状態で過ごすことにした。

 しばらくすると他の人たちも眠りについたみたいで、周りからは寝息も聞こえてきた。おそらくドアとかも開けることはできないと思うので誰かが入ってきたときが最後のチャンスね。


 朝になったみたいで、メイド係が朝食の配膳を始めたようだ。どうするかと悩んでいると、索敵範囲に人が入ってきたことが分かった。

「このチャンスに逃げ出すしかないわね。」

 そう思っていたんだけど、その一人にイチの気配を感じる。捕まって連行されているという感じではないので、もしかして助けに来てくれたの?
 ドアが開いたときはさすがに緊張したんだけど、入ってきたイチの顔を見ると我慢できずに布団から飛び出してしまった。

「イチ~~~~~!!!」

 一緒にいた兵士が止めようとしたんだけど、知り合いと分かったのか通してくれてイチに抱きついた。よかった・・・夢じゃない。

「ジェン!!よかった。大丈夫?」

「うん、閉じ込められてちょっと不安だったけど、特に何もなかったわ。」

「よかった・・・。助けるのが遅くなってごめんね。でも無事でよかったよ。」

 少し落ち着いたところでイチは兵士の人と少し話をしてから部屋を出て行った。まだやらないといけないことがあるらしい。しばらくしてイチが戻ってきたんだけど、どうやら後始末が終わるまではラクマニア様の屋敷でお世話になるらしい。

 今回はほんとにどうなるかと思ってしまったわ。まさかあんなところでさらわれることになるとは考えてもなかったからね。やっぱりどんなときでも油断をしたらだめね。


 今回の話を聞いていると、夕べのうちに私の近くまでやってきていたことを聞いてちょっと怒りを覚えてしまった。状況はわかるし、その行動が一番良かったというのは理解できるけど、不安だった私の気持ちもわかってほしかった。
 そう思ったら感情を抑えられなくなってイチに当たってしまったんだけど、「そうなっていたら自分が一生かけてジェンを幸せにしてやるよ!!迷惑かもしれないけど、そんなことでジェンと離れるなんて・・・」とつい言ってしまったみたい。そういわれたらそれ以上は何も言えないわ。
 たぶん、これは本心だよね。一生かけてって・・・。うふふふ・・・、イチはやっぱりそう思っているんじゃない。


~~~~~

 ラクマニア様から他言無用と言うことである程度その後の状況は聞いたんだけど、キザール爵の処罰については不正の量と範囲が多すぎて把握するのにかなり時間がかかってしまったらしい。
 芋づる式に何人かの貴族も捕まったらしく、中には中位爵の貴族もいたらしい。ただ関係の証拠を残していなかった貴族も多かったみたいで、ハックツベルト上位爵ももちろん捕まることはなかったようだ。まあ、そのくらいのことができないと高位の貴族としてやっていられないだろうな。

 さすがに人をさらっての人身売買はどの国でも御法度のことなので国の威信に関わってくるらしい。このためいくら処罰をしたと言ってもあまりおおっぴらにはできないみたいで、今回の処罰も一般的には金額的な不正とその他密輸などとなっているようだ。国同士では情報交換しているかもしれないけどね。
 不正の貴族の処罰は速やかに断行されたようだけど、結局中位爵が3家、下位爵は10家が爵位返上となり、領地も没収されることとなったようだ。
 ちなみにキザール爵は一族全員が処刑されることとなったようで、そのほかも処刑されたり牢獄に入れられたり、平民落ちの上に王都追放などかなり重い処分が下されたようである。資産を没収されて平民落ちの時点でもう生きていけないよね?

 最近は平和な時代が続いていたこともあって、報償の領地もあまりなく、王都の屋敷についても場所がなかったので、ある意味かなり助かったと言っていた。爵位を持っている優秀な貴族が新たに領地や屋敷をもらって管理を行うことになったらしい。ルイドルフ家の縁者も数名が領地を賜ってラクマニア様もかなりうれしそうに報告してくれた。派閥ではないが、ある程度縁のある貴族で処分されたところもあったらしいけどね。

 国家としても補償にある程度使うとは言え、今回の没収でかなりのお金が入ったらしく、領地も今後のために直轄として確保しているようだ。まあこれだけの貴族から財産を没収したらほんとに一財産だろう。



 1週間ほど経ったところでやっと状況も落ち着いてきたみたいでラクマニア様から外出許可も下りた。他の貴族への根回しも完了しているのでまず大丈夫ということだ。基本的に自分たちのことは表沙汰にはなっていないのでそうそう顔が知られているわけでもないしね。

 やっとゆっくりできると思ったんだけど、一つ切実な問題があった。お金のことである。

「ジェン、今回この国で色々と装備を整えようと思っていたんだけど、ちょっと厳しいかもしれない。」

「そうなの?」

「うん、前に話したように今回の調査の時に前作った魔道具をフルパワーで使ったからね。せっかく報酬をもらったり装備を売ったりしたんだけど、今回の件で400万ドールくらい飛んでいったよ。装備とか売って結構な金額が入っていたけど残りは20万ドールくらいしかないんだ。」

「そんなにかかったの!!・・・・でも、しょうが無いわよ。それを使ったから私も無事だったんだし、イチも怪我せずに証拠を見つけられたんだから。」

「とりあえず装備の購入さえしなかったら十分な資金だからこれはまあ我慢するしかないよ。装備についてはハルマに行ってから考えよう。」


 とりあえずやっと一段落したようなのでそろそろ出発しようと思っていたんだけど、その日の夜にラクマニア様からとんでもないことを伝えられた。

「すまんが、二人には城に行ってもらうことになった。」

「お城へ?なにかの証言でもすることになったんですか?」

「いや、今回の件についてはあまり君たちのことを人目にさらすわけにはいかないと言うことで回避できたんだが、今回の事件の立役者として褒章されることになったんだ。大々的にはできないようだが、勲章が授与されるようだ。」

「ええ~~!!そ、それって、断ることは・・・。」

 褒章って、そんなの正直いらない。

「まあ、国からの褒章を断るというのはさすがにやめておいた方がいいな。」

「わ、わかりました・・・。」

「あの・・・、私もなのですか?」

「まあ、おそらく口止めの意味も含まれているのだと思うぞ。なのでジェニファー殿も素直に受け取ったらいいだろう。」

「わ、わかりました。」

 食事の後で部屋に戻ってからジェンと話をするが、さすがに逃げるわけにはいかないよねと言うことになった。まあもらって損するものでもないからありがたく受け取っておこう。でも問題は非公式とはいえ国王陛下に謁見することだな。



 2日後に王城に呼ばれて待合室で待つこと60分ほど。案内されていった部屋はよくイメージする大広間というところではなく、小さめの部屋だった。そうはいってもかなり上の爵位の人たちと思われる貴族が数名と護衛が立っているのでかなり怖い。ラクマニア様もいるけどね。

 衣装については冒険者と言うことで普段の格好でよかったらしく、堅苦しい格好の必要が無かったのは救いだった。一応ラクマニア様が用意してくれてはいたんだけどね。折角なのでそのままもらうことになったのでありがたかった。
 あと、一応最低限のマナーについては事前に習っておいた。ちなみにこの部屋では魔道具を含めて魔法関係を一切使用できないようになっているみたい。


 部屋の中央へと進み、そこで片膝をついて中腰となり、頭を下げる。右手は胸の前に当てて、左手は地面につけるというスタイルだ。女性でも同じみたいで、他の国でも大体この形をとればいいらしい。

 しばらくすると案内があり、王が入ってきたようだ。このあと貴族の一人が声を上げる。

「ジュンイチ殿並びにジェニファー殿。面を上げなさい。」

 そう言われたところで顔を上げると、玉座には王と思われる30代くらいのかなりがっしりした男性の姿が目に入った。威厳があると言えばあるんだが、威厳と言うよりは顔が怖い・・・。いわゆる悪人顔という感じだ。
 たださすがに国王陛下と言うだけあって豪華な衣装を着ている。マントとかまではしていないし、王冠をしているわけではないけどね。

「今回の事件の摘発について尽力してくれたこと感謝する。よってその功績をたたえ緑玉章を送ることとする。」

 先ほどの人が発言した後、係の人が緑玉章の入った箱を持ってきてくれたのでそれを受け取り、頭を下げる。

「ありがたくちょうだいいたします。」

「大義であった!」

 国王陛下からの言葉が発せられた。公式の場で国王陛下から声をかけられるだけでもかなり名誉なことらしい。声すらかけられないことも多いみたいだからね。

 ここで顔を上げてから国王陛下が退出するのを見送る。国王陛下が退出すると、少し部屋の中の緊張が解かれた。

「これで褒章の儀を終了する。」

 終了したところで他の貴族達も退出を始めた。立ち上がることが許されたのでほっとしていると、ラクマニア様がやってきた。

「お疲れ様。別の部屋で今回のことについて少し説明しよう。」

 そう言われて部屋を出ようと思ったところで他の貴族から声をかけられる。40歳くらいでひげを生やして宰相という印象の人だった。

「二人ともおめでとう。まあ形だけとはいえ貴族となったのだから今後の行動には注意をするようにな。今回はまあいろいろあったが、私も頭を痛めていたところでもあったので感謝はしておこう。」

「ありがとうございます。」

 誰だろうと思いながらも一応礼を言っておく。


 ラクマニア様に先導されて事務室のような部屋へと移動する。

「無事に終わってほっとしているよ。通常は部下に頼むのだが、今回は色々とあって私から説明することになった。」

「ラクマニア様、わざわざありがとうございます。」

「褒賞の件の前に話をすると、先ほど声をかけてきたのが財務長官のハックツベルト上位爵だ。キザール爵を庇護下に置いていたんだが、言葉の通りいろいろと問題が出てきて頭を悩ませていたところだったようだ。
 今回の褒章はあやつからの提案でな、口封じの意味合いがかなり強いことはわかっていると思う。ただこういう対応をしたと言うことは今回のことでもう手は出さないと考えてよいだろう。」

「そういうことだったんですね。仕返しというのが怖かったんですが、ちょっと安心しました。ただ貴族になったというのはどういう意味でしょうか?」

「今回報奨の緑玉章を受けたものはハクセンでは下位爵と同等の扱いとなる。最初は紫玉章か赤玉章と思っていたんだが、まさか緑玉章とはな。」

「これってかなり上の褒章なんですか?」

「上から青、黄、緑、紫、赤の順番で、青が中位爵相当、黄と緑が下位爵相当になる。紫と赤はあくまで褒章されたというもので正式な爵位ではないが、準爵位相当になる。」

「爵位相当というのはどういう意味なんでしょうか?」

「貴族として扱われると言うことになる。例えば貴族用の施設が使えるし、町の出入りも貴族用の通路を使用できる。貴族街に入るのも自由になるな。ただしあくまで爵位だけなので、領地がもらえるわけでも、職がもらえるわけではない。1代限りの名誉職のような感じだな。
 ただこれは基本的にどの国でも共通のことなので、他の国でも貴族扱いを受けることができるので、ナンホウ大陸など貴族志向の強い国では役に立つことも多いだろう。」

「それはありがたいですね。いつかナンホウ大陸にも行ってみたいと思っていたのでそのときには助かるかもしれません。」

「あとで窓口に行って身分証明証に登録してもらうとよい。」

「わかりました。」

 褒賞や貴族の地位について他にも注意すべき事などを話しを聞く。

「大事なことを忘れておった。緑玉章に併せて報奨金も出されておる。今回証拠集めにかなりお金を使ったという話だったので気になっていたんだが、これでまかなえるかな?一人1000万ドールが出されている。」

「「一人1000万!!!」」

 かなりの額に驚いた。1億円だよ、1億円!

「ほ、報奨金ってそんなにもらえるものなのですか?」

「まあ、今回の報奨金は特別という感じだな。正確な金額までは把握的できていないが、かなりの額の金額が没収されたようだからな。そのお礼という意味もあるのだろう。」

「よかった~~~!!これで装備を買い換えられる~~~。」

「喜んでもらえてよかった。いろいろと世話になったな。」

「いえ、こちらこそ。」

「もう出立する予定なのか?」

「ええ、数日中には出発しようと思っています。」

「それでは出立までは我が家に泊まるといい。孫達も喜ぶからな。」

「よろしいのですか?」

「気にしなくてよい。もともとそのつもりだったしな。私はこの後仕事があるので先に戻っておいてくれ。あと窓口に顔を出すのは忘れないようにな。」

「わかりました。」


 ラクマニア様と別れてから係の人に案内されて受付へと向かう。ここで身分証明証を提出してから登録してもらい、報奨金は口座に振り込んでもらった。

名前:ジュンイチ
生年月日:998年10月30日
年齢:18歳
職業:冒険者(上階位・アース) ハクセン下位爵
賞罰:ハクセン緑玉章

名前:ジェニファー
生年月日:998年12月15日
年齢:18歳
職業:冒険者(上階位・アース) ハクセン下位爵
賞罰:ハクセン緑玉章

 職業にハクセン下位爵というのが書かれていた。まあ名誉職といっていたけど何かの時には役に立ちそうだな。

 城を出てから車を取り出して町の方へと向かう。町で昼食を食べたあと、いろいろと雑貨を買い出ししてから屋敷に戻る。


~ハックツベルト上位爵Side~
 いろいろと役には立っていたんだが、最近のキザールのやつはちょっとまずい方向に手を伸ばしすぎだ。私とのつながりの証拠は残していないつもりだが、このままではまずいかもしれない。さすがに降爵まではないが、財務長官の地位は辞さねばならなくなるかもしれん。

 以前は小心者で、貴族としては見逃せる範囲だったのに、感覚が麻痺してきたのかもしれないな。最近は変な奴らとの付き合いもあるという話だからな。人をさらって人身売買をしているという話が出てきているのはさすがにちょっとまずい。

 そう思っていたら昔からのライバルのラクマニアから提案があったのには驚いた。キザールに関するかなりの証拠がそろったがどうしたいのかと言うことだった。やつがそこまで言うのであればおそらくそうとうな証拠をつかんだと言うことだろう。
 そしてわざわざ私に話を持ってくると言うことはすでに動いていると言うことなので今更何か手を打ってもすでに手遅れだろう。

 正直渡りに船だった。まあ道連れにされる貴族もいるだろうが、そんなレベルの奴らはこの際一掃してしまった方がいいな。


 思った以上の証拠を手に入れていたためかなりの貴族が処罰されることになった。さすがにラクマニアの派閥だけ大目に見るわけにもいかなかったのか、あちらも少し被害を受けていたが、おそらく私と同じ考えなんだろう。残念ながら処罰のあとの報奨は向こうの派閥に優位な人事となってしまったが、このくらいは仕方が無いか。

 今回の件についてけりをつけるために、今回の功労者について褒章を与えることを提案した。ラクマニアはかなり渋っていたんだが、王まで話を通していたので断ることができなかったようだ。どういう人間とつながりがあったのかは把握しておかなければならないからな。

 色々と調べてみても上階位の冒険者と言うことくらいしかわからなかったからな。ただジョニーファン様とのつながりで今回知り合ったと言うことが気にはなるがな。ヤーマン国の冒険者と言うことも分かっているのでいずれ他の情報も入ってくるだろう。

 役に立つと言うことであればせっかくなら下位爵相当の褒賞を与えてやった方がいいかもしれんな。それで取り込めればいいし、だめでも特に痛くは無い。

 褒章の儀の当日にやってきた二人を見て正直驚いた。見た目だけかもしれないが、事前の調査でも18歳と出ていたので間違いは無いのだろう。ここまで若い人間だったとは・・・。

 こういう場になれていないのか、男の方はかなり緊張していたが、女の方はかなり場慣れをしている感じだ。貴族ではないようだが、もともとは大きな商会の娘とかかもしれないな。


 しばらくして入ってきた情報を見て驚いた。ヤーマン国の王族や最近勢力を伸ばしてきているカサス商会ともつながりがあったとは。ジョニーファン様とはかなり親交が深かったようで、数日間面談したらしい。たしか1時間でも面会できれば名誉と言われているくらいだったはずだが、それが数日とは・・・。今回も賢者様の代理としてラクマニアを訪問したと言っていたからな。
 冒険者とかそんな平民は配下においてこき使えばいいのに、ラクマニアのやつはそれなりに縁を持とうとしていたからな。意味が無いと思っていたんだが、こういうことでつながる縁も結構大きいと言うことなのか?平民にもかなりの実力者が出てきているというのも無視できないしな。

 少しは貴族偏重の考えは改めておいた方がいいのかもしれないな。ラクマニアの考えに完全に同調するわけではないが、ある程度は同調する点を探っていった方がいいのかもしれん。変に凝り固まった考えを持って我が一族が滅びてしまっては意味が無いからな。


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