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第4話 結界の中の本心
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境内には滅んだはずの巨躰の日本狼、首を傾げた孔雀とこちらへちょこまかと駆けてくる一羽のカラス……人間のいない不思議さも何故か納得の樹貴であった。
「どうなのだ、紫苑」
「話し合い中だよ」
「ということは、未だ神であられるのだな! 良かった。天照様がひどく取り乱されておったので皆で心配しておったのだ」
紫苑という名の少年はまるで当たり前のようにカラスと会話をしている。
「紫苑さん……あの、紫苑さんも神様ですよね?」
「紫苑は今も本殿にてお話し中の主人である鬼神の頭領の伴侶であり、紫苑もまた私の主人なのだ。当然、神様なのだ」
得意気に鼻息荒く答えたのはカラスで、紫苑は困ったような照れ臭そうな表情を浮かべて、樹貴の腕をくいっと引いた。
「まあ、そんな感じ……あ、樹貴くんは幾つ? 俺は十八で人間じゃなくなったんだけど」
「え? あ、俺、いや、僕も。でも死んでないからただの人間です。カミサマに守ってもらわないと隠れることも身を守ることもできない人間です」
「……俺も死んだわけじゃないんだけど……ね、せっかく同い年なんだし、普通に話そうよ! 竜胆、見に行く?」
カミサマが自分よりも上位だと言った神と気軽な会話をしても良いのか樹貴には判断がつかなかった。それに、竜胆は……。
「でもさ、俺、思うんだけど。竜胆は社の神様と見た方が良いよ。その方がきっと神様も喜ぶと思うんだよね。樹貴くんはさ、社の神様、好きでしょう? だったら絶対に俺達とじゃなく社の神様と見た方が感動するよ」
「カミサマ、好きです……勝手なことばっかお願いしたり、失礼なこと言ったりしたけど、でも好きです。とても大切です……だから」
「うん。大丈夫。絶対に柚葉がなんとかしてくれるから。樹貴くんにできることは、俺が柚葉を信じるように、樹貴くんの大好きな神様を信じてあげて。ね?」
紫苑の言葉が気休めなのかは解らなかったが、柚葉──鬼神の頭領だろう──を信じて疑っていないのはただの人間の樹貴でも痛いほどに感じられた。
そしてそれは、カミサマが“なんとかしてもらわなくてはならない”状況に置かれているということだ。
「俺のせい? 嫌なことから逃げてカミサマ頼ってばかりの俺のせい? それでカミサマは責められているんですか?」
「それは違います! 貴方のせいではありません。私にもハッキリとは解りませんが、この地はひどく哀しいのです。参拝者も多く、活気に溢れ、暖かで穏やか。だのにほんの一条の哀しみが消えず残っているのです」
長い首を振り必至に樹貴に話しかけるのは美しい孔雀。紫苑は少し腰をかがめて、孔雀の目の下辺りを指先でスッと撫でた。
「この子は精霊でね。俺にも見えないモノが見えるんだよ。ねえ、絢風はどう思う? その哀しみは、柚葉に消せそうかな?」
「これは妖関連ではないようです……遥か昔の……念に近いモノ。社の神様にまつわるモノのようですが、必ずや長がお力添えくださりましょう」
そっか。と紫苑は呟くと、樹貴に向き直り、やはり穏やかな微笑みを投げてきた。
「それなら尚更、俺は柚葉を信じなきゃだし、樹貴くんは社の神様を信じなきゃね。大丈夫だよ」
「……でも、でも、もしどうにもならなかったら……」
「ならなかったら?」
紫苑の声は、カミサマの声より少し高くやはり年相応の幼さを感じさせる。
「それでもカミサマと一緒にいたいです」
「……承知した。その願い、聞き届けよう」
しかし彼は樹貴とは違う……薄紫の瞳がゆらりと揺れる。
ああ、この人も神なんだと、今更ながら実感した樹貴だった。
「どうなのだ、紫苑」
「話し合い中だよ」
「ということは、未だ神であられるのだな! 良かった。天照様がひどく取り乱されておったので皆で心配しておったのだ」
紫苑という名の少年はまるで当たり前のようにカラスと会話をしている。
「紫苑さん……あの、紫苑さんも神様ですよね?」
「紫苑は今も本殿にてお話し中の主人である鬼神の頭領の伴侶であり、紫苑もまた私の主人なのだ。当然、神様なのだ」
得意気に鼻息荒く答えたのはカラスで、紫苑は困ったような照れ臭そうな表情を浮かべて、樹貴の腕をくいっと引いた。
「まあ、そんな感じ……あ、樹貴くんは幾つ? 俺は十八で人間じゃなくなったんだけど」
「え? あ、俺、いや、僕も。でも死んでないからただの人間です。カミサマに守ってもらわないと隠れることも身を守ることもできない人間です」
「……俺も死んだわけじゃないんだけど……ね、せっかく同い年なんだし、普通に話そうよ! 竜胆、見に行く?」
カミサマが自分よりも上位だと言った神と気軽な会話をしても良いのか樹貴には判断がつかなかった。それに、竜胆は……。
「でもさ、俺、思うんだけど。竜胆は社の神様と見た方が良いよ。その方がきっと神様も喜ぶと思うんだよね。樹貴くんはさ、社の神様、好きでしょう? だったら絶対に俺達とじゃなく社の神様と見た方が感動するよ」
「カミサマ、好きです……勝手なことばっかお願いしたり、失礼なこと言ったりしたけど、でも好きです。とても大切です……だから」
「うん。大丈夫。絶対に柚葉がなんとかしてくれるから。樹貴くんにできることは、俺が柚葉を信じるように、樹貴くんの大好きな神様を信じてあげて。ね?」
紫苑の言葉が気休めなのかは解らなかったが、柚葉──鬼神の頭領だろう──を信じて疑っていないのはただの人間の樹貴でも痛いほどに感じられた。
そしてそれは、カミサマが“なんとかしてもらわなくてはならない”状況に置かれているということだ。
「俺のせい? 嫌なことから逃げてカミサマ頼ってばかりの俺のせい? それでカミサマは責められているんですか?」
「それは違います! 貴方のせいではありません。私にもハッキリとは解りませんが、この地はひどく哀しいのです。参拝者も多く、活気に溢れ、暖かで穏やか。だのにほんの一条の哀しみが消えず残っているのです」
長い首を振り必至に樹貴に話しかけるのは美しい孔雀。紫苑は少し腰をかがめて、孔雀の目の下辺りを指先でスッと撫でた。
「この子は精霊でね。俺にも見えないモノが見えるんだよ。ねえ、絢風はどう思う? その哀しみは、柚葉に消せそうかな?」
「これは妖関連ではないようです……遥か昔の……念に近いモノ。社の神様にまつわるモノのようですが、必ずや長がお力添えくださりましょう」
そっか。と紫苑は呟くと、樹貴に向き直り、やはり穏やかな微笑みを投げてきた。
「それなら尚更、俺は柚葉を信じなきゃだし、樹貴くんは社の神様を信じなきゃね。大丈夫だよ」
「……でも、でも、もしどうにもならなかったら……」
「ならなかったら?」
紫苑の声は、カミサマの声より少し高くやはり年相応の幼さを感じさせる。
「それでもカミサマと一緒にいたいです」
「……承知した。その願い、聞き届けよう」
しかし彼は樹貴とは違う……薄紫の瞳がゆらりと揺れる。
ああ、この人も神なんだと、今更ながら実感した樹貴だった。
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