千代に八千代に寄り添いて 春は桜を冬は瑞華を

深緋莉楓

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第6話 祝事滞りなく 神は名を得る

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 手水舎の前に陣取って座り、空を流れる雲を眺めていた紫苑と使い魔達は勢いよく開かれた本殿の戸の音を聞いて、不安そうな樹貴の腕を紫苑が取り、ゆっくりと立ち上がらせた。

「行こ。お話、終わったみたい」
「カミサマは!?」
「大丈夫。行けば解るよ」

 行けば確かに解るのだろう。だが、自分は人間なのだ。本殿への数メートルさえもどかしく感じる普通の人間なのだから教えてくれても良いではないか、と樹貴は内心紫苑を少しばかり恨んだ。

「待たせたな。そなたが樹貴だな? して、社の神よ、真名はなんと申す?」
「無理だ、はなからそのつもりだったのだろう、こやつは名を与えられてはいなかった」
「ならば、私が名付けてもかまうまい? 心決めたぞ! っと、その前に確認をせねばな。樹貴は人間であってもそなたと共に在り、神の仕事を手伝っていた。間違いないか?」

 尊大な口調で話す女神に、男は無言で頷き、いつの間にか隣に身を寄せ着物の裾を握っている樹貴を背後へと隠すような素振りを無意識のうちにしていた。

「むぅ、失礼な。怒っておるわけではない。樹貴も人間達から“神として崇められている”ということだという確認よ。ならば何の問題もない。本日をもって、この天照、樹貴に神格を与える。伴侶として永久とこしえに共に在るが良い」
「俺にはできんことだからな」

 常闇の神が肩をすくめると、天照はぱんっと小気味良い音を立てて掌を打ち合わせると紫苑や使い魔達の方へ声をかけた。

「神楽を舞う。絢風は空を舞い、花を添えてはくれまいか? ふふっ、私は楽師を呼ばねばならんな!」

 口を挟む間もなく、あれよあれよとことが運ばれてゆく。呆然と立ち尽くす二人に常闇の神が笑いかけた。

「言っただろう? アレのお節介はすぐに解ると」
「は、はぁ。ですが、樹貴は神格をいただいても例え私の伴侶となっても人間なので……」
「今の樹貴はほぼほぼ神に近い穢れ知らずよの。ただの人間ではこうはならぬわ。そなたら、相当密に接しておったな! 良い良い、それで良い。樹貴よ、儀式が終わればもう人間に見つかるやもなどと怯えることはないぞ! そなたも神となるのだ。私達のお仲間だ。伊勢にも遊びに来て欲しいし、常闇の連中がここへ訪ねてくることも許して欲しい。出雲にも行かねばな!」
「天照様、楽しそうですねぇ」

 のんびりとした口調の紫苑に天照は当たり前だと大きく頷く。

あかりと樹貴の新たな門出よ! 紫苑とて元はといえど人間。常闇や灯に現世のあれこれを教えてやると良い! そなたの名は灯で良いな? この地に住まう人を、そして樹貴を照らしてくれたのだから、これほどに合う名はなかろうよ」
「天照様の自画自賛なのだ!」

 天照に拳骨を落とされそうになったカラスは一際高い枝に飛び乗り、やはり嬉しそうに目を細めて地上の神々を見ていた。

 楽師の奏でる荘厳な雅楽と雰囲気の中、舞終えた天照が生まれて初めて名を得た神と新しく神の座に名を連ねた二人の頬にそれぞれの掌をそっと添えた。

「永久に幸多く共に在れ。飽きるほどに見る桜も瑞華も決して同じサマはない。二人であればそれもより美しく胸に沁み入ろうて」

   その言葉を残し、突如現れた神々と使い魔はそれぞれに嬉しそうに笑い合いながら煙のように、すぅと消えた。
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