遠いか近いかは貴方次第

深緋莉楓

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第1話

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 今日も独り、苔むしたナニカの前に立つ。
 おそらくそれはかつて信仰されていたものであり、今は忘れ去られたものであろう。小さな社だが、生憎私には由来も祀られていた存在が何であったのかも知る術はなく、意味もないままただいつの間にかここへ立ち寄るのが日課になってしまったっだけだった。
 仕事に追われた時、人付き合いに疲れた時、そして何もない一日でも──私はここへ来る。
 時にはコンビニで買った和菓子を供えて。時には悪戯いたずら心で炭酸飲料を供えて、せる誰かを想像して少し笑う。そんな時に吹く風は決まってほんのり冷たく鋭いのが不思議でもあり妙に納得でもあり、また笑ってしまう。

 今日の手土産は仲良く分けるタイプの一袋に二つの棒状のアイスクリームだ。気の合う人と一緒にどうぞ、のタイプだが残念ながら私にはアイスを分け合えるほどに親しい存在はいないので、静かなここで御相伴にあずかろうと外装を開け、枷のように感じるネクタイを緩めた。
 食べ終わるまでは、壊さない程度になら寄りかかるくらいは許されると思っていたのだが……。

「そろそろ師走だというのに氷菓子とは、貴方、存外にバカなんですね」

 社に置いたはずのアイスの片割れをガジガジとフィルムごと齧りながら文句を言う青年に、一瞬返す言葉を失った。

「食べにくい」

 ツン、と突き出た唇から溢れる言葉は琴の音のようでもあり、年相応の声にも聞こえた。

「貴方がピラピラしたのに包まれた物ばかりくれるから、ずいぶん器用になったはずなのに、これは食べにくい」
 歯形のついたアイスに横から手を伸ばして封を開けると、ほう! と感嘆の声が聞こえた。
 それから青年は、アイスの中身が出てこないだの、寒いだのと文句を嬉しそうな顔で言いながら、今までに供えてきた菓子の感想を一つずつ丁寧に教えてくれた。
 私はひどくマヌケな顔をしていたのだろう。店で小銭を出した私自身でさえ覚えていない菓子を彼は一つとして忘れることなく、指折り数えながら聞かせてくれたのだ。彼は私の顔を覗き込み
「あれ、僕にくれたんでしょ? ちゃんと食べたよ。美味しかった。あ、しゅわしゅわするのはちょっとびっくりしちゃったけど、甘くて、くーってなっておもしろかったよ。ありがと」
 そう言うと、既に陽の落ちた暗がりの中でもわかるようなはっきりとした笑顔を見せた。
「えーっと……その、誰?」
 失礼極まりない私の質問に、青年はきょとんとしたあと、何度か瞬きを繰り返した。
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