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徐々に販売方法を変えて半年。売り上げは順調に伸びていた。
原材料の関係で品切れの心配のない商品はホームページからいつでも購入できるようになり、不定期ながらも事前告知の商品は軒並み評判は良かった。ネットでの声も尚哉がチェックしている限り、次が楽しみ! だとか、ハンドクリームがすごく良かったからリピート確定! など、香水以外の商品も人気になっていた。
それを知った美月は、ハンドクリームやリップクリーム、バスボムや入浴剤は在庫を切らさず作れるから、とホームページでは常に在庫ありの表示にしている。
「うし、ぴったり四百グラム!」
「ねぇ、手伝ってくれるのはありがたいけど、身体の方は大丈夫?」
心配そうに問う美月は袋詰めに精を出す尚哉を見遣った。
「大丈夫だよ、自然の香りだから問題ないよ」
商品を作り、個別包装をして……はさすがに美月の負担が大きい。そこでせめてバスソルトやクリームなどの計量が必要な物くらいは手伝うと尚哉自身が申し出たのだった。
「上手くなったと思わない?」
クリームの入った口の大きいケースの表面はヘラの跡もなく、綺麗に均されている。
尚哉が手伝い始めた頃は計量のみで表面を均すのは美月が担当していた。マスクと慣れない手袋をはめて、計量器の上のカップに絞り袋でクリームを入れるだけでも最初はケースの縁にうっかりとつけてしまったり、垂らしてしまったりと尚哉は大苦戦だった。尚哉は自分の不器用さに驚き、美月は笑いながら拭き取って使い捨てのヘラを使って表面を綺麗に均していたのだが、尚哉は申し訳なく思いつつも練習に練習を重ねて今や二人で並んで尚哉が詰めたクリームに、美月がピンセットを使ってそっと内蓋を置くという流れ作業が可能になっていた。
効率も上がり、販路拡大も今のところ問題なく嬉しい悲鳴をあげる日々に二人は心底安堵していた。
「まだまだ安心はできないけど、SNSのフォロワーさんも増え続けているし、俺達の存在はある程度は認知されたと思うんだ」
「それは尚哉の商品紹介文や同封文章のおかげだよね! 私、あんなに上手に書けないよ」
「はは、子供の頃から本ばかり読んでいたからかもね。でも途切れずにオーダーが入るのは美月の作るものがそれだけ魅力的ってことじゃない?」
美月は視線を尚哉から天井に移すと、んー、と考えるような仕草を見せたあと、再び視線を戻して
「適材適所! あとは……神様がくれたプレゼント!」
と照れくさそうに笑った。
「なるほどね。まあ、運が良かったまま今に至れたのは確かだしね」
「だからがんばり続けないと、神様に呆れられちゃう」
肩をすくめた美月の声を聞きながら、尚哉は気を引き締めて絞り袋を握り直した。
本日の作業が終わる頃には太陽はすっかりと沈み、満月に近い月と少し離れたところに解りやすいカシオペア座が輝いていた。
「戸締り万全!」
「保管庫も?」
「もちろん!」
いつもの遣り取りのあと、尚哉はセキュリティをオンにしながら漂う風に鼻をひくつかせた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと今日、寄り道しないか?」
「夜の散歩? 人も少ないし大丈夫だよね?」
香りを消してしまう体質の美月は人の動きにやたらと気を遣う。
「多分大丈夫。人の臭いはもうないから」
「じゃあ安心だね」
尚哉を見上げて笑う美月は誘導されながら夜中の細い道を歩く。人気もなく澄んだ空気の中で二人の足音だけが響いた。
原材料の関係で品切れの心配のない商品はホームページからいつでも購入できるようになり、不定期ながらも事前告知の商品は軒並み評判は良かった。ネットでの声も尚哉がチェックしている限り、次が楽しみ! だとか、ハンドクリームがすごく良かったからリピート確定! など、香水以外の商品も人気になっていた。
それを知った美月は、ハンドクリームやリップクリーム、バスボムや入浴剤は在庫を切らさず作れるから、とホームページでは常に在庫ありの表示にしている。
「うし、ぴったり四百グラム!」
「ねぇ、手伝ってくれるのはありがたいけど、身体の方は大丈夫?」
心配そうに問う美月は袋詰めに精を出す尚哉を見遣った。
「大丈夫だよ、自然の香りだから問題ないよ」
商品を作り、個別包装をして……はさすがに美月の負担が大きい。そこでせめてバスソルトやクリームなどの計量が必要な物くらいは手伝うと尚哉自身が申し出たのだった。
「上手くなったと思わない?」
クリームの入った口の大きいケースの表面はヘラの跡もなく、綺麗に均されている。
尚哉が手伝い始めた頃は計量のみで表面を均すのは美月が担当していた。マスクと慣れない手袋をはめて、計量器の上のカップに絞り袋でクリームを入れるだけでも最初はケースの縁にうっかりとつけてしまったり、垂らしてしまったりと尚哉は大苦戦だった。尚哉は自分の不器用さに驚き、美月は笑いながら拭き取って使い捨てのヘラを使って表面を綺麗に均していたのだが、尚哉は申し訳なく思いつつも練習に練習を重ねて今や二人で並んで尚哉が詰めたクリームに、美月がピンセットを使ってそっと内蓋を置くという流れ作業が可能になっていた。
効率も上がり、販路拡大も今のところ問題なく嬉しい悲鳴をあげる日々に二人は心底安堵していた。
「まだまだ安心はできないけど、SNSのフォロワーさんも増え続けているし、俺達の存在はある程度は認知されたと思うんだ」
「それは尚哉の商品紹介文や同封文章のおかげだよね! 私、あんなに上手に書けないよ」
「はは、子供の頃から本ばかり読んでいたからかもね。でも途切れずにオーダーが入るのは美月の作るものがそれだけ魅力的ってことじゃない?」
美月は視線を尚哉から天井に移すと、んー、と考えるような仕草を見せたあと、再び視線を戻して
「適材適所! あとは……神様がくれたプレゼント!」
と照れくさそうに笑った。
「なるほどね。まあ、運が良かったまま今に至れたのは確かだしね」
「だからがんばり続けないと、神様に呆れられちゃう」
肩をすくめた美月の声を聞きながら、尚哉は気を引き締めて絞り袋を握り直した。
本日の作業が終わる頃には太陽はすっかりと沈み、満月に近い月と少し離れたところに解りやすいカシオペア座が輝いていた。
「戸締り万全!」
「保管庫も?」
「もちろん!」
いつもの遣り取りのあと、尚哉はセキュリティをオンにしながら漂う風に鼻をひくつかせた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと今日、寄り道しないか?」
「夜の散歩? 人も少ないし大丈夫だよね?」
香りを消してしまう体質の美月は人の動きにやたらと気を遣う。
「多分大丈夫。人の臭いはもうないから」
「じゃあ安心だね」
尚哉を見上げて笑う美月は誘導されながら夜中の細い道を歩く。人気もなく澄んだ空気の中で二人の足音だけが響いた。
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