8 / 64
2章 初任務
#8 直感
しおりを挟む
はっとして目を覚まし、そこでやっと夢だということに気づいた。レンが起き上がった時、彼は湖の岸にいた。
「よく寝てたわね」
ふと横を向くとアルルが居た。さっきまでいた場所と全く様子が違う。まさかアルルが一人でここまで運んできたのか?後ろを振り向くと、ツバサとベティが疲れきった様子で座り込んでいた。地面にはフルーツが2、3個散らばっていた。
アルルは掻い摘んで説明してくれた。どうやら森の道変化とやらの時刻が早すぎたらしく、彼らはその反動でこちらまで飛ばされたらしい。その時ツバサとベティは、湖の水面に浮かんだ黒いボートのような物の上に倒れていて、それをアルルは1人でロープを用いて岸まで引き上げたとか。
「ツバサの魔術はね、使い過ぎると命が危なくなる危険性があるの。ちょっと特殊なのよね」
ツバサは蛇に噛まれた傷を手で擦りながらうなずいた。傷が完治していない時に魔術を発動させたせいで、体に負担がかかり傷口が開いて大量出血したのだ。
森はまだ動いていて、彼らは帰ることができなかった。しばらく湖の岸で体を休めていたが、ツバサの顔色は悪いままだった。
「ここに居ると気分が悪くて仕方ないんだ」
「でも私もさっきから落ち着かないわよ」
アルルはそう言ってツバサの隣に座った。レンはどちらかと言うともっとこの辺りを探険したい、という好奇心で溢れていた。勿論訪れたことのない場所であったし、普通に歩いてみたかった。レンが落ち着きなくウロウロとしているとベティが少し散歩をしてみよう、と提案をした。
「俺達はここで待ってるよ。あんまり遠くへ行くなよ」
ツバサとアルルを置いて、二人は周辺の探索にあたった。探索に行ってしまい姿が見えなくなったところでツバサは口を開いた。
「妙な奴だな。よくこんな邪悪な力を感じるところで歩けるもんだ」
この岸の近くに何かがある。そのことはツバサもアルルも察知はしていたが、それを確認に行こうとする勇気は無かった。彼らは魔術――それも邪悪なもの――を感じていた。おそらく別世界のものではない。もっと下の―悪魔界のものだ。
別世界の他にもいくつか惑星はあり、それらの惑星には"ワープの扉"という空間の扉を通じて移動が可能だった。
「アルルはレンが何者なのか知ってるのか?」
「自分のことはあまり話してくれないの。それはお互い様よ、私だって話していないけど」
「名字……アルルは名字をあいつに教えたか?」
「いいえ。だって教えたらきっと、私がサークル帝国の女帝の娘だってバレちゃうから」
トライアングルの唯一の帝国、サークル帝国の女帝はアルルの母親だった。トライアングルの王や帝に血縁は関係ない。アルルは後継者ではなかったが、それでも女帝の娘というレッテルを貼られてしまうことが嫌な部分があった。しかしツバサとは幼い頃からの仲で、お互いに名字は明かしていた。
「レンの名字は知ってる?」
「知らない。でもいつか必ず話すって言ってた」
「そう。でもまああいつはただ者じゃないよな」
「今まで一体誰に追われてたのかな。追っ手にアサシンって呼ばれてはいたけど、本職が殺しって感じがしないのよね。何だかいつの間にかアサシンになっちゃった、みたいな」
「俺この間、図書館でその追っ手の……グループの奴らのこと調べようとしたんだ。そしたらさ、司書……ルーク、居るだろ?あいつに止められたんだ。それに、名字も簡単に明かすなって……」
「レンが話してくれるまで待ちましょ。きっと話してくれるよ。だって私達チームでしょ」
そうだな、とツバサはうなずいた。心にはもやもやが残ったままだった。
一方、レンとベティは大きめの洞穴を見つけてその中に入っていた。穴は大きく、背の高いレンですらも余裕で歩ける高さだった。レンが先頭を歩き、ベティはそれに続いた。ベティが後方から雷を小さく光らせ、明かり代わりにした。壁には火の点っていないロウソクがかけられていて、かつて誰かがここを行き来していたことがわかる。
「ずいぶん長い洞穴ね」
「……ん?」
不意にレンが足を止め、ベティはその背中にぶつかった。空気が変わった。レンはそれを察すると、何も言わずにまた歩きだした。
彼らがたどり着いた場所、それは―牢獄だった。
「何、ここ……」
「ベティ、ここで下手に魔術を使わない方が良い。何が起きるかわからない。俺に任せてくれ」
そこにあったのは牢屋だけで、囚人は居なかった。格子がたくさん並び、ベティはゾッとした。壁に取り付けられた手錠のようなものにはすっかり変色してしまった血が付着していた。ベティは無意識のうちにレンの背中に隠れながら奥へと進んだ。
「何!!」
ベティが声を上げた瞬間、地面も壁も氷で覆われた。向こうにある出口までが氷の壁で覆われる。寒さではない何かに体が勝手に震え始める。ベティは突如しゃがみ込んだ。
「怖い……何だかわからないけど怖い……この魔力は何……?」
「よく寝てたわね」
ふと横を向くとアルルが居た。さっきまでいた場所と全く様子が違う。まさかアルルが一人でここまで運んできたのか?後ろを振り向くと、ツバサとベティが疲れきった様子で座り込んでいた。地面にはフルーツが2、3個散らばっていた。
アルルは掻い摘んで説明してくれた。どうやら森の道変化とやらの時刻が早すぎたらしく、彼らはその反動でこちらまで飛ばされたらしい。その時ツバサとベティは、湖の水面に浮かんだ黒いボートのような物の上に倒れていて、それをアルルは1人でロープを用いて岸まで引き上げたとか。
「ツバサの魔術はね、使い過ぎると命が危なくなる危険性があるの。ちょっと特殊なのよね」
ツバサは蛇に噛まれた傷を手で擦りながらうなずいた。傷が完治していない時に魔術を発動させたせいで、体に負担がかかり傷口が開いて大量出血したのだ。
森はまだ動いていて、彼らは帰ることができなかった。しばらく湖の岸で体を休めていたが、ツバサの顔色は悪いままだった。
「ここに居ると気分が悪くて仕方ないんだ」
「でも私もさっきから落ち着かないわよ」
アルルはそう言ってツバサの隣に座った。レンはどちらかと言うともっとこの辺りを探険したい、という好奇心で溢れていた。勿論訪れたことのない場所であったし、普通に歩いてみたかった。レンが落ち着きなくウロウロとしているとベティが少し散歩をしてみよう、と提案をした。
「俺達はここで待ってるよ。あんまり遠くへ行くなよ」
ツバサとアルルを置いて、二人は周辺の探索にあたった。探索に行ってしまい姿が見えなくなったところでツバサは口を開いた。
「妙な奴だな。よくこんな邪悪な力を感じるところで歩けるもんだ」
この岸の近くに何かがある。そのことはツバサもアルルも察知はしていたが、それを確認に行こうとする勇気は無かった。彼らは魔術――それも邪悪なもの――を感じていた。おそらく別世界のものではない。もっと下の―悪魔界のものだ。
別世界の他にもいくつか惑星はあり、それらの惑星には"ワープの扉"という空間の扉を通じて移動が可能だった。
「アルルはレンが何者なのか知ってるのか?」
「自分のことはあまり話してくれないの。それはお互い様よ、私だって話していないけど」
「名字……アルルは名字をあいつに教えたか?」
「いいえ。だって教えたらきっと、私がサークル帝国の女帝の娘だってバレちゃうから」
トライアングルの唯一の帝国、サークル帝国の女帝はアルルの母親だった。トライアングルの王や帝に血縁は関係ない。アルルは後継者ではなかったが、それでも女帝の娘というレッテルを貼られてしまうことが嫌な部分があった。しかしツバサとは幼い頃からの仲で、お互いに名字は明かしていた。
「レンの名字は知ってる?」
「知らない。でもいつか必ず話すって言ってた」
「そう。でもまああいつはただ者じゃないよな」
「今まで一体誰に追われてたのかな。追っ手にアサシンって呼ばれてはいたけど、本職が殺しって感じがしないのよね。何だかいつの間にかアサシンになっちゃった、みたいな」
「俺この間、図書館でその追っ手の……グループの奴らのこと調べようとしたんだ。そしたらさ、司書……ルーク、居るだろ?あいつに止められたんだ。それに、名字も簡単に明かすなって……」
「レンが話してくれるまで待ちましょ。きっと話してくれるよ。だって私達チームでしょ」
そうだな、とツバサはうなずいた。心にはもやもやが残ったままだった。
一方、レンとベティは大きめの洞穴を見つけてその中に入っていた。穴は大きく、背の高いレンですらも余裕で歩ける高さだった。レンが先頭を歩き、ベティはそれに続いた。ベティが後方から雷を小さく光らせ、明かり代わりにした。壁には火の点っていないロウソクがかけられていて、かつて誰かがここを行き来していたことがわかる。
「ずいぶん長い洞穴ね」
「……ん?」
不意にレンが足を止め、ベティはその背中にぶつかった。空気が変わった。レンはそれを察すると、何も言わずにまた歩きだした。
彼らがたどり着いた場所、それは―牢獄だった。
「何、ここ……」
「ベティ、ここで下手に魔術を使わない方が良い。何が起きるかわからない。俺に任せてくれ」
そこにあったのは牢屋だけで、囚人は居なかった。格子がたくさん並び、ベティはゾッとした。壁に取り付けられた手錠のようなものにはすっかり変色してしまった血が付着していた。ベティは無意識のうちにレンの背中に隠れながら奥へと進んだ。
「何!!」
ベティが声を上げた瞬間、地面も壁も氷で覆われた。向こうにある出口までが氷の壁で覆われる。寒さではない何かに体が勝手に震え始める。ベティは突如しゃがみ込んだ。
「怖い……何だかわからないけど怖い……この魔力は何……?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる