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3章 狩人
#12 ダミー作戦
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それから何日間の間、狩人の目撃情報はぱったりと止んでしまったが、ベティはしばらく学校にも行かずにレストランでずっと仕事をしていた。外に出たくてうずうずしていたが、アルル達がそれを許さなかった。
そんな退屈なある日、レストランにチームメンバーが訪れた。チームメンバーではない魔術士も一人加えて。
「皆いらっしゃい……あら、貴方はルーク?」
ご無沙汰してます、とルークは会釈した。やってきた4人をテーブルに向かわせると、ベティは自分も椅子を持ってきて座った。今の時間、レストランはがら空きである。ベティの祖母はすぐに目配せをしてくれた。
「俺達の金が無くなる前に……いや、ベティが家に篭って"もやし"になる前に、皆で色々と狩人対策を考えたんだ」
得意そうに話すツバサにベティは首をかしげた。すると代わりにルークが口を開いた。
「僕は影術士なんだけど、僕の術をうまく使えないかなって思ってね。ベティの影を取り出して、実体化させるんだ。そうするとベティの体がもう一つできるんだよ」
「要はダミーを作るってことだよ」
少し苦笑しながらレンも口を挟んだ。
やって見せて、とベティが頼むとルークは立ち上がり、こちらに近づいた。床に伸びる自分の影に向かって、ルークは指から光線を発射させた。そして上に引き寄せるように親指以外の指を全て動かした。黒い影はペロンと一枚剥がれたかのように持ち上がった。ベティの足元にはベティの影が残ったまま、ルークの隣に影の物体が現れる。
「凄い……!」
影の物体は地面から天井に向かって、黒い部分が消え去りベティの体そのものになった。そして電気椅子のような体勢を取り、こちらをまっすぐ見つめた。
「……何で電気椅子してんの? シャドーベティは」
「影のデメリットとしては、本物の人間と同じ動きしか出来ないってことだ。今ベティは椅子に座っているだろう? だから影も同じ動きをしているだけさ」
影は本物そっくりのベティだ。その顔に感情は無い。どうやら動きしか反映されないらしい。それならさ、とツバサがにやにやしながら言った。
「今ちょっと部屋に行って、着てる服を全部脱いでき――」
「馬鹿なこと言わないの! ……でもそれだと困るね、シャワーも浴びれないじゃない」
とりなすようにアルルが言う。張本人が黙っている間に勝手に話が進んでいく。するとルークが馬鹿にしたような声でツバサに言った。
「言っただろ? 影は体とその動き方しか真似できないんだ。洋服を脱ぐような動きはするかもしれないが、実際に脱ぐ訳じゃない」
「何だよ……」
「何そんなに落ち込んでるの」
「ダミーには夜中街をふらついてもらう。それで狩人をおびき寄せて、俺達がそこを仕留めて王宮に突き出し、たっぷりと報酬をいただく。……どうだ? 名案だろう」
「私は何もしなくていいの?」
ベティがおずおずと尋ねると、チームメンバーは黙ってうなずいた。その後すぐ、ベティのダミーと彼らはレストランを後にした。またレストランに静穏が戻った。今までとは違い、やけに安心感に溢れていた。
その夜、街をふらつくダミーをツバサ達は監視しつつ尾行することになった。ダミーは繁華街を外れ、人通りの少ない場所に移動した。移動している最中、右手が口元にいったり戻ったりする行動を繰り返していた。
「あれは何をしているんだ?」
ふとレンが疑問を口にした。すぐさまアルルが答える。
「ディナータイムじゃない?」
「なるほど」
「あー……何か私までお腹すいてきちゃった」
ため息混じりにアルルが言うとツバサが皮肉交じりに言った。
「さっき食べたばっかじゃねえかお前……」
「そういうのじゃなくて、何か口寂しいの!」
「どっちも変わんないよ」
「変わる! こういう、ただ監視してるのって凄く退屈じゃん。だから何か口が欲するわけよ、食べ物を」
「お前なぁ、ベティの"ダミー"の命がかかってんだぞ! ……退屈なのは同感だが」
2人が小さな言い争いをしている間も、レンは一人ダミーを監視していた。が、いつの間にかその手には携帯食料が握られていた。それに2人が気づくまで1分もかからなかった。
「あー! レン何食べてんの?!」
「大きい声出すなよ。携帯食だよ、食べる? これしかないから食べかけだけど」
レンが差し出したのはスティック状になっている灰色の物体だった。粘土みたいな食感がしそうだ、とアルルは思った。
「何味?」
「クリームシチュー」
「クリームシチュー?! この色で?!」
「うん。携帯食料だからね」
「理由になってるのそれ」
初めて目にする食べ物には何故か惹かれてしまう。アルルは携帯食料を受け取った。ツバサも物欲しそうに見てきたので、仕方なくアルルはちぎって少し分けてやった。
「ツバサ先食べてよ」
「何でさ。こういうのは一緒に食べるから面白いんだよ」
「うーん……まあそれもそうね、よし、いただきます」
「いただきまーす」
ツバサとアルルが同時に口にしたのをレンは黙って見ていた。その数秒後。
「不ー味!!!! 不味!! これ食い物じゃねえ! 何だこれ!」
「不味いにも程があるでしょう……水が欲しいよぅ」
アルルは少し目をうるうるとさせながら口を押さえていた。
「とびきり不味いのが携食の悪い所でね」
「先に言ってよ!!」
「俺は結構こいつに助けられてるから、舌が麻痺してるんだと思う」
「いや麻痺しすぎだろ……あれ、ダミーは?」
「あそこにいるよ」
レンがもぐもぐと食べながら指さした。ダミーは道の真ん中でぐんと背伸びをした。両手を背中にやったかと思うと、何かを体から外したような動きをした。その動きから状況をすぐに察したツバサは口に手を当てながら言った。
「これはまさかの……お着替えタイムじゃないですか?!」
「ああ、今のは下着を脱いだんだな」
「いちいち言わなくて良いから!!」
今度は腰から足元に向かって両手を下げる。そして片足をそれぞれ上げて下げる。右手を伸ばして何かを掴んでいるような手をパッと離す。
「今のは絶対パンツ脱いだんだな!」
「そしてあの落とし方」
「俺達のこと挑発してんのかベティは!!」
「顔が無表情なのはちょっと勿体ない気がするな」
「もう私この変態男共と一緒にいたくない!」
アルルは両耳を塞いで喚いた。
その突如だった。どこからともなく矢が飛んできて、ダミーのすぐ近くの花の茎に突き刺さった。ダミーはタイミングよくその場から離れた。矢が刺さった花はみるみるうちに巨大化して、しまいにはあるはずのない巨大な口が開いた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」
そんな退屈なある日、レストランにチームメンバーが訪れた。チームメンバーではない魔術士も一人加えて。
「皆いらっしゃい……あら、貴方はルーク?」
ご無沙汰してます、とルークは会釈した。やってきた4人をテーブルに向かわせると、ベティは自分も椅子を持ってきて座った。今の時間、レストランはがら空きである。ベティの祖母はすぐに目配せをしてくれた。
「俺達の金が無くなる前に……いや、ベティが家に篭って"もやし"になる前に、皆で色々と狩人対策を考えたんだ」
得意そうに話すツバサにベティは首をかしげた。すると代わりにルークが口を開いた。
「僕は影術士なんだけど、僕の術をうまく使えないかなって思ってね。ベティの影を取り出して、実体化させるんだ。そうするとベティの体がもう一つできるんだよ」
「要はダミーを作るってことだよ」
少し苦笑しながらレンも口を挟んだ。
やって見せて、とベティが頼むとルークは立ち上がり、こちらに近づいた。床に伸びる自分の影に向かって、ルークは指から光線を発射させた。そして上に引き寄せるように親指以外の指を全て動かした。黒い影はペロンと一枚剥がれたかのように持ち上がった。ベティの足元にはベティの影が残ったまま、ルークの隣に影の物体が現れる。
「凄い……!」
影の物体は地面から天井に向かって、黒い部分が消え去りベティの体そのものになった。そして電気椅子のような体勢を取り、こちらをまっすぐ見つめた。
「……何で電気椅子してんの? シャドーベティは」
「影のデメリットとしては、本物の人間と同じ動きしか出来ないってことだ。今ベティは椅子に座っているだろう? だから影も同じ動きをしているだけさ」
影は本物そっくりのベティだ。その顔に感情は無い。どうやら動きしか反映されないらしい。それならさ、とツバサがにやにやしながら言った。
「今ちょっと部屋に行って、着てる服を全部脱いでき――」
「馬鹿なこと言わないの! ……でもそれだと困るね、シャワーも浴びれないじゃない」
とりなすようにアルルが言う。張本人が黙っている間に勝手に話が進んでいく。するとルークが馬鹿にしたような声でツバサに言った。
「言っただろ? 影は体とその動き方しか真似できないんだ。洋服を脱ぐような動きはするかもしれないが、実際に脱ぐ訳じゃない」
「何だよ……」
「何そんなに落ち込んでるの」
「ダミーには夜中街をふらついてもらう。それで狩人をおびき寄せて、俺達がそこを仕留めて王宮に突き出し、たっぷりと報酬をいただく。……どうだ? 名案だろう」
「私は何もしなくていいの?」
ベティがおずおずと尋ねると、チームメンバーは黙ってうなずいた。その後すぐ、ベティのダミーと彼らはレストランを後にした。またレストランに静穏が戻った。今までとは違い、やけに安心感に溢れていた。
その夜、街をふらつくダミーをツバサ達は監視しつつ尾行することになった。ダミーは繁華街を外れ、人通りの少ない場所に移動した。移動している最中、右手が口元にいったり戻ったりする行動を繰り返していた。
「あれは何をしているんだ?」
ふとレンが疑問を口にした。すぐさまアルルが答える。
「ディナータイムじゃない?」
「なるほど」
「あー……何か私までお腹すいてきちゃった」
ため息混じりにアルルが言うとツバサが皮肉交じりに言った。
「さっき食べたばっかじゃねえかお前……」
「そういうのじゃなくて、何か口寂しいの!」
「どっちも変わんないよ」
「変わる! こういう、ただ監視してるのって凄く退屈じゃん。だから何か口が欲するわけよ、食べ物を」
「お前なぁ、ベティの"ダミー"の命がかかってんだぞ! ……退屈なのは同感だが」
2人が小さな言い争いをしている間も、レンは一人ダミーを監視していた。が、いつの間にかその手には携帯食料が握られていた。それに2人が気づくまで1分もかからなかった。
「あー! レン何食べてんの?!」
「大きい声出すなよ。携帯食だよ、食べる? これしかないから食べかけだけど」
レンが差し出したのはスティック状になっている灰色の物体だった。粘土みたいな食感がしそうだ、とアルルは思った。
「何味?」
「クリームシチュー」
「クリームシチュー?! この色で?!」
「うん。携帯食料だからね」
「理由になってるのそれ」
初めて目にする食べ物には何故か惹かれてしまう。アルルは携帯食料を受け取った。ツバサも物欲しそうに見てきたので、仕方なくアルルはちぎって少し分けてやった。
「ツバサ先食べてよ」
「何でさ。こういうのは一緒に食べるから面白いんだよ」
「うーん……まあそれもそうね、よし、いただきます」
「いただきまーす」
ツバサとアルルが同時に口にしたのをレンは黙って見ていた。その数秒後。
「不ー味!!!! 不味!! これ食い物じゃねえ! 何だこれ!」
「不味いにも程があるでしょう……水が欲しいよぅ」
アルルは少し目をうるうるとさせながら口を押さえていた。
「とびきり不味いのが携食の悪い所でね」
「先に言ってよ!!」
「俺は結構こいつに助けられてるから、舌が麻痺してるんだと思う」
「いや麻痺しすぎだろ……あれ、ダミーは?」
「あそこにいるよ」
レンがもぐもぐと食べながら指さした。ダミーは道の真ん中でぐんと背伸びをした。両手を背中にやったかと思うと、何かを体から外したような動きをした。その動きから状況をすぐに察したツバサは口に手を当てながら言った。
「これはまさかの……お着替えタイムじゃないですか?!」
「ああ、今のは下着を脱いだんだな」
「いちいち言わなくて良いから!!」
今度は腰から足元に向かって両手を下げる。そして片足をそれぞれ上げて下げる。右手を伸ばして何かを掴んでいるような手をパッと離す。
「今のは絶対パンツ脱いだんだな!」
「そしてあの落とし方」
「俺達のこと挑発してんのかベティは!!」
「顔が無表情なのはちょっと勿体ない気がするな」
「もう私この変態男共と一緒にいたくない!」
アルルは両耳を塞いで喚いた。
その突如だった。どこからともなく矢が飛んできて、ダミーのすぐ近くの花の茎に突き刺さった。ダミーはタイミングよくその場から離れた。矢が刺さった花はみるみるうちに巨大化して、しまいにはあるはずのない巨大な口が開いた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」
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