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3章 狩人
#14 愉快な祖先
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その数分前。胸騒ぎがしてうろうろと自分の部屋を歩き回っていたベティは、大きな物音を耳にして窓へ走った。
「何あれ?! ……花?」
街の人々も何事かとその騒動の方へ行って人だかりを作っていた。ベティは居てもたってもいられなくり、外へ飛び出した。花の方へ向かってベティは全力疾走した。直感だが、きっとこれは皆だ。皆が狩人と戦っているんだ。
ベティがたどり着いた頃には、狩人と見られるケンタウロスがツバサから少し離れた場所に倒れていた。ツバサは狩人の方を見て立っていた。
「ツバサ! やったの?!」
「ああ、そうさ――」
ベティが彼の元へ駆け寄った瞬間、ツバサは顔つきを変えてこちらへ走ってきた。
狩人が倒れたままにやりと笑って人差し指を挙げた。既にツバサによってぐにゃぐにゃにされていた矢の1本が形を取り戻し、地面から放たれたのだ。
何も気づくことのできなかったベティは突っ立ったままだった。ツバサはベティの体を抱きしめた。
「うっ」
ツバサが呻いた。ベティの体にいきなりツバサの体重がのしかかり、ベティは反射的にツバサの背中に腕を回してその体を支えた。
ベティはそこでようやく気づいた。ツバサの背中には矢が突き刺さっていた。向こうでゆっくりと起き上がる狩人とベティは目が合った。ベティの手は震えた。
「あ……ああ……」
ベティはゆっくりとその場に座り込んだ。痛さで呻くツバサの体をそっと地面に横たわらせ、すっくと立ち上がった。
「許さない……っ!!」
ベティが雷術を発動させたと同時に空にも大きな稲妻が落ちた。ベティの身体は既に雷に包まれ、その手はビリビリと電気が走っていた。ベティは瞬速で体勢を整え直した狩人に向かっていった。狩人も負けじとベティの目の前で矢を放った。バリアを作ろうと伸ばしたベティの右手を矢は貫こうとしたが、寸前で矢は止まり向きを変えて狩人に向かって放たれた。
「我の矢がっ!!」
「逃がさない! あんたを倒すまで、私は――」
瞬く間に落ちる稲妻にベティの叫ぶ声はかき消された。退散しようとする狩人の後をベティは追いかけ、何度も雷を落とした。
「何でベティがここに?!」
「治癒魔術が効かない!何で?!」
怪我をしたツバサの元に駆けつけてきていた2人は、首をかしげた。アルルの膝の上でツバサは呻きながら何かを言おうと口を動かす。
「ああ……俺は生きているのか……」
「生きてるわよ! 正気を保って! ……レン、どうして治癒魔術が効かないの……?」
「……治癒魔術が効かない怪我……もしかしたら、その矢、地球製の矢なのかもしれない! むやみに抜いたりしない方が良い。俺がツバサを担ぐから、ここから退散しよう」
「えっベティはどうするの?」
「……ベティも変に手を出さない方が良いな、多分俺達がやられて終わるだけだ」
レンはそう答えながらツバサを横抱きにした。ツバサはため息をつき皮肉を言った。
「俺がお姫様抱っこされるって何かおかしくない?色々と。しかもレンに……しかもアルルの前で」
「それだけ喋れるようならお前はすぐに治りそうだな」
「本当は……体が真っ二つに割れたみたいに痛いんだ。何か喋っていれば、気が楽だろ」
レンとアルルは走り出した。ベティが狩人と戦っている様子を振り向いて見届けた後、レンは思い切り腹にキックを受けた。
「がはっ」
「うわレン大丈夫?」
「何だ……!? ベティのダミーだ!! 逃げろ!」
「ベティが暴走してるからダミーも暴走してるってことなの?! 嫌ーー!」
追いかけてくるダミーからアルルとレンは逃げ続けた。幸い、ダミーは魔術を発動せず"発動したような"動きをするだけだったが、時たま食らわせてくる拳は強烈なものだった。
本物のベティはと言うと、すっかり黒焦げになってしまった狩人の頭を足で踏みつけ、また雷術を発動させようとしていた。
「ねえ、ベティ正気を失ってるよ、絶対! 殺気で溢れてるもん! ベティを止めないと、私達だってダミーから攻撃を受け続けちゃう!」
「だけどどうするってどうにもならな――」
その瞬間だった。アルル達の目の前に、突如金色の扉が現れた。
「ワープの扉だ!」
この世界では、惑星を移動する時にワープの扉というものを使用して宇宙空間を超えるという仕組みになっていた。道の真ん中にワープの扉が現れる現象は、"他界"からやってきた来訪者という印でもあった。しかしワープの扉は普通、紫色をしている。一同の前に現れた扉は美しく金色に輝いた。
「さっきから眩しすぎて目が潰れそうだ」
両手が塞がっているレンは目を細めながら呟いた。自然とアルルはレンの腕に抱きついた。ゆっくりと金色のワープの扉が開く。そして誰かの足が踏み入れられる。
「優秀な雷術士よ! そこまでだ!」
大きな声が響いたと思うと、ワープの扉はいつの間にか消えアルル達の前には誰も居なかった。慌てて後ろを振り向くと、来訪者はベティの前に立っていた。来訪者から魔力を感じたが、誰が見てもただ者ではなかった。
しかし格好は魔術士達と同じで、ローブをまとっていた。そしてその腰には立派な剣があった。レンやツバサよりも長身の男で、その髪はベティと同じダークブロンドだった。
「魔術士は感性のみで行動してはいけないんだよ。常に理性を持っていなくちゃいけないんだ……分かるかい、子孫よ」
「子孫?!」
彼の声は耳の近くで話しているかのように頭に響いてくる(要はとても煩いのだ)。子孫という言葉を聞いて、アルル達がすぐに叫んだ。
「し、子孫ってベティが……?」
「……勿論だとも!!」
「うるっさい!傷に響く」
ツバサが耳を塞ぎながら言った。すると申し訳ない、と男が肩を縮めた。
「もうちょっと音量を下げるね。魔法マイクの調子が最近良くなくて」
男は何かを言っているのだが、パクパクと口を動かしているようにしかアルル達には見えなかった。
「いや今度は下げすぎて何にも聞こえないわ……別に聞こえなくても良いけど」
「……話を戻そう。そう、ベティ・アケロイドはこの俺……いや、私……ニアの子孫なのさ!」
「何あれ?! ……花?」
街の人々も何事かとその騒動の方へ行って人だかりを作っていた。ベティは居てもたってもいられなくり、外へ飛び出した。花の方へ向かってベティは全力疾走した。直感だが、きっとこれは皆だ。皆が狩人と戦っているんだ。
ベティがたどり着いた頃には、狩人と見られるケンタウロスがツバサから少し離れた場所に倒れていた。ツバサは狩人の方を見て立っていた。
「ツバサ! やったの?!」
「ああ、そうさ――」
ベティが彼の元へ駆け寄った瞬間、ツバサは顔つきを変えてこちらへ走ってきた。
狩人が倒れたままにやりと笑って人差し指を挙げた。既にツバサによってぐにゃぐにゃにされていた矢の1本が形を取り戻し、地面から放たれたのだ。
何も気づくことのできなかったベティは突っ立ったままだった。ツバサはベティの体を抱きしめた。
「うっ」
ツバサが呻いた。ベティの体にいきなりツバサの体重がのしかかり、ベティは反射的にツバサの背中に腕を回してその体を支えた。
ベティはそこでようやく気づいた。ツバサの背中には矢が突き刺さっていた。向こうでゆっくりと起き上がる狩人とベティは目が合った。ベティの手は震えた。
「あ……ああ……」
ベティはゆっくりとその場に座り込んだ。痛さで呻くツバサの体をそっと地面に横たわらせ、すっくと立ち上がった。
「許さない……っ!!」
ベティが雷術を発動させたと同時に空にも大きな稲妻が落ちた。ベティの身体は既に雷に包まれ、その手はビリビリと電気が走っていた。ベティは瞬速で体勢を整え直した狩人に向かっていった。狩人も負けじとベティの目の前で矢を放った。バリアを作ろうと伸ばしたベティの右手を矢は貫こうとしたが、寸前で矢は止まり向きを変えて狩人に向かって放たれた。
「我の矢がっ!!」
「逃がさない! あんたを倒すまで、私は――」
瞬く間に落ちる稲妻にベティの叫ぶ声はかき消された。退散しようとする狩人の後をベティは追いかけ、何度も雷を落とした。
「何でベティがここに?!」
「治癒魔術が効かない!何で?!」
怪我をしたツバサの元に駆けつけてきていた2人は、首をかしげた。アルルの膝の上でツバサは呻きながら何かを言おうと口を動かす。
「ああ……俺は生きているのか……」
「生きてるわよ! 正気を保って! ……レン、どうして治癒魔術が効かないの……?」
「……治癒魔術が効かない怪我……もしかしたら、その矢、地球製の矢なのかもしれない! むやみに抜いたりしない方が良い。俺がツバサを担ぐから、ここから退散しよう」
「えっベティはどうするの?」
「……ベティも変に手を出さない方が良いな、多分俺達がやられて終わるだけだ」
レンはそう答えながらツバサを横抱きにした。ツバサはため息をつき皮肉を言った。
「俺がお姫様抱っこされるって何かおかしくない?色々と。しかもレンに……しかもアルルの前で」
「それだけ喋れるようならお前はすぐに治りそうだな」
「本当は……体が真っ二つに割れたみたいに痛いんだ。何か喋っていれば、気が楽だろ」
レンとアルルは走り出した。ベティが狩人と戦っている様子を振り向いて見届けた後、レンは思い切り腹にキックを受けた。
「がはっ」
「うわレン大丈夫?」
「何だ……!? ベティのダミーだ!! 逃げろ!」
「ベティが暴走してるからダミーも暴走してるってことなの?! 嫌ーー!」
追いかけてくるダミーからアルルとレンは逃げ続けた。幸い、ダミーは魔術を発動せず"発動したような"動きをするだけだったが、時たま食らわせてくる拳は強烈なものだった。
本物のベティはと言うと、すっかり黒焦げになってしまった狩人の頭を足で踏みつけ、また雷術を発動させようとしていた。
「ねえ、ベティ正気を失ってるよ、絶対! 殺気で溢れてるもん! ベティを止めないと、私達だってダミーから攻撃を受け続けちゃう!」
「だけどどうするってどうにもならな――」
その瞬間だった。アルル達の目の前に、突如金色の扉が現れた。
「ワープの扉だ!」
この世界では、惑星を移動する時にワープの扉というものを使用して宇宙空間を超えるという仕組みになっていた。道の真ん中にワープの扉が現れる現象は、"他界"からやってきた来訪者という印でもあった。しかしワープの扉は普通、紫色をしている。一同の前に現れた扉は美しく金色に輝いた。
「さっきから眩しすぎて目が潰れそうだ」
両手が塞がっているレンは目を細めながら呟いた。自然とアルルはレンの腕に抱きついた。ゆっくりと金色のワープの扉が開く。そして誰かの足が踏み入れられる。
「優秀な雷術士よ! そこまでだ!」
大きな声が響いたと思うと、ワープの扉はいつの間にか消えアルル達の前には誰も居なかった。慌てて後ろを振り向くと、来訪者はベティの前に立っていた。来訪者から魔力を感じたが、誰が見てもただ者ではなかった。
しかし格好は魔術士達と同じで、ローブをまとっていた。そしてその腰には立派な剣があった。レンやツバサよりも長身の男で、その髪はベティと同じダークブロンドだった。
「魔術士は感性のみで行動してはいけないんだよ。常に理性を持っていなくちゃいけないんだ……分かるかい、子孫よ」
「子孫?!」
彼の声は耳の近くで話しているかのように頭に響いてくる(要はとても煩いのだ)。子孫という言葉を聞いて、アルル達がすぐに叫んだ。
「し、子孫ってベティが……?」
「……勿論だとも!!」
「うるっさい!傷に響く」
ツバサが耳を塞ぎながら言った。すると申し訳ない、と男が肩を縮めた。
「もうちょっと音量を下げるね。魔法マイクの調子が最近良くなくて」
男は何かを言っているのだが、パクパクと口を動かしているようにしかアルル達には見えなかった。
「いや今度は下げすぎて何にも聞こえないわ……別に聞こえなくても良いけど」
「……話を戻そう。そう、ベティ・アケロイドはこの俺……いや、私……ニアの子孫なのさ!」
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